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第4節 狩り



学園襲撃事件から、数ヶ月が経っていた。結局、あの御方の存在は何もわからずじまいだった。敵の組織の人数さえ全くわかっていなかった。相手の動きが全くないと言っていい。

そんな中、王の側近かつ超級魔法使いじいやは密かに動き出していた。じいやは、とある魔法使いを執務室に呼んでいた。


「ディックよ。久しぶりじゃの。学園はどうだね?」

「はい、お祖父様。とても楽しく過ごさせていただいております」

「ほ、ほ…それはよかったのぉ。………話は変わるがの。これをレオナルド王子から預かっておる。ここで読んでおくれ」


ディックと呼ばれた青年は、メタスター科の青いローブを着てじいやの足下に跪いていた。じいやは、王家の蝋印の捺された手紙をディックに差し出した。ディックは無言で受け取ると、封をあけ中身を読んだ。

ディックの顔がじいやに向く。その顔は覚悟を決めた、男の顔であった。


「ヴァン・ダイク家の宗主より命じる。ディック・ヴァン・ダイクよ、学園の裏切り者を探し出せ。…学園に居る間は、このようなことをさせたくなかったのだがのぉ。こうしたことに関わらせない約束だったのに…すまんのぉ」

「いいえ、お祖父様。我ら一族は代々王家の暗い部分を担う運命です」

「…お前は魔法使いの素養が高かったが、同じくらい”こちら”の素養もあるからのぉ。任務ばかりで学園に居る間はのんびりして欲しかったがの。これ以上の適任もおらんのでな」


ヴァンダイク家は、古くから王家の暗い部分、暗殺や諜報活動を行ってきた。じいやの出身であるが王以外にじいやの出自を知る者はいない。そもそも、じいやが異端だったのだ。ヴァンダイク家は目立たず騒がず、歴史に名を残さないように生きてきたのだ。じいやは、超級魔法使いの道を選びヴァンダイク家の当主として今でも一族を管理している。

ディックは、現在次代の当主候補となっている。次男ではあるが、魔法使いとしての素養があり、学園1年生の今でも特級魔法使いだ。同時に、昔から暗殺諜報活動も行ってきたため、どちらも非常に優秀だ。


「そうそう、これは私からの命令じゃ。ロイス・カルディアの命を第1優先とせよ。たとえそこに王がいたとしても、お前はロイスを守るのだ」

「し、しかし…我らは」

「王は我らが守る。だが私はロイスこそが…いいや、なんでもない。私の命令が聞けぬというなら…」

「…いいえ。仰せのままに、当主様」


もうよいぞ、とじいやはいつものように微笑んだ。

ディックには当主の命令に逆らう気もない。きっと何かお考えがあるのだろうと思うだけだ。ディックは新たな密命を帯びて、学園に通うことになった。

一方その頃、ヘラは悩んでいた。竜舎の食糧の調達である。王城のドラゴンは多いため、月に一度魔獣狩に行くことになっている。もちろん、ヘラはその狩に行くわけだが、他のメンバーを決めかねていた。

ヘラはフェリを連れて行きたいと思っているが、まだ戦闘経験がなくヘラの親衛隊に加わったばかりだ。かといって、この業務に従事してもらわないと困るわけだ。


「フェリに聞いてから決めるか…」


ヘラと、上級魔法使い数名と特級魔法使い数名は確定しており、いずれも王城で働く近衛兵だ。自分のドラゴンを有していることが条件である。

フェリは今、ちょうど水系ドラゴンの水浴びに行っているところだ。しばらくしたら帰ってくるだろう。

ヘラはぐでんと控え室のソファーにもたれると、ふああ、と欠伸をした。


「なぁに、まだ決めてないの?3日後よ、狩り」

「だって〜、フェリを連れて行くか迷ってるんだもん…」


控え室には珍しく4人の超級魔法使いが揃っていた。今は王達は眠っており、じいやとDr.ドクターが付いていた。ガーゴイル、ドラックイーン、ヘラ、ロイスは控え室でぐだぐだと話をしたり食事をしたりしていた。

ドラックイーンとヘラは歳は離れているものの、超級魔法使いの女子2人ということもあり、仲が良かった。


「俺も一緒に行きます」

「ちょっと、ロイ君は3日後護衛じゃないのよぉ」

「フェリが行くなら俺も行きます。ヘラさんがフェリを心配しているので俺がフェリの面倒を見ます」

「…あらぁ…♡女子会を開かなくちゃ♡」

「なんだロイ坊、やっぱフェリちゃんは彼女なのか?まぁ可愛いしいい子だししっかりしてるしお前のタイプっぽいよなぁ。ちゃんと師匠の俺に紹介しろよ!」

「違うってば…いちいちうるさいな…とにかく、俺が行きます。ジュニアの食事にもなるし…キルヒも連れて行こうかな。ノクは水に強いし…」


先輩超級魔法使いからの揶揄いにイラついたようにロイスは頭をかいた。フェリは大事な友人だ。だからこそ怪我などされたくない、ただそれだけだとロイスはむすくれている。

超級魔法使いのみんなは別にロイスとフェリが付き合っていようがいまいが構わないが、お似合いだとは思っている。もちろん、ロイスの浮いた話をあまり聞かないので揶揄うのも忘れない。

