23.はじめての 王都
最後のセリフを若干変更いたしました(2018/12/25追記)
ゆうべはおたのしみでしたね。
僕はオトナの階段を上る。
もうおヨメにいけません。
……の三本をお送りしました。
上気した顔で自信に満ち満ちた表情のユーニス。
真っ赤に顔を赤らめ俯いてひたすらモジモジしているルヴィア。
数歳若返ったように艶がありひたすらに満足げなミルフィエラお母様。
その翌日は三者三様だった。
僕?
気付いたら自分のベッドでしたよ? しかも起きたのがお昼ですよ?
女の子と一緒のベッドで朝チュンじゃなかったから最初はまた夢かと思いましたよ?
よかったー操られたカワイソウな僕はいなかったんだー
と安堵してたら、明らかに様子の違った三人が駆け込んできましたよ?
……
問題は、さ。
昨晩の事、僕には一切の記憶が無いんだよね。
……
潤んだ瞳で熱のこもった言葉を掛けてくる三人にどう返していいか分からず、
僕はただただ愛想笑いを返すしかなかった。
ちなみに僕の体臭。それとなく訊いてみたところ、
良い匂いなのは変わらずだが、昨日の様な頭が痺れる程の強烈な陶酔感は無いとの事。
実際、僕の方もすぐさまおっぱいを凝視して呼吸が荒くなることが無くなっている。
欲望なのだから身体ではなく心が満足しないと駄目なのでは? と思ったがどうもそうではないようだ。
悔しいが実際に効果があるようで、中々に複雑な気分である。
いや、昨晩の自分が非常に妬ましい。記憶が無い事がこれほど恨めしいと思ったことは無い。
人目が無ければ頭を抱えてもんどり打ってのたうち回っているな。
これはもう昨晩の事は犬に咬まれたとでも思って諦めた方が、精神衛生上良さそうだ。
そうだそれがいいそうしよう。
僕は次こそはちゃんと自分から行動しよう、と決意を新たにした。
◆◆◆◆◆
今日より4年に一度の大イベント『奉天感謝祭』が始まりました。
僕は今、この国の王都にいます。
二つの尖塔に挟まれた外門をくぐると、中央大通りに沿って立ち並ぶ古式ゆかしき街並みと、遠くに高くそびえる白亜の城を望むことが出来ます。
歩道には屋台が立ち並び、道行く人に溢れ、祭りの熱気が馬車の中にいる僕にも伝わってきます。
「妹ちゃんご機嫌ですね」
旅日記風のナレーションを頭の中で描きつつ馬車の窓から外を眺める僕を、向かいのユーニスが微笑ましく見つめる。
「王都に来るのは僕初めてだからねー」
「気持ちは分かるけどお忍びだっての忘れるなよ? 妹くんは有名人なんだから」
斜向かいに座っているルヴィアがたしなめる。
ごめんなさい、すっかり忘れてました。
3年前の話になるけれど、僕が目覚める前のアルナータ・チェスタロッドはこの王都で王族の婚約者として生活していた。
4年前の奉天感謝祭では、王杯十五侯武闘大会なる大会で優勝もしている。
とにかく超有名人だったのだ。
でも、目覚めてから今までずっと屋敷に籠ってたり、外に出る時もアルナータだと
判らないように変装してたりして、有名人と騒がれる様な体験を僕自身していないから、いまいちピンとこないんだよね。
今回移動に使っているこの馬車も、チェスタロッド家所有の物じゃなく余所から借りた物だし、
王都滞在用のチェスタロッド邸前に直接乗り付けずにちょっと離れたところで降ろしてもらう予定だし、
領地を出る前から髪を染めたり眼鏡を掛けたり帽子を被ったりの変装を施し済みだし、
ユーニスとルヴィア自身も僕と似たような変装をしてたりと、
僕としては過剰なんじゃないかな、と思うのだけれど、これ位しないと安心出来ないらしい。
そんなこんなで、特に問題も無く王都のチェスタロッド邸に到着した。
出迎えてくれた留守役の使用人に、御挨拶としてチェスタロッド領から持ってきたワインを何本か贈り邸内に入る。
使用人さん、驚いていたっけ。
