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第7節 波紋



ロイスはキルヒとフェリを学園に帰し、王城にある自分の部屋で夜の会議まで眠った。やはり、疲れていたのだろう。仔竜の姿で一緒にゴロゴロしていたジュニアが起こさなければ翌朝まで目覚めなかったことだろう。未だ眠たい身体を起こすためにサッとシャワーを浴びると、いつの間にか用意されていた服に袖を通した。超級魔法使いのローブを纏うと、王の間に転移した。

すでにそこにはすでにドラックイーンに従順な捕虜と、ドラックイーンが待っていた。


「ロイ君。聞いたわよ、控え室に女の子連れてきて抱きしめあってたんだって?ドラックイーンお姉さんに紹介しなきゃだめじゃない」

「…ガーゴイルですね………今度紹介しますよ」

「やだぁ、また面白おかしく噂話してるのかと思ってたら本当だったのぉ?びっくりよぉ」


続々と、ヘラやガーゴイル、王族が転移してきて、残すところはあと王と王太子、残る1人の超級魔法使いのみだった。超級魔法使い達は階下に用意された6つの椅子に座った。ここで、残る1人の超級魔法使いを紹介しよう。じいやである。いつ休んでいるかわからないがいつも王の側を離れない上に、格好も執事のような燕尾服を着こなしている。事実、王の執事として王の面倒をみている。聞いた話だと、先先代の王の時代から超級魔法使いとして支えているらしい。正直本気で執事として仕えているとしか思えず、実力を知る者はいないと言われている。謎多き人物だ。

残る3人が転移して現れた。王と王太子は上段にある王座に座り、じいやは階下の6つの椅子の真ん中に優雅に腰掛けた。


「Dr.ドクター、異世界を展開せよ」


王は、Dr.ドクターに告げた。はい、と応えたドクターはすぐに魔法を展開し、黒い宇宙のような世界で全員を包んだ。これこそがドクターの究極の魔法だ。メタスターの一種で、転移する座標が別の世界にあるようなイメージだが、言わば、ドクターが作り出した異空間だ。この世界はドクターが指定した者しか入れずドクターしか出すことができない。王に危険が迫ると王と自分を異空間で包み隠れることが可能であるため重宝される。また、このような秘密の会議にも適している。異空間にいるので声が聞こえることもない。今王の間にはただの部屋にしか見えないだろう。今までどんな超級魔法使いもこの魔法を使えなかったことから、ドクターのメタスターの才能を窺い知ることができるだろう。

これで会議の支度はなった。


「ドラックイーン、はじめてくれ」


王太子が穏やかに微笑んで言った。ドラックイーンは頷くと捕虜に質問をした。


「あなたに王子を襲撃しろと命じたのは誰?」


全員の視線が捕虜に集中する。捕虜は遠くをぼんやりと見つめうなっていたが、ドラックイーンに質問されると素直に口を開いた。自白剤が効いている。


「あの、御方…」

「それは誰?」

「名前は知らない…あの御方はあの御方だ…高貴なる存在…我らの希望………」

「高貴なる存在ってなぁに?」


『…あの御方は………偉大なるマーリン様の子孫。このウィテカー国の正統なる後継者………』


「なんだと?!」


王が王座から立ち上がり、怒鳴った。否、驚き過ぎたというのが正しい。ドラックイーンとロイス以外に衝撃が走り、困惑し、怒りが生まれ、謎が生まれた。

マーリンには息子が1人いた。その息子がウィテカー国の初代王である。それ以降、王は王妃以外に側室を持たず、婚外子などいるはずもなかった。この国の王の決め方は単純明解で第一子が王位を継ぎ、第一子以外は王位継承権も持たず次代の王に王位を譲ると王族の身分を奪われ一平民となり貴族にもなれなかった。面白いことに、市井の民になった王族の子は全て平民程度の能力しか持たない。おそらく、マーリンがそう言った魔術をかけているのだろう。今代の王で言えば王太子以外はいずれ一平民となり、市井で暮らすことになる。マーリンの叡智を受け継いだ王族は王位継承権を争うことはなく、自らの運命に忠実なのもきっとマーリンが魔術で操作していると考えられる。


