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19.誘い

「アルナータ。君をフォーオールの一員として迎え入れたい。君にとっても悪い話では無いと思うよ?」


それは僕にとっては意外な言葉だった。

目覚める前の、アニさんが入っていた時のアルナータならともかく、

今の僕……然したる取り柄が無い今の僕が、国の要職に就く方からお誘いを受けるとは思わなかったからだ。


「え……えと、どういう意味でしょうか」


「意味も何も、言葉そのままだよ」


「3年引き籠っていた僕に務まるとはとても思えないのですが」


「勿論、君の能力を十分に精査した上で適切と思われる役割をお願いするよ」


「具体的にはどのような……」


「それはこれからの君次第だね」


「うへ」


自分に何が求められているのかが分からない。


一番考えられるのが、武門のチェスタロッド家に起因する戦闘関連なのだが、

メイドのルヴィアにすら連戦連敗の僕がそちら方面で声がかかるとは思えない。


まぁ現在の国の状況を思い浮かべると、すぐさまその考えが見当違いだというのを認識してしまったけれど。


何せこの国、外敵がいないのだ。


普段の生活が脅かされる、一般的なファンタジー物にみられるようなモンスターの類がこの世界に存在しない。

周辺の森や山地に生息している野生動物であるなら、それを狩ることを生業にしている猟師だけで事が足りている。


また、地理的な要因も多分にあるのだろうが、周辺各国からの侵略が無い。

具体的にこの国の外にどんな国があるのかは僕は知らないけれど、この国で生活して3年、どこどこが攻めてきたとか宣戦布告してきたとか聞いたことが無い。


武門のチェスタロッド家が南に領地を構え、その地が玄関口と呼ばれているのも外国からの脅威に備える為だろうと僕でも思える。

国の最前線の一つであるそのチェスタロッド領に居ながらそういう話を聞かないのは、まぁそう言う事なのだろう。


対外戦力でなければ、国内治安維持の為か? 


ちなみにこの国、外敵に対する軍隊は保持していないが治安維持として騎士団が各領地にある。

そしてそれらを統括する省庁のような組織が王の直轄騎士団として存在する。

チェスタロッド家の当主は自領の騎士団の長と、王の直轄騎士団の重職とを兼任しているらしい。大変な立場だ。


まぁ、この線も無いな。

当主のギルエスト様が「お前明日から騎士団な(意訳)」の一言で済む話だからだ。


戦力として考えられないとなると……、

本当に何も無いな。


自分で導き出した結論に少し泣く。


せめてあと2年。当初の取り決め通り、カールエスト様が15歳の成人を迎えるまでの時間があったならまた違ったのであろうが、

今のこのタイミングは色々と中途半端に感じてしまう。


「アルナータ」


僕の思考を中断させたのはギルエスト様だった。


視線を向けると腕組みをしたまま、少し眉を下げたような感じがする顔でこちらを見ている。


「お前がチェスタロッドの家を継ぐ意思が無いのは今までの生活の中で十分に分かった。ここまで無関心なのは呆れたが、な」


目の端ではイリーザ様が苦笑いを浮かべている。


一般市民がいきなり貴族の家へドーンと放り込まれたら、そらそうなりますわ。

僕も当時ユーニスやお母様に出会ってなければ夜逃げを敢行して行方をくらませてただろうなぁ。


「だから、殿下……ゴホン、イリーザ様と協議を重ね幽騎士エクト・プラズ・マリオとも話し合いをし、枢密院の新たな裁定としてお前の身柄をチェスタロッド家からフォーオールに移譲する事にした」


