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45.【バレンタイン小話】あまあまチョコレート

時系列的には「42.動き出す時」の前で、5つの小話群を消化したあと辺りのお話になります。

バレンタインネタや、甘いお話が苦手な方はご注意下さい。

秋に色づいた広葉樹の葉がはらはらと舞い落ちる離れの庭を眺めながら、僕は部屋でユーニスに入れてもらったホットチョコレートをすすっていた。


一か月続いた奉天感謝祭が終わり、それまで秋めいた涼しい空気が徐々に冷たさを増してきている。

僕の住むエルガーナ王国は内陸国で周辺に海が無い為、冬場はとても寒い。


そんな厳しい寒さのこの国で、ホットチョコレートに出会えたのは僕にとって救いであった。

甘くてあったかいホットチョコレート。チョコ好きな僕の冬の定番である。


この国においてチョコレートは結構古くに交易商人によってもたらされたらしく、国内に広く普及しているお菓子の一つだ。

ただ、主原料のカカオを交易商人による輸入に頼らざるを得ないので、他のお菓子類と比べるとちょっと割高になってしまっているのだが、それでも庶民が手を出せる範囲の価格にはなっている。

今の僕は一応貴族だからそんな事は気にしなくても良いんだけれど、やっぱり気になってしまうのは前世の記憶のせいだろう。


そうそう、前世の記憶と言えば。

日本のバレンタインデーのような、特定の日に女性から男性へチョコレートを贈るというような風習は当然のことながらこの国にはなかった。

どうでも良い事だが、僕の前世において人生で最も関わりの無かったイベントの一つである。


ズズ……。


チョコレートの香りが心地よく鼻を通り抜け、口の中が程よい甘さで満たされる。

至福の一時である。


あるじ殿は本当にチョコレートがお好きなのだな」


ジャスティナの言葉に我に返ると、同じテーブルを囲んでいる僕のメイドの面々が微笑ましいものを見るような顔で、こちらを見ている。


「な、何みんなどうしたの?」

「いえ。こういうのを眼福、言うのですね。アルナータ様のほわっとした笑顔、癒されます」

「これ飲んでいる時の妹くんて、ホント可愛い女の子になるんだよな」

「ちょっとこう、抱きしめたくなりますね」

「ユーニスよ、ならば一人3分でどうだ? 我は最後で構わぬぞ?」


「こらこらジャスティナ、勝手に話を進めないで」


笑いの輪が広がる。いつまでも共にいたい、愛しい人たち。


ちなみに、ミルフィエラお母様は今この場にはいない。

最近、ゲミナさんを伴って頻繁に外出しているのだ。午後には戻ってくる事が多いので、そう遠くにはいっていないようだけど。


いつまでもこうしていられたら良いのだが、そういう訳にもいかない。

イリーザ様から武闘大会での試験結果がもたらされれば、どういう形になるかは分からないがこの家を出る事は決定事項だ。


ズズ……。


チョコレートの甘さが心にしみわたる。


……バレンタイン、かぁ。

そう言えば、感謝の気持ちを形で表す、ってことをしたことは無かったな。


愛の告白はみんなから受けてるし、僕もちゃんと返したはず。

告白以前に肉体からだの関係の方が先に来てたりしてるけど、エロエロ、いや、色々な事情が重なった結果だし、基本僕は天井のシミを数えている側だから、あんまり「してる」って実感が無いんダヨネ。

