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第8節 異変


ロイスとヘラが帰ってから、王族と超級魔法使い達は喧喧轟々会議会議の連続であった。

ガイアスの話はこうだ。あの御方の命令で新魔獣の合成をしていた、というものだ。真祖革命派のアジトや規模についても、どこかの屋敷とか数百人といったアバウトな感じであった。唯一聞き出せたのは、あの御方の側近がヴェルフェゴールとマリウスで、あの御方は表舞台には出ずに、"儀式"とやらを夜な夜な行なっているということ、敵の名前が真祖革命派だというくらいだろう。

ロイスは、ヴェルフェゴールとマリウスに会ったことを言わずにいた。どうも、ヴェルフェゴールが言った国王が"偽者"というのが引っかかるからかもしれない。


「はぁー、王様よぉ。もういいだろ?勘弁してくれ、眠たくてかなわねぇ。来週の定例会議でまた話そうや」

「ガーゴイル!しかしこれは国を揺るがす、ッ」

「陛下、俺ももう帰ります。帰ってきてから俺もヘラさんも休みなしです。眠たくて我慢できません。あとは勝手にやりたい人だけやってください」


ガーゴイルとロイスが痺れを切らした。なにせ、1日以上会議室に詰め込まれ会議しているのだ。ロイスもヘラも半分くらいは寝ていた。

苛立つ王族を、じいやが宥めた。


「ほっほっ、陛下。陛下もお休みになった方がよろしいですぞ。一度頭を冷やすのも大事です。皆さん、今日はこの辺で解散にしましょう。ロイス君、ヘラ君、2人ともお疲れ様でした」

「…そうだな。儂らも少し頭に血が上っていたようだ。また来週の定例会議で話そう」


超級魔法使いはじいや以外を残して、控え室に転移した。ロイスはそもそも魔法を使いすぎて眠気が酷かったのに、全く寝させてもらえないのは拷問だ。


「眠い………」

「おいロイス、もっとそっち寄れよ!俺が寝れねーだろーが!あっくそもう落ちてやがる」

「…ぐぅ」


面倒見の良いガーゴイルはソファーや簡易ベッドに倒れこんだ4人に毛布をかけると、余った小さめなリクライニングソファーに座った。

結局、超級魔法使い達5人は控え室のソファーに倒れこみ、翌昼まで目が覚めなかったという。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






一番最初に起きたのはガーゴイルだった。次に起きたのはロイスである。ロイスは気配の探知に秀でているので、ガーゴイルの気配に気づいた。

他の超級魔法使いを起こすのは簡単だ。抑えている魔力を最大限開放すればいい。勝手に起きる。

ロイスもぐいーっと伸びをすると寝てる間に回復した魔力量を確認するべく魔力を開放した。一気に室内がとんでもない魔力で満たされ、超級魔法使い達はそれで完全に起きた。


「ロイ君の魔力は抑えないと本当にやばいのよねぇ…魔王?みたいなぁ?…おはよぉみんな」

「おい、また寝てる間に服脱いだのか?ったくせめてローブ羽織れ!おい、寝ンな!ドラックイーン!!」

「んーよく寝た!ドラゴンの様子見に行かなきゃー!ちょっ、ドラックイーン!見えてる見えてる!」

「…おはようございます…ソファーで寝たから身体が痛い…ドラックイーンさん、服を着て」


各々のそのそと起き出し、ロイスも開放していた魔力を最小限に押さえ込んだ。この世界の魔法使いは、大体の人が魔力を最小限身体から放出し、それ以外の魔力は体内に保存している。ただ、最小限というのも限度があり、超級魔法使いの様に魔力量が多い者は他の魔法使いよりも最小限が多めだ。ロイスを一般人が見た瞬間に魔力量が多いと感じるのはこれが理由である。ロイスにとっての最小限が一般人にとっての最大なんていうのもザラである。だからこそ驚かれるのである。

