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36.幽騎士の宴

約一か月ぶりの我が家。

奉天感謝祭もつつがなく終わり、僕は王国南方のチェスタロッド領へと戻っていた。

アニエスタとジャスティナも、さも当たり前のように付いてきた。


イリーザ様からの試験の結果を王都のチェスタロッド邸で待ってても良かったんだけど、

「羽を休めとけ」と言われた事もあって結局全員で戻ってきたのだ。


アニエスタとジャスティナが寝泊まりする部屋の割り当てと、

僕の鍛錬を見たいといった二人に示現流の鍛錬を見せたくらいで、その日は早々に床に就いたのだが……。



 ◆◆◆◆◆



『武闘大会お疲れちゃんでしたっ。それではアルちゃんの準優勝を祝してー、かんぱーいっ!』


まぁ、こうなるよね。


僕がベッドに入って眠りに付こうとした途端、待ってましたとばかりに幽騎士そいつらはやって来た。

ちゃぶ台の上には複数の缶ビール、それに皿に盛られた各種つまみ。

それらを囲み、シャツに短パンといった仕事終わりの独身OL(偏見)のような格好で胡坐あぐらをかいて談笑する貧乳美少女達。


チェスタロッドことアニ、ストラグス、ロベルスのお馴染みトリオに、金髪ツインテールのフォーオール。

さらに今回は新たに黒い髪と白い髪、二人の貧乳美少女が酒盛りに加わっていた。


「アニエスタとジャスティナが加わればそりゃ増えますヨネ」


『うむ、儂がディースじゃ。アニエスタをよろしゅう頼むぞえ』


『ジュスティースである。ジャスティナは……いや、うむ。戸惑いもあろうが上手く付き合ってくれ』


黒い髪の方がディース、白い髪の方がジュスティースを名乗って、それぞれの推しを僕にアピールしてくる。


「ジュスティースは何か歯切れが悪いけど、どうしたの?」


『こやつのとこのジャスティナ嬢がな、お主の元に来て予想外のはっちゃけぶりを見せおったろう? それが随分と心に刺さったようでな?』


『……男に囲まれて、騎士足らんと相当気を張り詰めて生きてきたのは分かってはいたのだが、な。その枷が外れた途端ああなるとな』


「あー」


ディースはカラカラと笑い缶ビールをあおり、ジュスティースは皿に盛られたナッツ類をポリポリと俯きながらつまんでいる。

見た目は美少女だが、雰囲気や行動が完全にお爺ちゃんとお父さんである。

思わず『お孫さんと娘さんの事は~』と言いそうになってしまう。


「ところでさ、アニ。大会期間中全然こっちに顔見せなかったよね? 何してたの?」


『何も特別な事はしていないな。まぁ、みな公平を期す為にお前のところには来なかった、というだけだ』


公平を期す?


『ここは居心地が良いから。ついついアルナータちゃんに有利になるような事話しちゃうかもしれないし』

『大会期間中はみんな自分のとこの選手を応援したいしな。まー、今回のストラグス枠はクソガキ負けちまえと思ってたが』


「なるほどねぇ」


気が付けば、6人の貧乳美少女以外にも色とりどりの光の球が舞っていた。

その様子はいかにも幻想的で、一瞬我を忘れさせてくれる。

が、その下で缶ビール片手に酒盛りをする幽騎士マリオ共を視界に入れた事により本当に一瞬で現実に引き戻される。


……起きたらひどい頭痛でのたうち回りそうだ。


僕はおそらく来るであろう未来の痛みにこめかみを押さえた。


『ごめんねぇアルちゃん。いま幽騎士エクト・プラズ・マリオの皆でアルちゃんの負担が軽くなるように対策を考えているんだけど、今の技術じゃなかなか良い方法が見つからなくてねぇ』


あぁ、一応考えてくれてはいるんだな。

どういうところが問題になっているのか、いまいちよく分からないけれど。

まぁ、僕の脳ミソの平穏の為にも是非実現してもらいたい。


『こっちとしても無茶させ過ぎてアルちゃんから拒絶されちゃうのは避けたいからね。なるべく早くに実現できるよう手を尽くすよ』


フォーオールは金色のツインテールを揺らし、僕にウィンクをしてみせた。



『そう言えば気になったのじゃが……』


ディースがスルメのゲソを口に含みながら思い出したように呟いた。その場の視線が一斉にディースに向けられる。


『お主は子作りせんのか?』


ブフォッ!!


僕は思わず口の中の液体を吹き出した。ゲホゲホ咳き込みながら涙目でディースの方を睨むと、アニを除いた他の幽騎士マリオ共もそうだそうだ、とばかりに頷き合っている。


「いやいやいや、女同士で子作りは出来ないだろ!」

『そんなことは分かっておる。男を相手にする気はないのか、と訊いているのじゃ』


「絶対にノゥ!!!」


そこだけは決して譲れません。譲ったらたぶん心が死んでしまう。


『何故そこまで頑ななのじゃ』


「僕は普通に男として女の子が好きなので男には興味が無いのです。

知ってるだろうけど、アルナータとして生まれ変わる前の僕は男で童貞だったから。その記憶が今もあるんで、男を相手にと想像するとどうしても男同士のスネ毛絡み合うアレ(・・)を思い出しちゃって気持ち悪くなるの」


自分のその言葉で、

ガチムチマッチョで股間をもっこりさせたブーメランパンツ一丁のカールエスト様が「ウホッ、いい男」とか、

同じくガチムチマッチョで股間をもっこりさせたブーメランパンツ一丁のギルエスト様が白い歯を煌めかせた良い笑顔で「や ら な い か」とか、

周囲に薔薇の華が舞う桃色空間を想像する……うん、ものすごく気持ち悪い。


ブフーーーーーーッ!!!!!!


