13.チョコレート色の夢
「お前っ! 何してやがる!!」
美女は怒声を上げ僕を睨みつけていた。
だが手足を縛られているのでどうする事も出来ないでいる。上に乗っている僕を退かす事も出来ていない。
自分の現在の状況に困惑を隠しきれず、それを払拭しようと声を上げ続ける。
言葉遣いは悪いが中々に僕好みの声だ。銀髪褐色という容姿によく似合っている。
体を揺すって拘束を解こうともがくが全くの徒労だ。
動く度におっぱいがぽいんぽいんと形をさほど変えず揺れる。柔らかおっぱいとはまた違った良さがある。
この大きさの巨乳でこのハリは今まで見たことが無い。はだけたシャツの隙間から除く筋肉質な身体によるものだろう。
是非ともおも……げふんげふん、お友達になりたい。どうすれば良いかな。
「おい! 聞いてんのかお前っ! どけよ!!」
思案していると美女から罵声が飛んできて、僕ははっと我にかえる。
「あぁ、ごめんなさい。聞いてませんでした。それで、どんなご用件でしょうか」
言ってから、ものすごく場違いな発言だと気付く。
しまったと思って相手の顔を見ると、一瞬呆けた後、みるみる怒りの顔に変わっていく。
「ふざけんな!!! 舐めるのもいい加減にしろ!」
え、僕まだ舌でペロペロ舐めてませんが。
舐め回したい程綺麗な肌を目の前に必死こいて我慢している自分を褒めてやりたいくらいですが。
そういやこれくらいの罵倒じゃ何も感じなくなってきてるな。
目の前の美女の事に集中し過ぎて、すっかり自分の事を忘れてたわ。
何でこんなところにいるのかって事を。
「いえいえ、ふざけてなどいませんよ。お姉様に是非とも訊きたい事が御座いましてね」
僕は怯えさせないよう精一杯の笑顔を作り、丁寧な言葉を心掛けた。
ただ、まあ、その際艶めかしく汗の滴るおっぱいに釘付けになってたりしましたが。
「あ?」
若干怯えた表情を浮かべた美女は僅かにそう応答する。青色の瞳が揺れている。
おかしい。怯えさせる意図など無いのに何故。
「僕はどうしてこんなところにいるのでしょう? 先程の男共は何者でしょうか?
そしてお姉様のおっぱ……いやいや、お姉様と男共とはどういったご関係で?」
あぁ、でもその怯えた表情がまたそそる。思わずおっぱいに手が出そうになるがそこをグッと堪えて美女に質問をする。
「男共……あいつらを殺したのか?」
「たぶん死んではいないと思いますが、騒がれると面倒なので拘束して転がしてありますよ。やはりお姉様のお知り合いですか」
「…………知り合いなんかじゃねぇよ」
美女の質問に僕は事実を答えた。知り合いでは無いと否定するその表情は男共に対する嫌悪が見て取れる。
しかしまぁ、全然質問には答えてくれないのな。
「では、何故三人で行動されていたのですか?」
「言いたかねぇな」
「でも僕をここまで連れてきたのはお姉様方で間違いないのですよね? 僕が誰だか知った上での事ですよね?」
「ふん」
「質問にお答え頂けませんか?」
「けっ」
続けざまの問答にも大した答えは無く、明確な言葉すら発しなくなった。
さて、困った。
さすがにやり方を変えないと埒が明かないかもしれない。
「お答え頂けないようでしたら、少々強引な手を使わざるを得ませんねぇ」
僕は実力行使に踏み切ることにした。身体に聞いてやるってやつだ。
「やれるもんならやってみな。もう疾うに覚悟は決まってんだ何されたって構うもんか」
美女は怯みつつも気丈に振舞い顔を強張らせる。
最近はユーニスとお母様という二大爆乳の波状攻撃に曝され、行き場のない(性的な)鬱憤が溜まりに溜まってるんだよなぁ。
ちょっと発散させないといつ爆発するか分からない。
目の前の美女に協力してもらおう。
「へ~ぇ。本当に良いんですね? ヤっちゃって良いんですね? 後から無しって言ったって聞きませんよ?」
ヤバい。心臓がドキドキしてきた。体内のマグマが全身を駆け巡る。
「こ、言葉で脅したって無駄だからな!」
美女は困惑し、怯えの色が深くなる。
この褐色巨乳に本人の同意有り(?)で弄れるなんて、僕はなんて幸運な男なんだろう!
