29.大会二日目が終わりて
今回は、前半部分三人称、後半部分主人公視点となっています。
● 闘技場内のとある一室 ●
王杯十五侯武闘大会の二日目が終わり、翌々日の準決勝に進む4名の選手が決まった。
続々と観客が闘技場よりを引き上げ、観戦をしていた国王をはじめとする王族、貴族も去り、閑散とする闘技場内のとある一室に男達はいた。
いや、「男」と呼ぶにはまだ幼さが抜けていない者が大半だ。貴族の子弟達が一つの丸テーブルを囲んでいる。
「中々上手く行かないね」
一人の少年が紙をつまみ上げ、ひらひらと揺らす。紙には準決勝の組み合わせが書かれていた。
「我々親衛隊の力を披露する良い機会だと思っていたのだがな。蓋を開けてみればこのざまか」
他の者達とは雰囲気が異なり、いくらか年上とみられる青年が眉間にしわを寄せて呟く。
その言葉に体を跳ね上げ、別の少年があわてた様子で立ち上がる。
「す、すまねぇ! まさか飛び入り参加してくる奴がいるとは思わなかったもんだから、俺!」
「ルベスタ……。だから油断をするな、と試合前あれ程言っておいたのだ。過ぎた事だからもう言わぬが」
ふぅ、と大きく息を吐き青年は沈黙する。その様子にルベスタと呼ばれた少年も体を縮こませ、申し訳なさそうに再び座る。
「しかし、飛び入りの男はムカつくな。大して苦労もせず準決勝だし」
テーブルを囲む少年の誰かが不満を口にする。それを皮切りに少年たちの愚痴がこぼれ始める。
「ディースの『黒巫女』なんか自分から参加しておいて2回戦でいきなり棄権だぜ? 飛び入りに勝ちを与えるくらいだったら最初から参加するなよなぁ」
「『白銀剣』のババァ上から目線でウザいったらありゃしない。取り巻きの奴らよくつるんでいられるな」
「だからあいつら大した事ねぇんだよ。女の尻ばっか追い掛け回してるから」
おおよそ貴族の言葉とは思えぬ口汚い罵りが次々と吐き出される。
その様子に男は眉間のしわをさらに深くし、溜息交じりに呟いた。
「こんな事になるなら、もっと強引にディースとジュスティースの枠を奪うべきだったな」
「両侯爵とも話題性を取りたかったんでしょ。1回出たなら次は遠慮して欲しかったよね」
少年がつまみ上げていた紙をテーブルに置き、凝り固まった体をほぐす様に伸びをして答える
「飛び入りの男はどうする? もし万が一決勝まで進むことになったら前代未聞だぞ」
「ジュスティースの『白銀剣』ならあの程度どうという事はないだろ、流石に」
「飛び入りと『白銀剣』どちらが来ても変わりはないさ。決勝では負けが決まっているからな」
「確かに」
笑い声を交えながら、少年たちの話題は別のものに移り変わっていく。
そんなテーブルを囲んで談笑をしている少年たちとは若干離れた場所に、壁にもたれて思案している青年とその横に侍り青年を見守る男がいた。
青年は赤を基調とした鎧を身にまとい、男は青を基調とした鎧をまとっていて、明らかに他の少年たちとは雰囲気が違っていた。
「……バベル」
「なんでしょうか」
赤い鎧の青年が青い鎧の男を名前で呼ぶ。
「次の準決勝、本気で戦ってくれないか」
「自分としましては及ばずともそのつもりでございますが」
バベルと呼ばれた男は、青年に向かって慇懃に答える。
「『青巨人』の弟子の力をこの目で見たい」
「……その意味の本気、ですか」
「ああ。今のままでは足りない」
青年は何かを睨むように視線を落とし、呟く。
「足りない、って貴方なら『白銀剣』相手でも互角以上に渡り合えると思いますが」
「…………」
バベルの言葉に青年は鋭い視線をぶつける。
そこに具体的に何が含まれているかバベルには分からなかったが、バベルの言葉を否定する強烈な何かが含まれているのははっきりと感じ取れた。
観念したバベルは一つ息を吐き、青年の提案を受け入れる。
「わかりました。それでは本番の前に、明日の休みにでも一回仕合ってみますか? 感触を確かめる為にも」
「いや、それは止めてくれ。試合での緊張感がなくなる」
「そんなこと言ってもし負けたらどうなさるのですか」
「負けるつもりはない。が、お前に負けるのなら、私はまだその程度の人間だという事だ」
「言ってくれますね」
少なからず己の力に自負のあるバベルは、青年のその言葉に侮られたと感じ心をざわつかせる。
『青巨人』の弟子、とはただの飾り言葉ではないのだ。
「その憤りは、試合でぶつけてくれれば良い。世間知らずの子供を叩き潰すつもりで」
青年はバベルのその雰囲気を何事もない様に受け流す。少し自嘲気味に。
バベルは、青年の見せた寂しげな笑みに瞬時に毒気を抜かれてしまった。
「……貴方、本当にそこのルベスタと同じ13歳なんですか? 達観し過ぎですよ」
「…………」
「はは、失礼致しました。それでは準決勝の試合にて、存分に振るって御覧に入れましょう」
「よろしく頼む」
「ご期待に添えるよう全力を尽くします……」
バベルは恭しく礼をして、敬愛する目の前の青年の名を呼ぶ。
「カールエスト様」
◆◆◆◆◆
● 大会二日目が終わって翌日(アルナータ視点) ●
窓から明るい日差しが差し込む。
僕は寝ぼけ眼をこすりベッドから上半身を起こした。
「っふぁあ~~~」
あくびが漏れる。大きく伸びをし一息ついて周りを見渡す。
「「「おはようございます、お嬢様」」」
ユーニス達、僕付きメイドが朝の挨拶をする。
あれ?
