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40.【小話】アニエスタと一緒

小話4つ目です

ここは離れの一室を使って造られた衣裳部屋。


アニエスタが僕のメイドとして来たことで、試作品と銘打ったコスプレ衣装の制作に拍車がかかり、専用の部屋を造って、採寸、フィッティング、衣装の保管を纏める事になったのだ。


ミルフィエラお母様との裁縫の時間は生活習慣の一部となっているので、その時だけはみんなでお母様の部屋に集まるが、

それ以外の時間で縫製を行なう場合は、たいていこの部屋に赴くようになった。


衣装制作の中心はアニエスタだ。

彼女の持つ、体型を把握できるという特技と卓越した運針。それは制作の場において遺憾無く発揮された。


またチェスタロッド領は、王国内の他の領地と比べても段違いに他国からの交易商人が多く出入りしている。

よって他国の技術で作られた生地や素材なども、価格は別として比較的容易に手にする事が可能だ。


今ここには、潤沢な資金に物を言わせた各種生地と素材、そしてアニエスタの技術によって、僕が前世の記憶から呼び起こし提供したデザイン画からほぼ忠実に再現された、数々のコスプレ衣装が現実の物となって存在している。


セーラー服、ブレザー、某ファミレス制服、各種ミニスカ、体操着、体育用ブルマ、レーシングブルマ、バニースーツにナース服。スポーツブラも各種取り揃え、かぼちゃパンツに紐パン、普通のゴムパンツにローライズは色とりどりの柄を完備。さらには何故かある真っ白なふんどし。

