表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/45

第4節 王子



3人はまるで昔から親友だったかのように仲良くなった。昼食を一緒に食べたり、ドラゴンに乗って空を飛んだり、例のお菓子屋にもまた行った。

フェリは女友達が沢山いるが、キルヒは違った。キルヒは、メタスター科に入学したと同時に友達を作る機会を失った。メタスター科は、各学年に1人もしくは多くても3人程度しか入学しなかった。第2学年は、キルヒただ1人しかメタスター科がいない年だった。加えてメタスターは他の学生からすれば将来を約束されたエリートで雲の上の存在だ。それほど、転移魔術ができる存在は稀有なのだ。まして、キルヒはグリモワール以外の魔法を使える特級魔法使いだ。余計に、近寄りがたいのだろう。

ロイスはキルヒにもフェリにもいい意味で普通だった。はじめこそ、他人行儀だったが今はへりくだる様子もなく、特別扱いもしなかった。はじめは興味がないのかと思ったが、ロイスが本気で興味がない人は話さないしフードもまず取ることはなかった。キルヒはそれがなにより嬉しかったのだ。

今日は朝からたまたまロイスとキルヒは廊下で出会った。


「おはようロイス」

「ああ、キルヒ。風紀委員頑張ってね」

「はいはい…ロイス、寝ちゃだめだぞ。王子はグリモワール科も見にいくんだからな」

「うーん、サボりたくなってきた…ふぁあ、眠いや」


じゃあね、とフードを被って眠たげに講義室に歩き出したロイスをキルヒは苦笑いしながら見送った。キルヒも王子を出迎えにいくため、集合場所に転移した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



昼食終了の鐘と共に、王城から繋がる転移魔術陣に反応があった。数秒後に現れたのは、レオナルド王子である。


「邪魔をする」


世の中の女性が失神するような天使の様な微笑みだ。マーリンから受け継いだ滑らかな茶色の髪と深緑の瞳は見るもの全てを癒やすと言われているほど崇められている。

出迎えたのは、ほとんど同じ顔をした学園長ロジナルドと、風紀委員会そして先生達だ。


「よくきたなレオナルド!早速、校内を案内しよう」

「おいおい、随分物々しい護衛の数だな。心配症だな兄さんは。まぁいいけど。さ、行こうか」

「ははは、そうかもね。まずは各学年の校舎を案内しよう」


この学園は特殊なつくりをしている。学園と言うが、地面にはない。宙に浮いているのだ。6つのそれぞれ違った校舎が並んでおり、学年毎に校舎が違う。例えば、1年生は一番右の校舎で、二年生に上がると左上の校舎に変わる。そんなサイクルで6年間を過ごす。特に6学年校舎は煌びやかで、6年間頑張ったことを表すようだと言われているほどだ。

その校舎はそれぞれ転移魔術で移動するか、ドラゴンで移動するかに分かれるが、とにかく面白い仕組みなのだ。今回は、リリィのメタスター能力で全員一気に転移させる予定らしい。

1時間ほどで各学年の校舎を回った後は、各学科の様子の見学を行った。キルヒはグリモワール科を見た際にロイスを探したが、いなかった。サボったな、とため息をつくしかなかった。


「兄さん、防衛魔術科とドラゴニスタ科は?」

「ああ、今日は休講にして警備に入ってもらってるんだ。そうだ、竜舎の案内がまだだったな。食堂も行かなきゃな」

「俺のために休講にしなくたって…過保護すぎるんじゃないのか?」

「おいおい、よせ、褒めても何もないぞ」


褒めてない、と全員思ったが言うことはなかった。ロジナルドは弟を大事にしている。が、多少行き過ぎていることで有名でもあった。

次に行ったのは竜舎だった。竜舎は、校舎と比べると小さいが食堂と竜舎が合わさった浮遊物である。他の校舎と同じようなシステムだ。

今はほとんどのドラゴンが外の警備に出払っているが、竜舎には身籠っているドラゴンと、ロイスのドラゴンのジュニアとキルヒのドラゴン、ノクターンが大きな図体でゴロゴロしていた。ノクターンはともかく、ジュニアがいるということはロイスも学園にはいるようだ。


