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第5節 実力



金髪に、青い瞳。比較的がっしりとした背格好。

どこからどう見てもキルヒが親友と疑わないロイスである。

しかし、キルヒの問いにはロイスの様な人物は応えず、またフードを深く被ってしまった。


「…来い、シャルン」


ロイスの様な人物は呟いた。一瞬にして、人間の姿のジュニアが転移して現れた。ますます、キルヒとフェリの頭に疑問がたくさん生まれる。しかし、余りの緊迫感に声も出せなかった。

白いローブの男は、魔法陣を王子2人とテーブルが入るまで広げた。目に見えるほどの古代文字の羅列が魔法陣に吸い込まれ、ドン、と鳥かごに似た檻に王子2人を入れてしまった。

王子は優雅に紅茶を飲んでいる。危機感のカケラも感じられない。

周りの生徒達に、衝撃が走る。彼は敵なのか?と。

それに反応したのはジュリアスだった。フーッと安堵した様にため息をついた。

キルヒとフェリだけが、ロイスの様な人物否、ロイスが気になってそれどころではなかったが。


「皆、安心して大丈夫。これは、超級魔法使いドラックイーン様の魔法の1つ、≪バードゲージ≫。術者が死なない限りどんな物理攻撃、魔法攻撃も通さない。これで王子は大丈夫」

「…空を見ろ、ジュリアス。まだ終わっていない」

「わかってるよ〜!」

「地上の敵は任せた。俺はシャルンと迎え撃つ。じきにドラックイーンさんが来るだろう。それまでもちこたえろよ」

「はいはい」


浮遊している学園の校舎を取り囲む様に小さいがドラゴンが見える。結界を壊すべく攻撃が降り注ぎ地面を揺らしていた。

ロイスはジュニアを連れ、ふわりと空に浮いた。空間魔法と風魔法、重力魔法を高度に使うことで空中に浮遊できる魔法だが、生徒達ができるものを見たのは初めてだ。それほどに難しい魔法コントロールが必要となる。

そんな美しい魔法に見惚れていた風紀委員は、ハッと今やらねばならないことを思い出した。学園生を逃さなければ。リリィが先導し、市街地への転移魔法を展開する。首席会も風紀委員の面々は急いで生徒達に避難を誘導した。

キルヒとフェリだけが王子の隣で呆然とロイスを見上げていた。


「どうして…どうしてなにも言ってくれないんだ、ロイス………」

「キルヒ…?泣いてるの…?」

「うっ、だって…僕の初めての友達なんだ…僕は…っう、うう」

「泣くでない、キルヒ君」


キルヒの目からは涙が止まらなかった。友達のはずの友達が、全く違う人間に見えた。キルヒとフェリの知るロイスは、サボリ魔で友人を大切にし笑いあっていた。キルヒは直感していた。友達としてのロイスを失う、と。

今までのロイスは、嘘で作られていたのだと。

フェリも、ロイスが偽りのものであったと悟ったが、それより悲しかったのは、ジュニア、いやシャルンに名前を偽らせていたところだ。もしも自分が同じ立場だったら、アンジェラに名前を偽れと言うことができるのだろうか。フェリも、知らず知らずのうちに涙がでて止まらなかった。

キルヒとフェリの悲しみに答えたのは、レオナルド王子だった。


「ロイスは超級魔法使いであり私の護衛なのだ。学園に潜入し、不穏分子の有無や警備体制、ジュリアスとの連携法などを探らせていたのだ。わかってくれとは言わないが、ロイスは嘘をつくしか、なかったんだ」

「そんな…」

「私から謝る。許してくれ。すまない。…しかし、まさかロイスが潜入先で友人を作るとは思わなかったなぁ…まぁ、覚えてはいないとは思うけれど」


王子の言葉に2人は?と首をかしげるしかなかった。続きを聞こうにも、地面が大きく揺れてそれどころでは無くなった。

小さかった敵影ははっきりとし、数、約千人とドラゴン数百体。全員が魔法で攻撃を仕掛けてくる。そろそろ、学園の結界が限界だろう。

そんな中、リリィとジュリアスは生徒達を逃がし、急いで戻ってきた。2学年の生徒だけではなく、全学年を帰宅させるまで気を抜けない。風紀委員はあちらこちらで走り回っている。

