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63.「お茶会」への招集

大変遅くなり申し訳ありませんでした。

今回のお話は主人公視点となります。

今日は王城にて王家主催のお茶会が開かれる。


呼ばれたのは『直系』の貴族のみ。

『直系』の家族間での情報交換や婚約話の立ち上げなど、家族ぐるみの様々な交流が図られる会のようだ。


今更言うまでもないことだが、このエルガーナ王国では『直系』の貴族は特別だ。

貴族の階級の中でも『直系』である王家、公爵家、侯爵家とそれ以外の伯爵、子爵、男爵は明確な区別がある。

自分の領地を持っているのは『直系』のみ。司法、立法、行政の長や、騎士団本部、国教の教主は『直系』の公爵家当主が就くことになっているし、

国内の主要施設に含まれる、天測所、大図書館や中央博物館などの長も『直系』の当主だ。


まあこの辺りは、国の成り立ちというか、裏の事情を知っていると仕方の無い事だとは思う。


そして今回。今や伯爵である僕達の所に「何故か」このお茶会への招集状が届けられた。イリーザ・コペリオ王室第7夫人の名義で。

更に言うならば、「動きやすい服装で」という文言に、金属質のプレートが添えられて。


去年の終わり頃にも似たようなものを貰った記憶があるのだけれど?




という訳で、僕を始めとしたケンプフ伯爵家の総勢6名は、ただいま城の地下にある地肌剥き出しの岩室のような部屋に詰めている。

ここは去年末の『終年(ついねん)の儀』の時に、イリーザ様の前で誓約書に血判を押した場所だ。


前回と同じように「動きやすい」騎士の正装をした美女五人とおまけの僕。


やはりみんなの騎士装束は凛々しくて良い。

僕の中の「女」の部分が高速フル回転して熱を生み出す。自分はいまだに「男」のつもりではいるが、こういう時は本能に忠実になりたくなる。

だが、それは愛しい人達が男装しているからであって、いくら男前であっても男性相手ではこうはならない。はず。たぶん。


「はぁ、抱かれたい……」

「妹ちゃん? たわ言は程々に」


ユーニスが若干頬を染め、僕をたしなめる。


「う。ちょ、ちょっとくらい夢を見たっていいじゃない」

「夢、じゃなくて、妄想……でしょう?」


同じく頬を染め、ミルフィエラお母様が呆れたように呟く。


「……ちょっと、あの、替えの下着持って来てないんだけど? 妹くんどうしてくれるのさ」

「アルナータ様。私でしたら立ったままでも大丈夫でございます。こんな事もあろうかと服に細工をしておりまして……」

「ククク。(あるじ)殿の妄想の前に(おの)が理性が砕けていく様を感じるのは、正に愉悦! さあ、めくるめく倒錯の世界へいざ!」


……前回以上に大変な事になっているような気がするのだが、それはきっと、気のせいだろう。


ルヴィア、アニエスタ、ジャスティナの様子に少し現実に戻った僕は、とりあえずみんなに「ゴメンナサイ」をしてこの場を取り繕った。


ああ、そういえばここに押し込められる前、イリーザ様の使いと言う人から一通の書状を渡されたんだっけ。

その事を思い出した僕は封を切り、中身を拡げた。


『前略 アルちゃんへ

やっほー、あなたのフォーちゃまですよ。』


僕はそっと閉じた。


「妹ちゃん、どうしたんですか?」

「う、ん……ちょっと眩暈めまいが」


「何が書いてあったの?」

「あっ」


お母様が僕の手から書状を奪い取り、内容を確認する。が、一瞬で怪訝な表情に変わった。

その様子を疑問に思った皆が次々に書状を覗き込む。そして一様に眉をひそめた。


「ねぇ、アルナータ。これ新しい暗号か何かなの?」

「え?」


予想とは違ったお母様の言葉に、思わず訊き返す。


「見た事が無い文字であるな。いや、文字ですらないのかもしれないが」

「ちょ、ちょっともう一度見せて」


ジャスティナの呟きに、僕はお母様から書状を受け取るともう一度確かめるようにその文面に目を凝らした。


『前略 アルちゃんへ

やっほー、あなたのフォーちゃまですよ。このお手紙は僕がアルちゃんの記憶を基に、イリちゃんの体を借りて代筆してもらったものだよ。驚いてくれたかな? それとも懐かしんでくれたかな? これは、この世界で唯一アルちゃんにしか解らないお手紙さ。』