ともかく、ヘラはロイスの申し出をありがたく受けてヘラとロイス、フェリとキルヒが狩りのメンバーに選ばれた。

3日後、まだ夜も明けない早朝だ。数十人の狩り隊は竜舎の近くのボロ小屋の前に整列していた。ヘラは張り切っており、元気よく話し始める。


「諸君!森林保護区に向かうぞ。各自、どの種類の魔獣でもいい。生死も問わん。目標は100トン程度だ。アンチ腐食魔法を必ずかけるように!」

『ハイッ』

「帰りは午後四時!森林保護区の湖のそばの小屋の前で待機!それに間に合わぬものは魔獣に喰われたとして捨ておく。では各自出発!行こう!」


森林保護区は、この大陸のどの国も侵攻できない崖や湖、木々に囲まれた自然豊かな場所だ。そこには魔獣が住んでおり、魔獣の産まれる森として各国が侵攻したがらない森となっていた。しかし、この国では率先して魔獣狩りを行なっているため保護区として維持管理している。竜舎のそばの小屋と森林保護区の小屋は転移陣で繋がっているため移動にも困らない。もちろんメタスターならば一度行っていればいけるのだが。

各人入っていく中、ロイスは魔法陣を展開した。ぶわりと周りの空気を巻き上げていく。フェリとキルヒは思わず後ずさる。まるで魔力の爆発だ。

魔法陣が光ると、ロイスが手のひらを上に向けた。魔力はロイスの手のひらに吸い込まれ、やがて発光するほの青い薔薇の花になった。

ふぅ、とロイスが息を吐くと花弁がひらひらとあちらこちらに舞う。そしてふわふわと小屋の中に入っていき、キルヒとフェリとロイスにも花弁がくっついてくる。


「こんな魔法見たことない…とっても綺麗ね…」

「”ロード・ブルーローズ" …俺のオリジナル魔法の1つだよ。そうだなぁ…お守りみたいなものだと思ってて。さぁ、行こう。たくさん狩らなきゃいけないからね」


フェリとキルヒの後をふわふわとついてくる一枚の花弁を不思議に感じながら、二人は頷いた。ロイスには10枚程度の花弁が取り巻いていた。3人は、ロイスを先頭に小屋の転移陣を潜った。

その先には、美しい湖と森の木々たちが出迎えてくれていた。この湖は美しいが、実際は湖の底から魔獣が生まれるため、中には水棲魔獣が多くいるはずだ。木々も青々と美しいが、もちろん魔獣が住んでいる。空には飛行系魔獣が飛び回っている。


「綺麗…魔獣がいるなんて思えないわ…」

「フェリ!私とともに行くぞ!アンジェラに乗ってカラス狩りだ!!」

「は、はい!ヘラ様、すぐに行きます!」


フェリが森林保護区に着いて早々、ヘラはフェリと狩りに行くようだ。王城の若いドラゴンに跨ったヘラが、空に飛び立つ。慌ててフェリはアンジェラに乗って空に舞い上がる。

カラスとは、大型のカラスに似た魔獣で群れで行動するため数も多い。ドラゴンよりも動きが遅いので狩りやすいと言える。

天敵のドラゴンが現れたため、森からは魔獣の鳴き声が響き、鳥型魔獣は空に飛び立つ。


「気合い入ってるなぁ…フェリー!ローズをアンジェラの背中にも貼って!気をつけてね!」


魔獣溢れる空に舞い上がるヘラとフェリを見上げたロイスは叫ぶ。ロイスの周りにあった花弁の一枚がヒュン、とフェリに近づいた。フェリはなんだかよくわからないがアンジェラの背中に貼ってみた。花弁はアンジェラの鱗の一部のようにくっついてしまった。フェリの周りにいる花弁もフェリと付かず離れずの距離にちゃんとついてくる。

