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62.場に臨んで想う君(とある人物視点)

今回のお話は最後まで主人公視点ではありません。

また、女の子同士のイチャイチャもございません。

あらかじめご了承下さいませ。

「初めまして。……殿下でございますね。私は……と申します」


物心がついた時には、その(ひと)はすでにいた。


王の家臣の娘だと言っていたけれど、父や兄の様にキラキラと輝く金色の髪と整った顔立ち、物腰丁寧なその立ち居振る舞いは王家の人間そのものだと思った。


全く表情が動かない(ひと)だったけれど、その分手は暖かく優しさに溢れていた。妹もすぐに懐いたし、何かと僕達の事を気に掛けてくれる(ひと)だった。


あの(ひと)の事を『人形』みたいだとか、笑いもせず気持ち悪いとかいう人もいたけれど、あの(ひと)のどこを見ているんだ、と憤ったものだった。


当時は分かろうはずも無かったけれど、今なら分かる。


憧れだった。その(ひと)の事を好きだったんだ。




アルナータ・チェスタロッド侯爵令嬢。


敬愛する兄、カイル・エルガーナ第一王子の婚約者。

このような素晴らしい女性と将来結婚出来る兄を羨ましいと思ったし、なぜ自分はもっと早くに生まれなかったのだろうと己の運命を恨んだりもした。


後に彼女の弟、カールエスト・チェスタロッドも父親に伴われて登城するようになり、同い年という事もあってよく共にいるようになった。

最初は憮然としていたカールエストだが、自分の勉強に付き合ってもらったり彼の剣の鍛錬に付き合う内に、何とか打ち解けて話せる仲となっていった。

同い年の同性が周囲にいなかったから、気兼ねなく話せる相手が欲しくてかなり頑張って友達になろうとした記憶がある。


「私はあの人を自分の「姉」であるとは思っていません。一つの当主の座を賭けて争う「敵」です」


ある時カールエストはポツリとそう漏らした。


「私はチェスタロッドの当主となる為だけに生まれました。あの人が「目覚め」ていれば生まれる必要のなかった人間です」


自分と同い年なのに、いつも張り詰めた様に険しい顔をしていた理由が語られた。

「目覚め」が何を指すのかははっきりとは判らなかったが、今のあの(ひと)がそうではない事だけは何となく分かった。


「今のあの人は、他の人々が言うように『人形』なんです。『直系』の当主達によって操られている中身のない『人形』なんです」


この直後、カールエストに掴みかかって喧嘩になった。

どんな言葉を発したかは忘れたが、泣きながら怒りをぶつけた事は覚えている。


カールエストはしばらく謹慎を言い渡され顔を合わせない日々が続いたが、兄王子カイルの執り成しで最終的には仲直りをした。

だが、カールエストの口から「姉」の事に関する言葉が一切無くなった。


あの(ひと)は相も変わらず全く表情が動かない。カールエストの事を聞いても「自分は自分。弟は弟」と特に気にする様子も無かった。


ここに来て周囲の人間が言う『人形』という言葉にわずかではあるが、引っ掛かりを感じざるを得なかった。




月日が経って、あの(ひと)が十四歳になった頃。

四年に一度の『奉天感謝祭』の最後に行なわれる『王杯十五侯武闘大会』において、チェスタロッド侯爵選出枠であの(ひと)が出場した。


圧倒的だった。


子供の試合の中に大人が混じった様な、それでいて圧倒的な力による蹂躙ではなく、まるで(あらかじ)め示し合わせた演武を思わせる程の力量の差を見せつけるものだった。


史上最年少の優勝という快挙に喝采を送ったが、同じ貴賓席で観ていた父や兄、そして居並ぶ『直系』の当主達はさも当たり前という風に冷ややかに見ていた事に違和感を覚えた。