うん、ゼイタクな悩みだってのは分かっている。

でも僕はリードする側に回りたいんだ。先立つモノが無いから一生実感できない話だけど。


「妹ちゃん? 考え込んでどうしました?」


「あ、ユーニス。……何でもないよ」


僕はユーニスにかぶりを振って答えた。

が、頭の中には「バレンタイン」「チョコレート」といった単語が離れずにいた。


かつては男の側だったから、もらう事しか考えていなかったけれど、

ユーニス達を見ていて、贈る側を経験してみるのも良いかな、と思った。


「……いや、ちょっと欲しい物が出来たから、このあと街へ買い物に出るよ。お昼までには戻るから」



 ◆◆◆◆◆



昼食も終わり、片付けも済んだ厨房の片隅を借りて、僕は午前中に買ってきたものを広げた。


ユーニス、ルヴィア、ミルフィエラお母様、アニエスタ、ジャスティナのいつもの五人が、何故かそろって後ろにいる。


「アルナータ、これから何が始まるの?」


その場を代表してお母様が僕に訊く。


「チョコレートを溶かして、別の形に固めなおす。それだけですよ」

「なぜそのような事をするのであるか?」


よくぞ聞いてくれました。

僕はチョコレートと共に買い求めた金属製の型枠を取り出し、皆に向けてそれを披露する。


「ちょっとしたひと手間をかけて、自分の気持ちを少しでも込める為だよ」

「「「おぉ」」」


皆から感嘆の声が漏れる。

僕の両手には燦然さんぜんと輝くハート型があった。


「で、でも妹ちゃん。何でいきなり作ろうと思ったんですか」

「いつも与えられてばかりだったからね。たまにはお返ししたかったんだ」


「それはいいけど、何でチョコレートなのさ」

「僕が好きだってのもあるけど、食べ物の方が後腐れ無いと思ってね」


「あぁん。それだったらアルナータのお口でママに直接食べさせてほしいな」

「お母様、自重。それとその呼称は絶対にノゥ!」


「アルナータ様の玉のお肌にその、とろりとしたチョコレートをかけてですね、素晴らしき肉体からだを堪能しながら、こうじっくりねっとりと舐め回し……」

「アニエスタ長い。それと真っ昼間からR指定な事はしないから!」


「うむ、主殿の肉体からだを楽しみながらチョコレートをおいしく頂く。良い案だ! では早速」

「ジャスティナ、ステイ」


段々過激になっていく台詞にツッコミを入れながら、僕はチョコレートを溶かす準備をする。


「妹ちゃん、何か手伝う事はありますか?」


ユーニスの優しさが、ツッコミに疲れた僕の心にスゥっと沁み込む。


「有難いけど、作業自体は簡単だし特には無いかな。もっとも、日頃の皆に対する僕の感謝の気持ち、だから出来れば僕一人でやりたいんだ」


「そう。ならここでじっと見ているのは野暮ってものね。皆、アルナータの部屋でゆっくり待ちましょ」


僕の意を汲んでくれたお母様が、他の皆に促す。

こういう時お母様は頼りになる。いつもこうだと僕も信用が置けて有難いんだけどね。




皆が出たのを確認すると、僕は今一度気合を入れてチョコレートに向かった。


もえもえきゅーん、じゃないけど僕の気持ちを精一杯込めるつもりで湯煎にかけたチョコをこね回す。


でもまぁ、さっきのアニエスタの言葉じゃないけど、

チョコを体にたらして、とか裸にリボンのラッピングで「どうぞ私を召し上がれ」って言うのは一度くらいは見てみたかったりする。

あぁ、ルヴィアの褐色の肌にはホワイトチョコがバッチリ合うよね。ホワイトチョコは買って来てないから出来ないけど。

裸リボンやチョコで一部を隠した女の子達のあられもない姿を思い浮かべ、思わず声が漏れる。


デュフフフフ。


脳内妄想を動力に僕は手を動かし、チョコレートをハート型に固めていく。


きゅいーん


耳鳴りのような音が聞こえた。

一瞬、固めたチョコに白い粒が見えた気がしたが、目を凝らしてみても特におかしなところは無い。


まぁ、気のせいだろう。


僕は人数分のハート型のチョコを固め終わると型枠から外し、ちゃんと固まっているのを確認してから用意しておいた箱に納め、皆が待っている自分の部屋へと向かった。




その夜はいつにも増して、あまあまでえろえろな一夜となった。


四苦八苦しながらもなんとかこじつけてバレンタインネタにしてみました。

3話続けてヒロイン達を出さなかったせいでもあります。


評価、ブックマークありがとうございます。

お読み下さりありがとうございました。

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