55.終年の儀
投稿が遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
話の流れの都合上、イチャラブはほとんど含まれておりません。ご了承下さいませ。
ユーニス達が発情して事態の収拾がつかなくなってしまい、何とか鎮静化したのは数時間後の事だった。
えぇ、もう、国王陛下をはじめ『直系』のご当主方皆様に平謝りでしたよ。
肌の露出は無かったものの、アハン、ウフンでゴロゴロニャーな痴態を国の重鎮が居並ぶ前で見せてしまったのだ。
土下座が通用するなら迷わず一家総出で土下座していた案件である。
「大変にお見苦しいものをお見せしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「いや、良い目の保養で……ゴホン、ま、まあ、そう気にせずとも良い」
と、多少どもりつつも国王陛下は『直系』の当主を代表して仰って下さった。
「それでは、これ以上の恥の上塗りをする前に我々は退散しようと思います」
「こらこらアルナータ。まだ用は済んでないんだから、勝手に帰ろうとしちゃ駄目だよ」
「へ?」
「君達はこの後に行なう『終年の儀』に参加させる為に呼んだんだ。これから『封印の間』に移動するよ」
イリーザ様が言い終わると同時に、全ての『直系』の当主が腰を上げた。
◆◆◆◆◆
先程の部屋から一階層下に降りると、何やら薄暗い空間が見えてきた。足元を冷気がただよう。
部屋の暗さに目が慣れて、全体の形がぼんやりと把握できた。
そこは中心に向かって窪んだ擂鉢状の開けた場所だった。
中心には暗がりの中浮かぶ水晶のような柱群。
それらは何かの周りを取り囲むように均等に規則正しく並び立ち、各々独自の色をたたえほのかに光を帯びている。
国王陛下を先頭にその柱群に向かって進んでいく。
進むうちに、柱が取り囲んでいるものがおぼろげながら見えてきた。柱の位置に合わせる様に出っ張りのような物がある円形の構造物。
ちょうど、何かの蓋のような感じだ。でっかいマンホールと言った方がしっくりくるかもしれない。
「さあ着いた。ここが『封印の間』だよ」
『直系』の当主達が一人に付き一つの柱へと移動していく。
国王陛下が、僕達のちょうど真正面にある黄金色の柱の前に立つ。
その柱から時計回りに「黒」色系の柱、「青」色系の柱と続き、イリーザ様の立つ透き通ったガラスのような柱を挟んで、
「赤」色系の柱、「白」色系の柱となっている。
上の円卓のあった部屋と比べると、当主の配置が随分と違う。何というか、上座下座が無い、のか?
「今日に生きる、古よりの『血統』を繋ぐ『直系』達よ。『封印』に血を捧げ、始祖の御柱に祈りを捧げよ」
国宝陛下が右手を掲げ、そう言葉を告げると全ての『直系』の当主が同じように右手を上げた。
『終年の儀』がいよいよ始まるようだ。
その厳かな雰囲気に僕達は膝を折り、臣下の礼を取る。
「アルナータとその伴侶達よ、直れ。そして見届けよ」
国王陛下の意外な言葉に驚きつつも、僕達は礼から直り目の前の光景を凝視する。当主達の右手はまだ掲げられたままだ。
「それでは皆の者、血を捧げよ」
一斉に掲げられた右手が、目の前の構造物にある拳大の窪みへと置かれる。
その瞬間、二十二色の光が立ち昇り、構造物上の溝が淡く輝く。
当主の頭上に幽騎士が現れ、後方の柱へと吸い寄せられるように移動していった。
全ての幽騎士が重なると柱が一際明るく輝き、地鳴りのような振動と低い唸りが『封印の間』を揺るがす。
しばらくして光と振動が収まった時、円形の構造物の中央から一筋の光の柱が立ち昇った。
『我らの血を継し子等よ、封印は保たれた。汝らの献身に感謝する』
幽騎士のフォーオールのみが現れ、礼を言う。
僕の心の中の世界で聞く美少女声とは違った、人好きのする親しげな青年の声だ。
『やあ、アルナータ。驚いてくれたかな? 今いるこの場所は『魔力の源泉』……『魔法』を発現する時に使われる『魔力』が際限なく溢れ出す世界唯一の場所だ』
フォーオールの言葉に僕は固唾をのんだ。
今まで僕は、この世界には『魔法』が存在しないものだと思っていた。幽騎士なんて超常的なものは有るのに何でないのだろう、と感じていた。