その間、ユーニスもルヴィアも周囲を警戒し続けていた。ちょっと神経質過ぎるのではないだろうか。
ようやく一息ついたのは、邸内で僕用にあてがわれた一室で荷物を下ろした時だ。
「はぁ、やっと着いたな。何事も無くて良かった」
ルヴィアが、ふぅ、とため息をついて呟く。
この部屋はかつて、アルナータが王族の婚約者だった頃使用していたものらしい。
僕にとってはどうという事のない部屋だけど、ユーニスにとっては思い出のある場所なのだろう、懐かしむように感慨深げに部屋を眺めている。
今日から約一か月、祭りが終わるまでの間ここで生活をするのだ。
ギルエスト様、カールエスト様らチェスタロッドのおもだった人達は自領の住民に次期当主候補のお披露目をする為、しばらくは領内を巡る予定だとか。
サラディエ様はその後、ご実家のストラグス家へ挨拶に向かうらしい。
ミルフィエラお母様は侯爵家の一切をサラディエ様にお任せし、お披露目には参加せずロベルス家へ一旦里帰りをする予定だ。
当初、お母様は僕達と一緒に王都へ来たがっていたのだが、ユーニスの
「奥様がいるとどんな変装を施してもお嬢様の正体が一発でバレるので自重して下さい」
というこの一言で、本人曰く苦渋の決断で同行を取り止めたという。
僕?
僕は侯爵家を継がないのが確定しているのでお披露目にはむしろ出ない方が都合が良く、
折角のお祭りでじっと屋敷に籠っているのももったいなく、
イリーザ様から提示された武闘大会への準備の為にも、早めに王都の空気に慣れたかったってのもあって、
今こうしてここにいる訳だ。
そういやその武闘大会。チェスタロッド選出枠はカールエスト様に決まった。
もしかしたらトーナメントのどこかでぶつかるかもしれないな。
まぁ、僕が勝ち進められればの話だけどね。
さてと、何をしようか。
ユーニスとルヴィアは早速荷解きをしている。手伝ってもいいけど、王都内を見て回りたいという欲求もある。
初めての場所で一人で迷子にならないか? と思われるだろうが、
王都の主要な幹線道路には周囲の簡略な地図が掲げられており、街路の端には施設への行先案内表示が立てられていて大体の施設の場所が分かるようになっている。
また王都の警備を担っている騎士団の詰め所が、日本でいう交番のような感じで点在しており、そこへ出向いて尋ねる事も出来る。
特に今は祭りの期間という事もあって、その辺りのサポートも強化されているようだ。
僕のような初めて王都を訪れる人も、注意すれば比較的迷わずに歩き回ることが出来る。
馬車での移動中ユーニスから聞いていたこの説明を思い出し、手持無沙汰の僕はちょっとした王都観光をしようと思い至った。
「僕ちょっと見たいところあるから外出するね」
「「ダメです」」
二人から速攻でダメ出しがきました。
「変装まだ解いてないし大丈夫だよ」
「「ダメです」」
むむぅ、こうなったら……。
僕は自分用の私物かばんを開け、何かの為と持って来ていた物をあさった。
・用意するもの
昔、見栄を張って買ったもののサイズが合わずタンスの肥やしになっていたBカップ(相当)のブラ。
厚手のハンドタオル2枚。
既存品の丈を詰めて自ら作り上げたミニのプリーツスカート。
黒のハイソックス。
部屋にあった衝立の裏に隠れ、僕は着替えを敢行する。
ブラウスを一旦脱いでタオルを詰めモノにしてブラで抑える。ズボンを脱いでミニスカに穿き替える。靴下を白から黒に替えて完成!
かつてミニスカを作り上げた時、屋敷で一人試して好感触を得た組み合わせだ。
アルナータの胸が無いという特徴もタオルの詰め物で隠ぺいしてある。Bカップなら一般的な大きさの範疇だ。
くくく、ここまで変われば文句は無いだろう。
僕は満を持して衝立の陰から二人の前へ躍り出た。
「これならどう?!」
「「破廉恥なっ!!」」
おおぅ、違う反応が返ってきた!
