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第6節 記憶



「ロイス、この度の任務大義であった。三日ほどレオナルドも公務がない。休暇を十分に取ると良い」


すっかり日も暮れ、月明かりが王城を照らしている。

王城の王の間には、数段階段を上った上に今代の王と、王妃そして王の子供達が決められた座席に鎮座していた。王族の背後には、超級魔法使いの5人も立っていた。ガーゴイルの姿もあることから、学園の戦闘は終わったものと思われる。

今代の王は、3人の王子と1人の姫に恵まれ皆マーリンの叡智を受け継ぎ、国民思いの素晴らしいものたちだ。今も地面に跪くロイスに穏やかに笑いかけている。しかし、第3王子レオナルドだけはぶすくれて肘掛けに腕を置いて頬杖をついていた。公務がないと王は言ったが結局、3日間の謹慎を言い渡されたのだろう。

さぞ王や王太子からこってり叱られたのだろうとロイスは苦笑いしてしまった。


「はい。お心遣いありがとうございます」

「…明日の夜には、敵の話もわかるだろう。夜にまた話をしよう。他のものたちもそれで良いな?では、我々は夕食にしよう。ロイス、下がってよいぞ。よく休んでくれ」

「はい、失礼致します」


謹慎中の3日間は、ロイスの代わりに他の超級魔法使いがレオナルドの護衛に着くのだろう。ロイスはここ数週間、昼は学園に潜入したり国境警備に出かけたり夜はレオナルドに付き合って城下町に視察に行ったり、レオナルドに命じられて魔獣討伐に行ったりと休みが全くなかった。色々やらねばならないことはあるが、まずは超級魔法使いの控え室に行くことにした。控え室は、超級魔法使いが交代で詰めている部屋で、だいたい全員この部屋で待機している。

待機室につくと、超級魔法使い3人がのんびりとしていた。その中にはガーゴイルもいた。


「あれ、ロイ君?うちに帰らなくていいの?」


ロイスに先に声をかけたのは、ヘラだ。ヘラは超級魔法使いでもドラゴニスタを駆使する魔法使いだ。王城の竜舎の管理も任されている。今の超級魔法使いの中では一番新人で、なってから数年とたっていない。短い水色の髪と黄色の目に、女性にしてはしっかりと筋肉のついた体から、戦女神などと呼ばれている。ヘラは非番らしく、膝の上に乗せた最近産まれた仔竜に餌をやっている。

ガーゴイルはソファでゴロゴロしていて、もう1人のモヤシのようなひょろ長い男性は椅子に座って本を読んでいた。Dr.ドクターと呼ばれるその人は、空間魔術を極めた否はっきり言えば空間魔術以外は平凡と言っていい。空間魔術、すなわちメタスターの天才である。

ロイスはガーゴイルに話しかけた。


「ええ。少し気になることがあるんです。ドラックイーンさんは?」

「お楽しみ中に決まってんだろ?多分地下牢にいるんじゃねーかな」

「…でしょうね…」


ドラックイーンは敵を拷問するのが趣味で、そう言った魔法や薬に長じている。今も楽しく聞き出しているはずだ。

ロイスには気になることがあった。敵の正体もだが、学園内に侵入できた訳を知りたいのだ。学園は、入学を許可されたものと、職員しか入れない厳重な魔術システムである。だからこそ、外側からの攻撃ならわかる。そうするしかないはずだ。しかし、内部にあれだけの術者を送り込むには何か魔法が働いているはずだ。ロイスは、それが気になって仕方なかった。

きっと他の超級魔法使いも気になっているはずだ。

すぐにロイスは地下牢の一室に飛んだ。くぐもった声がわずかに聞こえている。


「…ドラックイーンさん」

「あらぁロイ君。今日のお土産はとっても我慢強くて私、興奮してきちゃった♡あぁん、ゾクゾクしちゃう!いつまでも遊んでいたいわぁ」

「まだ吐かないか…何か情報は?」

「そうねぇ、”あの御方”と口を滑らせたくらいかしら?本当に口が固いのよ」


ロイスが捕まえた敵は、すっかり変わり果てていた。ドラックイーンの魔法で魔力はすでに生存に必要な量しかなく、薬の影響で意識もぼんやりとしているはずだ。ドラックイーンは肉体を拷問するようなことはしない。相手の情報を貰えば記憶をクリーンにして自分の親衛隊に入れてしまったりするので、根は優しいのである。