「ほぉぉ、金色のドラゴンとは珍しい」


レオナルド王子がニコニコというよりニヤニヤ近づいて、ジュニアに触ろうとした。ブン、とジュニアは尻尾を振り、無言で王子を追い払った。

キルヒは内心、馬鹿!王子になんてことを!と思ったが王子はハハハと笑ってそれ以上触るのをやめた。若干ジュニアの機嫌が悪そうな気がする。

王子が案内を受けはじめると、キルヒのドラゴンのノクターンがキルヒに嬉しげに近づいてきた。くるる、と鳴いて甘えるノクターンの頭を撫でてやり、こっそり聞いた。ジュニアの機嫌が悪いのか?と。ロイスがいるから機嫌はいい方だよ、と返事をして、ノクターンは満足したようにジュニアの隣に寝転がった。二頭はすっかり仲良しだ。

ロイスがいるの意味を校内にはいると解釈したキルヒである。


「学園長、そろそろお茶会のお時間です」

「ああ、そうだった。二学年の校舎に行ってくれる?」

「畏まりました」


あらかた案内し終わった一行に、リリィが声をかけた。王子と同い年の第2学年の学科首席会の面々と食事をする時間が迫っていた。お茶会は、第2学年のバルコニーで行われることになっていた。バルコニーは、単純に言えば外に面した学生の広場のようなものである。第2学年のバルコニーは、古い時代の遺跡の様な面白い作りになっている。校舎毎にバルコニーの形状が変わるのも、学園生活の楽しみの1つだ。

リリィはすぐに大きな転成陣を作成してみせた。シュン、と音を立てて一行は消えてしまった。

一行は、すぐにバルコニーに到着した。そこには大きめなテーブルと学科首席会の面々が緊張の面持ちで座っていた。

授業が終わったので、それ以外にも校舎の窓やバルコニーの入り口、果ては他学年までもコソコソと一行の様子を伺っていた。


「皆、楽にしてくれ」


レオナルド王子の必殺スマイルが面々を襲う。どこかで女生徒が失神した音が聞こえた気もするが、それは今はどうでもいいことだった。

二学年の学科首席会は、メタスターのキルヒを筆頭に、次席としてフェリ、次にフェアリスト、防衛魔術、グリモワールのランドシュタイナー、ノーマルといった優劣が付いていた。大体の首席が3属性を操るが、フェリは4属性、キルヒは5属性を操れる。あとの優劣は成績や魔力量などでなんとなく決まっている。しかし、その学科の中で一番優秀なのは間違いない。

王子の隣には学園長と、キルヒ。王子の背後にはジュリアスが微笑んでいた。


「みんな、学園生活はどうかな?不自由はないかい?1人ずつ、学園の良いところと不満や悩みを話してくれないかい?」


レオナルド王子は兄、学園長に紅茶を注いでもらいながら言った。全員顔がひきつる。学園長と王子を前に、不満を言いたくはないのが全員の本音である。いきなり過ぎて学園長も若干苦笑している気がする。


「さて、キルヒ君。君は風紀委員で、メタスターの才能に溢れていると聞いているよ!君からだ!」

「え、ええっと…」


王子がわくわくした様にキルヒを見つめてくる。困ったキルヒは、学園長をみた。が、学園長はニコニコしているだけで、王子を諌める気はないようだ。言うしかないんだな、と潔く腹をくくった学科首席会の面々は急いで内容ひねり出すことに専念する。


「そうですね…この学園の良いところは、広く魔法を知れるところです。例えば、学科は違えど教養科目として各学科の素養を高められますし、メタスターや風紀委員に所属すれば6学年の校舎でより難易度の高い授業を低学年から教えていただけるシステムは本当に素晴らしいと思っています。えー、悩みは…その…友達が作りにくいところです…かね」

