56.新年の宴
『というお話だったのさ』
そう締めくくり、金髪ツインテールの貧乳美少女は湯呑を手に取りお茶をすすった。
多人数が入れる少し大きめの炬燵に、ドテラを羽織った美少女が8人。
炬燵の中央には篭盛りのミカンが置かれ、各人の前には暖かな湯気を立ち昇らせるお椀と湯呑。
久々に慌ただしい年末だったので、せめて夢の中くらいは日本を懐かしみ正月気分に浸ろうと思っていたら、幽騎士がやって来たわけです。
いつもだったらチェスタロッドことアニ、ストラグス、ロベルスの三馬か、いや三羽ガラスが最初に顔を出すのだが、
今回は金髪ツインテールのフォーオールが、六人の美少女を連れてやって来た。
目の前には、金、金、赤、青、緑、白、黒……色とりどりの髪色の美少女達がいる。一人を除いて、初めて見る面子ばかりだ。
「アニ達は今日は来ないの?」
『先にアルちゃんの愛人達のとこへ挨拶に行ってからこっち来るって』
「愛人言うな! 生々しい」
『能力の継承自体は上手く行ったけれど、実際にアルちゃんの負担が軽くなるかは未知数だからね。しばらくは調整に付き合ってよ』
僕の抗議を華麗にスルーし、フォーオールは言葉を続けた。
そのニコニコと笑う顔に、僕は諦めの溜息をつくと目の前のお椀を取り、中のお雑煮に口をつける。
チラっと、ドテラを羽織った美少女達を見る。
お椀の雑煮を箸で食し、みかんの皮を綺麗にむいて一ほろづつ口に運び、長年そうしてきたように手を添えてお茶をすする。
みんな器用だよね。いや、何でそんなに日本人染みた所作をしてるのさ。
『情報自体はお主の中にあるからの。同期させれば容易いものよ。あぁ、妾がエンパスじゃ。よろしゅう頼むぞえ』
お姫様カットにポニーテールの赤髪美少女が口元に扇子を当て、ほほほと笑う。
エンパスに続いて、青髪がペリエテス、緑髪がエルロファス、白髪がオード、黒髪がジューダ、と自己紹介していく。
何故かみんなお姫様カットだ。後ろの方は各々違うが、前だけは共通してお姫様カットになっている。
「その髪型流行ってるんですか?」
『いや、単に五公で揃えたいから、だけらしいな』
僕の質問に答えたのは、金髪縦ロールで頭にちょこんと小さな王冠を乗せた、ドテラを羽織った美少女だった。
インパクトの勝利、ってこういう事を言うんだなぁ。和洋折衷の誤った融合とでもいうのか。
初めて見た時は目が点になりましたよ。
「い、インペリオさま、でよろしいんですよね」
『そうだが、何故タメ口で話さない? フォーオールと同様で良いぞ?』
僕の物言いに、インペリオが少しむくれた表情で返す。
「流石に不敬に当たるかな、と思う訳でございまして……」
『ならば、チェスタロッド始め全ての幽騎士に対して敬語を使え。我ら二十二の魂は同等である故な』
「うごっ」
しどろもどろになって理由を述べると、間髪入れずにインペリオが今の僕では到底飲めない要求をしてきた。
アニやフォーオール達、よく僕のところにやってくる幽騎士の面々とは種族(?)の垣根を超えた友達の様になっている。
特にアニとは僕がこの世界で目覚めた時からの付き合いで、親友みたいなものだ。
今更敬語にしろといわれても出来るものでは無い。
「わ、わかりました。善処します」
『んん~?』
インペリオが手を耳に当て『あ~? 聞こえんなぁ~』って感じにウザい表情で聞き返してくる。
……
「うがぁ! わかったよっ! これでいいでしょ?!」
『最初からそうすれば良いのだ。これから長い付き合いになるのだからな』
無邪気に笑いながらインペリオは僕の頭を撫でる。
僕は憮然としながらも、されるがままに撫でられ続けた。
今回『終年の儀』に参加した事により、このエルガーナ王国の裏の部分が色々と判明し、少なからず僕の立ち位置も変わった。
いま僕の目の前でキャッキャと楽しげに談笑している美少女達は、三百年以上前、世界を救う為にその身を犠牲にした人々の霊魂なのだ。
また、僕的にはいまいち実感が沸いてこないけれど、この国に住む人々の共通のご先祖様でもある。諸事情により、ここでは美少女の姿をとってはいるが敬意を以って接するべき相手だと思っている。
……出来れば、敬意を払えるような姿になって欲しいけれどね。
『そうしたら、僕達がここで寛げないでしょ』
僕が思っただけの事に対して、フォーオールが反応する。
相変わらず心の声がダダ洩れだ。
『お主の所は妾達にとって唯一の安らぎの場じゃ。妾達を思うてくれるのならば、友人のように接しておくれ』
エンパスがすまなそうに眉尻を下げ、少ししっとりとした声で言った。
考えてみれば三百年という長い間、封印を維持する為に霊魂となってもこの世の存在し続けていた人(?)達だ。
どれだけの苦しみ、痛み、悩みがあったか、僕の拙い頭では想像が出来ない。
そんな人達に安らげる場を提供できるのが僕だけなら、それは甘んじて受け入れるべきではないのか。
「わ、わかったよ。それなら気の済むまでゆっくりしていってよ」
僕はエンパスの言葉に同意し、気恥ずかしさで目を伏せた。
『理解してくれたようでなによりだ。それじゃ、改めてアルちゃんと愛人たちの前途を祝してぇ、かんぱーいっ!』
美少女達が缶ビールを掲げて『乾杯!』と声を上げる。
人の家の冷蔵庫から無遠慮に取り出すが如く、美少女達は僕の脳内の記憶から、ビールのツマミになるような物を次々と炬燵の上に並べる。
味の感想を様々に言い合いながら、缶ビールが次々に空けられていく。