興奮してはぁはぁくねくねしているドラックイーンを横目に、ロイスは敵をジッと見つめた。

瞳に魔力を集め、解析する魔法の一種だ。ロイスに見えたのは、古代語より遥か昔に存在したと言う文字列。マーリンが初めて生み出したと言われる魔法陣も現在と違い複雑で魔法の力を最大限に引き出すことが出来ると言われている。


「…記憶に禁呪がかけられている!」

「なんですって?禁呪使いが敵側にいると言うの?!」

「…それで合点がいきました…禁呪を使えるものがいるなら学園に内部から侵入することもできる。認識魔法で今この瞬間にも…居る可能性すらある!ドラックイーンさんがどれだけやろうとも無駄だと相手はわかっているんだ。言わずの禁呪をかけている」

「うふふ、ふふ、でも大丈夫なんでしょう?」


相手に禁呪使いがいるように、この国にも禁呪使いはいる。禁呪使いは禁呪に使用されている超古代語を読んだり発音したり魔法として使用できる特殊能力だ。その遣い手は国の極秘人物として扱われこの国にはいないことになっている。禁呪使いが一度他国に流出すれば、あっと言う間に世界が滅んでもおかしくないくらいの禁じられた魔術なのである。

実際、この国には禁呪使いが2人いる。

そしてその1人が、今この場にいるロイス・カルディアである。禁呪が掛かっていることを見抜けたのも、なんの禁呪なのかも本来はわからないはずだ。禁呪使いでなければ。


『我、祖の言葉を知る者也』


ビクッと、捕虜が跳ねた。はじめて捕虜の瞳に焦りが見える。高濃度の魔力の奔流がロイスの身体に流れ込んでいく。


「や、やめろ!なぜ禁呪使いが…!この国には禁呪使いはいないと、」

『我、祖の言葉をもって、魔術を解放す』


ロイスの周りに数千もの超古代語が浮き上がり、三重の円を描き、ふよふよと浮いていた文字列は、まるでパズルのように3つの円の中のそれぞれ3文字がカシャリと組み合わさると、次々にカシャリカシャリと各文字列が3つ毎に組み合わさっていく。これはコドンと呼ばれ3つで一文字を表していた。もっとも、これを知るのは禁呪使いだけだろうが。


『かの魔術を打ち消せ』


パチン、と捕虜の禁呪が弾けた。がくりと捕虜が力を抜いた。ロイスはドラックイーンに目配せすると、ドラックイーンは深く頷いた。そして拷問はまたはじまった。


この捕虜からこれからもたらされる情報が、この国を、ロイスを巻き込んだ大きな嵐をもたらすことを2人は想像もしていなかった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー





学園襲撃事件の翌朝、キルヒはなんとロイスを覚えていた。薄れることなどなく、むしろ未だ鮮明だった。もちろん、ジュリアスとリリィに言われたこともはっきりと覚えていた。どうなってるんだ…!と悲しみを通り越してロイスに怒りを覚えてきたキルヒである。とにかくロイスにあって文句を言ってやらなければならないと、昨日の涙は何処へやら。きっとフェリも同じ気持ちだろう。

学園へ向かったキルヒは、すぐに学園長の部屋に向かった。すでにフェリも部屋の前にいて、フェリも目を腫れぼったくさせながらイライラとしているようだった。

2人は目配せをし、ガチャリと学園長室の扉を開けた。

そこには、山積みの書類に囲まれながらも優雅にお茶を飲んでいる学園長の姿があった。側には護衛のジュリアスが立っていた。


「「学園長!」」

「おや。どうしたんだい?血相変えて」

「今すぐロイスに会わせてください!」

「どこにいるんですか!」

「え、ええ〜?!」


鬼の形相で迫る2人に、ビビる学園長であった。

学園長もなぜ2人がロイスを覚えているかわからないことに加え、どうやら2人とも中々激怒している様子だ。

ジュリアスは堪えきれずにくっくっと忍び笑いしてしまっている。


「なんで君達、覚えてるの…?そんなことあるのかね?」

「「そんなことはどうでもいいんです!とにかく今すぐロイスに会わせてください!!」」

「は、はい…」


ものすごい剣幕に、学園長も頷くしかなかった。認識魔法が効かないことなんてあるのか?と学園長は疑問に思いながらも、ロイスの元に2人を連れていくことにした。学園長は本当はロイスも学園に通うべきだと考えていた。もう習うことはない程すごい魔法使いだが、同世代の友人や学園生活を楽しむのも若いうちにしか成せないことだからだ。ロイスがキルヒとフェリという友達を作ることはむしろ喜ばしいことだと考えている。

