24.女騎士
評価、ブックマークありがとうございます。
設定の見直しにより、このお話に出てくる女騎士の口調を変更しました。
それに伴い、前話「23.はじめての 王都」の最後のセリフを変更しました。
ご了承下さい。
「少し訊きたい事があるのだが良いか?」
女騎士はそう言って僕に近づいてくる。
何故、この女性に呼び止められたのか全く見当がつかない。
茶色に染めた短めの髪、眼鏡をかけて帽子もかぶっている。
服装は肌の露出が無い長袖のブラウスに膝下10センチ以上あるスカート。さすがにこれにブーツは合わないので白靴下にローファーだ。
胸もちゃんと盛ってある。
僕がアルナータ・チェスタロッドであるとはバレない完ペキな変装の筈だ。
「ど、どのようなご用件でしょうか?」
おずおず、といった感じに僕は尋ねる。
が言ってから、しまった! と後悔する。もしかしたら声で特定されるかもしれなかったからだ。
気持ちが焦るが出してしまったものは仕方がない。
「あぁ、すまない。怖がらせるつもりはないのだ」
女騎士は柔和な表情を作り僕を安心させようと微笑む。
美人の笑みは破壊力凄いな! ぐっと引き込まれそうになる。
女騎士の様子を見るに、どうやら声で正体がバレてはいないようだ。内心ほっと胸をなでおろす。
「貴女から懐かしい匂いがしたので少々気になって、な」
ズザッ
瞬間的に飛び退き、僕は女騎士を凝視する。
に、におい? 「臭い」だって?! 僕の体臭、治まってたんじゃないのか?!
かつての、三人の女性との騒動を思い出し顔が強張る。目の前の女騎士にもその影響が?
いや、でも僕の体臭って相手の好意の度合いも関わっていると記憶している。
……となるとこの女騎士、過去にアルナータと何か関係が?
ふと我に返ると、女騎士に戸惑いの表情が見える。
近づこうとしたら相手が逃げたのだから、そうなるのも分かる。
彼女が悪いわけではない事をフォローしておくべきだろう
「あ、す、すみません。におい、なんて言われたものですから……わたし指摘される程臭っていたのかな、って思ってしまって……」
「あ、あぁ、そうだったか」
女騎士は、ほっ と一息ついて安堵した表情になる。その様子に僕も少し警戒を解く。
「だが」
やにわに女騎士は僕との距離を詰め、僕の頬に手を当て潤んだ瞳を向ける。
周囲にバラの花が咲き誇ったような錯覚に襲われた。まるでそう、
少女漫画の一コマの様に。
「貴女の匂いは好ましい」
「ひ、あ……」
傍目から見たら絵になる美少女同士の百合チックな逢瀬だろうが、
当事者の僕からしたら「ヘビに睨まれたカエル」だ。脂汗が額からにじみ出て呼吸すら止められた様に動けない。
鼻と鼻がくっつきそうな程に顔を近づけた女騎士は、スン、と一回鼻を鳴らす。
「貴女はどこか、我の知る女性に似ている。もし時間があるのなら……」
「ご」
「ご?」
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」
甘く湿った吐息を感じた僕は悲鳴を上げて逃げた。これ以上関わっていたらどこでボロを出すか分かったものでは無い。
三十六計逃げるに如かず、だ!
あとに残す女騎士には悪いが、僕は全力ダッシュでその場から逃げ出した。
◆◆◆◆◆
ゼェゼェ、と肩で息をして道端で立ち止まる。
「こ、ここまで来れば大丈夫だよね」
しかしあの女騎士はヤバかった。ほぼ確実にアルナータ・チェスタロッドの関係者だ。
あんな美人にあんな顔させるなんて、過去に何やらかしたんだよぅアニさんよぅ。
しばらくは大図書館には近づけないな、怖すぎる。
はぁ、と大きく息を吐く。
呼吸を整え、気持ちが落ち着いてきたところで周りを見渡す。
「どこだろ、ここ……」
ちょっとした裏路地に入ってしまったのか、人も見えない。
初めての土地という事もあって不安がよぎる。
が、いつまでもここで立ち止まっている訳にもいかないだろう。
人通りがありそうな道を探して僕は歩き始めた。
二つ三つ交差する道を過ぎたあたりだろうか。
前方から歩いてくる人の気配がする、それも複数。
ちょうど緩やかにカーブしているので、こちらの位置からは詳しく確認できない。
自分の周囲にはそれ以外の人らしき姿はない。身体に緊張が走る。
ただの通行人だったらいいけれど、そうでなければどうしようか。
今の僕には得物が無い。靴も常用している重り入りのブーツではなく普通のローファーだ。
暴漢に襲われた時はどうするんだっけ……とりあえず金的か?
