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68.夢の終わり

ギリギリの投稿ですみません。

後書きに追加をしました(2019/05/27追記)

後の世に伝う王家秘蔵の歴史書曰く、


其は正に地上に現出した神と悪魔の戦いであった。



 ◆◆◆◆◆



私はこの日見た義姉(あね)(うえ)様のお姿を一生忘れる事は無いだろう。


「炎の赤!! 戦いの翼!!!」


神々しい光を全身にまとい、なびく度に光がこぼれる美しい長髪。その背からは炎で形作られた力強い緋色の翼。


ああ、お(とぎ)(ばなし)などに出てくる女神という存在を現実に観る事が出来たのなら、きっと、今の義姉上様のような姿なんだろう。


義姉上様はわずかに体を屈めると、一筋の赤い雷のような軌跡を残してあっという間に光の点となって消えてしまった。


赤い雷の向かう先には、すべてを飲み込んでしまいそうな程に黒く、巨大な人影。

それは、かつてはこの国の王子であったアベルト兄様の変わり果てた姿。


―― 義姉上様、アベルト兄様をどうかお救い下さい ――


私は目を閉じ、祈りを捧げる。



 ◆◆◆◆◆



黒い巨人に接触する寸前で急上昇、黒雲を突き抜け急転直下。


まずはこの一撃、僕は右拳を腰だめに引きつつその一点に『魔力』を集中させる。拳から炎が噴き出し、間を置かず白い輝きを放った。

目指すは巨人の脳天。『魔力』で作られた黒い衣を吹き飛ばす為の、渾身の右ストレート。


「夢を(まと)った漢女(おとこ)の底力ッ喰らい……やがれぇぇぇぇ!!!!!」


轟音と共に巨人の頭部がひしゃげ、衝撃波が空間を震わせた。


しかし、黒い巨人は陥没した頭部をものともせず、両腕をしならせ僕を殴りつける。

狙いが正確な上まともに喰らいでもしたら、一発でミンチになること間違いなしだが、今の僕にはどうという事も無い。

風に舞う木の葉の様にひらりひらりと(かわ)していく。


そんな中、陥没した頭部のさらに奥に、一瞬キラリと光るものが見えた。

もしかしたら、あれがそうなのかもしれない。弱弱しく消え入りそうな光に、僕は時間が無い事を感じた。そして決意する。


巨人の腕による追撃を避ける為急上昇し、距離を空ける。


アベルト殿下を救って下さいと僕に願ったミラニス様。

ユーニス、ミルフィエラお母様、ルヴィア、アニエスタ、ジャスティナ……。

イリーザ様、ウィゾルデ様、父上、カールエストの顔を思い浮かべる。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


