全てはここから始まった!
「こんにちは、勇人君」
……えーっと? ここどこだ? この綺麗な女性は誰?
「おーい? 聞いてる?」
待て待て。今は状況確認だ。俺は今、見覚えがない場所で椅子に座っている。それも彼女と対面する形で、だ。
……マジでここどこだよ。周りが真っ白なんだけど? 白すぎて目が痛いぐらいなんだけど?
「反応してー」
ていうか、なんで俺ここにいるんだ? 全くもって身に覚えがない。誘拐された? いや、それじゃあ目の前の女性は誘拐犯、もしくは俺と同じ被害者になる。誘拐犯ならともかく、被害者でこのテンションとノリはおかしい。もっと別の理由があるはずだ。
何があった? ……俺が目覚める前だから……
「おーい。そろそろ反応してくれないと泣いちゃうよ? 私、泣くとすごいんだよ?」
脱ぐとすごいみたいに言うなよ。そんなことより、思い出せ俺。記憶にあるはずだ。ここに来ることになった原因が。
確か、一度学校から帰ってきて……それで夕飯の買い出しに行ったんだった。それから……買い物はした。それで家に帰った。うん。おかしいところはない。もっと後か。えーっと確か、親から飲み物買ってきてとまた頼まれて、誰かと会ったけどスルーして、飲み物を買って家に帰って……。あれ?
おかしいところなんてないじゃん。家に帰れたんだし、その後に何かあったわけでも……
「あっ」
「うぅ……」
あー、うん。俺、自分の部屋で自殺したんだった。まぁ生きてると色々とあるんだわ。いじめとかな?
まぁ、あんまり思い出したくないから深くは語らないけど。
ならここは天ご――
「び」
――ん? ぴ?
「ぴやああああああああああああああああああああああああああ」
うわあ!? いきなりどうした!? てかなんだその泣き声は。びやあああって、普通は聞かない鳴き声だぞ。
……まぁ、なんだ。とりあえず泣きやめ。無視してたの謝るから。
◇
「うぅ……ひっく……ずずっ」
良かった。泣き止んでくれた。説得に1時間ぐらい掛かった気がする。
……あと、鼻をかむのはやめてくれ。ティッシュはどこから出してきた。
とにかく、最初の方はヤバかった。なにしろ――
「な? いきなりこんなところに連れてこられたら怖いだろ? それにいろいろ考えたかったことがあったんだよ。だから、故意で無視してたわけじゃなくてさ」
――と、最初はこんな感じで説得したわけなんだが。最初に帰ってきた答えが――
「ぴやああぁぁぁ……絶対に故意だぁ。故意だったあ! ぴやああああああ!」
――これである。信用なんてこれっぽっちもなかった。……悲しいな。
なんやかんやありながら何とか落ち着いてくれたのだが、そろそろ聞きたいことがある。
「話せるか? ちょっと聞きたいんだけどさ」
「うぅ……ひっく……びゃい……」
よし、話せるようにもなったか。
「んじゃ、そうだな……。まず一つ目、ここどこ?」
「ずずーっ、ふぅ。えーっと、ここについてだよね? ここは……そうね、私の部屋よ」
絶対違うな、妙な間があったし。まぁそれの真偽は置いといて。
だからどこからティッシュ出したし。あと、鼻赤いぞ。大丈夫か。
「じゃあ2つ目。ここにいる理由は何となく察したけど、どうしてここいる?」
「ここにいる理由ね。そうね……単刀直入に言うと貴方は死んだわ。自ら命を絶ったのよ」
あっ、やっぱりね。そんな気がしてた。
「それで、ここからが本題なのだけれど。なんと、あなたは転生する資格を得ました! ドンドンパフパフ!」
……ふーん。
「ちょっと! そこ驚くところよ!」
「わー。すげーな、てんせーできるわー」
「はい、ありがとう」
綺麗な女性だとは思ったけど、なんか残念だないろいろと。
「そんなわけで、転生システムについて説明したいと思います! では、初めに――」
システムって言っちゃったよ……。
まぁそんなことはさておき、この転生システムとやらを俺から説明しよう。……決して、この人の説明が雑だったわけではない。
まず、この転生システムに選ばれるのは碌な人生を送れなかった人全員が対象らしい。例えば、いじめを受けて絶望した人、全然モテずに永遠と大切なものを守り通した人、自宅警備員、ホームレス等だ。彼女曰く――
「人生ってクソゲーだし!」
――だそうだ。俺もそう思う。
次に、転生先。俗に言う自分が向かう異世界については、転生の資格がある人、転生者としよう。その人の望む場所に行けるらしい。行ける世界には、日本とは別の現代社会のような文化がある世界、未知のエネルギーやら空飛ぶ乗り物が入り乱れた近未来文化の世界、核爆弾が入り乱れる戦争が日常茶飯事と化した世界、剣と魔法のファンタジーの世界の他、様々だ。俺もどの世界かすごく迷う。
さらに、転生者が宿る肉体も自分が望むところへ行けるそうだ。王様になるもよし、騎士になるもよし、貴族になるもよし、冒険者になるもよし、はたまた魔王や勇者になることも可能だそうだ。また、彼女曰く――
「軍師になって「今です!」が出来たりね。あぁそういえば、前になんちゃら魔王さんが、天下統一したいとか言って転生させたっけな?」
――と言っていた。うん、それ第六天魔王だ。信長様何やってんすか……。