その『魔法』が存在していた! しかし、ここが『封印の間』という事は、『魔法』は封印されて使えない、と考えられる。
何故、封印されているのか。
僕の思案気な顔を察したのか、幽騎士フォーオールは続けてこう言った。
『ひとつ、昔話をしようか』
◆◆◆◆◆
今から三百年以上昔の話。
古よりこの世界には『魔力』が満ち溢れ、『魔法』という技術が人々の生活を豊かに便利にしていた。
しかし、永遠に続くかとも思われたその繁栄は、突如襲ってきた異変によって窮地に立たされる。
『悪魔化』
体内に過剰に蓄積された魔力が暴走し、人が人ではない「何か」に変わる現象。
後に、妬みや恨み、怒りといった昏く激しい感情を爆発させた者が成りやすい事が判明した為、
悪意を具現化させた魔力暴走者、すなわち『悪魔』と呼ぶようになり、『悪魔』に変化する現象を『悪魔化』と呼ぶようになった。
『悪魔化』して、人から『悪魔』になった者は例外なく強大な力を持ち、悪意を持って振るわれるそれは人や国家にとって脅威でしかなかった。
当初は適時排除されていたが、妬みが妬みを呼び、恨みが恨みを呼び、怒りが怒りを呼び、留まるところを知らず『悪魔化』は全世界に爆発的に拡がっていく。
やがて『悪魔』に滅ぼされた国や、一国の上層部が丸ごと『悪魔化』するなどの国家規模の災害事例が発生した。
事ここに至って人々は対症療法的に『悪魔化』に対応するのではなく、『悪魔化』の原因を突き止め、その根本を叩くべしとの結論を得る。
多くの国々の識者達の努力により、『悪魔化』の原因はほどなく判明した。
『魔力の源泉』の汚染。
『魔力の源泉』とは、『魔法』を扱う時に必ず使われる『魔力』をこの世界に供給している場所で、創世の頃より一刻も枯れることなく湧き続けていると言われている。
その『魔力の源泉』が汚染された事により、『魔力』が特定の人間にのみ過剰供給され、結果『悪魔化』が引き起こされたのだ。
汚染の原因は、おそらくは人の『悪意』であろうと思われた。
原因究明の為に『魔力の源泉』に向かった調査団から、源泉の周囲に複数の白骨死体が散見され、源泉の色が昏く淀んでいたとの報告があったからだ。
この結果を受けて、人々の意見は真っ二つに分かれた。
『悪魔』の暴威及び『悪魔化』の根絶の為に『魔力の源泉』を封印しようとするものと、今まで通り『悪魔』を駆逐しつつ『魔力の源泉』の清浄化を試みようとするものとに。
『魔力の源泉』の封印はすなわち『魔法』との決別。今までの豊かさ、便利さを捨て、不自由な生活を強いられるという事。大半の人間にとっては、おおよそ許容出来るものではない。
是非が問われないまま時間だけが過ぎていった。
だが状況は、『悪魔』が一大国家を築き上げ全世界に向けて宣戦布告をした事で一変する。
『悪魔』が国を、人々を蹂躙し、暴威に曝され生き残った人々は、恨みや怒りを爆発させ『悪魔化』する。
負の連鎖によって驚異的な速度で以って世界が侵食されていき、人の存続が風前の灯火となって漸く、人々は『魔法』を捨てる事を決意したのだった。
そうして、生き残った各国各方面から選ばれた勇士が紆余曲折の果てに『魔力の源泉』の封印に成功するのである。
◆◆◆◆◆
『封印の成功によって世界中への魔力供給が完全停止し、『悪魔』達はその変わり過ぎた身体を維持出来なくなり次々と自滅。
目的は達成されたのだが、『魔力の源泉』という大き過ぎる力を少数の手だけで封印し続けるにはどうしても力が足りなかった。
早晩封印が内側から破壊され、汚染された魔力が再び拡散するのは誰の目にも明らかだった』
何か遠くを見つめる様に天を仰ぎ、幽騎士フォーオールは話を続ける。
『故に我々は封印を半永久的に維持管理する仕組みを構築した。それがこの国、エルガーナ王国である』
僕は思わず心の中で唸っていた。
平和ボケした頭を何かでガンガン殴られたような、鈍く重い頭痛を感じていた。
『我々は子を育み、その子らがさらに子を成したところで我々二十二の血筋を残すことを厳命し、そして自らは『人柱』となって封印を押さえ続ける楔となった』
目の前の構造物に自然と目が向いた。
この下には三百年以上前の人達が、今も眠っているのだ。
『そうして、封印の楔となった二十二人の成れの果てが、幽騎士……封印に縛り付けられた人柱の亡霊、って訳さ』