「やっぱり駄目なんだ、コレ」
まぁ、そうなるだろうな、という予想はしていた。
チェスタロッド領でもそうだったし、今回王都に来て待ちゆく人々を見ててもそうなんだけど、
ここまでスカート丈が短い女性っていなかったんだよね。ひざが隠れる長さの物を穿いている女性がほとんどだった。
裏に回ればもしかしたらいるかもしれないけれど、表で見かけないという事はミニスカはこの国では常識外の物であるという事だ。
「当然です。前代未聞です。ありえません」
ユーニスが顔を真っ赤にしながらも否定の言葉をつづる。いつもだったら容赦ない正論が飛んでくるのだが、今回は彼女の余裕の無さが現れているのか、語彙が少ない。
「さささすがにそ、それはだっダメだと、おおもいまする」
鼻と口を片手で覆い目をグルグルさせながら、ルヴィアも言葉をつかえつつ否定する。頭に血が上り過ぎて湯気でも出ていそうだ。
既に肌を重ねた関係であるのにこの反応は、流石チラリズムというべきか。全裸にはないギリギリ感が良いのだろう。着衣エロ恐るべしである。
「あはは、ごめんなさい。ちょっと二人の反応を見たかったんだ」
僕は素直に謝って、一般的に着用されている長さのスカートを手に持つ。
「ちゃんと普通のスカート穿くからさ。胸もこうしてサイズ替えてあるし、いいでしょ?」
ユーニスとルヴィアは互いに顔を見合わせ溜息をつくと、渋々ながら僕の外出を許可したのだった。
◆◆◆◆◆
やって来ました大図書館。
街頭の地図や案内表示板を頼りに、僕はこの国随一の規模を誇る大図書館前にいる。
『直系』貴族のヘルムート侯爵家が主に管理運営するこの大図書館は、その蔵書の重要性から通常は貴族や許可証を持った人にしか入館を許可していないのだが、
この4年に一度の奉天感謝祭が行なわれる期間内においては、特別に一般にも入館が許可されるのだ。
ただまぁ、入館が許可されるだけで閲覧や貸出はダメなんだけどね。
決められた順路に従って内部を見るだけなのだが、これが結構人気らしい。
滞在先のチェスタロッド邸から比較的近い事もあって、僕はまずここに来た。
アルナータ・チェスタロッドとしての身分を提示すれば普通に閲覧が出来るのだが、今の僕は身分を隠して王都にやってきている。
だから、一般観光客として普通に観光しようと思っている。
目の前の階段を上ると目的の大図書館だ。意気揚々と階段を上っていく。
何人かの人々とすれ違う、その中で一際目を引く人物が階段を下りてきた。
金色の髪を風になびかせ、白を基調とした制服のようなパリッとした服に身を包み、スラっと伸びた足で規則正しくコツコツと靴音を響かせる。
整った美貌にキリっと口を真一文字に結んだその表情は凛々しく、これぞ女騎士!といった雰囲気を醸し出している。
「くっコロ」させたら似合いそうだな、とエロ漫画丸出しの感想を思う僕であった。
帯剣をしているので、貴族か騎士か。
あんまりジロジロ見るのも不興を買いそうなので、一通り眺めたらさっと目線を外し大図書館へ向かって階段を上る。
コツコツコツコツ……
耳の端で女騎士の足音が響く。
コツコツ……カツッ
階段の半ばあたりですれ違った直後、いきなりその音が止んだ。
「貴女」
濁りの無い綺麗な声が僕に刺さったように感じ、思わず歩が止まる。
下から僕を見上げる女騎士の目は鋭く、表情は決して怒っているようには見えないが敵を見据えた様に険しい。
え? ぼ、僕なにか粗相をしました?!
内心動揺を隠せない僕は表情に出さないよう無言で取り繕うのが精いっぱいだった。
女騎士は言葉を続ける。
「少し訊きたい事があるのだが良いか?」
評価、ブックマークありがとうございます。
初めて感想も頂けました。とても励みになります。
年内もう少しお話を進めたいと考えています。今後ともよろしくお願いします。
設定の見直しに伴い、最後の台詞を変更しました。ご了承下さい(2018/12/25追記)




