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第2節 出会い



午前中の授業を終えると、学生達は食堂か寮に戻る。食堂を利用するのは主に通いの生徒である。学園生には城下町の数カ所に転移魔法があるので、城下町から通う人も多い。一方寮生は国内でも地方の小さな村出身で通えない者や寮に希望した者が入る施設だ。寮生は食堂でお金を払うより寮の寮母さんに作ってもらう方が早いし混んでないし安上がりだからお得らしい。

食堂は正直、数千人規模の学生が居るので混んでいるし騒がしい。しかし、唯一全く混まず、すぐに超高級な料理をすぐに食べれる方法がある。


「風紀委員が来たぞ!お前達、道を開けろ!」

「ジュリアス様だわっ!きゃー!!」


そう、風紀委員会に所属すれば、だ。風紀委員会は各学年の成績優秀者から成るいわば強い者が所属できる委員会だ。その待遇や役割については割愛するが、とにかく偉い生徒である。

そんな風紀委員会の面々が食堂のメニュー表の辺りにある何もない壁に入って行くのが終わると、あとはもう席取り戦争だ。

魔法で宙に浮いているメニュー表を生徒たちは我先にと席に着くと一斉に叫び始めた。叫ぶたびにメニューの傍に書いてある数字が消えていき、そのメニューが叫んだ生徒の前に一瞬にして出て来た。魔法で配膳するのだ。

急いで欲しい料理を言わないとあっと言う間に売り切れる。売れ残るのは大体あまり美味しくないか奇抜なメニューだ。


「…今日の売れ残り」


そう小さく呟いたのは、朝遅刻して来たグリモワール科のロイスである。本日の売れ残りは魔獣肉のステーキ定食である。いつも売れ残りの不人気ナンバーワンメニューだ。


「…」


ロイスは結局魔獣肉を食べずに他のおかずで食事を終えた。しかし、ロイスが食堂を出るときにはなぜか魔獣肉は消えていた。


『第2学年の皆さん、使い魔がいる生徒は竜舎へ。未召喚の生徒は第二講義室へお集まり下さい。ローブを着用し…』


食事が終われば、午後の授業である。各学年の生徒がそれぞれの学科に戻る中、2学年の生徒たちはぞろぞろと持ち場に向かった。

ロイスが向かったのは、竜舎であった。つまり、彼は使い魔がいるかドラゴニスタなのだろう。ドラゴニスタの生徒たちはドラゴンを召喚しながら竜舎へと歩いて行く。

その中でも異彩を放つのが、赤いローブを着たドラゴニスタ学科の生徒たちである。とにかく可愛い、美人な女生徒ばかり。男子生徒もかっこいいもしくは美しい生徒が多い。何故見た目がいい人が多いかと言うと、ドラゴンが主人が見目麗しいのが好きだからだ。単純である。

そんなドラゴニスタ学科で首席の生徒が、フェリ・クライストである。真っ白なドラゴンを乗りこなし、自らも白い美しい髪を持つとても美しい女生徒である。

フェリが、竜舎に来るなりふわっとドラゴンの背に乗り空に舞い上がった。下には数百人の生徒が上を見上げている。


「第2学年の皆さん、聞いてください!私はドラゴニスタ学科首席、フェリ・クライストです。本日の授業は…」


ごくり、とドラゴニスタ学科以外の生徒達が生唾を飲み込んだ。


「竜の赤ちゃんのお世話です」


生徒達はポカンと口を開けて、一斉に、えーッ!!!と叫ぶ。ドラゴニスタ学科の生徒だけがケラケラと笑っている。

何を隠そう、竜の赤ちゃんつまり幼生体は、非常にデリケートで魔力の調整も出来ない上に凶暴である。ドラゴニスタならいや、魔法使いなら誰でも知っている。

ドラゴニスタ学科の生徒なら、言葉がわかるので意思の疎通もできるが適性がない普通の生徒にはただただ凶暴な化け物だ。

落ち込むのも無理もない。世話ができれば今頃ドラゴニスタ学科で勉強しているのだ。


「無理だと思った方、そうですね…ひとつ、アドバイスを。”いい仔を選んでください”ね。そうすればきっと仲良くなれますよ」


ドラゴニスタ科の生徒たちがドンドン木箱を運んで来た。がたがた蓋が震えているところを見ると、その中身は竜の赤ちゃんだろう。竜の赤ちゃんは、大体両手の平に乗るくらいの大きさだ。生徒が怯えているのがわかる。

