64.迫るその刻
活動報告にて宣言した予定日を過ぎ、大幅に遅れてしまい大変申し訳ありません。
今回のお話は最初三人称で進みます。
● 王城中庭・お茶会会場 ●
晴天の下、王城にある中庭では王家主催のお茶会が開かれていた。
『直系』の貴族である五つの公爵家と十五の侯爵家に籍を置く貴族達のみが招待を受け、そのほぼ全てが今ここに集まっている。
もちろん『直系』の家に仕える使用人達……下位に属する一部の貴族達も、主たる貴族達の世話の為にいる。
このお茶会は、新しい一年が始まり寒さが緩んだ春先に『直系』の貴族家のみを集めて開催され、毎年の恒例行事となっているものである。
他愛無い世間話や新しい家族の紹介、婚約・婚姻に関する顔合わせから領地経営、国策に繋がるような重要な話し合い等、様々な交流が図られるのだ。
その日、ミラニス・エルガーナ第一王女は、父であるエルガーナ王国現国王と共にその会に出席していた。
だが、その表情には落胆の色が見て取れる。
理由は明確だった。自身が「義姉上」と呼び敬愛する、一人の女騎士がこの会に参加していなかったからだ。
貴族籍の上では、彼女は伯爵家夫人になるので今回の会に呼ばれる謂われは無い。
だが、彼女はミラニスの護衛騎士でもある。最近は少々、護衛の枠を逸脱してより親密な関係になっているが、護衛は護衛である。
今回の会に際し、自身の警護という建前で参加を呼び掛けたのだが、
「申し訳ございません。当日は別の御用を仰せつかっておりますので参加は出来ません」
と、断られてしまったのだった。
ミラニスは彼女に「御用」を与えた人物を僅かに恨んだ。
「本日はお日柄も宜しく、ミラニス殿下に置かれましてはご機嫌麗しく」
「エンパス公爵様、ご冗談も程々にお願いしますわ」
慇懃な口調で挨拶したウィゾルデ・エンパス公爵に対し、ミラニスはわざと「エンパス公爵」と返した。
「随分とご機嫌斜めじゃないか、殿下は」
「当然でございます。義姉上様に「御用」とやらを押し付けた方のせいで、今日のお茶会で親睦を深める事が出来なくなったのですから」
不機嫌を隠そうとしないばかりか皮肉る様に理由を説明するミラニスに、ウィゾルデは苦笑しつつ傍に寄った。
毎年の恒例行事となっている今日の会ではあるが、今回に限り一つの思惑が働いている。
その思惑からくる裏の目的を知っているのは『直系』の当主を含めた極一部の人間だけである。
ミラニスの言う「義姉上」は目的を達成する為の駒として、こことは違う別の場所へ配置されていた。
ミラニスは知らない側で、ウィゾルデは知っている側だ。
知っている側にいるウィゾルデが、知らない側にいるミラニスの傍に立つのは、今ここにはいない「義姉上」の代わりとして、これから起ころうとする事態から護る為であった。
何故ならミラニスは、知っている側にとって、知らない側の中でも特に安全に配慮しなければならない存在だからだ。
「「御用」とやらを押し付けたのは私ではないのだがなぁ」
「ウィゾルデ様がそうであろうと無かろうと関係ありません。私の八つ当たりを甘んじてお受け下さいませ」
「はいはい」
ミラニスの素直過ぎる主張に、ウィゾルデは顔を綻ばせ鷹揚に頷いた。
不意に周囲がざわめきだした。
この会場において、ある種不釣り合いな集団が真っ直ぐにエルガーナ国王の下へと向かってくる。
その集団が持つ雰囲気がそうさせるのか、会場に集まっている貴族達は自然と道を空けた。
エルガーナ国王がその集団の先頭を行く人物を認めて、わずかに目を細めた。
アベルト・エルガーナ第一王子。
白を基調とした貴族の正装に身を包んだアベルトが、気負いのない、それでいて覚悟を決めたような鋭い眼差しで真っ直ぐに王の姿を捉える。
彼の左右後方には『黄剣親衛騎士団』団長の肩書を持つカールエスト・チェスタロッドと、同じく『黄剣親衛騎士団』副団長のアクガン・ディヴァイルが並び、
更にはこの騎士団の専用装束をまとった十数名の男子達が続いていた。
エルガーナ国王の傍にいて談笑していたチェスタロッド侯爵ギルエストと、少し離れた場所で他の『直系』の当主と歓談をしていたディヴァイル侯爵が、自分の息子の姿に眉間を寄せる。
「エルガーナ国王陛下。ご歓談の最中、失礼致します」
エルガーナ国王の前まで歩を進めたアベルトが、礼をすることなく伺いを立てた。
「良い。だがアベルト、随分と物々しい登場だな? 『黄剣親衛騎士団』を従えて一体どうした」
「……本日は国王陛下、並びに『直系』のご当主方の皆様にご報告があり参りました」
「ほう」
国王は手に持っていたグラスを使用人に下げさせると、アベルトと正対し次を無言で促す。
「只今を以って即刻王権を放棄、我々に国を明け渡し『封印』の解除をして下さい」
その言が発せられると、アベルトの後方に控えていたカールエストを始めとする『黄剣親衛騎士団』の面々が一斉に剣を抜いた。
それに反応した警備の騎士達が『直系』の貴族達を守る様に前に出、同じように剣を構える。
いつの間にか、国王の傍には『直系』の当主が勢揃いしていた。
この時国王の後方で何かを言おうと身を乗り出したミラニスが、ウィゾルデに制されて渋々下がる。
「中々に面白い事を言うな、アベルト。それで?」