ロイスはその膨大な魔力で瞬時に結界を構築し直した。ジュニアをチラリと見る。


「ーーー堕とせ、シャルン!」

「造作もないことよ。我が主人」


ジュニアがゆっくりと手を上にあげる。あたり一面に広がるロイス以上に強大な魔力。ゴクリと、生徒達は唾を飲み込み、見つめている。


「聞け!同胞よ!我が名はゼウス・ジュニア・ジュニア・ジュニア。竜王の息子にして次代の王。同胞達よ、頭が………高いッ」


すっ、とジュニアは腕を振り下ろす。同時にまるで重力を失ったように全てのドラゴンがドン、ドン、ドン、と急速に落下した。遠くから悲鳴が聞こえてくる。いきなり落下したのだ。ドラゴンから振り落とされ、高速で落下していたため、魔法の展開すら間に合わずに死んでいく。

そんな様子を見ていたロイスとジュニアは風魔法で飛んできている敵を倒しにかかる。竜に成り代わったジュニアが縦横無尽に飛び回り、ロイスは各敵魔法使いの上に転成陣を生成し雷を出したり石化魔法をかける。ロイスはその場から一切動いていなかった。

驚くべきほどの魔法構築スピードと同時展開発動。ジュニアとの連携も素晴らしく、ジュニアに素早く回復魔法をかけ身体能力強化魔法をかける。ジュニアもロイスを守るように敵の攻撃をあえて避けずその隙にロイスが魔法で相手を倒す。超級魔法使いの称号は伊達ではなかった。


「…そろそろか。ジュニア、小さくなって?」

「うむ!」


敵影も残りわずかに減った。わずかに減った敵影はまだ遠く、近くまで時間がありそうだった。そう思ったのか、シャルンではなくジュニアと言い、ロイスはジュニアを呼び寄せた。

王子のいる鳥籠が急に揺れた。そしてキラキラと風に流されるように消えた。

するり、と地面から生えてきたのは男女2人。どちらも白に金の刺繍がしてあるローブをまとっていた。


「ガ、ガーゴイル様とドラックイーン様!!」


生徒達に衝撃が走る。現在王国が抱える超級魔法使いのガーゴイルとドラックイーンが現れたのだ。現在王国には5人の超級魔法使いが公表されている。公表されているだけあり、王の側に常に控え様々な行事にも顔を出す。そのため、国民のほとんどが5人の顔を知っていると言っていい。公表されていないロイスの存在が明るみに出てしまったので正確には6人のようだが。

ガーゴイルは赤い髪に赤い目で筋骨隆々としたおよそ魔法使いとは思えない肉体派だ。しかし、その手先の器用さや繊細な魔法剣技には定評がありこと戦闘においては現在の超級魔法使い1とまで言われている。 戦闘狂とも呼ばれ、積極的に魔獣討伐や敵の排除を行う。

反対に、白い髪に白い肌、白に近い瞳が美しい、ドラックイーンである。ドラックイーンは薬の女王と言われ回復魔法や魔法薬学に通じている。特に自白剤と人物操作剤はピカイチで、そう言った業務を請け負っている。しかし、ドラックイーンの防衛魔法はかなりの物で、現在使えるものはドラックイーンしかいない、はずだ。

そんなわけで、2人はセットで行動することが多い。


「王子、ご無事ですね。私の防衛魔法に護られていたのですから、当然ですけれど」

「おっなんだなんだロイ坊の奴ちっと敵残してくれてるじゃねーか!おーいロイ坊〜!」

「あとはあの戦闘狂に任せて、帰りましょう。国王陛下とフェルナルド王子が大層心配なさっていますよ。ロジナルド様、あなたもですよ!」


笑顔なく滔々と叱るドラックイーンに、はいはい、と王子二人は立ち上がる。そこにふわりとロイスが空から降りてきた。ガーゴイルがロイスに駆け寄って、頭を撫でる。ロイスの腕には自分が倒した特級魔法使いが気を失っている。


