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34.王杯十五侯武闘大会決勝

● 王杯十五侯武闘大会決勝(とある観客視点) ●


今日はいい天気だ。最高の観戦日和だ。


オレは目の前のデカい闘技場を見上げた。

ここで行なわれるイベントを宣伝している様々な垂れ幕が目に映る


これを目にするのも今日で最後か。


王都の中心部から東にやや外れた所にある闘技場。王杯十五侯武闘大会が行なわれている場所。

一か月続いた『奉天感謝祭』もあと数日。今日はこの闘技場が最大の熱気をはらむ。


闘技場の入り口に近づくにつれ、多くの露店と生きのいい掛け声が聞こえてくる。

オレは握った賭け札を見て思わずほくそ笑んだ。


ククク、もしかしたら当たっちまうかもしれねぇなぁ。

声が漏れそうになるのを口で抑えながら、オレは目当ての場所へ急いだ。


決勝戦という事もあってかなり早めに出てきたのだが、思っていたほど人は来てはいないようだった。

席を選ぶ余裕があるくらいだ。


……早く来すぎたか。

まあ、いいさ。ゆっくり待つとしようじゃないか。初戦から準決勝までの試合を振り返りながら、さ。

オレはこの大会の組み合わせが書かれたメモを懐から取り出し、その時々に書き込んだ自分の走り書きを読み返す。


飛び入り参加の男がまさか決勝まで行くとはねぇ。

今日はどんな試合を見せてくれるのだろうか、自分でも心が躍るのが分かる。


「あの、すみません。お隣空いてますでしょうか?」


不意に女性の声で話しかけられた。オレはメモに目を落としたまま答える。


「え? あぁ、空いてるよ」


「ありがとうございます。ゲミナ、さぁ座りましょ」


「失礼します」


ふっ、と上品な香水の匂いが鼻をくすぐる。オレは思わず隣を凝視した。


初老の女性と共に座った良い匂いの主は、間近じゃ拝んだ事が無いすこぶる付きの美人だった。



 ◆◆◆◆◆



● 王杯十五侯武闘大会決勝(アルナータ視点) ●


とうとうここまで来てしまった。


僕は一人、決勝の舞台へ向かう為の選手用通路を歩いている。


ここに来るまでにいろいろあったなぁ……。


黒髪ロリ巨乳のアニエスタ(成人済)が新しくメイドに入るわ、

僕の妄想深度で体臭の誘因濃度が上がるようになるわ、

金髪女騎士のジャスティナ(おもらし癖あり)が新しくメイドに入るわ、

直後、最大五人を相手に大乱闘するハメになるわ……よく生きてたな自分。


……


場外での女性陣とのやり取りの方が濃すぎて、大会の内容をまったく覚えてないや。てへぺろ☆


まぁ、覚えてないのは仕方がない。気持ちを切り替えて決勝戦に集中しよう。


僕は光の中を進み、そして歓声に包まれた。



 ◆◆◆◆◆



闘技場の中央に僕は立った。


目の前には赤い鎧をまとった大男。僕よりも頭一つ分くらい大きいかな。

右手には幅広で身の厚い両手剣を持っている。競技用に刃のある部分を何か板状のもので覆ってはいるが、切れる切れない以前にあんなのにぶっ叩かれた日には一発でミンチになりそうだ。


雰囲気的にはあれだ、三国志でお馴染みの「呂布」を思い起こさせる。触覚みたいな冠付けたらそれっぽくなりそう。

ついでに、前世でよく遊んだゲームのキャラ固有戦闘BGMを思い出してみる。

結構覚えているもんだね。懐かしの音楽が頭の中を駆け巡り始めた。


大男は口を真一文字に結び、眼光鋭く僕を見据えている。

審判役の人がルールの説明をしようとするが、彼はそれを手で制した。


「アルナータ殿」


「何でしょうか、カールエスト様」


そう、決勝戦で戦うのはカールエスト・チェスタロッド。

チェスタロッド侯爵家次期当主候補にして、僕の腹違いの弟だ。


まぁ、僕の方は付き合いが浅い関係で弟とは思ってはいないのだけれど、向こうもどうやら僕を姉とは思ってはいないようだ。自分が『姉』ってのもいまいちしっくりこないけどね。


それにカールエスト様が僕の正体を知っているのは別に不思議なことではない。

王都での滞在先が同じチェスタロッド邸であるし、おそらくはギルエスト様あたりから説明を受けている可能性がある。


奇しくも今回は、同じチェスタロッドの人間による決勝戦なのだ。

ただ僕はまだその正体を隠したままだから、ほとんどの人はそんな事とは露ほども知らない。いやーざんねんダナー。


チェスタロッド姉弟、がちんこ勝負! ゼッタイ盛り上がるよねー。ぷぷぷ。


「何がおかしい?」

「え?」


「今、その仮面の下で笑っていただろう」


やば、バレてる。カールエスト様が話してた内容も耳に入ってないし、何とか取り繕わないと!