皆仕方なく、木箱からきゅーきゅーと鳴き声だけは可愛い仔竜を選んでいく。いい仔を選んでとフェリは言っていたが、どの仔竜がいい仔なのかすらわからないので、売れていくのは比較的大人しいものか、気性の穏やかな土属性の竜だ。しかし、大人しいとは言っても比較的だ。正直全くおとなしくない。

最後に残ったのは、ロイスと、紺地に金刺繍のローブを着た生徒だった。

地上に降りて仔竜選択を間近で見ていたフェリは、金刺繍のローブの生徒に声をかけた。


「あら、メタスター科のウィランズ君じゃない!まさかこの講義に来るなんて!」

「フェリさん。必修科目だし、面白そうだったんだ。アンジェラは元気?」

「元気よ!ノクは元気?」


ほらね、とフェリが言うと白い美しいドラゴンは、白髪の驚くほど美しいプロポーションの女性に変わった。ウィランズと呼ばれた生徒の肩に乗っていた青いドラゴンも一瞬にして美しい青年に変わった。

この世界のドラゴンは様々な種類がいる上、魔力の強さも個体によって全く違う。魔力の強い個体は、人間に擬態する事ができる。人間に擬態する個体を得るというのは、つまり素晴らしいドラゴンであることを意味している。上位個体と言っていい。

