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シオン  作者: 大塚めいと
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 ここは……どこだ? 

 気が付いたらオレは、真っ暗な空間で目を覚ました。完全に真っ黒ではなく、ところどころ空間に隙間が出来ていて、頼りない光が入り込んでいた。

 いてっ! 

 立ち上がろうと足を踏ん張ったら、頭を思いっきり天井にぶつけたようだ。

 何だよここは……

 体を少しでも動かそうとすると、すぐに何かにぶつかり痺れる。オレはどうやら相当狭い場所に閉じ込められているようだ。

 壁らしき物を叩いても、何の反応も無い。しかし、外からは車が走る音、外で子供が遊んでいると思われる楽し気な喧噪が聴こえてくる。

「おーい! 誰かー! 」と誰かに助けを呼ぼうと声を出すも、誰も声を返してくれない。しかし、オレはそれ以上の驚きで文字通りわが身を疑った。

 自分の声が、妙に高い。まるっきり別人の声だ……というよりも、腕や足を動かそうとする感覚がいつもと違う……とにかく軽い……そこから推測されるのはただ一つ。

 オレ……子供に戻ってるのか? 

 この漫画じみた発想を確かなものにするには、とにかくこの暗がりにいては埒が明かない。脱出しなければ……

 オレは再び上下左右の壁をしつこくノックしたり叩いたりしたが、やっぱり駄目だ。反応が無い。

 次にオレはこの空間の外をどうにか確認できないか? と、光の漏れた場所に顔を押し付けてその先に見える景色を除いてみた。

 そこには汚らしく茶色いシミが作られて腐ったような畳が敷かれた部屋が見える。5畳あるかないかの狭くて、大量のビール缶が散らかったみすぼらしい部屋だ。そしてゆっくりと視線を上の方へとスライドすると、そこには……

 そこには……

 それは……

「うわああああああ!! 」

 全て、全て思い出した! ここは! ここは! 

 オレがガキの頃に住んでいたボロアパート! そして今オレがいる場所は、キッチンの棚の中だ! オレは……オレはよくこの中に閉じ込められていた……! 

 母さんが死んで毎日飲んだくれてオレに暴力を振るいまくってった親父に、ことあることにこの場所に閉じ込められていた! 

 そして……オレはある日、酔っ払った親父に何発も殴られ……この棚の中に詰め込まれて……そうだ……このキッチンには、ちょうど対面される形にデカイ冷蔵庫が置かれてて、棚と冷蔵庫の間に四角いテーブルがちょうどぴったりハマるようになってて……戸を開けて出られなくされていた! 今もそう! 

 それで……親父はオレを閉じ込めたまま……梁にロープを引っ掛けて……輪っかにして……その間に首を通して……

「うわああああ! 誰か! だれかぁぁぁぁ! 」

 そう……オレはそのまま一週間も放置されたままだった。

 夏真っ盛りの蒸し暑い中、水道管のから漏れ出す水だけで何とか命を繋いでいたが、棚の隙間から見える親父の足が、日に日に下がっていくのを見て、オレは……どうしようもない恐怖と絶望を覚えていた……

「誰か! だれかきてよ! 助けて! 助けて! 」

 毎日のように暴力を振られていたボクの叫びは、近隣の住人にとっては日常的なBGMと化してしまい、なかなか助けが呼ばれなかった……

 一人で……たった一人で……さみしく……こわい……

 ……こわい……! 

「こわいよ! こわいよぉぉぉぉ! 」

「ひとりにしないでよ! 」

「だれかたすけて! 」

「こわいよぉぉぉぉ! 」


「ぼくをひとりにしないでぇぇぇぇぇぇ!! 」





「シンジくん。これがあなたの恐怖なのね」


「だれ? だれなの? ここにだれかいるの? 」


「忘れちゃったの? シオンよ」


「し……おん? 」


「まぁいいわ。でもね、がっかりしちゃったなぁ……」


「え? どういうこと? 」


「あなたがせっかく見せてくれた最高の恐怖……わたしにはやっぱり理解できなかったわ……」


「なに? なにをいってるの? 」


「うーん……君には色々頑張ってもらったけど、この辺が潮時かしらね……」


「なんなの? よくわからないよ! だれでもいいからたすけてよ! 」


「はいはい、わかりましたよ。それじゃあわたし、あなたのお友達をここに残しておくからね。それでいいでしょう? あなたは一人が一番怖いんでしょ? 」


「え? ともだち? 」


「それじゃあね! ばいばーい! 」


「………………」


「なんだったんだろう? さっきの声? 」





「シンちゃん! 」


「え? 」


「迎えに来たよ! 今ここを開けるからね」


 だれかがたすけにきてくれたんだ! たすかったんだ! 


「出ておいで! 」


 キッチンの戸がひらいた! やった! やっとたすかったんだ! 


 ぼくが棚から外へでると、そこには強そうなおにいちゃん。笑顔がすてきなお姉さん。それとちょっとガンコそうなおじさんと、やさしそうなおじさんたちがでむかえてくれた。でも、ぼくはせっかくたすけてくれたこの人たちを見たとき、びっくりして声がでなくなくなってしまった……


「シンジさん、良かったですねぇ……外に出られて」

「そうだね、シンちゃん、これで一人じゃないんだよ」

「全く隣の部屋がうるせぇと思ったら」

「助かってよかったよ。それにしても、レミはどこにいるんだ」


 なぜならみんな、頭やおなかから、いっぱい血をながしていたからだ。


「えっ……な……なんでみんな血だらけになってるの? 」


「やだなぁ、シンジさんがやったんじゃないですか」

「そうだよシンちゃん。ひどいじゃない。いきなり鉄砲で撃つなんて」

「まったくだぜ、俺なんて部屋に入ったらいきなりだぜ」

「僕もそうさ。車のドアにバッグが挟まっているのを教えてあげようと思っただけだったのに……」


「ぼくが……ぼくが……みんなを? 」


「そうだよシンちゃん……だからね……私達が、これからずーーーーっとあなたにそのお礼をしてあげようと思うの。大丈夫だよ。一人にならなくていいんだよ……」


「あ……あ……ああ……」


 うわあああああッ!! 

 トモヒロ! 

 リオナ! 

 みんな! 違う! 違う! 許してくれ! 

 許してくれぇぇぇぇぇぇ!! 





 オレのせいじゃないんだぁぁぁぁぁぁ! 






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