「いえ、失礼しました。確かに笑っていました」


眉間にシワを寄せ、カールエスト様は僕を睨みつける。

その表情はホントに13歳なの? ってくらい世紀末な雰囲気を醸し出している。


「だって、そうでしょう? わたし(・・・)とカールエスト様は母は違えど同じ父を持つ姉弟なのに、あまりにも他人行儀に呼び合うのですから」


「む……」


眉がピクリと動く。少しはむこうも思うところがあったようだ。


「それに初めてカールエスト様と面と向かってお話したのが、このような場所です。運命のいたずらを笑いたくもなる、というものです」


よ~しよし。僕にしてはうまい言い訳を並べられたな。

事実、僕が目覚めてから今までの三年間、一度も話した事ないんだよね。

まぁ、僕が引き籠りっぱなしだったってのもあるんだけどさ。


カールエスト様は一旦視線を外すも、意を決したのかすぐに僕を真正面から見据えた。


「アルナータ殿」

「はい、何でしょうか」


「その不躾な仮面を取り、正々堂々私と戦え」



 ◆◆◆◆◆



● 王杯十五侯武闘大会決勝(とある観客視点) ●


アルノが仮面を取った!

瞬間、ドッと会場が沸くもすぐにザワザワとざわめきに変わる。


たぶん観客の誰もが、アルノの正体が誰であるかってのを探っているんだろう。

茶色の髪に女みたいな(・・・・)顔付き。『男』にしては線が細く、若干背が低いうえに華奢な体つきをしている。


胸を盛って女の格好させりゃ、女といっても通るだろうな。それくらいの美男子だ。


それでも見た目で捜せば国内で該当するような奴はいるとは思うが、問題はあの得物の構え方だ。

少なくともオレはあんな構えをするやつを他で見た事が無い。


「きゃーー! アルちゃーんっすてきぃーー!」

「お、奥様! お静かにっ」


急に聞こえてきた黄色い声に体が押される。

何事かと見てみると、隣に座った美人が初老の女性に宥められていた。


試合の緊張感が台無しになりそうだが、ここは我慢するしかない。美人が隣に座るなんてそうそうある事じゃないしな。

それはともかく目の前の大一番に集中しよう。


アルノは仮面を審判役に預けると、あの異様な構えを取る。

そしてピタリと木の棒が定位置に納まった途端、スッと顔から表情が消えた。


対戦相手のカールエスト・チェスタロッドも剣を両手で持ち真正面に構え、やや前のめりになってアルノを睨みつける。


静かにたたずむアルノと猛々しい気勢を発するカールエスト。静と動、何とも対照的な二人だ。


『始め!』の号令と共に審判役はさっと距離を取った。

二人の一挙手一投足を見逃すまいと会場全体が静まり返る。


『おおおあああああぁぁぁぁぁぁ!!!』


先に仕掛けたのはアルノだ。それまでの静けさとは打って変わって荒々しく叫びながらカールエストめがけ突進していく!


それに対しカールエストは剣を寝かせ横に思いっきり薙ぎ払った!


ゴガァッッッ!!!


カールエストの剣は振り抜かれたまま虚空を差し、アルノは己の得物をカールエストの左の肩当てにめり込ませていた。

カールエストの顔が苦痛に歪む。それを見て取ったかアルノは弾かれた様に後方に跳び、構えを解かないまま間合いを取る。


唖然とするしかなかった。

今の攻防、アルノが薙ぎ払われて吹っ飛ばされるか、突進を止めて距離を取るか、どちらにせよ、カールエストの方が圧倒すると思っていた。

体格の差があり、得物の有効範囲の差もある。さらに鎧を着込んでいる、とカールエストの方があらゆる面で有利なのだ。


それを真正面から突っ込んでいって、横薙ぎをかいくぐり、あまつさえ鎧の肩当てをひしゃげさせる程の打撃を叩き込む。しかも見た目はただの木の棒でだ。

信じられねぇ。何をどうやったらそうなるのか、全く分からねぇ。


オレ達は今、とんでもないモノを見せられているのかもしれない。


ダンッッ!