僕もそんな幽騎士達の様子を眺めながら、ちびりちびりと酒を飲む。
「ところでさ」
『んあ?』
僕は隣にいるフォーオールに声を掛けた。
「『終年の儀』の時の事で色々聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
『ん~。「フォーちゃま、お願い☆」って言ってくれたら聞いてあげる』
「フォーちゃま、お願い☆」
『躊躇わずに来たね……しょーがない、答えられる事なら答えるよ』
フォーオールが若干呆れ気味に、即答した僕を見る。
前日の『終年の儀』では、最後の衝撃がすごすぎたので質問する機会を得ずに終わってしまったのだ。
今まで謎だった、僕が持つ濃い『血統』の三つ目が判明した。しかしそれは新たな疑問を生み出した。
「最初に、アルナータ・チェスタロッドは本当にギルエスト・チェスタロッドとミルフィエラ・ロベルスの間に生まれた子なの?」
『これはイエス。二人の婚約前後まで遡って関係各所に訊いてみても良いよ。ギルエスト、ミルフィエラ、二人とも不貞はなかった』
「じゃあ何故アルナータには三つ目の『血統』インペリオがあったの?」
『一言で言うと「先祖返り」かな。エルガーナ王家では何代かに一度、多くの側妾を囲って生まれた子を『直系』の家に入れるんだ。
まぁ『血統』を確実に残す為の慣習だね。その中でうまいこと血が合わさって、継ぐに足る程の濃い『血統』が生まれる場合がある。
アルちゃんの場合は、それがたまたまインペリオだった、ってだけだね』
「王家の『血統』がインペリオってのは? エルガーナじゃないの?」
『これは封印当時の政治的配慮からくるものだね。建国時の初代国王はインペリオという国の王子だったんだ。
そのまま国名に使ってしまうと軋轢が生まれるから、国名を「エルガーナ」にして、代々の王家の人間は「エルガーナ」を名乗っている。
でも「インペリオ」という名は残しておきたいから、王家の『血統』名にした、って事だね。
まあ『血統の検査』では「エルガーナ」にしてあるから、ワザと隠している事実だけど』
「誓約書に血判を押した時、『虹』色に光ったんだけどあれは?」
『判別の為に『血統』は大別して六種、全二十二の色に分かれている。そしてあの手の道具を使うと複数の濃い『血統』を持っている場合、色が混じる事がある。
ただ君の場合は……ちょっと分からないな。初めて見る反応だ』
フォーオールにも分からないのか。
「もう一つ。王家の濃い『血統』を持つ僕が、エルガーナ王家を継ぐ可能性はある?」
『可能性の話なら、ある。だけどそれは王家断絶の間際まで行かないと発生しない可能性だね。今はちゃんと正当な王位継承者が複数いるから、アルナータが王家を継ぐことは無いと思ってていいよ。公的にも君はただの貴族令嬢だからね』
それは良かった。今はミラニス王女の護衛という事で王城勤めをしているけれど、本来は権力とは関係のないところでのんびり暮らしたいのだ。
自分が火種になるような事は避けたい。
「あ、ごめん最後に重要な事。『魔法』って今でも使える?」
『一般的には「使えない」事になっている。『魔法』には『魔力』が必要とは聞いたよね。『魔力』は基本今の世には存在しない。あの『封印の間』とその上にある部屋で使えたのは『綻び』で漏れた『魔力』を利用しているだけなんだ。そして、その部屋に入れるのは基本『直系』の当主のみ。分かるよね?』
むむぅ、非常に残念である。
『アルちゃん、重要だからもう一度言うよ? 『魔法』は使えない。おーけー? 使えないからね。ゼッタイ使えないからね??』
「わ、わかってるよぅ」
キスできそうなくらいに顔を近づけて、しつこいぐらいに念を押すフォーオール。
その迫力に押され、僕は了承をする。
まぁ、あの場所に侵入するとか、犯罪紛いの事をしてまで『魔法』を使いたいとは思っていないから、いいけど。
僕とフォーオールの問答が終わった辺りで、アニ達残りの幽騎士がやってきた。
僕の頭の中に集まった、総勢二十二人の貧乳美少女。
こう書くと僕自身の頭が沸いているように思われてしまうかもしれない。
どうも、未だにドレスコードとやらは生きているようである。
いい加減ほかの表現をしても良い様に思うのだけれど、一向にその兆候は見られない。
『アルちゃんの世界にもあるでしょ? 容量を抑える為に表現を簡略化する、っていうのが』
いや、まぁ、あるけどさ。
何となくゲームキャラのポリゴンの変遷を思い浮かべる。
まぁ、カクカクの箱みたいなのでないだけマシか。
『それでは、不肖チェスタロッド。乾杯の音頭を取りたいと思う』
ドテラを着たアニが缶ビールを掲げる。
『全幽騎士具現化を祝して、乾杯!』
『『『かんぱーいっ!』』』
僕の頭の中で幽騎士によるどんちゃん騒ぎが始まった。
軽いめまいを覚えつつも、その光景をのんびりと見守る。
『アルちゃんの負担が減ってるかの負荷試験も兼ねているんだ。朝起きた時頭痛とか無かったか、後で報告頂戴ね』
フォーオールがウィンクして僕にそう囁いた。
そういやそうだっけなぁ。
ユーニス達は今どういう状態になっているのだろうか? 起きたら皆にも聞いてみよう。
僕の代わりに彼女達が被害を被っていたら、改善要求をしないといけないしね。
新しい年が明けて、何かが変わりそうな、そんな予感がした。
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