その書状は、日本語(・・・)でそう書かれていた。ついでに付け足すと、ころころとした丸いファンシーな文字で。


この世界で目覚めてそろそろ4年。随分とこちらの言葉や文字、生活習慣に慣れたものだが、日本語は意外と忘れていなかった。

これは、僕の頭の中へよく遊びに来る幽騎士(マリオ)達のおかげかもしれない。


幽騎士マリオ達が頭の中でどんちゃん騒ぎをする時は、たいてい僕の前世の記憶を引っ張り出している。

よく使われるものに缶ビールがあるが、思い起こせば記載されている文字は日本語だったように思う。

その他、引っ張り出されてきた記憶の中にしか無い物は、基本日本語で思い描いていたのではなかろうか。

いうなれば、何度も何度も思い出している状態だったのだろう。


するっと何の抵抗もなく読めてしまったものだから、最初は日本語で書かれている事に疑問に思わなかったのだ。


口語表現たっぷりの文面に目が滑りそうになるのを堪え、眩暈がしそうになるのを我慢しつつ、僕はその書状を読み進めていった。


『……以上、とりあえず今伝えておきたい事はそれくらいかな。あ、アルちゃんの愛人達にこの事は教えても良いよ? 今回だけの特別大サービスさ。それじゃあ、頑張ってね~。

                           かしこ』


何だろう、驚けばいいのか呆れればいいのか分からないけれど、とりあえずとても重要な事が書かれていて、僕達が今日ここに呼び出された理由も記されてあった。


「あの、妹ちゃん? 何が書かれているか分かるんですか?」


おずおずとユーニスが話しかけてきた。その声に僕は気を取り直し、一回深呼吸すると皆の方を向いた。


「これは、幽騎士マリオフォーオールがイリーザ様の身体を借りて書いた書状で、僕にしか分からない特別な文字で書かれたものだったよ」


日本語で書かれた、とは言わなくてもいいだろう。「ニホンゴって何ですか」から説明しないといけなくなるし。


「一つは今日ここに僕達が呼ばれた理由が書かれていた。一部の貴族による造反が、今日王城で決起するそうだ」


皆の顔色が一斉に変わった。

それもそうだろう。いま王城では『直系』の貴族達がほぼ全て集まっている。親兄弟など見知った人達が巻き込まれるのだ。居ても立ってもいられないだろう。


「そして、その決起に合わせて『封印の間』を襲撃する計画があるらしい。僕達の役目はその襲撃を防ぐ事、と書いてあった」


皆の顔が引き締まる中、お母様の顔が不安の色に染まる。

僕を含めた6人の中で唯一お母様だけが戦闘経験が無い、一般の貴族だからだ。


「お母様、安心して。僕たち皆で守るから。前衛は僕とジョウ、ルヴィアが務めるから、お母様は一番後ろにいて。ユーニスとアーニャはお母様を守る事優先でお願い」


お母様を安心させるように笑顔を作って配置を伝えた。


「だがあるじよ。この部屋の広さからして、横に並んで満足に動けるのはせいぜい二人だぞ」

「うん、だから僕が一番前に出る。ジョウとルヴィアは僕の後ろで、もらした相手を叩き返して」


ジャスティナの疑問に僕はそう答える。ルヴィアも納得したように首を縦に振った。


「でも、アルナータにもしもの事があったら……」

「ミルフェ様。お忘れかもしれませんが、わたし達の中で一番強いのはお嬢様ですよ」


ユーニスの言葉に僕は思わず頭を掻いて苦笑いを浮かべた。

お母様がきょとんとした顔で僕を見つめ、他の皆はそれに苦笑する。


今も剣の鍛錬は続けている。一人での鍛錬の量は減ってはいるが、ルヴィア、ジャスティナとの模擬戦がほぼ日課になっているし、たまにではあるが、ユーニス、アニエスタとも稽古をしているのだ。