「……私達は、あなた方『直系』の当主が国民を欺き、利権を独占している事実を掴んでいます」
「そうか、それで?」
「今この城は、我が意に賛同する者達が取り囲んでおります。私の合図でいつでも突入出来るように手配済みですよ」
「そうか、それで?」
「っ! ……あなた方が独占している『力』が解放されれば、国民はもっと豊かになれるはず。己の保身と繁栄のみに使って良い物ではない!」
「そうか、それで?」
わずかな応対で苛立ちを隠せなくなったアベルトが怒りを露わに国王を睨みつける。
「我々を馬鹿にするな! 即刻王権を放棄し『封印』の解除をしろ!」
「断る。こちらには疚しい事など何一つとして存在しない」
泰然と構える国王に、アベルトは歯軋りをした。
その二人の様子に、カールエストとアクガンを除く『黄剣親衛騎士団』の騎士達が動揺の色を浮かべる。中には剣を持つ手がわななく者もいた。
「どうした、アベルト。まだ間を持たせないとならないのだろう? 何か言ったらどうだ」
アベルトの目が見開かれ、息を呑む音が聞こえた。
「な、何故それを……」
「別動隊が『封印』を破壊する為に向かっている事は把握している。故にこちらもそれ相応の歓迎を用意した」
「……!」
穏やかな眼差しで我が子を見る国王に、アベルトにはその真意が分からずにいた。冷たい汗が背中を伝う。
「覚えているか? かつて武闘大会で話題をさらった四人の女騎士達を」
アベルトの中に、かつての憧れの女性が閃光と共に映し出されていた。
● 王城地下・重い鉄扉で閉ざされた岩室内(アルナータ視点) ●
「だいたいこんな感じかな。みんな大丈夫?」
僕の問いかけにこの場にいる、ユーニス、ミルフィエラお母様、ルヴィア、アニエスタ、ジャスティナが頷く。
結局のところ皆に教えたのは、いわゆる「身体強化」と呼ぶ自身の身体に作用するものと、一部の地味な効果を与えるものに留まった。
理由は簡単だ。時間が無さそうだったのと、今いる場所が地下で、さらに岩で囲まれたような狭い空間だからだ。
このような狭い場所では、周囲一帯に影響を及ぼすような花形ともいえるド派手な攻撃が使えない。味方を巻き込む可能性が高まるし、破壊し過ぎて天井が崩落、生き埋めになる事も考えられる。
ちなみに先程燃やして灰にした、幽騎士フォーオールからの書状には『魔法』について、こう書かれていた。
頭の中に思い描いたものを具現化する
コレだけである。
四つの属性が~とか、神々によって与えられた神秘の~ではないのだ。
こんな事いいな、出来たら良いな、という思いを『魔力』によって自ら実現するのがこの世界での『魔法』のようだ。
たくましい想像力と、それを具現化する『魔力』を扱う素養があれば、おそらくは何でも出来るだろう。
使えないと言ったド派手な攻撃も、「敵と認識した相手にのみ作用し」「味方の生命には一切影響を及ぼさず」「周囲の環境にも全く変化を与えない」等の都合の良いものにする事は可能の様に思う。
だがそれらを盛り込んだ『魔法』を発動する時間が、この狭い部屋の中で迫り来る敵に対して作れるのかどうか、それが分からないのだ。なので今回は見送っている。
また今回の場合の様に、『魔法』は初めて触れる者が短時間で万全に扱えるようになるものでは無い。
想像力が必要なのだ。
それには知識と経験が何より物を言う。
「でも、これだけで良いのかしら。地面を盛り上げて転ばせるだけなんて、すごく地味だと思うの」
お母様が少し不安げに呟いた。
「僕も含めてみんな初めてだから難しい事はまだ無理だと思うし、相手を無力化出来ればそれで目的は達成だから、今はこれ位で十分だと思うよ?」
そう、戦闘能力が無いお母様に僕が教えたのは、『魔力』を使って「地面を盛り上げる」事だけなのだ。
だがこれは狙った場所に確実に発動できれば、人間相手には十分である。今回の襲撃者が騎士で重い鎧を着込んでいた場合なら、さらに有効だと思っている。
まぁ、忍者みたいな軽快な動きを重視するのが相手だといまいちだけれどね。
わずかな静寂が訪れた。
僕達は自然と円環状に並び、お互いの顔を見やる。
みんな引き締まった顔つきで、一様に緊張しているのが分かる。僕は一回深呼吸をし、輪の中心に自分の右手を差し出した。
「大丈夫。愛する大切な皆は僕が必ず守る。守ってみせる」
ユーニスが、お母様が、ルヴィアが、アニエスタが、そしてジャスティナが、僕の右手に自身の右手を重ねていく。
引き締まった顔つきが微笑みに変わり、皆が僕を見つめている。
絶対に死なせたくない。
僕は思いを込めて自分の左手を一番上に重ねた。
「みんな、頑張ろう!」
全員が力強く頷く。
その時僕の背後で、鉄の扉が何かで叩かれた様に鈍く音を発した。
あの扉は、内側からは自由に開閉が出来るが、外側からは特定の鍵が無ければ開かないようになっている。
もう一度、鈍い音がした。
僕達は、予め決めておいた配置に付き、扉を注視する。
緊張の糸が張り詰めていく中、扉に一条の線が走った様に見えた。
そして、ガンッと大きな音と共に、重いはずの鉄扉が弾け飛ぶ。
襲撃者達が、そこにいた。
お読み下さりありがとうございました。
中盤の台詞を一部修正しました(2019/04/29追記)