「ほほう。何故作りにくいのだ?優秀な君を慕う者は多いだろう?」

「みな、メタスターであり風紀委員に所属している私に引け目を感じているのか、親しくなろうと近づいてきても私のメタスター能力を利用しようとするだけの人もたくさんいました。…ですが、最近、友人が出来ました。それが嬉しくて…って、悩みではなくなってしまいましたね。申し訳ありません」

「よい。優秀で力のある者は時に孤独だ。それは私達王族にも言えることだ。まだ学園生活は長い。じっくり信頼できる者を見つけるといい」


王子は満足気に頷いた。キルヒも、深く頷いた。キルヒの脳裏には、ロイスとフェリとの楽しい日々が過った。大事な友人が出来てなんとなく誇らしかった。

次はフェリの番だった。


「私は、ドラゴンを育てる授業があることが嬉しいです。一流のドラゴニスタは、全てのドラゴンから愛され扱うことができると聞いています。タマゴから育て、ドラゴンと絆を育てることができるのは素晴らしいと思います。悩みはグリモワール科の先生の授業がわかりにく…?」

「!」

「あ、あれ?地面がゆ、揺れてる?」


フェリが話している最中だった。ドン、ドン、と身体に響くような振動があった。しかも、弱まるどころか強くなっているように感じた。慌てて風紀委員が王子を取り囲む。

次に動いたのはジュリアスだった。黒いローブの何者かが風魔法で加速しながら王子に向かってきた。ジュリアスが咄嗟に王子に結界を張ると同時に、お茶菓子に添えられていたナイフを侵入者に投擲した。ジュリアスのナイフは高速で侵入者の頭部に突き刺さる。加速魔法と風魔法を一瞬にして構築したようだ。その様子をジュリアスは見てもいなかった。否、そんな余裕は無かったのだろう。気がつけば10人ほどの賊に囲まれていた。

きゃあッ!と叫んだのは周りにいた野次馬達だ。ジュリアスは、王子も守らなければならないが風紀委員長として学園生も守らなければならなかった。


「リリィ、王子の結界を保って。風紀委員、首席達、王子を守れ!」

「「「はっ、はい!」」」


ジュリアスは普段から学園長の護衛として、また特級魔法使いとして数々の戦いを行なっていた。ジュリアスの全身には身体能力強化魔法がかかり、転移をしたり魔法を繰り出しながら次々に賊を殺していく。

リリィも、王子に結界を張ったままジュリアスを援護するように絶妙なタイミングで石のつぶてを敵にぶつけてジュリアスが倒しやすい様にしている。どちらも戦闘なれしていた。

しかし、それ以外の生徒は違う。ただ攻撃から身を守り、震えていることしか出来ない。目の前でこんなにも人が簡単に死んでいく。2人の王子達が、日常茶飯事だとでも言うように談笑しているのも、そら恐ろしかった。これが、自分達が目指す超級、特級魔法使いなのかと恐怖に震えるしか無かった。

10人ほどの賊のうち、ほとんどは大した遣い手ではなかったが、数人は特級魔法使いがいるようだった。ジュリアスも戦ってはいるが、一度に数人は骨がおれる。


「……っ! 王子!」


特級魔法使いの1人と応戦していたジュリアスが声を上げる。

1人の賊がジュリアスとリリィの攻撃を抜け、王子に接近した。ジュリアスが魔法を繰り出すも、相手も特級魔法使いだ。するりと避けて小型の剣を使って王子に振りかぶる。きゃっ、とフェリの悲鳴が聞こえる。結界を解除し王子が殺される、とぎゅっと目を閉じた。

キン、と金属と金属が擦れる音がした。

白いローブに、金の刺繍。目に見えるほどの魔力。

その男は小剣を使い賊の剣を弾くと息つく間もなく相手を殺した。膨大な魔力が弾けると氷の氷柱があちらこちらに居た賊に刺さり、戦闘を一撃で終わらせてしまった。その時、ヒュンと強い風が吹いた。白ローブの者のフードが外れる。


「…ロ、イス………?!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