「ロイ坊〜楽しかったか〜?んー?」

「ガーゴイルさん、敵来るんで早く上行ってください。先に帰ります。ドラックイーンさん、コレお土産」

「お疲れ様、ロイ君。あらあらうふふ、敵さんね?嬉しいわぁ。それとジュリアス。あなたあとでお説教ですよ。この程度の人数を捌けないなんて恥ずかしい」

「ひっ!イ、イエス、マム!不徳の致すところであります!」

「では皆様、お騒がせしましたわ」


そして、シュン、と一瞬にして消えてしまった。

消える瞬間、キルヒとフェリはロイスを見た。チラリと目があったあとロイスは寂しそうに笑ったように見えた。

残ったガーゴイルは、ロイ坊が冷たい…などとブツブツ言っている。

一方、ジュリアスは恐怖に震えていた。ジュリアスはドラックイーンの親衛隊員でドラックイーンの指導を受けている。親衛隊とは、各超級魔法使いに付与される私兵のことだ。親衛隊員は自分の超級魔法使いを護り、共に戦闘に行く小さな軍隊のようなものだ。親衛隊員は超級魔法使いによってしか選ばれず、超級魔法使いは親衛隊員を強化する使命がある。言ってしまえば、弟子を取ったような形だ。ちなみにロイスはガーゴイルの親衛隊員だったし、リリィも実はドラックイーンの親衛隊員である。もっとも、親衛隊員が超級魔法使いになれば別だ。親衛隊員からは卒業することになる。


「お前達、さっさとウチ帰って寝な。あとは俺がやっとくからよ。ほれ、危ないから帰った帰った!」


敵の攻撃は未だ止むことを知らない。地響きが風紀委員達を襲っていた。ガーゴイルは楽しそうに戦闘を始めた。その様子を見たリリィが魔法陣を展開すると、全員次の瞬間には城下町の広場にいた。

ジュリアスとリリィが敵が何者で何が目的だったのか、と話し始めた。あれほど多人数の魔法使いを集めている組織は知らなかった。どこかの国の者だろうか。

ハッとしたキルヒは、ジュリアスに詰め寄る。そんなことはどうでもよかった。ロイスのことを聞かなくては。


「ジュリアス先輩、ロイスのことを知っていたのですか?学園にいたことも知っていたのですね?」

「もちろんさ。でもさぁ〜潜入中だし。君とフェリ君と仲良くなっていたことも知っていたよ。そうだなぁ、うーんこれ言っていいのかなぁ?」

「…言ってあげるべきです、委員長」

「…そうだね。キルヒ君、フェリ君、君達のロイスの記憶は明日には無くなるだろう。認識魔法と言う魔法でね…そこにいたことがないのに居たように、あったはずがなかったように感じる魔法なんだ。ロイスと言う生徒はグリモワール科に存在して居なかったが、全員昔から居たように思っていたはずさ。そして、ロイスが潜入を終えた今…認識は前に戻り、ロイスという人間を知ることはないだろう。誰一人ね」


キルヒとフェリは愕然とした。あの楽しかった思い出も、ロイスの姿形すら忘れてしまうのだ。涙が止まらなかった。忘れたくない、そう思っているのに、すでにランドシュタイナーはグリモワール科にロイスなんてやつ居たかな?などと呟いている。

リリィが悲しげに2人に話しかけた。


「…ごめんなさい。今は2人とも悲しいでしょうが…明日には覚えて居ないはずです。心苦しいですが」

「わ、わがっでいまず…っ、任務なんでじょう?ぐっ、うぅ、しかだながった…仕方なかったんだ…ッ」

「…ロイスのバカ…ッ!ひどいじゃないッ…忘れたくない、忘れたくないよ…」

「もう、帰りなさい…疲れたでしょう…」


リリィもジュリアスも、王国の極秘任務についている身として居たたまれなくなった。超級魔法使いとはこういうものなのだと、改めて決意させられた。

いつまでもわんわん泣いている2人を、リリィはフェリを、ジュリアスはキルヒを送って帰った。残っていたのは、涙で不自然に濡れた地面のレンガだけだった。

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