カールエストが地面を踏みぬくようにして態勢を立て直す。ギリギリとここまでその音が聞こえそうな程に歯を食いしばり、眉間にしわを深くしていく。

左手の動きが鈍い。さきほどの打撃が相当効いているようだ。


『りゃああああぁぁぁぁ!』


またもアルノが仕掛けた! さっきと同じ様に真っ直ぐに突っ込んでいく!


カールエストは右手一本での大上段からの振り下ろしで迎え撃つ!


アルノの軌道がそれを避けるように変化する!


バキャアッ!!


音と共にアルノの得物が四散した。アルノの動きが一瞬止まる。


『があああああああああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!』


瞬間、赤い鬼が吠えた。


鬼の渾身の一撃がアルノを直撃し、馬が人をねた様な速度で弾き飛ばす。

アルノは二回、三回と地面を跳ね、そして、ゴロリと横たわる。


鬼は肩で荒々しく息をして、動かないアルノをただ睨み続けている。


闘技場は水を打ったように静まり返っていた。

息を呑む音すら聞こえてきそうだ。


オレもいま行われた一瞬の出来事が理解できず、まばたきすら忘れてただ見ている。


審判役が急いでアルノの方へ駆け寄っていき、すぐさま(かが)んで状態を確認する。


まさか……死んだ?


「い、いや……アルちゃ……」

「奥様……」


隣の女性二人の呟きが漏れ聞こえてくる。


オオォ


どこからかどよめきが上がった。


アルノが、審判役に支えられながらよろよろと立ち上がった。


「よ、よかっ……たぁ……」


隣からは涙声で美人が呟いている。

ああ、良かったな。本当に。


あれだけ派手に吹っ飛ばされたのに、アルノには目立った外傷がないどころか、支えられながらだがちゃんと歩いている。

あの鬼……いや、カールエストのあの一撃はそんな生易しいモノではなかったはずなのに。


アルノは審判役と共に何とか闘技場の中央まで辿り着いた。

カールエストはさっきまでの鬼のような形相から一転して、呆けたような安堵したようなすっかり険しさが取れた顔をしている。


『……勝者、カールエスト・チェスタロッド!!』


ワアアアアアアアアアアアアァァァァ


審判役が高々と右手を上げ勝利者を宣言する。

それと共に割れんばかりの歓声が闘技場を覆いつくした。


闘技場中央では、アルノとカールエストが握手を交わしていた。カールエストはいまだ戸惑いを隠せずに。アルノは笑みを浮かべながらで。


ふぅ、負けちまった、か。


結果はオレにとっちゃ残念だったが、そんな事はどうでもよくなる位すげぇ試合だった。

アルノの二撃目、カールエストの縦の攻撃を横に避けて繰り出した右への攻撃、

がカールエストのあの分厚い剣に阻まれて砕けなければ、もしかしたら勝ちの目も……いや、ないな。


木の棒という得物を最後まで使い続けたアルノが招いた結果だ。そこが唯一納得いかない部分だな。


オレは手の中でぐしゃぐしゃになった賭け札を見る。試合中思わず握りつぶしていたようだ。


『決勝戦/「カールエスト・チェスタロッド」対「飛び入り参加者」/勝利者:「飛び入り参加者」』


ハハハ。一攫千金、届かなかったなぁ。


だが不思議と悔しくない。ふぅ、と息を吐き空を見上げる。

雲一つない澄み渡った綺麗な青空がどこまでも続いていた。空を見上げて綺麗と思ったのは何時ぶりだろうか。


いつの間にか隣の美人たちもいなくなっていた。

ま、そんなことはどうでも良いか。今しばらくはこの余韻に浸っていよう。


これで武闘大会も落着だ。




一か月続いた祭りも、もう終わる。


だいぶ遅くなってすみませんでした。

結果は最初から決めていたのですが、戦闘描写や途中の繋ぎ方で四苦八苦していました。

お読み下さりありがとうございます。

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