『お前ーー!!!』

『いやぁぁぁ目がっ目がっ!』

『(へんじがない ただのしかばねのようだ)』

『アルちゃぁぁぁんやだぁぁぁぁぁ』

『ディース、これは流石に貴殿に非があるぞ』

『うむ、正直すまんかった(土下座)』


目の前のちゃぶ台を囲む幽騎士びしょうじょたちの様子は正に阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

このままだと僕も精神汚染が進みそうなので、ユーニス達の艶姿を想像して早急に中和を図る。


ユーニスは、おっぱいでぱっつんぱっつんのミニスカ黒ハイソックスの制服姿。真っ白に輝く太ももが眩しい。

ミルフィエラお母様は、おっぱいがこぼれそうな黒いバニーガール。ぎゅうぎゅうに詰められた尻肉と網タイツが艶めかしい。

ルヴィアは、体にぴったり張り付くレーシングブルマ。汗が光る健康的な褐色肌との親和性が素晴らしい。

アニエスタは、おっぱいが強調されたファミレスの給仕服。タイトなスカートがキュートなエロスをアシスト。

ジャスティナは、ツヤツヤテカテカのハイレグぴっちりスーツ。肉体の起伏がより強調され『くっコロ』を加速させる。


みんなエロイね。いいと思います。


こんな衣装を着た皆とキャッキャウフフでラビュラビュチュッチュ出来れば最高なんだけどねぇ。

残念だが現実は甘くはない。主に技術的な面で。


『いつものことながら、お前の妄想は留まるところを知らんな』


アニが呆れ顔で笑いながら言う。

後ろではロベルスが僕の妄想についてディースとジュスティースに解説をしている。

ストラグスは再起動中のようだ。


『はぁ。アルちゃんの持つ血は結構貴重だから、幽騎士エクト・プラズ・マリオ的には後世に残していきたいんだよ』


衝撃から立ち直ったフォーオールが真面目な顔で僕に言った。


「僕も本音の部分じゃ子作りしたいよ? 好きになった人となら」


今では五人に増えた美女たちに囲まれて、そういう気持ちが全く起こらない程、僕は聖人ではない。

普通に興味があって普通に欲求がある人間なのだ。


ただ先立つモノが無いので叶わぬ夢となっているだけなのだ。


『その好きになった人ってのが女なのが問題なんだよね。いっその事幽騎士エクト・プラズ・マリオが操って男と……』

「やるんだったら僕の魂を殺してからやってね」


『おい、お前!』


僕は真っ直ぐにフォーオールを見つめる。フォーオールは少し冷めた目つきで僕の視線を受け止めている。

アニが何かを言ったようだがよくは聞こえなかった。


『アルちゃん本気? 本当にやっちゃうよ?』

「童貞のまま男に掘られるくらいなら、ね。一度は死んだ身だから二度三度くらいは問題ない」


周囲の緊張が伝わってくる。


『自分がいなくなった後の女の子の事とかどうでもいいの?』

「どうでも良いわけはないけど、どうにもならないから諦めるしかないよね」


『本当に男とは嫌?』

「本当に男とはイヤ」


僕の返答を聞いたフォーオールは視線を外し、ふぅ、とため息をつくと大げさに肩をすくめた。


『強情だねぇ、アルちゃんは』


「こればかりは譲れないからねぇ」


周囲からも、安堵した空気が流れる。

ポリポリと何かを食べる音が聞こえ、缶ビールが開けられる音が響く。


「あー、魔法の細胞みたいなのがあって、同性の間でも子供が出来るとかあったら間違いなく飛びつくんだけどなー」


『え』


幽騎士マリオたちが一斉に僕を凝視する。みな一様に目を見開き一種異様な雰囲気が漂う。

思わず僕もたじろぐ。


「な、なに? そんなに変な事いった??」

『あ、いや』


アニがかぶりを振って否定する。


『んも~アルちゃん、そうまでしてあの娘たちと子作りしたいの?』


フォーオールが笑いながら僕の背中をバシバシ叩いてくる。

いたい、いたいから。


『それじゃ、そろそろおいとましようか。アルちゃん、さっきはごめんね? こっちとしてもするつもりはないからさ』


『騒がせて悪かったの。またこれからよろしくな』

『ジャスティナの事は任せた。アルナータ殿なら大丈夫だろう』


フォーオールに続き、ディース、ジュスティースが去っていく。


『しばらくは侯爵見るたびに意識が飛びそうだ……』

『ミルフィエラちゃんも難儀よねぇ。あ、アルナータちゃん、またね』


ストラグスが青い顔をしながら、ロベルスはこちらに手を振りながら去る。


『それでは私も去るとするか。久しぶりで楽しかった。これからまたよろしくな』


「うん、お疲れさま。アニ」


そうしてアニを見送った僕は、先程のやり取りを反芻はんすうする。

子作り、したいねぇ。それも男と女の関係で、僕が男の側で。


すっ、とおなかに手を当てじっと見つめる。今の身体は女だから僕も一応は子供が生める。

好きな人との子供……生んで育ててみたい、な。

浮かんでくるのは、ユーニス、ルヴィア、ミルフィエラお母様、アニエスタ、ジャスティナ。


いやいやいや、待った待った待った!

出来る出来ないはともかく何考えてんだ自分! 最近ちょっと女の子みたいになってるぞ!


僕はブルブルと頭を振り、これ以上考えないように意識を落とし、眠りについた。

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