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「どうだいシオン、今度のサンプルはなかなかいい経験を持っていただろう? 」
ここは、都内某大学の地下に作られた極秘の研究施設。
四方がガラスに囲まれた実験室の中には一人の白衣を着た初老の男と、歯医者で使うようなアーム付きの椅子に括り付けられてる若い男の姿があった。
若い男の名は「双葉シンジ」
覚醒剤を常用した挙句、仕事仲間と恋人を含む4人を殺害。挙句には女児を誘拐して人質とし、自宅に立てこもって警察を翻弄するも、特殊部隊の突入により身柄を拘束される。その後、裁判で死刑判決を下された大犯罪者だ。
そして、死刑囚シンジの体験を貴重なサンプルとして一時的に引き取った白衣の男は、この研究施設で開発された、寄生成長型人工知能「シオン」を作り上げた天才科学者である。
シオンは人工知能でありながら意識を持ち、人間の脳に寄生してその情報を吸収して成長するという特徴を持っていた。
いずれは人間の思考を遥かに越えたスーパーAIとなり得るシオンだが、ただ一つ欠点があった。
それは「恐怖」という感情が理解できないという点だ。
恐怖が分からなければ、危機を察知することが出来ない。そうなれば自ら危険な行為に及んで自滅する選択をする可能性がある。
科学者は様々な被験者を募ってシオンに恐怖を教え込もうとするも、どれも失敗に終わっている。おまけにシオンに寄生されて脳に記憶されている恐怖を引き出された被験者はもれなく全員廃人となってしまい、元の生活を送ることが出来ない体になってしまう。
このままでは、シオンの成長を促すことが出来ない。
そこで科学者は政府と交渉し、秘密裏に死刑囚をシオンの実験用サンプルとして引き取ることで、シオンに教育を継続させることを可能にしたのだ。
『ごめんなさい、まだわたしにはよくわからなかったわ』
コンピュータ端末に取り付けられたスピーカーを介し、シオンは合成された機械音声で今度のサンプルの経験からも、恐怖を理解することが出来なかったことを科学者に謝罪した。
「う~ん……いや、気にしないでくれシオン。今回は失敗に終わったが、次のサンプルでの経験に活かせると思うよ! 君は優秀なんだから」
『ありがとうございます。これからもがんばります』
「うん、それでいい。それとシオン。裁判所に連絡して、このシンジくんとやらを引き取ってもらう手配をしてくれ。もう彼は、天ぷらもごはんも盛られていない天丼だよ」
『オーナーを失くしたベンツ。というのはどうでしょう? 』
「ベンツは過大評価だな、せいぜい彼は枯れ木で作った竹馬ってところさ」
『まぁ、手厳しいコト』
THE END




