2.異物の目覚め ②
『それではこれからのお前はアルナータ・チェスタロッド
……チェスタロッド侯爵令嬢として、生活してもらう。
ただ、当初の予定とはだいぶ違った目覚めとなっている為、当のチェスタロッド家でも意見の相違が出ているようだ。しばらくは周囲が騒がしいが我慢してほしい』
「うっす」
『……それから、いま目覚めたばかりで何も知らないお前には、今から私がこの国の知識や常識を頭に叩き込ませる。
必要最低限のものは覚えてもらわねば、早々に立ち行かなくなるだろうからな』
僕は、言われてようやく気が付いた。
ここまで普通に言葉を交わせていたから頭からすっぽり抜け落ちていたんだ。僕が生きていく新しい世界の事、何も知らないんだなと。
言葉は通じるのか、文字は読めるのか、どんな食べ物があるのか、生活様式はどんな感じで、おっぱい大きなお姉ちゃんはたくさんいるのか……等々。
「先生、よろしくお願いします」
『だから先生ではないというのに』
目の前の美少女は呆れ顔でそう呟いた。先生が駄目ならどう呼べばいいのだろうか?
『身体的特徴を揶揄するようなものでない限り、好きに呼べばいいだろう』
まぁ、当たり前だよね。あ……ちょっと前世の嫌な記憶が心を抉ってきた。ハゲマサナイデオネガイ。
…………
気を取り直そう。僕は何となく頭に浮かんだ単語から美少女の呼称を連想する。
「では、アニさんと呼ばせてもらっていいでしょうか?」
『?』
「魂や命を意味するアニマって単語をそのままじゃ直球すぎるので、アニ。それにさん付けでアニさん。いかがでしょう?」
小首を傾げた美少女に僕は、続けてそう呼ぶ理由を話す。
『ふむ、まぁ区別がつくならそれでいい』
「ありがとうございます。あらためてアニさん、よろしくお願いします」
僕は軽くお辞儀をし、アニさんの指導を待つ。全裸で正座待機(あくまで気持ちの上での話)は紳士の覚悟を表すのだ。
『今のお前は紳士ではなく淑女だろうに……』
「は?」
アニさんは何を言っているんだろうか?
『私は、侯爵令嬢として生活してもらう、と言ったんだ。今のお前は女だ、だから紳士ではなく淑女だろうに』
は? いや、ちょっと待って。
「コウシャクレイジョウ、ってそういう意味だったんですか?」
『他にどんな意味がある』
僕は生まれ変わりもそのまま男のつもりでいたから、そのあたりの細かい言葉を右から左へ聞き流してしまっていた。
それに、死んでたり生まれ変わってたり15年経ってたり貴族の子供だったり守護霊と普通に話してたり、と情報の処理が追い付きませんですよ、ハイ。
いや、有難いですよ? 1回くらいは女になってみたいと思ってたりしましたし?
貴族の女の子になるとか、それなんてご褒美ですか? 自称モブの僕が貰って良い
ものじゃないと思うんですが?あ、でも貴族社会って足の引っ張り合いでドロドロ
してるとか聞くし、それほど良い立場でもないのかも?あー、でもでも女の子に生
まれ変わったってのは嬉しい。どんな感じの女の子だろう?美少女だといいなぁ~
んで、おっぱい大きいは大正義。
だがしかし、前世での自分の容姿を思い出してみると期待出来なさそうなんだよね。
『容姿が気になるか?』
「それはもちろん!」
『お前の前にいる私がわかるか?』
そう訊かれて僕は今一度、目の前のアニさんを眺める
ストレートな金髪を腰の辺りまで伸ばし、端正な顔立ちに切れ長の目、琥珀色の瞳、
きれいな白い肌だけど、しっかりとした筋肉がついてると判るような腕。
そして貧乳。
『今、お前に見えている私の姿、それがお前の今の姿だ』
は?
え?
念の為もう一度目の前のアニさんを凝視する。
金髪の貧乳。
……
僕美少女確定ですか!しかも金髪なんですか!
やったーー!
でも貧乳じゃないですか!
やだーー!
『ああ、今後胸の事であれこれ喚かぬ様、一度しっかりと教え込むべきだな』
有無を言わさず全裸で正座をさせられ(たような重圧を感じ)僕はアニさんからの言葉の嵐をその身に受け続けた。
アニさんによって懇々と語られる貧乳の実用的な素晴らしさ。尊さ。
正に神が創りたもうた芸術。
真に極めた貧乳はそれが一種のステータスであり、希少価値となるのだ。
僕はこの瞬間、巨乳も貧乳も同様に愛でることが出来るハイブリッドとなったのだ。一般的な大きさの乳は言わずもがな、である。
みんな違ってみんないい。
でもお近づきになるなら巨乳一択だけどな!
僕は思わず天に輝く星を仰ぎ見るようにアニさんを敬意をもって見つめた。
『これからの事に途轍もない不安を感じて仕方が無いのだが、本当に大丈夫か?』
だいじょうぶだ、もんだいない。
最後の無意味な空白部分を削除しました。ご了承下さい。