そしてあの日。

あの(ひと)が十五歳の成人を迎えて少し経った頃。誰もが兄王子カイルとその婚約者アルナータの婚姻を待ち遠しく感じていた時。


二人の婚姻の事を聞こうと兄の執務室を伺った。

いつもだったらいるはずの時間だがあの(ひと)はおらず、兄だけがいた。


「何もまだ決まってはいない。判明したら必ず知らせる」そう言われて部屋を辞したが、その時にはもう何もかもが決められた後だったんだ。


数日後。

突如「王令」として二人の婚約解消が発表され、同時に兄王子カイルが廃嫡と王籍剥奪。そしてあろうことか自分が王位継承権第一位となって第一王子に据えられた。


事前の通達など全く無かった、正に突然の出来事だった。


真偽を問い質す為に父に食って掛かるも「最期の別れを言っておけ」と一蹴されてしまう。

ならばと兄に是非を問うも、寂しげに笑って「後の事は頼んだ」と言われるだけだった。


そして、ここですぐに行動しなかった事を翌日後悔する羽目になった。


兄王子カイル・エルガーナが自決をし、この世を去ったのだ。


自決の報を聞きすぐさま現場に向かったが時すでに遅く、物言わぬ骸となった兄が担架で運び出されるところだった。


せめて間違いであったと思いたかったが、土気色に変わったその顔立ちはまさしくあの兄であった。


兄の亡骸が場外へと運び去られると、城の人々はいつも通りの生活へと戻った。

まるで兄など最初からいなかったかのように。


ふと、あの(ひと)の事が思い出された。

思い返せば、婚姻の事を聞こうと兄の執務室を伺う前日に見かけたのを最後に、今までお会いしていないのだ。


兄が自決した翌日に登城したカールエストに訊いたところ、兄の執務室を伺ったあの日に突然倒れ数日眠った状態だったという。

それが昨日前触れもなく目覚めて、直後に兄の自決の報を聞き気がふれてしまい、今はチェスタロッド領の屋敷にある離れに隔離しているとの事だった。


「この事はチェスタロッドの恥ですので、他言無用でお願いします」


いやに冷めた口調でカールエストがそんな事を言った。


「殿下の知るアルナータ・チェスタロッドはカイル様と共に死んだのです。会おうとなさらぬ方が良いでしょう」


カールエストの言葉が信じられなかったので、後日チェスタロッド侯爵にも同じ質問をぶつけてみた。


「カイル様の訃報を聞き、取り乱したアレは剣を振り回して暴れました。剣を取り上げると今度は、木の棒を手にして奇声を発しながら振り回す始末。

殿下のお目が汚れます故、お会いになるのはどうかご勘弁を」


侯爵の威圧染みた態度に、納得がいかないながらも従わざるを得なかった。

あの(ひと)がそんな事をするはずが無いと思う反面、常に無表情だったあの(ひと)が取り乱すほど兄の事を想っていたのかと考えさせられもした。


僕は、敬愛する兄と憧れの女性を失った。




『血統』と呼ばれる血筋の濃さで何もかもが決まるこの国。王令一つで明確な罪も無しに愛する者達が引き裂かれ、簡単に殺される国。


この国を変えたいと思った。兄やあの(ひと)のような犠牲者を出さない為にも……、


いつか必ず変えてやる。


ソウダ ワタシニハ ココロザシガ アル


それからの僕は、自身の手足となる者を、同じ志を持つ者を自分で選び従えていった。


シモベヲ フヤセ ヒトリデハ アニウエノ ニノマイ ダ




三年後。子飼いの臣下が順調に増え、それに伴い僕専用の騎士団創設の準備が進んでいた。

そして、最後の一押し。王に確約を得る為の場『王杯十五侯武闘大会』が開催された。


出場選手の全てを僕の臣下で埋めようとしたのだが一部思う通りにはいかず、あまつさえ飛び入り参加の者に引っ掻き回される始末。

これで優勝なんてされた日には、計画の大幅な修正をせねばならなくなってしまう。


決勝に出るカールエストに檄を飛ばし、僕は貴賓席で決勝戦を眺めた。


この日の事は、決して忘れることは出来ない。


決勝において飛び入り参加の者が常につけていた仮面を取り、その素顔をさらした。

その瞬間僕は思わず立ち上がり息を呑んだ。


あの(ひと)だ!


髪色と髪型を変え、男性の服装に身をやつしてはいたが、見間違えるはずがない。あの顔は紛れもなくあの(ひと)だった。

良かった、何とか心が回復されたのか。


しかし回復を喜んだのも束の間、僕は次に見せられた光景に呆然となった。


あの(ひと)が優しげに笑ったのだ!


それはかつての、常に無表情だったあの(ひと)を知る僕からしてみれば、信じられない事だった。

しかも何故、笑いを向ける相手がカールエストなんだ?


そして、そいつ(・・・)は決勝でもまた、それまでの対戦と同じ品性下劣な戦い方でもってカールエストに挑み、無様に負けたのだ。


僕はかつてない憤りを覚えた。


僕の憧れのあの(ひと)をあんな風に無様に汚すそいつ(・・・)が許せなかった。


何故仮面を外した? 仮面を付けたままだったら僕はこんな思いをせずに済んだのに?


アレハ ニンギョウ ダレカニ アヤツラレテ ウゴク ニンギョウ


僕には笑いかけてくれなかったのに、何でカールエストには笑ったんだ?


アレハ ニンギョウ ワタシノ シル アコガレデハ ナイ


許せない、絶対に許せない。


アコガレヲ ケガシタ ソイツヲ ユルスナ


いつか必ず、殺してやる。


チカラガ ホシイ


力が、欲しい。




そして、僕は『力』を手に入れた。

かつてない充実感が体中を駆け巡っている。


僕専用の騎士団『黄剣親衛騎士団』も発足し順調に機能している。


この国は欺瞞(ぎまん)に満ちた国だった。


この国は人々の暮らしを豊かにする『力』を『封印』し、一握りの『直系』の当主のみがその恩恵を独占していたのだ。


幽騎士エクト・プラズ・マリオ……『直系』の当主のみに許された防護の『力』


欺瞞(ぎまん)の最たるものがそれだ。


僕は『直系』の当主ではないが『力』を手に入れた。防護を破る為の『力』だ。


僕は選ばれたのだ。


故に信頼する臣下に『力』を分け与えた。


志に賛同するとある男爵が、国の博物館で死蔵されていた古代の装飾品群を発見して僕に献上した。

それは『力』を分け与え、蓄える事が出来る宝石が付けられた道具だった。


その道具を手にした者達は僕ほどに『力』を使えるわけではないが、それでも並みの騎士では(かな)わない程の強さを手にした。


あとはこの国の王城の地下にある『封印』を解き、そこに眠る『力』を解放し、『直系』の当主をことごとく断罪するだけ。


その時はもうすぐだ。


ハヤク ハヤク ハヤク コイ


『人形』め、その時はお前も僕の手で殺してやる。


アコガレヲ トリモドスノダ


投稿が遅れてしまい、すみませんでした。

お読み下さりありがとうございます。


タイトルを修正しました。場の>場に(2019/04/16追記)

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