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28.王杯十五侯武闘大会二日目(とある観客視点)

投稿後、一部重複表現がありましたので修正しました(2019/01/04追記)

飛び入り参加の男が貴族に勝って2回戦へ進んだ。

その話が初日に爆発的に広まり、二日目の観客の入りは立ち見が出る程の盛況になった。


うむ、話題の凄さを見越して早めに入って正解だったな。


オレは昨日と大体同じ辺りに自分の席を確保し、悠々と闘技場を眺めていた。


前日8組の試合がすべて消化され、勝った8名が今日第2回戦に臨む。

もっと参加人数が多ければ準々決勝って呼ぶんだが、ね。


トーナメント表のメモを見て、今日の顔ぶれを確認する。

武門の5家は昨日飛び入りの男に負けたストラグス以外は全員残っている。


まぁ、順当だな。


今日の試合の組み合わせも、次の準決勝でちょうど武門だけが残るようになっている。

毎回同じ選手が上位を独占するなら問題があるが、大会の開催間隔と年齢制限の関係でそういうのはまず起こりにくい。

武門から特段強い選手が出る為上位は武門の家名ばかりにはなるが、見応えのある試合になるからあまり気にはしてない。


最初の試合は、飛び入りの男とディースの『黒巫女』か。


昨日の試合で飛び入りが対戦したストラグスの御曹司は、その体格の良さを頼みに力任せに武器を振るうタイプらしい(詳しい奴からのまた聞きだ)が、

今回対戦するディースの『黒巫女』は、細身の剣を片手で巧みに扱い、相手の攻撃を避けながらチクチクとダメージを与えていく戦い方をする。

俗に言う「蝶のように舞い蜂のように刺す」というやつだ。


ディースの『黒巫女』は前回大会で大会最年少記録の12歳で出場し、準決勝でジュスティースの『白銀剣』に惜しくも敗れている。

今回はその雪辱の為なのかもしれない。


しかし、飛び入りも大変だよなぁ。

武門に勝てたと思ったらまた武門、対戦相手が決勝までずっと武門の強えぇ奴らなんだから。


昨日の試合はよそ見をして決定的瞬間を見逃しちまったからな。今回は一瞬たりとも目を離さねえぞ。



『……それでは第二回戦、本日の第一試合を行ないます……』


わずかにざわついていた観客席がぴたりと静まり返る。


『飛び入り参加で勝利を収めた……アルノ!』


皆の視線が入場口へ集まる。名を呼ばれた飛び入りの男が間を置かず入ってきた。


あいつ、アルノって言うのか。

オレはその名前をトーナメントのメモに書かれた「飛び入り」の部分を消して、横に新たに書き加える。


闘技場に目を向けると、飛び入り……アルノは心なしか首をもたげ、少し疲れたような足取りで歩を進めている。

昨日は何ともなかったはずだよな? トーナメントを確認して、武門が立て続けに控えているのを見て気が重くなったのかね。


『ディース侯爵家選出……アニエスタ・コーデア!』


続けてディースの『黒巫女』の名が呼ばれた。

観客の視線がもう片方の入場口に注がれる。


……


が、いつまでたっても『黒巫女』が出てこない。観客がざわめきだす。


そのうち場外から誰かが走り寄ってきて、審判役に一言二言耳打ちをし何か紙切れを渡して去っていった。

審判役は渡された紙きれに一通り目を通すと懐にしまい、一つ息を吐く。


『静粛に!』


審判役が声を張り上げ、場が静まる。


『只今、ディース侯爵より通達があり、アニエスタ選手は本日体調の不良を訴え試合の棄権を申請し、ディース侯爵はそれを受理。

よってこの第一試合は、アルノ選手の不戦勝とする!』


ドオオッ


闘技場全体がどよめく。


気合入れて来たってのに試合が観れないんじゃ、そら騒ぎたくもなるわなぁ。

オレだって騒ぎたいわ!


