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U.  作者: 柳瀬
1/1

いち

季節関係なく植物が咲いて枯れてのご都合世界です。

主人公の家の家具は基本全てが電動ではなく魔法で動く。


ちちちち、ちゅんちゅん、ぼぉー。

鳥たちの合唱と、さまざまな動物たちの伴奏で目を覚ます。

毎朝森の中で繰り広げられるそのコンサートは、朝昼晩とちょうど良い時間帯に開催されており、レオは開催場から程よく距離があるおかげでそこまでやかましく思わない朝のコンサートを、アラーム代わりにしていた。


「……んーー、」


寝転がったまま、ぐぐぐっと腕を伸ばして伸びをする。

レオの住処は大樹の中にある穴のため、伸ばした腕が天井となる木につっかえた。

その少しばかりひんやりとした感触で、ようやくぱちりと目を開ける。

そのまま身体を起こしてカーテンを少しめくり、すぐ隣にある人一人通れるほどの穴から外を見た。

うん、綺麗だな。透き通った青空に、真っ白な雲が浮かんでいる。風も少しばかり吹いていて、今日はお昼寝日和だ。


カーテンを閉めてもそもそと着替える。今日はそこまで動き回る予定もないので、薄いシャツに黒のズボン。

梯子を降りて、こちらも勿論木でできた洗面所で顔を洗う。腕と足にはまった金色と水色のブレスレット、アンクレットがシャランと音を立てた。

今日のご飯は何にしようかな。少し前に旅人さんにいただいた外国のいちごをそろそろ使いたい。何にしよう、紅茶は毎朝のことなので固定だが、いちごなあ。ゼリー、ケーキ、パン、果物サンドイッチ、ジャムやソースにしてパンにつけたりチーズケーキにかけたりしてもいい。特に食べたいものもないんだよなあ、困った困った。

思考を巡らせながら茶葉の瓶を適当に選んでいると、こんこん、と玄関扉がノックされた。


「おはようございますお客人。お名前をお伺いしても?」

「はよ、レオ。ベルガータだ、開けてくれ」

「なんだ、ベルか。おはよう、入っておいで」


この家に鍵穴はなく、俺の魔法で鍵をかけているため、すぐさまパチンと一度手を叩いて鍵を開ける。

ガチャッという音を聞いたベルガータが、手慣れた様子で室内へと足を踏み入れた。

木製の華奢で綺麗な椅子を引き、腰掛けて荷物を下ろす。横目にその様子を見ていたレオは茶葉の入った瓶を棚に戻し、机に手をついて問いかけた。


「ベル、朝食は?」

「食ってねえ、なんかあるか」

「ちょうどいい、いちごを使ったもので何が食べたい?それと茶葉選んでな」

「いちごか、パンケーキって言いたいとこだが腹減ったからいちごはそのままくれ。茶葉はアッサムで」

「りょーかい。アッサムか、ミルクは?」

「勿論要る」


ぐたぐたとなることなく、良いテンポで会話が進む。気を打ち解けている証拠だ。

先日焼いたもちもちのパンを程よい厚さで2枚切り、食器棚から取り出した皿に置く。

電気ではなくかけられた魔法で働く冷蔵庫から紙に包まれたチーズを取り出し、薄く切り落としてまたしまった。しゃきしゃきとしたレタスを洗ってちぎり、みずみずしい新鮮なトマトも薄くスライス。これらをパンに乗せて魔法火を起こす。使えるほど安定するまでの待ち時間に、ポットで湧かせていた通常より高温の湯でティーポットを温め、更にティーカップも温める。そして湯をきって、茶葉を入れ、お湯を一気に注いでふたをした。

その頃にはもう魔法火は完全に整っており、青い炎がぼっと音を立てたのを確認してから、串に浅く刺したチーズを炙る。

すぐにとろりと落ち始めて、滴る前に具材の乗ったパンに乗せた。

いちごを水洗いし、盛り付けに最適なように形を一定にせずに切っていく。

すごい、このいちご、外見普通なのに中身が白い。綺麗だ。

皿に中身が見えるように気を配りながら盛りつける。変なところでこだわるとよく言われるが、性分だ、仕方ない。

それらをまずベルの待つ机に運び、次は今まで入れていた湯をきったティーカップにミルク。そして最後にティーポット。

俺が皿を並べている間に、ベルがティーポットのふたを開けて、カップに注ごうとしてくれていた。


「いーい香りだなあ」


赤褐色で透き通ってる、お前やっぱり上手いな。

褒められて嬉しくないはずもなく、少し照れながら、彼がカップに注ぐのを見つめる。

火傷をしないようにティーポットを遠くに置いて、ミルクを入れた。


「そういや、ベル。おまえ、今日はどうしたんだ?」


いただきますと言って、パンをもそもそ頬張りながら、口を押さえて彼に問うた。

ベルはぎゅっと眉を寄せ、いちごを突き刺したフォーク片手に心底嫌そうに小声で言う。


「…今日、海は荒れるからな」

「荒れる?……ああ、今日はジルデーか」


レアリアには、海を司る神と、森を司る神、空を司る神が存在する。

海神はジル。森神はマルデル。空神はダフニール。

ジルとダフニールはマルデルを奪い合い、幾度となく大喧嘩をした。その最終決戦、決着がついた場所が、今や人魚や魚人、海に関連する生き物たちが暮らす海中の縦長の島、レミエだった。ベルはレミエの人魚だ。彼はエルフとのハーフなので、長時間海から離れてもピンピンしている上、尾ひれは普段はないために最初は誰もが彼の種族についてわからないが。

今日はジルデーと呼ばれる、ダフニールがジルを打ち倒し、マルデルを娶った日だ。通りで綺麗な晴天なわけだ。空は澄んで美しく、海は決戦地から少しずつ、範囲を広げて荒れていく。レミエは今頃悲惨だろう。


「ジルデーにレミエに居ると、俺は連れてかれかねないからな」

「海に属するもの以外は、空だと敵認定、森だと重すぎる愛情が故に攫うからなあ、ジル様」

「厄介だよまったく」

「そのつもりできてるだろうけど、おまえ、今日はうちに泊まってけ」

「ありがとうな、御言葉に甘えてそうさせてもらうぜ」






「レオ、今日は何する予定だったんだ?」

「今日は特に何も。森に行きたいのと、お昼寝日和だからそのまま森で寝たいってくらい」

「じゃあ行くか。もう11時きてっし」

「ありがと、上から毛布持ってきて。俺はお昼ご飯と水筒の準備と、窓とか魔法かけとくから」


ベルは早速梯子を登り始めて、俺は冷蔵庫から先ほどの残りのいちごと、りんごを丸々2つをバケットに、素早く目玉焼きを作ってスライスしたチーズとともにパンに乗せ、アルミホイルで包んでそれもバケットに入れた。

冷蔵庫の手前の棚には、麦茶と緑茶が並んでいる。今日は麦茶を水筒に入れて、それもバケットに入れたら準備は終わりだ。

次は鍵。窓を順に見ていって、手をかざしてパタンと閉めていく。


「これでいいか?」


いつの間にやら降りてきていたベルが、ひらひらと毛布を振って確認してくる。

赤いもこもことした生地の縁を、金色の糸で刺繍した毛布だ。正解、俺のお気に入り。


「それだよ、ありがとう」

「ん、行こうぜ」







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