始まりの出会い①
珍しい形の帽子を拾ったら、中から大男がするりと落ちてきた。
そのような奇想天外の事態に、しかし子兎のような小柄な身体で、若き獅子のように堂々と構えたその少女は一切動じることは無かった。
安眠を妨げられ、老いた猛虎のごときしなやかな巨躯を無防備に晒したその男は、追い詰められた子鹿のようにただ震えていた。
ひと月前のことである。
旅を始めてからというもの、毎日が楽しくってたまりません!
毎日毎日が出会いの繰り返し、これこそ私が求めた私らしい人生というものですとも。
この素敵な世界でこれから繰り広げられる素晴らしい人生、まだ始まったばっかりだけれども。
こんな素敵な世界をむざむざと捨てるなんて、本当に勿体ない。
きっとあの人たちの目は腐っているんです!
腐っているだなんてまあ何とも非道い言い方!
いいんです、わざと非道い言い方をしているんです!
なんと言ったって私は楽園なんて願い下げの非道い娘ですもの。
でもそんな極悪非道娘にも最低限の人としての情はあります。
だからこうして今も空腹に倒れた行き場のない人を拾ってこうして介抱しているんですとも。
そうそう、聞いてくださいよ!
今こうして安宿のボロ部屋の貴重なベットを占領している巨躯の持ち主は、いま彼の枕元にちょこんと置かれているとんがり帽子(見たとこともない種類の帽子なので仮にそう呼びます)から、頭から腕、最後に足といった順番でするりと、不思議なことにつっかかることなく落ちてきたんです。
こちらに来てからわたしが出遭ったたくさんの不思議なことの中でも、間違いなく最上級のものと言って良いでしょう!
何せ不思議な帽子に不思議な登場、加えてよくよく見るとその人の格好も、不思議なものでした。
太陽がさんさんと降り注ぐ常夏の砂浜で、いくら痩せ細ってしまっていたとは言っても、彼の巨大な身体をもってしても余らせてしまうほどの巨大な外套。
不思議な出会いの3連チャンに私のワクワクは限界をとっくに突破しておりましたので、すぐにその謎を解明したい思いでしたが、不幸にもかれは無反応の行き倒れ状態。
つまり、今私がしているこの介抱は、人情3割と知的好奇心7割によって成り立っていると言えるでしょう。