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1.異物の目覚め ①

『ようやくのお目覚めか。寝坊するにも程があると思うが』


起き抜けの頭に、透き通った綺麗な声が聞こえた。


「え? なに?」


声のした方をみると、そこには一人の女性が立っていた。女性というか女の子?

少し大人びた感じの女の子。


ストレートな金髪を腰の辺りまで伸ばし、端正な顔立ちに切れ長の目、琥珀色の瞳、


きれいな白い肌だけど、しっかりとした筋肉がついてると判るような腕。全体的な印象は陸上選手といった感じかな。


体を覆っているのは白いワンピースのような服、そして特筆すべきはその胸だ。



無い。



重要なので繰り返し言おう。



無い。


つるーんとか、ぺたーんとか、ないーんとか擬音が付きそうなほど無い。

もしかしたら慎ましやかな膨らみがあるのかもしれないが、

はっきり、ある!と表現できるほどのものは残念ながら服の上からは確認が出来ない。


美人なだけに非常に惜しい。

ていうか、こんな美少女から声かけられるような人間だったっけ? 僕。


『黙って聞いていれば胸の事ばかり……何なのだ、お前は。意識ははっきりしているのだろう? 私の言っていることがわかるか?』


「アッ、ハイ」


『では、現状の説明と今後の事について話そう』


言っていることは分かるが、言っている意味が分からない。そもそも僕はいま一人暮らしで、目の前で金髪の美少女に仁王立ちされるような非現実的な状況とは無縁のはずだ。

ていうか、なんで何も無いんですかね、ここ。


僅かに暖色系の色味が付いているけど、僕の目に映る範囲内では美少女さん以外は何も無い。


「ちょっと待って下さい先生、質問があります」


あんまりにもあり得ない光景に思わず変な呼称で美少女を呼んでしまった。


『誰が先生か……それで、質問とは?』


「今日も仕事があるので遅刻しないよう早いとこ支度をしたいのですが、

ここってどこですかね?」


現状を理解し、早く現実に戻らなければ。今日は確か月曜日だ。月曜日だ。

心臓が委縮して胃がキリキリ痛むが病院に行っている暇も金も無い。働かなければならない。


『…………………』


なんか固まったぞ?