あ、今は女だっけ。まぁいいや。
「ウェヒヒヒヒ。こんなに美しく素晴らしい身体を好きにして良いなんて! あぁ、神よ感謝致します!」
両手をワキワキさせながら満面の笑みを浮かべて褐色巨乳を見つめる。マグマの熱がどんどん下半身に集まっていく。
顔もその熱が回ってきた。もしかしたらヨダレとか垂れていたかもしれないな。
「え、ちょ、ちょっと待ったっ! な、なに、拷問するんじゃないのか?!」
明らかに狼狽している褐色巨乳。
ついさっきまでは『くっ殺』女騎士みたいに厳しい表情だったのに、今はえっちなハプニングに驚く女生徒のようだ。
例えが適切かはどうか知らないが、そういう感じだ。
「こんなに美しく輝く宝石を拷問なんて馬鹿な事で傷付ける程、僕は価値が判らない人間ではありませんよ」
拷問なんてそんな無粋な手段を取る事はあり得ない。勿体無さ過ぎる。
中断していた上着のボタン外しを終わらせ、上着を脱がせにかかる。
次にまみえるであろう光景を想像し吐息が荒くなる。マグマの臨界点が近い。
「あ、う、美しいとか素晴らしいとか、あたしなんて……そんな……」
褐色巨乳は何故かそこで顔を逸らし恥ずかしがった。これがまた可愛い。マグマの温度が一気に上昇する!
「お姉様もご自身の価値をご存じでは無いのですね……。分かりました!それでは尚の事その素晴らしさを知って貰わねばなりませんね!」
僕は上着に掛けていた手を離し大仰に天に広げ、高らかに宣言する!
己の価値を正確に知る事はとても大事である。それは時として己を支える自信にもなるからだ。
身体の方は制御が難しい程熱暴走をしているというのに、頭はそんなことを考える。
「あ、あ、待って待って待って!あたし初めてなんだけどっ?!」
余りに慌てたせいか、褐色巨乳は僕が知ったら燃え上がってしまうその一言を発する。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!
マグマは臨界点を突破し光の柱となって天を貫いた!
その巨大さは正に煉獄の破城槌!!
固く閉ざされた城門を粉微塵に破壊する魔神の兵器!!!
例え実体が無くとも、今の僕は己が猛き熱情を消失させることなく
フルバーストさせることが出来るのだ!
二大爆乳によって鍛えられた童貞の妄想力……舐めるなよ?
「フヒヒヒヒ。それは良い事を聞きましたぁ」
「あ、墓穴掘った気がする……」
口角がさらに上がりヨダレが止めどなく溢れてくるのを感じる。
褐色巨乳よ、我が贄となれ。
「あぁ、今日は何という素晴らしい日なのでしょう。神様仏様観音様、今宵の出会いを深く感謝致します……」
「うぅ」
僕は両手を合わせ目を閉じ食事前の礼をする。礼から直ると褐色巨乳を見据え口を大きく開けた。
目の前にピンク色のフィルターが掛かり、褐色巨乳の肌がより艶めかしく映える。
さぁ、宴が始まる……。
「それでは遠慮なく、いただきまー…
ゴガァッ
ぶべらっ?!」
いきなりの衝撃に僕の意識は刈り取られ、暗い闇の底へと沈んでいった。
後頭部に重い痛みを残して。
◆◆◆◆◆
瞼が明るくなり、僕は目が覚めた。
上半身を勢いよく起こし周囲を見渡す。二年間生活し続けている離れでの僕の部屋だ。
窓からは外の光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえている。
「妹ちゃん、おはようございます。そろそろ支度しませんと朝の鍛錬が遅れますよ」
ユーニスがカーテンを纏めながら言った。
「ゆ、め?」
僕は意識を失うまでの事を思い出そうとするが、鋭い頭痛が襲い中断される。
「どうかしたんですか? 妹ちゃん」
「あ、うん。何でもないよお姉ちゃん」
心配そうな顔で僕を覗き見るユーニスに僕はそう答えてベッドから起きる。