アンジェラは、天竜という種類の中でも更に雪を操るドラゴンである。ノクは、水竜という種類だ。その名の通り、水を操るドラゴンだ。

メタスターは、転移魔術者のことを意味する。メタスター科についてはまた別の機会に語ろう。


「さ、ウィランズ君も選んで!グリモワール科の君も!」

「うーん、どの子にしようかなぁ…ノクターン、君が選んでくれるかい?」

「ノク!ダメ!授業にならないでしょ!」


すでに仔竜は残り数頭になっていた。いずれも威嚇し焔を吐いたりしている個体ばかりで手強いとしか言えない。

ウィランズは、同じ水竜の個体を選んだようだがすでに噛み付かれ暴れてしまわれている。

残る緑のローブのロイスは、大して見もせずに威嚇して思いっきり焔を吐いている個体をむんずと掴んだ。


「えっ、その仔は…!」


フェリが驚いたように言った。フェリにも懐いていない仔竜だ。この仔竜は生まれつき魔力が強いため気も強く気難しい。

しかしどうだ。ロイスに掴まれた仔竜は威嚇どころかくるくると機嫌よく鳴いている。ロイスは仔竜を掴んだまま他の生徒とは違う、竜舎の食料庫に歩き出した。


「待って!そこのあなた、待って…」

「グリモワール科の君、待ってくれないか」

「………なんだい?」

「どうやってその仔をおとなしくさせているの?!」

「どうやって?ドラゴンは自分より強い者には歯向かわないじゃないか。ただそれだけだよ。もういい?コイツ、魔獣食べたいんだって」

「は、話ができるのか?グリモワール科の君が?どうなってる?!いや待て強い者ってどういう…」


ロイスは食料庫へと向かった。フェリとウィランズも慌ててロイスの後を追う。

緑のローブのフードの端からひょいと金色のドラゴンが出てきて、ぱあっと光り輝くと、人間の姿になった。

ギョッとしたのはアンジェラとノクターンであった。もちろんフェリとウィランズもだが。


「「あ、貴方様は…!」」


アンジェラとノクターンが驚いたように声を出した。それはフェリにしか聞こえなかったがその表情から、ウィランズもロイスのドラゴンと2匹は知り合いなのだと察した。

2匹がロイスのドラゴンに話しかけようとするが、青い瞳の強い視線で制された、気がする。それきり2匹は俯いて話さなくなってしまった。


「ほぅ。白い天竜とは珍しい。おまけに良い女だ。番にしよう!青いのも美丈夫だな」

「…ジュニア、あまり目立つなと言ったじゃないか」

「主人!俺は腹が減った!」

「今朝魔獣を散々食べたのに…はぁ…」


ジュニアと呼ばれたドラゴンはロイスのもつ仔竜を捕まえてまるでボールのように空にぴょんぴょんと放り投げている。きゃっきゃっと仔竜は笑って楽しそうだ。

ウィランズは何が何だかわからず面食らっていたが、食料庫でなにやらガサゴソ探しているロイスに向かって声をかけてみる。


「君、名前は?グリモワール科の生徒だね?」

「ああ、ごめん。質問されてたんだった。僕はロイスです。えーと、メタスター科の…うーんと」

「キルヒシュタイン・ウィランズ。この学年のメタスター科の首席をつとめてる」

「よろしく。メタスターなんて凄い才能ですね。キルヒシュタインって長いからキルヒ様って呼びますね。」

「様なんていいよ!やめてくれ!普通に話してくれていい」


ロイスは目深に被っていたフードをようやく外した。その外見は金の髪に青い瞳の人形の様に美しい青年だった。だが、キルヒも想像を超えるいい男なので、大して驚いた様子もなかった。

続いて、ドラゴニスタ科のフェリが近づいてきた。


「ロイス君。私はフェリ・クライスト。よろしくね」

「よろしく」

「ところで、どうしてその仔竜を選んだの?どうやって仔竜をおとなしくさせてるの?なんでドラゴンと話せるの?ドラゴニスタに適性が?!」


フェリは矢継ぎ早に次々質問した。他の生徒が羨ましがるほどロイスの顔に近づき、興奮気味だ。若干キルヒの顔が引きつっているが、ロイスは至って普通だった。


「この子が一番魔力が強くて、元気だったから。あとお腹空いてるみたいだから手懐けやすそうだったから?なにをそんなに驚いてるかわからないけど仔竜なんて大体みんな大人しいじゃないか。ジュニアに竜語を習ったし、そもそも魔力の波長をドラゴンに合わせれば誰だって話せるんだよ」


これに心底驚いた様な顔になったのはキルヒとフェリである。そんなことは誰も教えてくれなかったからだ。

だが、言われてみればキルヒはノクターンの声は聞こえるが他のドラゴンの話はわからないはずだった。しかし、今現在ジュニアの話は理解できていた。


「で、では先程君のドラゴンの言葉がわかったのは…」

「如何にも。我がお前達人間に魔力の波長を合わせたからだ。ドラゴニスタなどとお前達は言うが、我々ドラゴンから言わせて貰えばただ無意識に我らの波長に合わせられる人間に過ぎぬ。なんだお前、自分のドラゴンに教えて貰ってないのか?」

「…そういえば…聞かれてないから教えてなかった…」

「ノク!!なんて奴だ!」

「アンジェラ、あなた後でお説教よ!!」


あっ、とロイスが嬉しそうな声をあげた。いそいそと食料庫から出てくると、両手にネズミのような小さな魔獣を抱えてきた。

一斉に辺りの仔竜がぴいぴい騒ぎ出し、ジュニアや大人のドラゴンもいささか興奮している。

これに困ったのは、生徒達だろう。急に鳴きだしたり暴れだしたので余計に大変だ。

そんなことは全く意に介せず、ロイスは仔竜の口に魔獣を突っ込みジュニアにも投げつけた。


「ん」

「おお!美味い」


きゅうきゅうと仔竜は嬉しそうに食事をしている。すっかりロイスに懐いてしまい、離れても離れてもパタパタ飛んでくる。その仔竜を、この人の言うことを聞きなさいといってフェリに押し付けた。

キルヒも魔獣を水の仔竜に与えて空に向かってポンポンと投げているうちに仔竜はすっかりご機嫌になってキルヒの腕の中で眠ってしまった。


「フェリさん、僕、先生から補講に呼ばれているんだ。課題はクリアしたし…もう終わってもいい?」

「え、ええ。でもその……もう少し話を…」


帰る気になって、ジュニアを竜体に戻しているロイスに、フェリの小さなモゴモゴした声は届いていそうになかった。これに反応したのはキルヒだ。


「ロイス。明日の放課後城下町に遊びに行かないか?新しくお菓子屋が出来たらしいんだ」

「明日かー。そうだなぁ、起きれたらね。僕、大体2、3日に一回しか学校来てないからなぁ。あ、明々後日はどう?全校集会には参加しなきゃいけないから来るよ」

「…サボりすぎじゃないのか…?ま、まぁいい。明々後日の放課後に食堂で待っていてくれ」

「わかった。じゃ、またねキルヒ」


ロイスはまたフードを深く被った。その肩にはジュニアが乗っている。竜舎から離れ、第2学年の校舎へと歩いていくのを、キルヒとフェリは呆然と見ていた。


ドラゴンの話している部分を鉤括弧変えるか検討中です…

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