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25.王杯十五侯武闘大会(とある観客視点)

今回のお話は主人公視点ではありません。予めご承知置き下さい。

今日もいい天気だ。この時期は晴れの日が良く続く。


目の前のデカい闘技場を見上げる。

様々な垂れ幕が目に映り、今日からここで行なわれるイベントを周囲に宣伝している。


これを目にするのも4年ぶりだな。


王都の中心部から東にやや外れた所にある闘技場。

一か月続いた『奉天感謝祭』も後一週間。残りの一週間はこの闘技場が熱気の中心となる。


その名は、王杯十五侯武闘大会。

国内の腕自慢が集う、ではなくこの国の15の侯爵家が選んだ貴族の子供を競わせる大会だ。


貴族の子供が競い合うって言うと笑えねえ見世物と思うかもしれないが、この国の

貴族は治安を守る為に小さい頃から戦闘の訓練をやってるって言われるだけあってバカに出来ない試合を見せてくれる。


特にこの大会のレベルをとんでもなく上げているのが、武門といわれる5つの侯爵家だ。

この国の四方の国境に領地を持ち、外に睨みを利かせている。


東のトウェル、西のジュスティース、北のディースに、

南がチェスタロッドとストラグスだ。

南だけ2ついるのはそんだけ重要だってことなんだろうな。


この5つの侯爵家から選ばれてくる貴族はとにかく別格だ。同じ人間とは思えねぇ強さを見せる。

それが成人したて辺りのまだまだ若い奴らなんだから本当に恐れ入る。

どんなことしてたらあんなに強くなれるんかね。


ま、取り敢えず中に入るか。


闘技場の入り口に近づくにつれ、多くの露店と生きのいい掛け声が聞こえてくる。

食い物屋や記念品売りなんかが軒を連ねる中、一番人を集めているのが賭け屋だ。


意外に思うだろうが、この大会は勝敗を予想する賭けが国が胴元となって行われている。

賭け方も色々あって、一試合ごとの勝敗を予想する軽いモノからベスト8進出、ベスト4進出の選手を予想するモノ。

単純に誰が優勝するか、ってのもあるが、

もし当たれば一攫千金が狙えるってとんでもない高い配当をつけているモノもある。


もっとも、一攫千金の奴は今まで誰も当てたことが無いらしいがな。


露店で適当に軽食を購入して、闘技場へと入る。

階段を上り、目当ての観客席を探す。


観るからにはなるべくいい席で観たいからな。足早に目的の場所へ向かう。


目的の場所辺りは試合開始にはまだ早い時間だというのに、そこそこの人だかりになっていた。

皆考えていることは同じだよなぁ。何とか自分の場所を確保し腰を下ろす。


ここは、国王や貴族が観戦する時に座る席の真正面に位置し、左右に選手の入場口を見ることが出来る。一般国民にとっちゃ特等席だ。

選手を両方入場から追えるってのもあるが、普段お目にかかれないこの国の王様、公爵様やら侯爵さん。この国のトップの面々を真正面から拝める場所だからだ。


王様や上の貴族さまやらは綺麗どころが多いからな。

試合の合間なんかに目の保養をさせてもらおう。


自分の席も確保できたし、始まるまで試合の予想でもしてようか。

大会前日に発表されたトーナメントの組み合わせをメモしたワラ半紙と筆記用の鉛筆を取り出す。


この国、紙自体は普及しているが、真っ白ないい紙は役所なんかで使われているくらいで庶民には割高だ。

オレら庶民は麦わらで作られたワラ半紙の方にお世話になっている。ちょっとガサガサしてよく破れるけどな。

けど、これのおかげで随分と生活が潤っている。


メモに書かれた選手の名前とそこから伸びた勝ち抜き戦の枝に目を落とす。


大会は8組16人の組み合わせで始まる勝ち抜き戦だ。組み合わせ自体は大会前日に発表され、闘技場にデカデカと張り出される。

ここで、さっきの賭けで一攫千金が狙える高配当の奴が出てくる。


組み合わせが張り出された大会前日のみ受け付けるやつで、

この段階で決勝戦の組み合わせとその勝利者を予想するというやつだ。当然、一度賭けると途中で降りることが出来ない。


武門の奴らはほぼ確実に上位に来るからそこから組み立てるのが基本だが、それでも難しい。5人いるからな、準決勝の時点で誰か一人は落ちている。

また、一つ不確定要素になっているのが、当日までどうなるか分からない『飛び入り参加枠』だ。


選手を出す侯爵家の数は15。1試合だけ対戦相手がいない試合が生まれる。

その枠に、貴族の戯れかどうかは知らないが当日観に来ている観客から挑戦者を募るのだ。


ただ、挑戦する相手ってのがたいてい武門の誰かになるので、はっきり言って誰も名乗りを上げない。