ロイスは、休暇を言い渡されたものの、きっと超級魔法使いの控え室にいるはずだ。もちろん、キルヒとフェリだけでは入ることすら許されない場所だ。ロジナルドは、一緒に控え室に転移した。


「ロイスくーん」

「ロジ、…?!」


控え室にはロイスと、ガーゴイルが控えていた。

ロジナルドの気配に気がついたロイスは、背後にいたキルヒとフェリを見て心底驚いた。ガーゴイルはサンドイッチを頬張っていた。

ズンズンズンとキルヒとフェリがロイスに向かっていき、思いっきりぶん殴る、訳ではなく抱きしめた。

キルヒもフェリもロイスの顔を見た途端怒りが消えて、嬉しい気持ちでいっぱいになった。


「よかった、君は僕たちを忘れてないんだね」

「私!ロイスが超級魔法使いとか王子の護衛だとかどうでもいいわ!親友じゃない!私達だけ忘れさせるなんて酷いわ!!」

「キルヒ、フェリ…どうして…」


俺の認識魔法は正確だったはずだ、と言う気持ちと、また2人に会えた喜びがないまぜになった。ようやく絞り出したのはどうして、という言葉だけでロイスはなすがままにされている。

キルヒとフェリはロイスを抱きしめるのをやめ、ぱあっと明るい笑顔になった。ふわりとキルヒのドラゴン、ノクターンとフェリのドラゴン、アンジェラも現れて微笑んでいる。


「そんなことどうだっていいじゃないか!僕、君を失いたくないんだ。君は僕の初めての親友だと言っただろう?」

「そうよ!だいたい、ロイスだって私達しか友達いないじゃない!強がったってバレバレよ!」

「………否定はしないけど」

「任務があるから忙しいかもしれないけど、たまに会うことくらい出来るだろう?またドラゴンに乗って遊びに行こう?」


でも、となにやらもだもだしているロイスと、友人をやめる気は無い2人は見ていておもしろい。

そんなやりとりを見ていたロジナルドとガーゴイルは笑いながらも、彼らを暖かく見守っていた。が、ロジナルドはいいことを思いついたふりをして、手を叩いて自分に注目させる。


「あ、それならまた認識魔法で学園に入学するのはどう?ロイス君は実質卒業どころか教師レベルだけど、超級魔法使いが生徒をしちゃだめなんて決まりないし!そうしたら3人は同級生!解決!」

「そうよ!そうしましょう?」

「いやいやいや任務とかでいつ行けるかわからないし目立つし王子の護衛は…」

「別に来れる日に来ればいいさ。大体、一回も来なかったとしても君が卒業できない訳ないだろう?心配しなくたって進級も卒業も決まってるよ。レオナルドだって王城にいる日は他の超級魔法使いが見てるんだし。何にも問題ないじゃないか?」


ロイスは最後まで渋っていた。学園に通ってはみたいし、キルヒやフェリと友達で居続けたいのは事実だ。しかし、ロイスが一番危惧していたのは超級魔法使いのロイスの大切な友人と知れた時、もしも人質に取られたら?命を狙われたら?ということだ。ロイスはあくまでも王子の護衛だ。常に一緒にいられるとは限らない。

うじうじとしているロイスに、フェリは言った。


「結局、ロイスは私達と一緒に居たいの?!居たくないの?!」

「………一緒に、居たい」

「じゃあ決まりね!学園長!ロイスは学園に入学します!」


ロジナルドは大層喜んだ。結局、ロイスは特待生および特別講師として学園に『昔から』居たことになった。メタスター学科の副主席になったためキルヒは初めてのクラスメイトを持つことになった。また、風紀委員副会長に任命された。超級魔法使いであることも学園の生徒は知っているが、卒業するまでは公にはしないという設定である。そんなこんなで、ロイスは『本当の』学園生になったのである。

ちなみに、なぜキルヒやフェリの記憶があったのかだが、ジュニアがアンジェラに忘れられたくないためにフェリだけは解除したのだが、ノクターンにも忘れられたくないのでついでに解除したと白状した。ジュニアにはロイスから一週間餌なしの刑に処されたのは言うまでもない。

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