やっとのことでドラックイーンに服を着せたガーゴイルがふわぁ、と欠伸をしながら何気なく王城の庭を見た。普段と違い、なにやらガヤガヤと騒がしい。

ロイスも窓から庭を見た。


「…なんだぁ?やけに人が集まってんな。侵入者か?」

「へぇ。城に侵入なんて珍しいね」

「おい見ろよ!あれは北部の長老たちじゃねぇか?なんだってこんな時期に…」

「!」


バタバタと超級魔法使い達は窓に集まる。

北部とは、王国の領土のうち北のほうの地域を表している。王国は、盆地の様に四方を山々に囲まれており、山が国境になっている。山より先は別の国だ。ウィテカー王国の北部は、北の国とのちょうど境目に当たる部分だ。北側の山の麓だという認識で間違いはない。

王国の領土は広いため、それぞれ自治するシステムがある。長老は、北部の地域を収める者を意味している。知事みたいなものである。

本来、長老たちは北部の気候の穏やかな冬の日に帝都にやってくる。冬以外は収穫や放牧のピークで忙しい。しかし、今は春から夏になる時期で一番忙しい時期なのにわざわざ帝都にやってきたようだ。


「変ねぇ…しかも、氷女に雪ドラゴンまでいるわよ?帝都に引っ越しでもする気?」

「皆さん雪が身体についている様に見えるのは気のせいでしょうか…」

「はぁあ…俺…今日は学園にでも行こうかな………」

「そりゃいいな。俺も今すぐ逃げ出したいぜ」


氷女は、文字通り氷魔法を得意とする種族だ。寒さに強い。雪ドラゴンは、蛇に小さな羽が生えたような生物だ。ドラゴンとついてはいるが、ジュニア達の様な上位生物ではない。いってしまえば雪や寒さに強いツチノコみたいなものである。若干魔法使えるので風魔法を使ってブリザードの中を空中散歩したりするのに便利らしい。メタスターでない人の欠かせない移動手段だ。

ロイスとガーゴイルの呟きも虚しく、超級魔法使いは王の間に呼ばれた。北部で何かがあったのだろう。


「国王陛下の御成でございます」


王の間のじいやが高らかに北部の長老たちや家臣達に言った。同時に、王族と共に超級魔法使いが転移してきた。超級魔法使い達は皆一様にフードを目深に被っている。じいやだけが、燕尾服で王の側に連れ添っていた。

北部の長老たちは頭を下げ、王からの言葉を待つ。


「皆の者、面をあげよ」


やっと、長老たちは王を見た。王は威厳のある風格で、穏やかに微笑んでいる。


「北部の長老様方、急な訪来に驚いたぞ。一体どうしたのだ?」

「お久しぶりでございます。……王にお願いがございまして、こうして罷り越した次第です」

「他でもない長老様方の願い、聞こう。如何した」


ブルブルと長老たちは震えている。王に畏怖しているわけではない。歯がゆさと恥ずかしさで震えているのだ。


「冬が、終わらないのです」

「?、なにを言っておる?今はもう初夏であろう」

「例年であればそうです。しかし、北部は今も雪に閉ざされています。それどころか毎日吹雪は強まり雪は降りしきるばかりなのです!!」

「な、なんと…!」


冬が終わらないとはどういうことなのだろう。季節を変えることができる魔法はないわけではないが、魔力がいくらあっても足りない。なにせ、北部全域を冬にするとなると、ロイスでも1時間持つか持たないかくらいの魔力量が必要になるだろう。それを数ヶ月だ。となると、魔法ではない別の何かがあると考えざるを得ない。

長老たちは、まくし立てるように言った。


「北部の北のほうにある集落からの救援要請があり、そこに向かうもどうしてもその集落に行くことができないのです。救援要請があったのが3日前、ものすごいブリザードに覆われて食事や燃料も尽きると…どうか王のお力をお貸しください!集落の者達を救っていただきたいのです!」