「…な、何故正統だと思うのだ…」


王の声が震えている。捕虜の目には何も映っていないようだった。


「…あの御方は王族が使う広域魔法を使える…しかも今の王族には扱えない、”禁呪使い”でもある…あの御方に使えない魔法などない…我らの希望………」

「!」


ヨロヨロと王は王座に崩折れた。そんなはずはないと思いたかった。王は頭を抱えてしまった。マーリンの叡智を持ってしても、わからないのだから。

しかし、王太子は驚きつつも冷静であった。静かに捕虜に尋ねる。


「マーリンの叡智を受け継いでいるなら、後継などで争うことより国民を考えるはずだ。あの御方はなぜ我が国の王子を襲った?何が目的だ?」

「…全ては聞いていない…だがあの御方は、マーリン様からのお告げだと言っていた。マーリン様の形見の1つであるグリモワールから声が聞こえると聞いた。あの御方は、第3王子と話をしたいと思っていたようだ…話がわかるとな…」

「……マーリンの後継と言う証拠は?形見である証拠は?」

「…緑の瞳。マーリンの直系にしか見られない色だ。そうだろう…?」


緑の瞳。マーリンの直系にだけ現れる瞳の色だ。市井に堕ちたマーリンの子孫も不思議なことに目の色が変わる。本当に、王と王太子しか緑の瞳を持つ者はいない。それこそが証明と言ってもいい。

しかし、瞳の色も認識魔法で違って見せることも可能かもしれない。全てが嘘の可能性だってある。ただ、直系である可能性もあるのだ。


「認識魔法で見せていただけのことだろう。よからぬ宗教団体ではないか?」


レオナルドが苛立たしげに言った。信じていないらしい。


「…いいえ。認識魔法でも、たとえ変身魔法でも禁呪でも緑の瞳は作れません。緑の瞳にはマーリンの禁呪が掛かっています。禁呪の解除も、解析も不可能でした。おそらく遺伝子に魔法をかけているとしか思えません。自分の瞳を認識魔法で変えたこともありますが緑の瞳だけはどうしても作り出すことができません」


ロイスが静かに否定した。ロイスは超級魔法使いであり禁呪使いである。レオナルドの護衛の為姿形を変えたり目の色を変えたり、禁呪で王子の目の色を変えたこともあるがどんなことをしても緑の瞳にだけはすることができなかった。まぁ、はっきり言えば実験したのだ。色々と、色々な人に。

レオナルドもこれには驚き、ますますマーリンの直系である可能性が出てきた。王は頭を抱えていたが、はー、とため息をつくとしっかりと王座に座りなおした。導き出された答えはもはや1つしかなくなった。


「マーリンは我ら以外にも子を残していたようだな」

「ち、父上!まだそうと決まったわけでは!」

「だが、どちらにせよ早急に調べる必要がある。ドラックイーン、あの御方について詳しく聞き出せ。アジトの場所も知りたい。アジトがわかり次第、ロイスとガーゴイルが行け。とにかく一度頭を冷やす」

「「はい。」」

「このことは一切他言できぬようロイスが禁呪をかける。いいな、くれぐれも秘密裏に行うのだ。誰にも知られてはならぬ」


はっ、と全員が返事をした。王はドクターに目配せをし、ドクターは異世界を解除した。ロイスはすぐに全員に禁呪をかける。かけ終わると、全員が思い思いに散った。王はまた別の仕事をしに戻り、王子達は王城の図書館に行くようだ。ドラックイーンとロイス以外はそれぞれ護衛に回るようである。

ドラックイーンはすぐにあの御方について聞き出したが、それほど有益な情報は得られなかった。アジトも聞き出した。

数時間後にロイスとガーゴイルが王国の郊外にあるアジトとされた館に行ったものの、すでにもぬけの殻だった。ただ、館には人がいた痕跡が残っていた。祭壇のようなものもあった。

振り出しに戻ったが、強大な敵が存在していることは明らかだった。

今後、王国を脅かす事件が次々に巻き起こることを、会議をした全員が予感していた。

これで一章終了です。お付き合いいただいた方、ありがとうございます。引き続き二章をよろしくお願いします!

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