それは意外な言葉だった。

意外と簡単に当主とならずに済んだと思った。それより政略結婚の駒として知らない相手へ有無を言わさず嫁がされるような事を言われなくて良かった。

男と結婚なんて気持ち悪くて出来るもんじゃない。僕は男として女の子が好きだ。今の身体は女だけど。


「実際の公表はまだ先になるし、お前の処遇をどのような形で表すかはこれから取り決めるが、お前をチェスタロッド家から出すのは確定事項だ」


チェスタロッド家から出す。目覚めた当時から考えていた事とはいえ、当主自らの口で言われると結構重い。


改めて自分の現状を顧みる。かつて設定した自立の為の三本柱は今どうなっているだろうか。


其の一、示現流による心の鍛錬はまだまだ満足のいくものでは無い。

其の二、畑? は早々に頓挫した。

其の三、衣服の縫製は既成を改造するのは出来るようにはなったが、自分の望む形にはまだまだ遠い。


……やべぇ、何一つ達成してない。


だが、どこぞのゲームや漫画などの様に追放が即生命の危機に直結している訳ではないので、まだ慌てる時ではない。そう思いたい。


「分かりました。数々のご配慮ありがとうございます。決定に異論はありません」


ギルエスト様は僕の言葉に黙って頷く。


「イリーザ様、先程は失礼致しました。僕の我儘を汲んで下さった事、感謝申し上げます」


僕は深々と礼をし、イリーザ様の言葉を待つ。


「国としても君の様な存在は目の届くところに置いておきたいし、今後次第だけれど、当主に据えるよりかは良い結果が得られるかもしれないからね。フォーオールとしても願ったりなんだ」


どういう形で侯爵家を追い出されるかも分からない現状でこの決定は、一番の懸念である『男と結婚をせずに済む』という保障を手に入れたと前向きに考えよう。


「それでは、アルナータ本人からも了承を得られたからこの話はこのまま進めよう。ギル殿、よろしく頼むよ」


「はっ」


ギルエスト様は腕組みを解き、イリーザ様の言葉に短く礼を返す。


「アルナータ」


「はい」


「君の今の力を、こちらが用意する舞台で試させて欲しい。良いかな」


いわゆる実技試験という奴だろう。用意する舞台というのがどういうものか分からないけれども、自分に出来そうな事が試験内容だと有難いな。


僕はイリーザ様を見つめ、無言で首を縦に振る。イリーザ様はそれを満足げな笑みで受けた。


「内容は至って簡単だよ。もうすぐ始まる『奉天感謝祭』、4年に一度の今回の祭典は1ヶ月続くのは知っているよね」


僕はまた首を縦に振る。

そうなのだ。いつもの年の収穫祭は大体1週間位の期間行なわれるが、4年に一度となる『奉天感謝祭』は1ヶ月もの間続けられる。

王都を含め各貴族領でもその地ならではの催しがあったりするらしく、1ヶ月という期間が短く感じられる程の盛況ぶりだという。


「その最後の週に王都で行なわれる『王杯十五侯武闘大会』という最大の催し物があるのは知っているかな?」


え、何ですかそれ。

そういや僕の周囲の人間からはそんな催し物があるなんて聞いたことは無いな。どうしてだろうか。

僕は今度は首を横に振る。


「おや。……まぁ、いいか。その『王杯十五侯武闘大会』は15の侯爵家の選んだ選手が己の技を競い合うトーナメント方式の大会でね。

次代の貴族の子弟の力を試すものだとか、国民に貴族の力を見せる為だとか、色々あるけれど。まぁ、どちらかというと一般国民へ向けた娯楽的なものなんだ」


何となく言わんとしているところが分かってくる。


「その大会にチェスタロッド侯爵家からではなく、特別に設けられている『飛び入り参加』枠で出場して欲しい。勿論正体を隠して、ね。

ああ、出場の際の根回しはこちらでしっかりと済ませておくから安心していい」


僕は思わず目を見開いてしまった。


「それでどこまで進めるか、が試験の内容だよ。頑張ってね」


イリーザ様はにこやかに笑っていた。

それよりも続けられた言葉に僕はあんぐりと口を開けて驚くしかなかった。




「ちなみに4年前の、前回の優勝者はアルナータ・チェスタロッド。君だよ」


評価、ブックマークありがとうございます。

書き溜めた分が心許なくなっておりますので、毎日更新を一旦中断させて頂いております。

大変申し訳ありませんが、ご理解頂ければと思います。

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