15.思いを馳せるは金色の夢
「妹くん、そこに正座」
「はい」
ルヴィアが新たに僕付きのメイドになって約1年が経過した。
そろそろ夏の盛りも過ぎ、徐々に涼しくなっていく時期だ。
「あたしは言ったはずだよね。むやみやたらに女性の体を触るな、と」
「はい」
僕がこの世界で目覚めて、通算で3年になるのか。セミの鳴かない夏にも慣れたもんだ。
日本と違って内陸国である為か、湿度がそれほど高くなく気温の高さの割には過ごしやすいと感じる。
「体調を気遣ってくれるのはあたしも嬉しいよ。でもあれはやり過ぎ。そう思わないかい? 妹くん」
「はい」
あと1か月もしたら収穫祭の時期だ。特に今年は4年に一度行われる、国を挙げての大規模なものらしい。
僕にとっては初めての体験だ。4年前はまだこの世界にいなかったからなぁ。
チェスタロッド侯爵の屋敷がある街も収穫祭に向けての準備が行なわれ始めていて、人の活気が違うのがわかる。
「お嬢様」
「何でしょう、ルヴィア」
今回はここまでか。そこそこ続けられるようにはなっているけど、まだまだ及第点には遠いな。
「お慈悲を。私には荷が勝ち過ぎます」
「受け付けません。この訓練はルヴィアの為でもあるのです」
ルヴィアの懇願に僕は敢えて慇懃な言葉で拒否をする。
「ルヴィアには僕の護衛として万全の働きを望んでいます。ですが、今までを見るにその要望に応えようとする気概が感じられません。
そのような調子では、僕はルヴィアを信頼して自分の命を預けようとは思わない。分かりますよね」
僕は正座の状態のままルヴィアを見上げ、彼女に説明をする。
ルヴィアは立ちすくんだまま胸に両手を当て俯いている。心の中で葛藤しているのだろうか、眉を八の字に歪め唇を噛んでいる。
とっても可愛い。
僕の方が優位に立っているからそう見えるのかな。う~む。
ルヴィアは剣術の才を買われてサラディエ様に拾って貰った経緯がある。だとしたら、それを腐らせないよう取り計らうのが雇い入れた側の務めだ。
当初は何故か怯えどこか自信なさげに背中を丸めたような感じだったので、強制、いや矯正の為に姉と妹という役割を振り演じさせている。
……という建前の元、
ルヴィアに『妹』と呼ばせることを強要しているのだが、中々にうまいこと行かない。
結構経つんだけどなぁ。
あ、ちなみに僕はルヴィアに対しては『姉さん』と呼ぶように決めている。
頼れる姉を想定しての事だ。護衛としての彼女の立ち居振る舞いを考えるとベストに近いベターだと思っている。
「それは重々承知しておりますが、でしたら他の方法でも……」
「認めません」
間髪入れずに否を投げつける。
他者に万が一聞かれた時にも、訓練の一環であると合理的に説明できる妙手なのだ。他の方法など存在してはならない。
「……ユーニスぅ」
ルヴィアは傍らで僕達のやり取りを冷めた目で見守っていたユーニスに向け、神に救いを求め縋り付く信者のような眼差しで助けを求めた。
「諦めましょう。こういう事に関しては妹ちゃんは頑固ですから」
だがそれはバッサリと切り捨てられた。
◆◆◆◆◆
しかしまぁ、なんと素晴らしい人生を歩ませてもらっているのだろうか、僕は。
甘えたい日本人的な爆乳お姉ちゃん枠のユーニスに、いたずらしたいお姉さんかつ体育会系な褐色巨乳枠のルヴィアと、
前世では自家発電用のネタとしてかなりの回数お世話になったキャラクター容姿たちだ。
ルヴィアを得られたのは正に奇跡だろう。
どのような運命が働いたかはわからないが、僕にとっては僥倖であったと言える。
運命に感謝を。
これであと一人、最大最強のドストライクキャラが来ればもう言う事はないんだけどなぁ。
あと一人、奔放な性格で性的な事に忌避感のない金髪で爆乳な姉キャラ、とどこかで出会えないものか。
あ、オーイエスシーハーは無しの方向で。あれはちょっと昔のトラウマを抉るので無しの方向で。
現状の、貴族の屋敷に籠りっきりの僕では中々に出会いが無い。
今回の大規模収穫祭を利用して国内各地を巡ってみたいな。外出の許可は下りるだろうか?