一攫千金の賭けはその『飛び入り参加枠』も選べる。まぁ、大会を何度か見てればあり得ない選択肢だけどな。


……


ああ、武門って言やぁ、4年前の前回大会は凄かったな。


前回の武闘大会はあらゆる意味で話題の多い大会だった。


5つの武門の侯爵家のうち4つが滅多に出ない女子の選手を出した事。うち一人が12歳という大会出場最年少記録だった事。

大会の決勝が前代未聞の女子対女子の対戦で、優勝したのが当時王族の婚約者だった侯爵令嬢だった事。

大会優勝者も成人前で14歳という最年少記録だった事。


あんなとんでもなく凄まじい大会は二度と無いかもしれない。そう思わせる大会だったな。


『……奉天教の始祖たる聖人オネスは「一人は皆の為に己が持てる力を惜しまず、

皆は一つの事を成す為共に支え合うべし」と仰いました。建国の礎となった我らの

祖族は、聖人オネスの教えとその偉大なる軌跡を後世に残さんと奉天の誓いを交わ

し、それが今日我が国の国教たる奉天教へと至るのであります……』


随分、物思いにふけってしまっていたらしい。

奉天教教主エルロファス公爵の説教が始まっていた。


この武闘大会は、奉天教が管理運営している『奉天感謝祭』の一部で貴族の子弟が試合するとあって、国王やら上の貴族やら国の要職についてるやつらも顔を揃える。

将来国を支える、とかなんとかで注目度が高いのかね。


しかしなげぇよなぁこれ。まともに聞いてる観客なんているのか。皆早く始めろって思ってんじゃねぇか?


もう一度、メモしたトーナメントの組み合わせを眺める。

前回と比べるといまいちぱっとしない顔ぶれだ。

実はこの大会、11歳から19歳までという年齢制限がある。

大会自体が4年に一度しかやらない関係で、同じ貴族が出るのはせいぜい2回だ。


その2回出るやつも武門の奴らぐらいしかいない。

他の選手は、武門の奴らの賑やかし位にしかなってないからな。それでもオレらからすれば強い連中だけどさ。


念の為に、と持ってきた前回大会のメモと合わせて眺める。


名前がかぶっているのは『白銀剣』と『黒巫女』だけだな。


前回大会に出た4人の女子は当時とにかく持て囃された。

武門ってこともあって「二つ名」が付けられたっけな。


ジュスティースの『白銀剣』

ディースの『黒巫女』

ストラグスの『銀髪鬼』

チェスタロッドの『人形姫』


優勝したチェスタロッドの『人形姫』以外は大会以降に付いた名だ。


武門で唯一女子を出さなかったトウェルにも『青巨人』なんて付いてたりするがな。



4人の女子の中でもやはり『人形姫』はその存在感が違った。


侯爵家の令嬢で王族の婚約者。その美しさは誰もが振り返り、その振る舞いは淑女の鑑と貴族からも一目置かれていたようだ。


女たちは特に熱狂したようだが、オレから言わせれば愛想が無さ過ぎて綺麗な置物にしか思えなかったな。

『人形姫』とは言い得て妙だと思ったもんさ。

もうちょっと愛想があれば、男共も群がったかもしれねぇな。


その『人形姫』もいまじゃ全く話題にも上がらない。

大会の翌年に起きた王家の事件のせいだ。


そういや、ストラグスの『銀髪鬼』も一年くらい前に家が取り潰しになったとかで行方不明だって話だが、もったいない話だよなぁ。


今回の大会はその『人形姫』を再び観れるかもしれないと思ってわずかに期待しながら来てみたが……まぁ、その点では無駄足だったようだ。


代わりに名前が挙がっているカールエストって弟かね? どうなることやら。


ワァァァァァァァ


闘技場が歓声で揺れる。

国王による開会の宣言が終わり、今日の一番最初の試合が始まるようだ。


毎回通例として、この試合は『飛び入り参加』の試合になっている。


審判役が中央に立ち、貴族の側の選手を呼ぶ。

メモによると「ルベスタ・ストラグス:13歳」と書いてある。ストラグス侯爵家の御曹司ってやつか。


右手で剣を肩に担いで意気揚々と入場してくる。

第一印象は「いけ好かないガキ」だな。年齢にしては大きい身体がそうさせているのだろう、得意げな顔をしている。


まぁ、飛び入りが出なければそのまま不戦勝で次へ進めるしな。

余裕を見せて、周りへの牽制のつもりかもしれない。


オオオオオオォォォォォ


挑戦者側から一人の「男」が入場してきた。

飛び入り参加のつもりのようで、中央へ向かって歩き続けている。

男にしちゃ少し背が低いし線が細い感じだが、来ているものはちょっと金に余裕がある中流辺りの市民が着ている様な上着にズボンだ。

あぁ、珍しくブーツを履いているな。王都の人間は基本革靴だから、王都の外の人間って事か?