まぁそれはさておき、転生先の世界と肉体は転生者が望む条件を当てはめて、それが可能かどうか検索すると言っていた。極稀に見つからず、条件を緩める必要があることもあるらしいが、大抵見つかるから大丈夫だとか。
そして最後に、転生先が決まったらその世界に持ち込みたいもの、いずれ手にするもの、出会う人などなどを組み込むことができるらしい。例えば、ゲームを持ち込みたいだとか、いずれ聖剣を手にするとか、王女様と結婚するだとか自ら望むように弄れると言っていた。言ってしまえば自分の望むシナリオを作るようなものか。またまた、彼女曰く――
「なんかね、前に世界の半分が欲しいから肯定したのに殺されたから、いずれ世界の半分を手にするって男の子が言ってた。なんだったんだろ?」
――もう何も言うことない。というよりそれ別の世界の勇者だ。日本人ですらない。
「とまぁ、こんな感じで説明終わり! なんか説明ある? ドゥーユーアンダスタン?」
「……なんかちょいちょい突っ込みたいところもあったけど、大体は理解したつもり」
「よーっし! それじゃあ早速、どの世界に行きたい?」
唐突すぎんよ。んーそうだなぁ……ビームとかレーザー兵器が使える世界とかロボットがある世界とか楽しそうとは思ったけど、転生するならやっぱりあれかな。
「剣と魔法の世界。だけど、そこに従魔とか召喚獣とかそういうのが存在する世界で」
「オッケー。剣と魔法、さらに従魔もしくは召喚獣が存在する世界ね……。よし、130件引っ掛かったわ」
え、多くない? 異世界どれだけあるんだよ。もしファンタジーのみだったら何件だったんだ?
「次、どんな肉体がいい?」
肉体ねぇ。……そうだなぁ。
「良い両親が欲しいかな。それも誇れるような。あと、なるべくなら貴族で爵位はどうでも良い」
「自分が誇れるような両親を持つ子供、それでとりあえず貴族ね。ちょっと待ってね」
今度は検索に時間がかかってる。たぶん130もある世界の人間一人ひとりを当てはめてるんだろうな。
ちなみに俺が貴族と指定したのは、ただ貴族になってみたかったからである。
「3件見つかったわ。そのうち2件は同じ世界よ。詳細は必要?」
「欲しい」
「オッケー」
そう言って検索結果の3つの資料を見せてくれた。
同じ世界という2件は戦争真っ只中の世界らしい。しかもその2つは敵対関係。厄介この上ない。
「それじゃあこれで」
俺は被ってない残り1件を手渡す。そこは、戦争は起こっていないものの、国同士で何かしら争っているらしい。
だが、俺がこれを選んだ理由はこんなことではなく、両親が暮らしている場所が都会から離れた辺境の街だったことと、剣と魔法と従魔について学べる学校があるというのがきっかけだった。長閑な街が好きだ。
「これでいいのね?」
そう言われて頷く。異論はない。
「わかったわ。それじゃあ最後に、あなたは何を望む?」
俺の目の奥を覗き込むように見つめる彼女。何か見透かされてるような気がしなくもないが率直に言う。
「んー、パートナーが欲しい。あ、それは従魔という意味でも彼女っていう意味でもあるから。あとは友人かな」
そう答えると、途端に彼女は目を丸くした。だって仕方ないじゃん。友達に恵まれてなかったんだし、非リア充だったんだから彼女欲しいじゃん? リア充の仲間入りしたいじゃん?
「ぷっ、あははははははははははは!」
「な、なんだよ」
「いや、ごめんね? ビックリするほど欲が無かったからつい」
……そうか? 彼女と友達って結構大事だぞ?
「でも、そっかぁ。うん、私は欲が無い人は好きだよ? 好感が持てる」
「それは、ありがとう。それより、いつ行けるんだ?」
「あぁごめんね? 君といると楽しいからつい、ね? とりあえず、これ見て」
そう言ってさっき渡した1件に加筆された資料を返される。
「転生する前に、一通り見て確認して。間違いない?」
「うん、無いよ」
「わかった。名残惜しいけど、これでお別れだね」
「? そうだな」
どうして、そんなに悲しそうにする?
「よし、そこの円の真ん中に立って」
「おう」
いつの間にか用意されてた円に移動する。うわ、この魔方陣みたいなのかっこいい。
「それじゃあいくよ?」
そう言われて頷く。すると途端に円が光りだした。その光は徐々に強くなる。そして辺り一面、自分の体さえ見えなくなるほどの光に包まれ、意識が消えた。
◇
「……行っちゃったか」
さっきまで目の前にいた少年のことを思い耽る。
人間でいうとかっこいい分類に入らないのだろうが、無欲で、おそらく純情であろうその姿勢に私は惚れた。いつでも一緒にいたいと思った。だけど私はここにいないといけない。そうわかっていて私は謎の苦しさを覚えた。
「せめて、彼には幸せになってもらわないと、ね?」
さっき彼の行っていた『彼女』という部分を書き換える。それは彼の気持ちを踏みにじるようなものだ。でも、私は躊躇わずに、こう書き換える。
『ハーレム』と。
はい、クリスマスとお正月を通り越して投稿です。あれ? この展開まさかしばらく投稿しないんじゃね? というデジャヴを見ましたが、なんとか投稿できました。
これからも、完全不定期なりに頑張って投稿するので見てください!
あ、でもモンハンワールドとソードアートオンラインの新作で、またかなり期間開きそう。