いたぞ!というヘラの声にハッとなったフェリは、アンジェラを操り、魔獣狩りをはじめた。

一方、キルヒとロイスは未だ湖のところにいた。


「僕達はどうしようか?森に行くかい?」

「ノクが居るのに森はないだろう…ノクは水棲魔獣狩りだ。ジュニアはアンジェラとノクに何かあれば助けに行かせよう」

「えっ?僕とロイスはどうするの?」

「どうするもなにも、人間は魔獣の大好物だよ。ほら、気をぬくと死ぬよ。そうそうノク、君も潜る前にローズを飲み込んで行ってよ」


ガサリ、と森から音がする。グルグルと嫌な声と、ギラギラとした瞳がいくつも感じられた。魔獣に囲まれて居る。

キルヒがひゅ、と呼吸を乱す。ロイスは平然として、仔竜姿のジュニアを無造作に地面に落とす。ノクターンもくぁーと鳴くとロイスの周りにあった花弁をパクリとのんで、湖にぼちゃんとダイブした。すいすいと泳いだかと思うとすぐに湖の奥深くに消えてしまった。

なんて薄情な使い魔だ!とキルヒは今にも泣きそうだ。


「落ち着け、キルヒ。上級結界を展開して維持して、攻撃魔法を仕掛けるんだ。攻撃魔法がきつかったら結界だけは維持して。もしやばくなったらナイフで物理的に倒すんだ」

「わ、わかってる!やってみるよ」

「うん。大丈夫、俺もキルヒを守るよ。…ジュニア、行け」


地面でゴロゴロしていたジュニアはロイスの呼びかけに応え、人間体に成りかわる。その瞬間、ロイスは走り出した。目の前の魔獣を物理的にナイフで刺していく。魔法は使っていない。ジュニアもロイスの後を追い、魔獣にアンチ腐食魔法をかけたりロイスが取りこぼした魔獣に攻撃を加える。

ロイスはナイフに魔法を通し、魔法で斬れ味や射程を変化させていた。振動魔法を使い高速で振動させると同時に目には見えないがその魔法をナイフより長く展開させることによってナイフでは到底届かない距離の魔獣も攻撃できるという技である。もちろん、キルヒは気がついていない。

そんな中、キルヒも攻撃をしたいが、攻撃魔法は余り知らないし得意ではなかった。唯一、キルヒが攻撃魔法を使うとしたらフェアリストの分野だろう。キルヒは水の精霊と相性が良かったので、湖が近いのは好都合であった。


「水の精霊よ、僕に力を貸してくれ!ーー水撃波!」


キルヒが叫ぶと、湖の水が洪水となってあたり一面の魔獣を水圧で押しつぶしていく。魔法の発動を確認したジュニアはロイスの首根っこを掴んでヒュン、と空に浮遊した。ロイスはジュニアに抱えられて空中に避難しているようだった。

おお、と大して驚いてもいないくせにロイスは言った。

キルヒはそうだ、と呟くと湖の水面に無数に浮かんでいる水棲魔獣を回収した。ノクターンが仕留めたものだ。

気を失っていた水棲魔獣達は精霊が作った水の檻に閉じ込められた。洪水を起こしていた水も湖に戻り、キルヒはホッとしたような表情になって、上空にいるロイスに手を振った。


「中々やるね、キルヒも」

「ふむ、ノクの主人は水属性と相性が良いようだな。さて、下に降りるか、主人よ」

「うん。この辺りの魔獣はあらかた片付けたな。ざっと一週間分くらいの量はとれたし、後はまた新手が来たらにするか…」


ふわりとロイス達が降りてくると、キルヒがはぁ、とため息をついた。死ぬかと思った、と言ったところだろう。ジュニアが殺した魔獣を集め始めた。指先をつつ、と動かすとポイポイと足元に積み上げていく。浮遊魔法と重力魔法を使った高等技術だ。

ロイスの周りをひらひら舞っている花弁を1枚掴んだロイスは、花弁にノク、そろそろ戻ってきてよ、と呟いた。しばらくすると、ノクターンが自分と同じくらいある魔魚を咥えて湖から陸に上がってきた。


「おかえり、ノク!お前、主人を置いて行くなんて酷いじゃないか」

「?…シャルンとロイスが居るのに…?」

「………とにかく、お前が無事でよかったよ…」


ははは、とロイスとジュニアは笑った。ノクターンにとって2人がいればまず主人が害されることはないと思っているようだ。

いくら水竜と言っても、あまり長く水中にいると体温が低下してしまうため、陸に上がって水気を取る必要があった。これを鱗を乾かす、とドラゴン達は言っていた。ノクターンも例に漏れず、ゴロンと寝転んで翼を乾かすようだ。

森からズドン!と大きな音がした。誰かが魔獣に大規模な攻撃をしたのだろう。


「フェリ…?!」

「アンジェラ!」


ロイスとジュニアは同時に言った。ブルーローズの花弁が赤く光る。のんびりしていたキルヒもフェリに何かあったことだけはわかった。


「ノク!キルヒを頼んだぞ!」


ロイスはそう叫ぶと、ジュニアと共に一瞬にして消えた。

ロード・ブルーローズに関しては今後、ブルーローズとか青薔薇とか導きの青薔薇の様に表す場合があるかと思います。正式名称は導きの青薔薇になります。

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