寝起きで重い頭を我慢していつもの運動用の服に着替える。
夢、だったのかなぁ。夢にしてはやけにリアルだったけど。
でも夢だとしたら色々と合点がいく。
人を蹴りの一撃で昏倒させたり、暗殺者宜しく相手の目に触れないよう締め落としたり、女性とはいえ罵倒されても平然と応対していたり……。
現実の自分では考えられない事ばかりだった。ついでに言うなら自分に都合が良すぎた。
それに見慣れない場所に居たのとその理由が最後まで明かされなかったってのも夢っぽい。
はぁ。
「妹ちゃん。服を着ながら溜息つく癖、やめた方がいいと思いますよ」
「はぁ~い」
ユーニスの指摘に生返事をし、着替えを完了させる。
色々と惜しい夢だった。最後のあれも童貞故の想像力の限界だったのだろう。
はぁ。
褐色巨乳。お持ち帰りしたかったなぁ……。
◆◆◆◆◆
今日も今日とて日課を黙々とこなす。
数日前におかしな夢を見た以外はいつもと変わらない日常。
あ、一つあった。昨日だっけ。
この国の王様が新しい側室を迎えたってニュースがあったの。
何日かしたらお披露目の舞踏会があるらしいけど、気がふれて籠りっきり(対外用の建前)の僕には参加要請は来ないだろう。
気にせず鍛錬に励む。
素振りをしてみる。
キュッキュッキュッキュッ、と小気味良く振る音が鳴る。
示現流『トンボ』の構えに直り思案する。
あんな夢を見た後だからかな、この鍛錬本当に効果あるのかなと疑問が持ち上がってくる。
「妹ちゃ~ん。お夕食の時間になりますから、そろそろ切り上げましょう」
「はぁ~い」
それにしても褐色巨乳惜しかった。
無い物ねだりが高まり過ぎた結果なのだろうか、夢の中の美女は理想の褐色巨乳だった。
はぁ。
最近溜息ばっかりだなぁ。
◆◆◆◆◆
その日は珍しく、サラディエ様が朝から離れに見えられた。
「サラディエ様、おはようございます」
「おはよう、アルナータさん」
やや遅れて僕の後方からお母様がゲミナさんを伴ってやって来た。
「おはようサラ様。珍しいわね、こんなに朝早くどうしたの?」
「おはようミルフェ様。今日は紹介したい娘がいるから来たのよ」
へぇ、新しいメイドさん雇ったのか。でも何でわざわざ離れにまで? メイドを紹介する為だけに?
あ、ミルフェ様というのはお母様の愛称だ。冗談交じりに時折僕にもそう呼ばせようとしてくる。困ったお母様だ。
「じゃあ、朝食をご一緒しながらで良いかしら」
お母様がそう提案するとサラディエ様は顔に喜色を浮かべる。
「ありがとう、お言葉に甘えるわ」
「えぇ。さ、アルナータ行きましょう」
お母様に促され、僕は後について食堂に入った。その後ろからサラディエ様もついてくる。
テーブルに着き、配膳を待つ。
ふと見まわしてみたが見知った顔が並び、件の紹介したい娘っぽい人が見当たらない。
「サラディエ様、紹介したい娘って人はどちらに?」
「扉の前で待たせてあるの。少し長くなるから、先に朝食を済ませてしまいましょう」
「そうね。それでは、いただきます」
お母様の唱和に続き「いただきます」と食事前の礼をし、朝食に手を付ける。
時折談笑を挟みながら食事は進んでいく。普段よりは早めに終わったと思うのは待たせてある人物を考えての事だろうか。
「いいわよ、入って来て」
食後の紅茶を嗜みながら、サラディエ様がお付きのメイドに指示する。
メイドがこちら側から扉を開けると、向こうから同じメイド服を着た人物が入ってきた。
「失礼します」
「ッン?!」
その声と姿に、僕は驚きのあまり口に含んだ紅茶を思いっきり吹き出してしまうところだった。
何とか堪え、速やかに飲み込む。
対面のサラディエ様にぶっかけなくて済んだ。心の中で安堵の溜息を漏らす。
心の態勢を立て直し、入室してきた人物に目をやる。
僕は思わず唸っていた。
ゆめにみた かっしょくきょにゅうが そこにいた