金的、金的、金的、金的、金的……大丈夫、何とかなる、何とかしてみせる。
自分の貞操は自分で守るしかない。
どうか杞憂でありますように。普通の通行人でありますように。
僕の前方に影が差し、足音が止まる。止まった?! 緊張の糸が限界まで張り詰められる。
「妹ちゃん? こんなところでなにしているんです?」
聞きなれた柔らかな女性の声が聞こえて、僕の緊張が一気にほどけた。
ユーニスとルヴィアが共に大きな荷物を抱えてそこにいた。二人とも不思議そうな顔をして僕を見ている。
「なにって……大図書館からの帰り道でちょっと迷っちゃって。お姉ちゃん達こそなんでここに?」
「わたし達はお部屋の片付けが終わったので、お夕飯の買い出しに出ていたのですよ」
ルヴィアもユーニスの言葉に追従して頷く。
ん? 食事とかの手配は邸宅の使用人達にお任せじゃなかったっけ?
まぁ、細かい事は良いか。
不安になっていたところで見知った人物に出会うことができ、僕は深く考えるのを止めた。
「荷物、いくらか持つよ? 重いでしょ」
「ありがとうございます、妹ちゃん」
「ユーニスばかりズルいな。妹くん、こっちも頼む」
「あはっ、しょうがないなぁ」
僕はユーニスとルヴィアからそれぞれ抱えていた荷物を一部受け取り、並んで歩く。
あぁ、そうだ。
今後またこのように一人になった時、木刀代わりに振れるものが欲しいな。護身用として。何がいいかな?
ふと、子供の頃カサでチャンバラごっこをした記憶が蘇る。前世の方だけど。
そういえば、とステッキを使った護身術なんてものあったなと思い出す。こっちは言葉だけだけど。
ステッキか……。年配の方や紳士(変態の方ではない一般的な意味で)などが普段手にしている物だ。
自分みたいな年齢の人間が持つのはどうなのだろうか、とも思うが、まあ選択肢としては良いのではないだろうか。
今いるここは王都だし、ステッキ専門の店も探せばありそうだ。
オーダーメイドとかも出来たらいいな。
どうしてかというと、振る事を前提にしているから。その為なるべく自分の体に合った長さや重さで、かつ耐久性のある物を持ちたいと思っているからだ。
この国に今ある材料で作るとなると、素材は何になるのだろうか。
樫などの堅い木材そのままか、いっそ鉄製になるか。木をくりぬいて心材に鉄筋とかかな?
う~ん、ちょっとワクワクしてきたぞ。
「妹ちゃん。なんか楽しそうですけど、どうしましたか?」
「え? あ、うん。ちょっと買いたい物が出来てね。時間があったらお店を見に行きたいな~と」
「でももう日が暮れ始めているし、今からは無理だろう?」
「うん、だよね」
「でしたら、明日以降三人で行きませんか?」
「いいね! 姉さんもいいでしょ?」
「いいけれど……正体がバレないように注意しないと、だな」
「あ、それがあったねぇ」
お互いの会話が弾み、時折笑い合いながら。
和気藹々とした雰囲気で僕たち三人は仲良く帰路についた。
「ところで妹ちゃん。出掛ける前に見せてくれた丈の短すぎるスカート、アレ今夜もう一度穿いてくれませんか?」
「は? 今夜??」
「は、はしたないとは思うだろうが、その、アレで火が点いてしまって、その」
「え」
僕の姉二人がなんか積極的になっているんですが。
あれですか、
こうかは ばつぐんだ
ってやつですか。
和やかに終わると思っていたのに……着衣エロ恐るべし。