昨年の武闘大会以降、腕はさほど鈍ってはいないと思いたい。


「あはは、普段が普段だからね~。それに今の僕たち(・・)には「これ(・・)」があるし」


僕はある事を頭の中で思い浮かべて、指を鳴らした。

小気味良い音と共に、人差し指の先に小さな火が現れる。


皆が一斉に驚きの声を上げた。


「アルナータ様、それはまさか」

「そう。『魔法』だよ、アーニャ」


僕は火が揺らめく人差し指を皆の前でゆっくり動かす。


「この書状には『魔法』の扱い方も書かれていたんだ。「今回だけの特別な措置」という但し書きと一緒にね」


そう言うと、僕は指先に灯した火を書状に近づけ、燃やした。


「妹くん! それ大事なものじゃないの?!」

「証拠隠滅する様にと書かれてもいたんだよ、ルヴィア。人には読めないとはいえ『魔法』の扱い方がはっきり書かれているものを残すと後が面倒、だって」


ただ燃やすだけでなく灰も残らないように、キレイさっぱり『力』を込めて書状をこの世から消し去った。


「大丈夫。『魔法』の扱い方はちゃんと覚えているから。今からそれを教えるから、時間が許す限り練習して皆使えるようになろう」


「だけど、教えられてすぐに出来るような物じゃないだろ?」

「うむ。我々は今まで『魔法』なるものには無縁であった故な」


「その辺りは心配ないと思うよ? だって皆……」


非戦闘員であるお母様まで含めてここに呼ばれた事にはそれ相応の理由がある。何故なら、


幽騎士エクト・プラズ・マリオを宿せるでしょ?」


「「「あっ」」」


「それだけでもう『直系』の当主と同じ位置にいるんだよ。あとはコツさえ掴めばすんなり使えるようになるさ」


僕の言葉に得心がいったように皆顔を見合わせて頷き合っている。


「妹ちゃん、ミルフェ様も一緒に呼ばれたのは」

「うん、この為だと思うよ」


「アルナータ、私頑張るわ! 頑張って覚えてアルナータの役に立つから!」


それまでの不安な表情から一変して、元気良く決意を表すお母様。騎士の服でも抑えきれないその大きすぎる主張が、ばるん、という音と共に空間を揺らす。

うむ、眼福である。


「妹くん、鼻の下伸びてる」

「アルナータ様、私も胸当てを取れば下から差し込めます! ぜひお試しを」

「むぅ、胸では我に勝ち目はない。ここはやはり主殿の椅子として役に立つべきであろうな」


「ジョウ、ステイ」


すかさず僕の下に滑り込んで四つん這いになろうとするジャスティナを制し、気を取り直して咳払いを一つする。


「それじゃあ、今から教えるね。いつ襲撃が来るか分からないから基礎的なものしか教えられないけれど、みんな何とか覚えてね」


ユーニス、お母様、ルヴィア、アニエスタ、ジャスティナ、全員が真剣な表情になり、頷く。

その意気込みを肌で感じ、僕も自然と気合が入る。


「お茶会」だと言われて軽い気持ちで来たら、何だかとんでもない事態になっていた。

父上であるチェスタロッド侯爵から注意喚起をされてはいたが、こんなに早く行動を起こすとは思っていなかったのだ。


だがもう、そんな事を言っている場合ではなくなってしまった。

気持ちを入れ替え、誰一人欠けることなくこの事態を乗り越えるべく、僕は全力を尽くすことを心に誓う。


全ては愛する人達との平和でイチャラブな日常に戻る為に。


お読み下さりありがとうございます。

四月中の完結をと考えていましたが、投稿間隔が長くなった関係で五月末辺りまで伸びる予定でいます。


後半部分に、主人公のセリフが連続した部分がありましたので、間に地の文を挟みました。

また、助詞等一部修正しました(2019/04/22追記)

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