少し自嘲気味に、フォーオールはそう締めくくった。
『さて、今回は特別にアルナータもこの封印に血を捧げて欲しい』
しばらくの沈黙の後、フォーオールは言った。
僕は思わず右手を隠す様に胸に抱いた。
いや、だって今日は誓約書の血判に幽騎士の継承時の秘薬と、何度も血を抜いているのだ。
量は大したものでは無いが、あまり気分の良いものでは無い。
『この封印はね、内側から『魔力』による圧がかかる関係で、毎年少しづつ弱まるんだ。僕達はそれを『綻び』と呼んでいる。
この『綻び』は、年に一回『直系』の当主……封印の楔となった二十二人の濃い『血統』を持つ者の血を入れる事で解消する。それが『終年の儀』だ』
僕は居並ぶ『直系』の当主を見回した。先程の右手を置く行為はそういう意味合いのものだったのか。
『『綻び』は通常、数十年単位で放置しない限りは『終年の儀』で解消出来るのだけれど、実はここ数年異常な規模で拡大している。
前年、前々年はそれでもまだ問題はなかった。しかし今年に至ってはあまりにも大き過ぎて、いま行なった分だけでは少々解消しきれてないんだ』
肩をすくめるフォーオール。
世界とか魔法とかいきなり風呂敷が大きくなっていまいち現実味に薄れるが、今が大変な時期だというのは何となく感じられた。
何が原因なのだろう?
『アルナータ。他人事の様に思っているだろうけれど、君が原因だからね? 当時者として多少は責任を感じて欲しいな』
「え?」
『君と、君の後ろに控えている寵姫たち。去年と今年、何が変わった?』
言われて僕は後ろを振り返る。
去年と今年……ユーニス、ミルフィエラお母様とは良好な関係が続いている。去年側仕えになったルヴィアとも良好だ。
フォーオールに操られて一線を越えてしまったけれど、親密度に拍車がかかったくらいで悪くはなっていない。
更に今年は武闘大会でアニエスタとジャスティナが新たに加わり、ごく自然に肌を重ねるようになっている。
前世で童貞だった頃と違い、リア充と呼ばれるだろう状態に今の僕はなっている。何せこんな美女五人とイチャラブしているのだ。
イチャラブ……。
「あ」
自分でもはっきりとわかるくらい顔が熱を持って真っ赤になる。
それに反応したのかユーニス達五人も頬を染めてうつむき加減にモジモジしだした。
その仕草が可愛く、ちょっとムラっとした。じゃなくて。
『今年における『綻び』の拡大はアルナータ、君の励みによるところが大きい。当主以外の血を捧げるのは初めてだけれど、実験の意味合いも兼ねて今回は特例として試してみよう』
「僕に拒否権は無いんですね」
未だ火照った顔のまま僕は観念して前に進んだ。
「それで、血を捧げるのはやはり父上のいる場所ですか?」
言ってから、しまったと口を抑える。僕の言葉にチェスタロッド侯爵である父上が破顔するのが見えた。両隣からガスガス肘鉄を喰らっても一向に笑ったままだ。
「いや、アルナータ。私のところで捧げればいい。君の場所は決められていないからね」
横にいたイリーザ様が僕の腰に手を添えて自らの前へと誘導した。一部がざわつくも、イリーザ様は意に介さず笑みを浮かべる。
『どこでも構わないよ。さあ、血を捧げなさい』
幽騎士フォーオールの言葉にうなずき、当主達がやった様に僕は目の前の窪みへと自分の右手を置いた。
ちくっと針が差したような痛みが走り、何かが抜けるような感覚を覚える。
目の前の構造物の光が輝きを増し、当主達の背後にある柱が明るく輝く。
「おお……」
その場の誰かが感嘆の息を漏らした。
輝きが収まると、いくつかの柱が強く光っている以外は落ち着きを取り戻したかのように淡い光をたたえている。
『言っていなかったけれど、この『封印の間』の柱は『血統』の濃淡に併せて輝きが変わるんだ。いつもは一斉に血を捧げるからあまり関係のない話だけどね』
父上の背後、チェスタロッドの緋色の柱。
伯父上のロベルス、赤紫色の柱。
そして、僕は目の前の光輝く柱から目を離せないでいた。
『アルナータには三つの濃い『血統』がある。チェスタロッド、ロベルス。そして、エルガーナ王家のインペリオ、だ』
国王陛下の背後にある柱も強く輝いていた。眩いばかりの黄金色の光を。
お読み下さりありがとうございます。