並んでいるメイド達を寝起きではっきりしない顔で見る。
大、中、小。三人いる。ん?
銀、茶、黒。三人いる。んん??
巨、爆、巨。三人いる。
…………うん、目が覚めた。
「おはようございます」
とりあえず挨拶を返してベッドから出る。
「アニエスタ。ここにいる理由を聞かせてもらえるかな?」
◆◆◆◆◆
朝食を運んできてもらい、みんなが座れるようテーブルと椅子を並べてもらう。
その間に僕は着替えを済ませる。
今日は武闘大会の3日目にあたるのだが、選手の疲労を取る為なのか準決勝は1日休みを挟んで開催4日目の明日開かれる。
せっかくの休みなので王都を見て回ろうかと考えたのだが、例の女騎士と鉢合わせするかもしれない可能性を考えると、外出は控えるべきだという結論に達した。
テーブルをはさんで僕の向かいには左から大……いやいや、
左からルヴィア、ユーニス、アニエスタの順で座っている。
そして僕の隣にはミルフィエラお母様がいて、椅子を並べ恋人のように腕を組んで座っている。
過剰に押し付けられているおっぱいの感触が僕の腕に幸せを運んでくる。
三人に話を聞こうと朝食を含めた準備をしていたらお母様が一人で部屋にやって来たのだ。
「あの、お母様? 話がしづらいので少し離れて頂けませんか?」
「私のことは気にしないでアルナータ。これは罰なのだから」
「ばつ?」
お母様に罰せられるような事をした覚えはないんだけどな。
僕の怪訝そうな表情を見て取ったのだろう、お母様が言葉を続ける。
「私をのけ者にしてアルナータを食べちゃったこの三人への罰なの」
「あ~」
お母様の言葉を受けて目の前の三人が一様に顔を真っ赤に染めて縮こまる。
食い物の恨みは恐ろしい……、
って違うわっ!!! と一人心の中でツッコミをする。
お母様の言っているのはおそらく初日のお持ち帰り案件だな。
あれは僕の妄想の爆発による貰い事故のようなものだが、僕も彼女達からそれなりに(性的な)被害を被っているので、まぁお母様の好きにさせておこう。
「それじゃあアニエスタ。ふざけた絵面で話しづらいだろうけど答えてね。どうしてここにいるのかを」
「はい」
僕は片腕にお母様を引っ付けたまま、アニエスタに理由を話すよう促した。
お母様の感触に浸って、僕自身が話を脱線させないよう気を付けなければならない。
深呼吸をし、おへその辺りに力を込めて、理性を総動員する。
「昨日、ディース侯爵様の元へ説明と許可を求めに向かいましたところ、侯爵様より二通の手紙を渡されました」
「手紙を?」
「チェスタロッド侯爵様宛の紹介状と請願書でした。紹介状はディース侯爵様から、請願書は私の親であるコーデア子爵からでした」
ディース侯爵はアニエスタがこうなる事を予見していたようで、アニエスタが大会出場の意思を伝えたあと、どうも水面下でコーデア子爵を説得していたらしい。
そうして得た請願書と自身の紹介状を渡し、ディース侯爵は困惑するアニエスタに同行して、ギルエスト様の帰宅を見計らって突撃訪問を敢行したようだ。
聞いているだけでもそのディース侯爵って人、凄い行動力だな。
昨日、ちょうど僕がお風呂で疲れを癒してた時にチェスタロッド邸を訪問してギルエスト様と面接、二つ返事で即採用となった。
その後、ミルフィエラお母様とユーニスの下で屋敷内の規則やら作法などを確認していたとの事だ。
どおりで、昨日のお風呂の時はルヴィアのみでユーニスがいなかったのか。
アニエスタは元々ディース侯爵家に使用人として奉公していたので、うちの使用人達との関係も特にゴタゴタする事無くすんなりまとまったらしい。
僕付きのメイドとして来たってのも大きいようだ。
昨日のうちに僕に顔合わせに来なかったのは、身体に合うこの家のメイド服が無かったので、突貫工事で自分に合うよう服の詰め直しをしていたからだという。
お母様とユーニスも手伝ったとは言うけれど、凄い事をするよね。
「どうしてもチェスタロッドのメイド服を着て、アルナータ様にお会いしたかったのです」
「アニエスタの、体型を把握できるという特技が存分に振るわれた結果、一晩という短時間で完成しました」
「前のお屋敷でも随分と針糸を手繰ってたみたいで、目を見張る程の運針の速さだったわね」
アニエスタのメイド服姿はあつらえた様にぴったりと合っていたけれど、比喩じゃなく本当に自分であつらえてたんだな。
ユーニスとお母様からもかなり高い評価を得ている。
僕としてもしっかりと体に合ったメイド服に包まれた良いおっぱいを見られて大満足だ。
不意に、ピンッと頭上に電球が灯ったような閃きが浮かぶ。
そこ、古典的とか言わない。
とてもいいことを思いついた。アニエスタの参入は、僕の野望の大いなる福音になるかもしれない。
抑えようと思うが明るい希望の未来が垣間見えて、自然と笑みが浮かんでしまう。
「あ、妹くん悪い顔してる」
「こういう悪いアルナータも素敵ねぇ。体が熱くなっちゃう」
「ミルフィエラ様、こういう時は親としてたしなめて下さい」
「実の母親すら篭絡させるアルナータ様……素敵すぎです」
夢、ひろがる。
評価、ブックマークありがとうございます。
じわじわとですが、増えていくのはとても有り難いです。
今回のお話は、今後の展開の為に三人称で書かれた部分があります。ご了承下さい。




