21.匂い
ユーニスを怒らせて後悔した日から一夜が明けた。
あ、イリーザ王室第7夫人の来訪から、の方がイベントがデカいか。
でも僕の心情的にはユーニスの方がイベント度がデカい。おっぱ……いやいや、後でなんか言われそうだから止めておこう。
そもそも性別からして違うし……違うよね?
起き抜けから気まずい。「おはよう」程度の挨拶は交わすものの、それ以降の会話が無い。
ルヴィアもそれを気にしてか、言葉数が少なくそわそわしている。
僕が意を決して謝ろうと行動したのは、朝食を終え少しの休憩時間を挟んだ後の、今日から始める予定のルヴィアとの剣の稽古の前だった。
「ユーニス、ごめんなさい。昨日は調子に乗り過ぎました」
僕は深々と頭を下げる。ユーニスがどんな言葉を発するのか戦々恐々としながらその体勢で待つ。
「あ……。いえ、お嬢様。こちらこそ大人げない態度を取りまして失礼しました」
少し戸惑いの色を滲ませつつユーニスはそう返した。
「お姉ちゃん、怒っていませんか?」
「ええ、怒っていませんよ」
僕は少し顔を上げ上目遣いにユーニスの顔色をうかがう。そこには柔らかな笑みで僕を優しく見つめるユーニスがいた。
その魅力的な表情に胸が熱くなる。
「お姉ちゃんっありがとう!」
「あ、こらっ」
僕は全身で喜びを表し、ユーニスに抱きつきその豊かなおっぱいに顔をうずめた。
にょほほほほ。役得役得……あ、いやいや。も、もちろん下心などありませぬぞ?
直後、抱きとめてくれたユーニスの腕の力が強まり、より深く顔がうずまる。
しばらくぶりに感じるユーニスの豊かで柔らかい感触と特有のいい匂いが脳髄を間断なく刺激し、欲望のマグマが体内を激しくうねる!
だが、僕の理性はそのまま押し倒しその先へと突進しそうになるのを懸命に堪える。
「うぉっほん! 妹くん? こちらの話を進めても良いかな!?」
そう、ルヴィアが寂しそうにしているから。ではなく!
いまは剣の稽古(の予定)でここにいるから。脇道に逸れ過ぎるのは良くない。
彼女はことさら大げさに咳払いをして、僕の意識を現実へと引き戻した。
「そういえば、妹くんは重り入りのブーツを履いているよね?」
いざ剣を交えようか、という時にルヴィアはそう僕に訊いてきた。
「うん、今も履いてるけど」
「何でまたそんなことをしているの?」
「う~ん……足腰の強化のため?」
「……なるほど」
「?」
ルヴィアは顎に手を当て少し考えこむ。
「妹くん、一回そのブーツを脱いで普通のブーツに履き替えてもらえないかな」
顔を上げ僕に向かってルヴィアがそう言うと、ユーニスがいつの間にか手にしていたブーツを僕の方に持ってくる。やけに用意がいいな。
ここで、ちょっとしたネタを思いつく。
「良いけど……あ! 脱ぎたてのブーツの臭い嗅ぐとか変なことしないでよ? 姉さん」
僕ですか? もちろん、僕はそんな変態行為はしませんよ? ええ、しませんとも。
「そっ、そそんな事するわけ無いだろう?! なに考えてんだっ!」
後ずさり思いっきり顔を赤らめて、どもりつつも否定するルヴィア。彼女はこういう可愛い反応してくれるから楽しい。
「ヌヒヒ」
つい声が漏れてしまう。見るとユーニスはジト目で僕の方を見下ろしていた。視線が痛い。
渡されたブーツに履き替え、調子を確かめる。おぉ? やけに足が軽く感じる。
あ、よくよく考えてみるとブーツは何足かでローテーションして履いてはいたけれど、それら全部重り入れてたな。
僕のその様子に、動揺から立ち直ったルヴィアも感心したように見つめている。
「準備は良いかな? それでは始めようか」
「わかった」
僕とルヴィア、お互いに構えを取り対峙する。
若干足がふわふわしたような感覚があり、いつもの地面に吸い付くような安定感が無いのが不安ではあるが、まぁ何とかなるだろう。
「行くよ、姉さん!」
声をかけ、いつものように駆け足で距離を詰める……が、もう眼前にルヴィアのおっぱいが迫っていた! ぶつかる?!
「?!」
ルヴィアも驚いて一瞬硬直する。そこへおっぱいにダイブする様に僕が頭から突っ込んだ!