この短期間で一体いつの間に作ったんだと思わずにはいられない程多くの種類がある。


但し、僕のサイズだけ。


…………。


「あのー、アニエスタさん? そろそろ他の皆の分の制作もお願いしたいのデスが」


「アルナータ様の思い描く物をご満足いただける様に再現するには、習作を多くこなし少しでも基礎を身に付けねばなりません。

基準となるものをしっかり定めることが出来なければ、他者への応用など出来ようはずが無いのです」


僕は今、仕立ての鬼と化したアニエスタによって着せ替え人形になっているのだ。


『人形姫』再び……なんてネ☆



「はぁ……いつ見てもアルナータ様のお身体は素晴らしいの一言に尽きます」


溜息が漏れ聞こえたのでアニエスタを見ると、顔を赤らめうっとりとした表情で僕のおなかの辺りを眺めていた。


ちなみに今の僕はスポーツブラにパンツ一丁である。僕からしてみれば色気も何もあったもんじゃない普通の下着姿だ。


「アニエスタは仮縫いで僕を引ん剥くといつもそうだよね」

「こういう時でしかアルナータ様のお身体をじっくり眺める事が出来ませんから」


照れた様子も無く率直な言葉が返ってきた。


自分でいうのもなんだけど、身体の見た目にはちょっと自信を持ってたりする。

おっぱいが無くても自分を嫌悪せずに生きていられるのは、アニの言葉と普段から鍛えているこの身体のおかげだ。


目覚めた時、貧乳を嘆いた僕に幽騎士マリオアニが懇々と語った数々の言葉がなければ、今の僕は無かっただろう。


ただ、そういう事を差し引いたとしてもアニエスタの行動は少々異質に感じる。

単に見惚れている、だけではない何かをその瞳から感じるのだ。


「ホント、アニエスタは僕の身体眺めるの好きだよね?」

「はい。私にとってアルナータ様のお身体は、一目惚れした至高の骨格なのです」


予想外の単語がアニエスタの口から出て来た。一目惚れは分かるとして、


「こっかく?」

「そうです。4年前に初めてお会いした時に受けた衝撃は今でも忘れられません」


4年前というと、前回の武闘大会辺りで出会ったのが濃厚か。

それ以降に目覚めた僕にとっては、ついこの間突然押し掛けられたって印象だけれど、

アニエスタにとっては4年もの間思い続けていた一目惚れの相手だったという事になるんだ。


そう考えると、あの時の段階をすっ飛ばした突飛な行動も、掴んだ僅かなチャンスを逃すまいと必死になっていたからなんだろうな。


それにしても、骨格に一目惚れ、か。

アニエスタの経歴を考えると、非常に彼女らしくて思わず苦笑してしまう。


「アルナータ様?」

「ん。とてもアニエスタらしいな、と思ってね」


怪訝な表情をするアニエスタを、僕はそう言って自分のおなかに引き寄せ抱きしめる。


「!?!?!」

「ありがとう、アニエスタ。身体だけだとしても、アニエスタにそう思ってもらえるのはとても嬉しいよ」


僕にとってもアニエスタに出会えたのは幸運だ。

今まで頭の中で妄想するしかなかったコスプレ衣装を、現実の物として手にする事が出来たのだから。

それを差し引いたとしても、こんな可愛い黒髪ロリ巨乳と共にいられるのだ。

男、いや、おっぱい星人冥利に尽きるというものだ。


そうそう。ロリ巨乳と言ってはいるが、アニエスタはちゃんとこの国における成人を迎えているのでその点は安心して欲しい。


始めバタバタしていたアニエスタだが、僕の言葉で腕をだらりと下げ沈黙する。


「ひょあっ?!」


いきなり僕のお尻に衝撃が走った。

見ると、アニエスタの両手が僕のお尻を鷲掴みにしているではないか。


そしてそこを支点にしてアニエスタがずずず、と体を起こし、僕の身体と密着する。

アニエスタの身長の割に大きなおっぱいが僕との間でつぶれて熱を持ち、僕のおなかの温度を上昇させる。


アニエスタの顔には怒りの色が見て取れた。だが、その表情すらも可愛いと僕は感じてしまう。


「あの、アニエ……」

「アルナータ様は解っておられません!!!」


僕の言葉を遮り、語気荒くアニエスタは言う。

興奮して熱くなった鼻息が、僕のおなかにぶつけられる。


「私は、私は決して、体のみの目的でアルナータ様のお側にいるのではありませんっ!」


アニエスタのその叫びに、僕は自分が不用意に地雷を踏んだ事を悟った。


「確かに最初のきっかけは体です。一目惚れしたその骨格を間近で見たくて、触って確かめたくて当時のアルナータ様に近づいた事は否定しません。

王家の事件で人前に現れなくなった時も、すぐにお会い出来るだろうと軽い気持ちでいた事も確かです」


眉間にしわが寄り始め、何かをこらえる様な表情になる。


「ですが、ですが! 武闘大会で再びお会いしたアルナータ様の人間味あふれる、かつての『人形姫』とは似ても似つかない、その表情に、笑顔に、私は一瞬で恋に落ちましたっ!」


次第に涙交じりの声になる。


「アルナータ様と親しげに話すユーニスが羨ましかった! ルヴィアが妬ましかった! 私もアルナータ様のお側で同じように、それ以上に笑いたいと思ったんです!」


「アニエスタ……」

「私はアルナータ様が好きです! 大好きですっ!! 他のひとに負けないくらい愛しているんです!!!」


アニエスタはそこまでの言葉を絞り出すと、僕のおなかに顔をうずめ、声を押し殺して泣き出した。

普段の、あまり大きく感情を表さない彼女が見せた、その想いの丈に今まで気づけなかった申し訳なさと、それを上回る愛おしさが僕の中にあふれた。


僕は静かに泣くアニエスタの頭を優しく撫で、空いた手で彼女の肩を抱く。


「ごめん、ごめんね、アニエスタ。そこまで想ってくれているのに気づかなくて」


アニエスタの両腕が、いつの間にか僕の腰を抱き締めるように回される。


「ありがとう、アニエスタ。僕も大好きだよ。アニエスタがいてくれて本当に嬉しい」


それは慰める為ではない、本心からの言葉。


不意にアニエスタが僕から離れた。

だが、その顔を俯いている。僕との身長差もあり、どのような表情なのかは分からない。


「キス……」

「え?」


「誓いのキス、して……下さい」


アニエスタが絞り出したその言葉に僕は笑みを浮かべ、両ひざを折る。

立てひざ状態でアニエスタの前に立つと、少しばかり彼女の方が背が高くなる。


「アニエスタ、目を閉じてね」


「ん」


そして僕はその小さな唇に自分の唇を重ねる。


少し大人の深いキス。


…………


「あ」


唇が離れる時、名残惜しそうな声が漏れた。


「アルナータ様はズルいです。こんなとろけるようなキスをされたら何でも許してしまいます」


顔を真っ赤に染めて、アニエスタははにかんだ様に呟いた。


「にひひ、それはよか……へっくちっ!」


僕はくしゃみをし、ブルっと身震いをした。



……あぁ、忘れてた。今の僕、下着姿だったわ。


お読み下さりありがとうございました

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