どんな顔してるかと見てみれば、何だアレ? 顔が分からないよう仮面を被ってやがるのか。

茶色の髪は普通に生えているように見えるから、顔だけを隠しているのか。

意味が解らん。


ストラグスの御曹司も面食らった顔をしていたが、かぶりを振って入ってきた男を睨みつける。

相手がどうあれ、楽して次には進めなくなったからなぁ。やっぱ、まだまだガキだな。


反対に睨みつけられた男は、あぁ、仮面のせいで表情が分かんねぇや。だが微動だにせず突っ立ている。


審判が場外へ合図を出すと、飛び入り参加の男に向かっていくつかの種類の武器を持った係の人間が駆け寄る。


この大会は、大会と銘打っているだけあって、使用される得物は刃を潰してある。

貴族の選手はそれを自前で持ってくるが、飛び入りの方はそうではない。

よって、大会側から武器が貸与されるのだ。


飛び入りの男は暫し眺めたあと、一本の棒を手にした。


は? なんだそりゃ。

男が手にしたのはステッキか傘くらいの長さの、握りの部分に何か巻かれちゃいるが傍目から見てもはっきりと分かる、ただの木の棒だ。


なんでここでそんな物を選ぶのか全く分からん。

金属製の剣とか槍とか、片手持ちだが盾だってあったのに、選りに選ってなんで木の棒なんだ??


オレ以外の観客も飛び入りの男の行動に困惑や失笑を見せている。


ストラグスの御曹司も同じようで指をさしてゲラゲラ笑っていた。

まぁそうだよなぁ……飛び入り参加してきて、わざわざそんな物選ばねぇわなぁ。


審判役は淡々としたもので、他の武器を下げさせた後もう一度両者に試合のルールを説明していた。


御曹司は得意満面ですでに勝った気でいるようで、明らかに見下した態度だ。

反対に男は審判役の説明を熱心に聞いているようで、何度も頷いている。


ガキにはムカつくし、心情的には飛び入りの方に勝ってもらいたいが、これはどうにもならんなぁ。


オレは溜息をついてメモに目を落とし、次の試合へと意識を向けた。


ヂェッドアァァァァァァァァァァァァァ


甲高い、まるで鳥が絞め殺されたような奇妙な鳴き声が聞こえた。

直後、


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ


な、何だ?! いきなりなんなんだ?!


雷が落ちたような爆音のどよめきがオレを襲った。


不意を突かれてすっかり混乱したオレが闘技場の中心へ目を向けると、

木の棒を振り上げた状態で立っている飛び入りの男と、

地面にあおむけに倒れ気絶しているストラグスの御曹司の姿があった。


「何だよあれ、何がどうなってるんだ?!」


ふと周りを見ると、オレの隣の観客も呆けたように口を開け固まっている。


「お、おいあんた! いまの見てたのか? いったい何がどうなったんだ?!」


「え? あ……お、俺だって訳が分かんねぇよ。あの優男が木の棒を振り上げて奇声を発しながら貴族に走ってたんだ」


「は? それが何でああなってんだよ」


「棒を叩きつけたとこまでは見たんだ。当然普通に受け止めて反撃すると思うだろ? それがいきなり倒れたんだぜ? 俺だって何がどうなったのか知りたいくらいだよ」


もう一度飛び入りの男を見る。


振り上げていた木の棒を下ろし、悠然とその場を去っていくところだった。

入れ替わりに救護の為に何人かが御曹司へ走り寄っていく。


飛び入りが勝つなんて、信じられない事だった。

たとえ相手が子供で、油断していたとしても。


観客席から怒声が飛んでいる。おそらくは一攫千金の賭けでストラグスの御曹司に入れた奴らだろう。

最初の試合でいきなり負けが確定したしたんだからな。そりゃあ叫びたくもなるさ。


オレはふぅ、と息を吐き空を見上げた。雲一つない良い青空だ。



もしかしたら、思ってた以上に楽しめるかもな。


オレは入場口へ消えていく飛び入りの男の背中を眺めながら、

人知れず懐の賭け札を握りしめていた。


拙作をご覧になって下さっている皆様、いつもありがとうございます。

私がこの作品の第一話を投稿してから1ヶ月が経ちました。

まだ1ヶ月でありますが、ここまで投稿を続けられるのも、ひとえに皆様の評価やブックマーク、感想という応援のおかげでもあります。

私が外に向けて発信した初めての作品。皆様の応援に報いる為にも、完結を目指して続けていきたいと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いします。

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