気合と共に一直線に飛ぶ。


(いかづち)(まと)って進む僕は剣を抜き、握った右手を顔の横に 左手を柄に添える、示現流「トンボ」の構えをとった。


何をする為か? もちろん巨人を斬る為だ。普通の剣だが大丈夫か? 大丈夫だ、問題ない。


構えた剣の刀身が光り輝き天へと高く伸び、周囲から光が集まりその身を厚くする。

それはアニメの人型ロボットが扱うような巨大な光の剣。


かつて幼い頃に憧れた、勇者の(わざ)を己の身に重ねる。


空気抵抗? そんなものが有る訳無い。 物理法則? 知った事では無い。

ただひたすらに、光の矢と成りて突き進む。

目的はただ一つ。眼前の巨人を斬るのみ。


「チェェェストォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」


振り落とした瞬間、巨人を背にしていた。

全てが止まったようなわずかな時の後、巨人の左肩から右わき腹にかけて一筋の光が走る。


巨人の上体が地滑りの様にズレたかと思うと光を放ち一瞬にして周囲を白く染めた。



―― 我ニ断テヌモノ無シ



 ◆◆◆◆◆



それまで真っ黒だった空間に一筋の光の線が入った。


空間をこじ開ける様に光が強さを増し、バキバキと音を立てながら真っ黒な空間自体にヒビが走る。

そしてついにはまるでガラスが割れるみたいに真っ黒な空間は砕け散った。


柔らかく、暖かな光が僕を照らす。

それは久しぶりに感じた、温かさだった。思わず涙がこぼれる。


不意に体が軽くなった。僕を捕らえていた真っ黒な手が光に照らされ、霧のように消えていくのが見えた。


僕は光の温かさに身を(ゆだ)ね、静かに目を閉じる。


あり得ない大きさに変化した僕の両腕、鉄の臭いと共に真っ赤に濡れた僕の両腕。

そこから先は思い出せない。気づいたらこの真っ黒な空間にいて、無数の真っ黒い手に僕の身体は(から)め取られていた。


すごく哀しかった。途轍もない無力感があった。(ひど)(いきどお)っていた。


それらが全て、光に照らされながら綺麗に洗い流されていく。穏やかな、実に穏やかな気持ちになる。


僕はどうなるんだろう。そんな疑問が浮かぶが、この暖かな光の前にそれもすっと溶けて消えてしまう。


「アベルト殿下……」


優しげな声が聞こえた。かと思うと同時に光の温かさとは別の、優しく暖かな何かで身体が覆われた様な感覚がした。


僕は、閉じていた眼を開ける。


そこには蒼一面の背景の下で、穏やかに笑みを浮かべる……憧れの(ひと)