「もちろんだとも!どちらにせよ、冬が終わらない理由を探らねばならぬ。すぐに救助隊の編成をしよう。じいや、手配してくれ」

「あ、ありがとうございます、国王陛下!!」

「長老様方、旅の疲れもあろう。よく休むと良い。………下がってよいぞ」


ははっ!と嬉しげに答えた長老たちは、ホッとしたように部屋を退出した。

3日前に救助にいって、雪に強い北部の長老たちですらブリザードに敵わなかった。しかし、ほっておけず急いで帝都にやってきたのだろう。

王族達は、新たな問題にため息をつきながらも、国の民の不幸を良しとはしない。


「じいや、どのようにしたらよいだろうか」

「そうですなぁ。戦闘要員以外にも、治癒医師が必要でしょうな。食糧も必要になりますなぁ…そうそう、寒さや雪に強い特殊能力がある者も欲しいところですが…」

「ふむ。儂から王立治療院に話をつけよう。食糧や防寒具をすぐに用意させよう。じいや、あとは頼んだぞ!…全く…しかし一体なぜ冬が終わらないのだ?異常気象か何かにしても長すぎるだろう!」


治癒医師とは、その名の通り治癒魔法を得意とした医師である。治癒医師と呼ばれ、こちらも庶民向けの簡単な治癒魔法を扱う医師と、あらゆる傷や病を治す上級医師とにわかれている。しかし、治癒医師は大体が市井で生活し、貴賎を問わず治癒を行なっている。

王立治療院は、王国が作った総合病院のようなもので、治癒魔法の研究や治癒医師の育成、その他一般の治癒などを行なう施設である。国内の医師は全員王立治療院に所属する。

ブツブツと王は呟きながらも、自室に戻って行った。他の王族もそれぞれ部屋に戻ったようだ。

じいやはドクターを王族達の護衛に回すと、残る超級魔法使い5人で立ち話をする。


「戦闘要員は…ロイス君に任せるとして、あと1人くらい超級魔法使いを出しておきたいところですねぇ?」

「…俺は確定なんですか………寒いところ嫌なのに…」

「俺はパスだぜ!さみーとこに行くくらいなら護衛してたほうが数倍ましだぜ」

「いえ、そうではなく…治療院から派遣されるのは当然一番優秀な治癒医師でしょう。ですので、ドラックイーンさん」

「もちろん私が行くわぁ♡最近私外に出てないもん!たまには出なくちゃね〜」


決まりましたね、とじいやは笑った。おそらくじいやの中では初めからロイスとドラックイーンが行くと決まっていたのだろう。

ドラックイーンは嬉しげに身体をくねくねしている。


「問題は雪に有利な人ですが…うーん、ジュニア様でしょうねぇ」

「雪竜であればいるぞ。私の親衛隊員のドラゴンだ」


ジュニアは天竜なので、天気や気象を操るのを得意としている。これは当然だろう。

しかし、ロイスも予期せぬ爆弾をヘラが投下した。

ロイスは間髪を入れずに待ったをかける。


「駄目だ。絶対に今回の任務には参加させない」

「…おやおや。ロイス君が反対するとは珍しいですな、ほっほっ。しかし困りましたねぇ天竜でも雪属性の竜は欲しいところです」

「…雪竜だけならいい。だがフェ…主人の魔法使いが参加をするなら俺は今後一切超級魔法使いの仕事はしないからな。あんたらを全員殺して俺も死ぬ」


ゾゾッ、と超級魔法使いの背筋が凍る。じいやは飄々としていたが、他の超級魔法使いは冷や汗をかいてたじろぐ。ロイスの恐ろしいほどの殺気が、超級魔法使い達を畏怖させている。

ロイスはフェリを危険に晒したくなかった。特に、状況の読めない任務は余計だ。たとえロイスがこの任務から外れ、フェリが行くことになったとしても、ロイスは隠れてついて行くしなんなら選んだじいやを殺すくらいの覚悟はあった。


「まぁ待ちなさい、ロイス君。心配しなくても、竜だけ借りるつもりですよ。この任務は極秘扱いですし、人数も最小限にするつもりですよ、ほほっ」

「…なら、いい。好きにえらんでください」


ロイスから出される殺気がなくなると、超級魔法使い達はそっと溜息をついた。ロイスも殺気なんてなかったかのようにいつもの無表情に戻って落ち着いている。

一方、ヘラは地雷を踏んだせいで今度はガーゴイルとドラックイーンから殺気を感じているのはこの際仕方のないことだろう。


「しかし驚きましたなぁ、ロイス君に執着心があるとはの。ほっほっ、じいに紹介がてら雪竜の主人に合わせて貰いましょう、ほほっ、ほ…」



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