ふと貴賓席に目を向けると、会場の騒がしさとは切り離された様に動きが少ない。

その温度差が気にはなったが、まぁ気にしたところで何かが変わる訳でもなし、

ここは幸運なのか不運なのか分からないが、とりあえずは飛び入りの……おっと、アルノの準決勝進出を祝福しておこう。


当のアルノは審判役から何か説明を受けたらしく、頷いた後また入場口へと引き返していく。

入ってきた時と同様、疲れたような足取りで。


ま、うだうだ言ってても仕方がないし、次の試合に期待しよう。

次はジュスティースの『白銀剣』が出る試合だ。彼女は年齢制限の関係で今大会が最後の出場となる。

公の場で戦う姿が観れるのは今回が最後だ。しっかり観ておかないとな。



そういやまだ騒いでるやつらがいるな?

耳を傾けると、叫びの内容からして昨日と同じ様にディースに賭けていたであろう者達の断末魔だった。



 ◆◆◆◆◆



● 王杯十五侯武闘大会二日目(アルナータ視点) ●


現在正体を隠して偽名「アルノ」で出場している僕とアニエスタ・コーデアの試合は、アニエスタの棄権により僕の不戦勝となった。


アニエスタが棄権をした理由は、本人曰く「アルナータ様に会えたから」だという。

淡い期待を抱いて出場したら出会うことが出来たばかりでなく、

さらにその先の夢だった事(ちょっと僕の口からは言えない)まで叶ってしまった為に感無量に至り、大会の事などどうでもよくなったらしい。

いいのかそれで。


そうして、当の試合に二人して欠場するのは要らぬ誤解を受けかねないので、僕だけが出場し今に至る。


前日の疲れが未だ抜けず、とぼとぼと足取りが重い中、

僕は今朝の事を思い出していた。


昨日ユーニスとルヴィアによって、アニエスタをくっつけたまま光の速さでお持ち帰りをされてしまった僕だが、

お持ち帰り先は王都のチェスタロッド邸ではなく、闘技場近くにいくつかある観光客用の宿だった。

理由は……止めておこう。余計な詮索をして「藪をつついて蛇を出す」事になりかねない。


そうして、その宿で久々に黄色い朝日を拝んだ僕は、満足気な寝顔の美女美女アンド美少女を問答無用で叩き起こし、あわてて準備を整えて宿を出たのだった。


ゆうべはおたのしみでしたねー。

ちくしょう三人して貪り食いやがって。


髪は茶色に染めたままで痛みが心配だし、体はタオルで拭いただけで臭いが不安だから、香水なんていつもは使わないのに目一杯振りかけたし、香水の匂いが強いおかげで鼻が痛いし、

あーもーこれって僕のせいなの?? ユーニス達の我慢が足りないだけじゃないの??