「アベルト殿下、もう、大丈夫ですよ」


そう言って、僕に微笑みかけてくれた憧れの(ひと)は今まで見た誰よりも美しく、そして素敵だった。


ああ、これは命が消える間際、自分の願望が見せた最期の夢なのだろう。


そう、僕はあの憧れの(ひと)に微笑みかけて欲しかったのだ。

兄のカイルでもなく、友のカールエストでもなく、僕自身に。


「あ……」


急に眠気が襲ってきた。もう終わりなのだろう。僕は、死ぬ。

だが、不思議と怖くはなかった。

憧れの(ひと)の微笑みに見送られて、この穏やかで暖かな気持ちのまま逝けるのだ。

父であるエルガーナ国王に反旗を翻し、国の最高機密である『封印』を解放してしまった重罪人である僕が。

贅沢(ぜいたく)過ぎて先に逝ったカイル兄さんに怒られるかな。でも、僕は笑顔で応えよう。


ありがとう、アルナータさん。大好きでした。



そうして、僕の意識は光の中へ沈んでいった。



 ◆◆◆◆◆



光が収まった時、王国全体を覆っていた黒雲は跡形もなく消え去り、そこには雲一つない一面の青空が何事も無かったかのように拡がっていた。


「終わった……のか……」


誰ともなしの呟きが聞こえた。

しかし、喜びの声を上げる者はいない。誰もが皆、巨人が消えた方向を見つめ続けている。


「アルナータ……」


ウィゾルデ・エンパス公爵は、この青空を取り戻し、だがいまだ戻らない人物の名を呟く。


「大丈夫ですよ、エンパス公。彼女は必ず戻ってきますよ」


そう声を掛けたのは、イリーザ・コペリオ王室第7夫人であった。


「……随分と見苦しいところを見せてしまったな」


「いえ、私も……まさか、あそこまで心が揺さぶられるとは思いませんでした」


少し眉を寄せて、はにかむ様に苦笑いをするイリーザを見て、ウィゾルデは自分の子を見るような、優しげな微笑みを浮かべる。


互いに『直系』の当主という同等の立場ではあるが、イリーザはウィゾルデの半分程の年齢だ。親と子ほどに離れている。

その笑顔に含まれている何かを見て取ったのだろう、イリーザは少し不機嫌な表情に変わった。


「……何ですか?」

「いや、普段澄ました顔のイリーザ殿が、と思ってな」


「それを言うならウィゾルデ様。貴女こそ少女の様に涙目になって……」

「い、言うな! ……言わんでくれ。あ、あれは自分でも驚いているのだ。あの()への想いがそこまでだったとな」


口元を抑え顔を赤らめて言い訳をつむぐウィゾルデに、イリーザは温かな笑みを向ける。

そして、いまだ戻らぬ人物が消えた方向に目を向けた。


「ウィゾルデ様」

「な、何だ?」


「私は改めて、彼女の良人(おっと)になれるよう頑張りたいと思います」


イリーザの言葉に、ウィゾルデはその顔を見る。どことなく険が取れたような、穏やかな顔をしていた。


「まぁ、あの()の『血統』は残すべき重要なものだからな」

「違いますよ。純粋に一人の男として、彼女に惚れたんです」


「……まず無理な話ではないか? あの()の男嫌いは筋金入りだろう。理由までは分からんが」

「承知の上ですよ。自分の気持ちに気づいてしまったからには、もう退くに退けなくなりました」


イリーザ・コペリオ王室第7夫人というのは表向きの顔であり、本来の姿はカイル・フォーオールという歴とした男性である。

フォーオールという『直系』でありながら特殊な立ち位置にある一族の当主となっているカイルは、元はこの国の王子であり、かつてはアルナータ・チェスタロッドの婚約者でもあった。


「ふん、私は手助けはせんぞ。むしろ仲の良さをこれでもかと目の前で見せつけてやるさ」


「……くっ。う、うらやま……いや、私とてその程度で挫ける訳には参りません」


悔しさを滲ませながら睨むイリーザの視線を、ウィゾルデは心底愉快そうに笑い返した。




「み、皆様! あれ! 義姉(あね)(うえ)様では!!」


ミラニス・エルガーナ王女が指を差し、声を上げる。

指す方向を見ると、澄み渡った青空に一点白い光のようなものがこちらに移動している様に思えた。


やがてそれは、緋色の翼を拡げ何かを両腕に抱えた人の姿になり、誰かがその人物の名を叫んだ。

ケンプフ家の五人の女達、その人物の寵姫として『直系』の間では公然となっている女達が騒ぎ出し、ミラニス王女も声の限りにその人物を呼び、手を力の限りに振る。


チェスタロッド家の当主ギルエストとその息子のカールエストも、大きくは表さないが、確かに喜びを溢れさせていた。


いまだ『封印』は解かれたまま光の柱は噴き上がり続け、気を失った人々の意識は戻ってはいない。

しかし、悪夢が終わりを告げた事を疑う者はいなかった。



 ◆◆◆◆◆



この日の事を詳細に知る者は『直系』の当主とそれに連なる一部の人物のみであった為、その日何があったかを知る者はほとんどいなかった。

何故ならば、詳細を知る者は一切の口を閉ざし、その日に破壊されたありとあらゆる物が、まるで何事も無かったかのように元通りになっていたからだ。


唯一の変化は、バベル・コトーという人物が行方知れずになったくらいである。


エルガーナ国王は翌日直ちに王令を発し、王家に対し武力行使を行なう勢力があった事、しかしそれを未然に防いだ事を公表した。

と同時に『直系』以外の全貴族家に対し個別の査問を行なう事を発表する。

また、武力行使の際にアベルト・エルガーナ第一王子を担ぐ計画があった事も合わせて公表し、その見せしめとしてアベルト・エルガーナの王位継承権を剥奪、王城内での蟄居を命じた。


結果、ミラニス・エルガーナ第一王女が王位継承権第一位となり、それに伴い王女周辺の各種人員が拡充された。


人々は王家の発表にかつてあった廃嫡事件を思いながらも、ほとんど変わらない生活と日々の暮らしにこの日の事も次第に忘れ去っていった。




封印王国。この国は他国からそう呼ばれている。

この世界にはいくつか国があるがその中でもエルガーナ王国は少々特殊だ。


『封印』の為に人がある。


この国に生まれたものは、平民であっても、貴族であっても、王でさえも『封印』の為とあらばその命が使われる。

生も死も、心も使われる。


しかしその事実を知る者は極一部でしかない。


お読み下さりありがとうございました。


実は後日談的なエピローグを載せる為、今話が最終回ではありません。

今しばらくのお付き合いを頂きたく思います。

次話の投稿予定日は一週間後の土曜(06/01)か日曜(06/02)辺りを予定しています(2019/05/27追記)

一部表現の修正(王国の>王家秘蔵の)一部ルビの修正(いまづち>いかづち)をしました(2019/05/27追記)

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