絶対にアルナータと判らない変装をすれば許可してもらえるだろうか。
幻と諦めていた褐色巨乳とも出会えたのだ。頑張って探せば見つけられると思いたい。
しかし外出の許可が……う~む。
「金髪爆乳……」
「おいユーニス、あれ……」
「しっ。あんなのでも我々の仕える主人です。指をさしてはいけません」
考え事をしていると、不意に馴染みの匂いが感じられた。
顔を上げて確認すると、廊下の向こうからゲミナさんを伴ってお母様がこちらへ歩いてきている。
服装は普段室内で見るものでは無くて、はっきりと外出用と判るものだった。ゲミナさんもお母様用の物であろう日傘を手にしている。
「ご機嫌ね、アルナータ」
お母様は柔らかな笑みを湛えながら僕の名前を呼んだ。艶のある大人の女性の声が、親愛の情がこもった心地よい音色で僕の耳に届く。
ちょっと幸せな気分になってしまうのは、童貞故の抵抗力の無さに因るものか。
僕の後ろにいたユーニスとルヴィアは姿勢を正し通路の脇に控えていた。
おぉう、なんかメイドっぽい! と今更ながらに感心する。
「こんにちは、お母様。これからお出かけになるのですか?」
「ええ。生家のロベルス侯爵家にね。快気の報告に行くの」
お母様の生家であるロベルス侯爵家の領地は、チェスタロッド領の東隣りに位置する。
お隣の領地とは言うがこの国自体がそれほど広くは無いらしいので、
以前お母様に聞いたところによると、馬車を使って2時間くらいで到着する距離らしい。
日帰りも容易にできる距離なのだが、お母様はチェスタロッドの家に嫁いでからは今日まで生家に帰ったことはないようだ。
何でこのタイミングで、と思わない事も無いが、快気報告に行けるほど身体が回復したのは喜ばしい事だ。
「いってらっしゃいませ、お母様。お帰りは何時頃になりますか」
「今日は泊りのつもりだから。突然で申し訳ないけれど、後はよろしくね。」
おや、珍しい。
「分かりました。こちらの事はご心配なく、どうぞごゆっくり」
「ええ。それじゃあね、アルナータ」
お母様はにこやかに手を振り、僕の横を通り過ぎていく。
どゆんどゆん、と超弩級のおっぱいが歩く度に揺れる。たゆんたゆんでは表現しきれないところに凄まじさを感じる。
また、夏の盛りを過ぎたとはいえまだまだ暑い為、お母様の服装も薄手で色々と開いてる。
その二つが合わさった破壊力の前に目をお椀の様にして凝視していた僕は、ここでお母様に会う前の記憶が蘇り思わず呟いた。
「金髪……爆乳……」
視界の端にはユーニスとルヴィアがいたが、どうも様子がおかしい。
互いにそろって口を半開きにし、眉を吊り上げ驚愕の表情で固まっている。
「いぃ妹ちゃんっ?! ダメですダメですよそれはダメですっ! いくら妹ちゃんが女の子好きの変態さんだとしても、それだけはダメです!」
「そそっそうだぞ妹くんっ! あ、あれか?! あたしが不甲斐無いのが不味いんだな?! わかったっ! 妹くんの変態をちゃんと受け止めるからっ、その道だけは進んじゃ駄目だっ!!」
そうして何やら喚きながら僕を前後から勢いよくおっぱいサンドしてきた!
いきなりのプレスに僕は悶絶しつつも何とか意識を保つ。おなかにはユーニスの柔らかおっぱいが、
後頭部と肩にはルヴィアのムチムチおっぱいが、それぞれの特徴的な感触で僕を包み込んでいる。
正直言って役得であり気持ちが良いのだが、今の僕は、何故こんな状態になったのか理由が分からず、困惑の方が勝っていた。
ていうか、さり気に『変態』とか言ってなかったか?
失敬な。僕は男として普通に女の子が好きなだけだ。まぁ、今は女だけれど。
「ダメですダメですダメです!」
「ダメだダメだダメだ!」
うわ言のように『ダメ』を繰り返すおっぱいメイド達。
大丈夫。今の良好な状態が続くなら僕はお母様とはちゃんと一線を引いていけるし、スキンシップにも耐えられると思う。
たぶん大丈夫だと思う。大丈夫なんじゃないかな。まぁ、大丈夫だと思いたい。
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