「どわああぁぁぁぁぁぁあぁぁあああぁぁぁあぁぁぉぅ」
僕とルヴィアは派手に土埃を巻き上げながらゴロゴロ転がって、ようやく止まる。
「二人とも大丈夫ですか!?」
ユーニスが慌てて駆け寄ってくる。
僕達は土まみれで抱き合うようにしてその場にいた。気が付けば、ルヴィアが僕を守る様にぎゅっと強く抱きしめている。
その為、服越しながらルヴィアのおっぱいの感触が頬に気持ちいい。ぬふっ。
ユーニスとは違った、若干野性味を感じるルヴィアの体臭に鼓動が高鳴る。
だが、ユーニスが心配しているのでここは空気を読むべきだろう。
艶めかしく輝く褐色の肌をペロペロしたい衝動を中二病的に抑え、僕はルヴィアからそっと離れた。
「……あ、ああ。あたしは何とか」
「僕も姉さんのおかげで大丈夫」
その返答にユーニスがほっと胸をなでおろす。
僕達は立ち上がり体に付いた土を払う。そして先程の顛末に思いを巡らせた。
「ふぅ。思いの外はっきりと結果が見れたね。重りを外しただけなのにあの速さが出るんだから」
「重りを……」
ルヴィアのその言葉に僕の視線は自然と、目の前にある4つのおっきなおっきな重りに注がれる。
僕の両手は僕の深層意識に反応して、下からぽにぽに持ち上げたり、外側から挟み込むように押したり、真正面からガッツリ掴むようにワキワキさせたり……。
持たざる者故の悲哀を滲ませながら怪しい動きを続けていた。その手には何も無いのに。
「妹くん、正座」
「はい」
そうして僕は、昼食の時間になるまでルヴィアとユーニスから説教を受け続けるのであった。
◆◆◆◆◆
午後はミルフィエラお母様と一緒に裁縫の時間だ。
実は以前、手縫いでパンツを作ってみたいとお母様に希望を出したが、お母様自身がその技術を持っていないとの事で断念した経緯がある。
なので今はトルソー相手に裁断した布を縫い合わせての上着作りの練習を行なっている。
たまに出来上がったものを着てみたりするのだが、着せられるマネキン替わりはもっぱら僕で、お母様は嬉々として僕を着せ替え人形にして楽しんでいる。
正に『人形姫』
違う、そうじゃない。
……まぁ、あのお母様のおっきなおっぱいでは気軽に着せ替えは出来ないよなぁ。
おっきなおっぱい。
あーいかんいかん。最近気が付くとお母様を性的に見てしまっている。
いろいろとまぁ、こう、ね。刺激が強いのですよ、ええ。
ユーニスやルヴィアはラッキースケベにならない限りおっぱい等接触する機会が無いのだが、
ミルフィエラお母様に限ってはお母様側から積極的に接触してくるので、はっきり言ってヤバい。主に乳の圧が。
今の今まで襲い掛からなかった自分を褒めてあげたいくらいだ。
「ひあっ?!」
そんな考えに浸っているといきなりお尻を撫でられた。我が事ながらその可愛い声に不覚にも萌えてしまう。
「うふふ、可愛い声」
犯人はお母様だ。上着作りの練習を始めた頃から着せ替えをする時に僕の身体をやたらと触ってくるのだ。
今もまた僕のお尻をその両の手を以って執拗に撫で繰り回している。
今の僕は小汚いオッサンではなく傍目に見ても可愛い金髪美少女なので、
親娘の抱擁の絵面としては問題ないのだが、漂う雰囲気は如何せん背徳的である。そのほとんどはお母様によるものだ。
「あのぅ、お母様? 何をしているんデスか」
お母様は、今度は膝立ちになり僕のおなかに顔を押し付け、スーハ―スーハ―と荒い呼吸を繰り返している。
ちょっと待って? このムーヴは初めて遭遇するぞ??
「すぅぅ……ん、最近のアルナータってすごくいい匂いがするから……っん、はぁ~」
えええええ?! 何ですかそれ?!
僕は助けを求めるように背後にいるユーニスとルヴィアへ視線を向けるも、二人はうんうんと頷くだけで全く動こうとしない。
じゃあ、とお母様お付きのゲミナさんへ目を向けても、静かに目を閉じ、我関せずといった様子で只々立っているだけだった。
え? ナンデ? いい匂いって、そりゃ嬉しいけど。
お母様がおかしな行動をするまでとなると、ちょっと薄ら寒い恐怖を感じるんだけど??
僕はお母様に下半身をガッチリホールドされた状態で動けずにいた。
お母様の豊満なおっぱいが自分の脚に押し付けられてはいるが、その不可解な行動が醸し出す恐怖に体内のマグマは滾ることが無かった。
◆◆◆◆◆
お母様から言い知れぬ恐怖を感じた裁縫の時間が終わり、夕食前の鍛錬が始まる。
午前の鍛錬からの続きで、重りを入れていない普通のブーツを履いて一通りの鍛錬をこなした。
僕個人としては重り入りのブーツはあった方がいい。
当初の予定としては確かに足腰の鍛錬の為ではあったが、実は爪先や足裏の保護目的も含まれていたりするのだ。
タンスの角に足の小指をぶつけた経験は誰しもあろう。それら足先を襲う恐怖から守りたかった。
そんな感じで自衛の為と理解をしてもらって、僕の履くブーツは以前の重り入りのものに戻してもらった。
ただ、若干の譲歩として重りの重量を減らしたけれど。
あぁ、そうそう。
鍛錬が終わった時、ユーニスとルヴィアが僕の身体に顔を近づけてスンスンと匂いを嗅いだのだが、あれはどういう意味だったのだろうか。
涼しい季節だとはいえ運動をしてそれなりに汗はかいてたから、なんか変な臭いしてたのかとか気になったんだけれど。
僕が鍛錬の時に履いてた重りが入ってない方のブーツを大事そうに抱えてたし、
朝冗談で言った「ブーツの臭いを嗅ぐ」なんて変態チックなこと、
本当にしないよね? ね?
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