一度、みんなと額を突き合わせて話し合う必要があるな。


アニエスタとは宿を出る時に一旦別れた。

自分を大会に選出したディース侯爵に面会し、試合を棄権する事含めその他もろもろの報告と許可を求めに行くんだそうだ。


一緒に付いて行って説明しようか? と提案したものの、大丈夫です、と明るい笑顔で返された。

ディース侯爵はちゃんと理由を話せばわかってくれるとの事だ。


何でも、最初不参加のつもりだったアニエスタを今大会に出るよう促したのがその侯爵様で、

その時の文句が「アルナータと会えるかもしれないよ(意訳)」なんだそうだ。


あ~、もしかしてあれか。

幽騎士マリオ経由でディース侯爵も僕が正体隠して参加する事を知っていたのだろうな。

アニエスタの想いを叶えさせる為に4年に一度のこの大会を利用するとか、豪気というか何というか……。


カチャッカチャッカチャッ……


金属音を響かせた複数の足音が聞こえて、ふと前を見やると、

昨日も見たあの女騎士と取り巻き達がこちらに向かって歩いていた。


次の試合に出る為だろう。僕が来た道は闘技場の入場口へ続いている。


先頭を歩く女騎士の顔は引き締まり、気合がみなぎっている。

取り巻き達はそんな女騎士を頼もしそうに自慢げに見つめながら後ろを付いて歩いている。


このままではぶつかる。と判断した僕は、女騎士側に道を譲るべく壁を背にして直立した。

目を閉じてやり過ごす。


カチャッカチャッカチャッ……


早いとこ控室に戻って今日こそまっすぐにチェスタロッド邸へ戻ろう。

髪染めを落としてすっきりしたいし香水の匂いがキツいから洗い流したいし何より体がベタついて気持ち悪いからお風呂に入りたい。

あ~、この人達早く行ってくれないかな……。


カチャッカチャッ……ガチャッ


足音が止まった。

止まるのか。うわ~、嫌だなぁ。次にくる言葉は「貴女」かな?


「貴様」


女騎士の声だが僕が今まで聞いた声よりも低く、重く聞こえた。

仮面の下で閉じていた目を開き、女騎士に顔を向ける。


「貴様が飛び入りでストラグスの悪童を倒したか」


意外な言葉が出てきた。

大図書館での事や、昨日の廊下での事。推測するにこの女騎士もアニエスタの様に何らかの特技で僕に気づくと思っていたから、この状況でこの言葉は逆に僕を困惑させた。


いや、後ろにいる取り巻き達に僕の正体がバレると女騎士以上に面倒な事になりそうだから、ここでバレなかったのはありがたい事なのだけれど。


この間0.02秒。

僕は女騎士の言葉に恭しく礼をし、彼女の言葉を態度で肯定する。

声なんか出した日には速攻で女騎士にバレるからな。


「ディースの『黒巫女』の棄権で運良く勝ちを拾えたようだが、貴族の、いや騎士の力を侮るな」


仇を睨むような眼光を僕に飛ばしてくる女騎士。剣呑な雰囲気が漂い、犬のような狼のような唸りさえ聞こえてきそうだ。


男と女でこうも態度が変わるものなのか。正体をバラしたら一体どういう反応をしてくれるのかイタズラ心が湧き上がってくる。

いや、流石に実行はしないけどね? せっかく回避できたのだからワザワザ地雷を踏みに行く事も無いしね。


「明日は覚悟しておけ。われが騎士の力を存分に叩き込んでやろう。その時にその、人を小馬鹿にした仮面を剥いでくれる」


今日の自分の試合がまだなのに、女騎士はすでに明日の僕との試合に勝つ前提で宣告をする。

よほど己の力に自信があるのだろうな。

僕もそれくらい自分に自信が持てたらなぁ。色々と変わったんだろうけどなぁ。


僕は再び恭しく礼をする。


「フン」


僕の態度が気に入らなかったのだろう、軽く鼻を鳴らし僕から目線を外す。

やれやれ、これでようやく解放される。

女騎士の今回の態度には色々と思うところがあるが、今は安堵の方が遥かに勝っていた。


はやくおうちにかえりたい。


「貴様」


そんな僕に、釘を刺すように女騎士の声がぶつけられる。


「香水の匂いが強過ぎる。周りの迷惑を考えろ」


女騎士の言葉を受けて取り巻き達は僕を嘲り笑った。プークスクスって感じに。


やっぱキツいよねーごめんなさいねー。

僕は謝罪として頭を下げて、その状態のまま女騎士たちを見送る。


カチャッカチャッカチャッ……


足音が遠ざかっていく。



まず間違いなく次の、準決勝の相手はあの女騎士になるのか。

めんどくさい。今度は僕が棄権してしまおうか。


だが今はそんな事よりも早くチェスタロッド邸に戻って変装を解きたい。お風呂に入りたい!



僕は通路を駆け、ユーニス達が待つ控室へ向かった。


評価、ブックマークありがとうございます。

感想も頂き、執筆のモチベーションも上がります。

今後ともよろしくお願いします。

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