「あれ? どうしました?」


目の前の美少女は、額に手を当て俯いた後、大きな大きなそれはもう大きな溜息を一つついてから顔を上げてこう言った。




『お前は何を言っているんだ』



 ◆◆◆◆◆◆



状況説明という詰問会の後、僕は自分の現在の状態について何とか認識することが出来た。


お前はもう死んでいる、だそうだ。


ただ、自分が死ぬ間際の記憶なり感覚なりが全く無いので、いまいち死んだという実感がない。死因も検討が付かない。


でも、僕の人生は一回終わっているらしかった。


年齢40代半ば。

結婚はしていないし、恋人と呼べるような人もいない。付き合いのある友人もいない。

仕事にはついているが、社会の歯車としてルーチンワークを只々こなす毎日。

収入はさほど良くなく、自分の生活が何とか賄える程度。


そういうわけで当然童貞。30歳過ぎたら魔法使いになれるとか言われているがそんなことはなく、

40歳過ぎても賢者になるどころか只のおっさんだ。


若い頃は、俺が俺がって感じで粋がってたもんだけど、年食って現実を見ちゃうと『俺』って呼ぶ事にものすごく違和感感じたなぁ。

自然と自分の事『僕』って呼ぶようになってたっけ。


僕の人生振り返ってみても良い思い出が全くないな。

涙が出ちゃう。おっさんだもん。



まぁ終わったことだ。次に目を向けよう。


そして僕はこの世界に新しく生まれ変わったのだが、なんと今の今まで15年間ず~~っと眠りっぱなしだったらしい。

自分の中では寝て起きただけなのに、1回死んで生まれ変わって15年経っていたとか、理解も納得も出来るわけないです。

でも事実らしい。困ったもんだ。


そんな事を教えてくれた目の前の美少女さんは、15年もの間眠ってた僕に代わり僕の身体を生かしてくれていた方だそうだ。


幽騎士エクト・プラズ・マリオ

彼女は自分の事をそう言った。この国(エルガーナ王国というらしい)を維持管理する機構の一つで、

建国時より続く王家と上流貴族の家長の守護と血統の管理が主な任務らしい。全部で20人くらい? いるとの事。


それぞれが自由気ままに存在しているのではなく、人間と同じように議論や情報交換の場を定期的に持ち、

幽騎士エクト・プラズ・マリオ同士の横とそれぞれの貴族との間の縦とでかなり緊密に国に関わっているそうだ。


それから当人達は肉体を持った人間ではなく、霊的な存在らしい。

僕にもわかるような単語を使うとしたら背後霊とか守護霊といったところか。


そして、目覚めるまでの僕の事だけれど、

この国の貴族で侯爵位のチェスタロッド家当主とその夫人との間に生まれた待望の第一子だったが、

生まれた時、産声を上げなかったのが問題になったようで、当時の医師や専門家に調べてもらったりしたところ、魂が眠っている状態と判断されたとの事。


赤子の時期に魂が眠っている状態だと生命維持が困難になり、そう長くは生きられないらしい。

明確な対処法が存在せずそのまま見殺しにせざるを得なかったが、幽騎士エクト・プラズ・マリオ


……長いなこれ、

幽騎士マリオと略してしまおう。その幽騎士マリオ達の間で過去に同じような事例があり、

その時は幽騎士マリオがその赤子の中に入り、赤子の魂の代わりに肉体を動かす事で命を繋げる事が出来たという。


頭の中でヒゲ面の配管工が飛んだり跳ねたりしているが気にせず進めよう。


『かなり自由な人物なのだな、その配管工とやらは』


あれ?


「今、僕声に出してませんでしたよ? なんで分かるんですか?」


『ここはお前の心の中の領域だ。声に出さずに思ったこともこちら側には聞こえている。逆は無理だがな。ここは私の心の中ではないから』


マジか。十八禁な妄想とかデキナイジャナイデスカー。


『安心しろ。私がいる時にその手の妄想が出て来た場合は、殴って止めてやるから』


居ない場合は妄想し放題! ってそれいつもと変わらないですから!



…………え~と、話を戻そう。

僕の時はというと、

幽騎士マリオの側としては、子を失う親への憐憫だけでは特例措置を行なう事は出来なかったようだが、

念の為にと行なった血統の検査(この国で満5歳時に受ける貴族の子の義務)の結果から、

この国にとって稀有で有用なものである事が判明し、公的に救済措置の執行が認められ、

チェスタロッド家の幽騎士マリオである目の前の美少女さんが、眠っている僕の代わりに今の今まで僕の身体を生かし続けていた、という事だ。


ついでに『血統の検査』について。

この国に生を受けた人は誰でも、建国当時の約20の血統のうち濃い薄いに関わらず最低1つは持っているそうだ。


誰がどの血統を持っているのか、それを明らかにし記録する為の儀式で、国の根幹に関わる重要なものらしい。


満5歳時に受けるもので、貴族の子弟は義務。それ以外の一般市民の子供は任意かつ有料。と身分によって扱いが変わっている。


また、幽騎士マリオ達が守っている王家、上流貴族は、いわゆる『直系』というやつで非常に濃い血統の上に

直系の間での婚姻が多いこともあって血統の検査では2つの血統を持つ者が多く確認されている。


どちらかが濃くてどちらかが薄いという感じの人が多いらしいけれど。


それで僕が持ってる、この国にとって稀有で有用な血統ってどんなものなの?

って聞いてみたところ、

父親から継いだ血統と母親から継いだ血統、両方とも濃いばかりかさらにもう一つ血統が確認されたとか。


さすがに3つ目の血統は薄いものだったらしいが、王国の歴史を見てもそんな人間は記録があるだけでも10に満たない数との事。


そんな感じで、このまま死なせてしまうのは勿体無いと肉体を生かして魂が目覚めるのを待ってたら……15年過ぎました、と。


『期限までに魂が目覚めなければ見込みが無いという事で処分されていた。まぁ、だいぶ待たされたが目覚めて良かったな』


「え、生まれ変わりを実感する前に死んじゃうところだったんですか、僕」


『あぁ、数日前の王都からの帰路の途上で目覚めの兆候が表れた。

その日、侯爵領へ到着したらすぐに処分の手続きが進められる予定だったから、

本当に間際だったな』


「うへ」


第二の人生を歩む前に彼岸へ送り返されるところだったとは……

寝坊、ダメ絶対!


最後の無意味な空白部分を削除しました。ご了承下さい。

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