向日葵の約束
「陛下。本年の慰霊祭はどのような趣向になさいますか」
「陛下。本年はルードヴィッヒ殿下のご生誕10周年、エリーゼ殿下のご生誕5周年ということもあります。夜ではなく、昼間の催事に力を入れてはいかがかと」
「そうですなぁ〜。昨年は陛下と王妃陛下のご婚礼記念で夜の催事を増やしましたからなぁ」
ツヴァイ王国の政務に関わる筆頭…むしろ重鎮たちが多い中、年に一度の大きな祭にむけての議会は進んで行く。
「皆の気持ちは嬉しいが、王家のことで毎年祝うのはな…不平等ではないか?」
「何をおっしゃいますか‼︎王家あっての我が国ですぞ‼︎」
「そうですよ〜。なんだかんだ国民とて毎年、趣向の違う慰霊祭を楽しみにしているのですから。楽しむ!騒ぐ!飲む口実は多い方が盛り上がりますって〜」
国の中枢の大切な会議が和やかすぎる…と思うのはカールだけだろう…。
「そう言ってくれるのは嬉しいが…まぁ名目という事だけならよいだろう。警備だけは万全に頼むぞ」
「はっ。陛下の御心のままに」
「昼の催事は、王立学院の農学部に芙蓉を使うと春に通達しております。花いろは白と桃の2種類です」
「祭当日に、身につけ夜の灯火流しにて、灯篭とともに流すという、伝統にのっとって計画を進行中です」
王立学院の理事を任され、教育省のロード公爵が威厳のある顔を変えずに進言した。
「今年は王立学院の音楽部に灯火流しの際の鎮魂歌を依頼しております。ロード公爵そうですな?」
宰相であり、カールの父とは思えない堅実過ぎるコンラート公爵が確認する。
「はい。仰せの通りでございます。」
「昼間の軍行進の音楽もお願いしますよ?辺境伯の行進、陛下への剣技進呈の儀も滞りなく準備してございます」
「あとは今年の趣向か…王立学院には申し訳ないが、獣鳥部に鳩を借りることは可能か?鳩は平和の象徴と聞いたことがある。開催の宣言とともに鳩をとばし、花や菓子をまくというのはどうた?」
「子どもたちが喜びますのは、この国の発展にも通じます。よろしいかと」
ロード公爵は厳つい顔をわずかに緩め同意した。
ウォルフガングが周りを見回すと皆、同意を示しているようだ。
「それでは、そのように計画、実行してくれ。コンラート子爵はこれを執行書として作成を」
「これにて閉会」
参加者は皆起立し、ウォルフガング陛下に略礼をし退室した。
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辺境伯が4人、当人たちが治める領地から王の前に剣を捧げる。
音楽が止まり、4人が王の前に最高礼をとると、王は4名に労いの言葉をかけ、王妃が前に出る。
「今年もありがとうございます。今年の花は芙蓉。この花のように皆が大輪を咲かせられるよう、よろしくお願いします」
ローズマリーは声を掛け、剣の上に芙蓉の花を置き渡した。
「「「「はっ謹んで精進いたします」」」」
辺境伯は言い終えると剣をしまい、王や王妃の後ろに下がる。
「それでは、本年の慰霊祭、芙蓉花祭を存分に楽しんでくれ」
わぁっという歓声とともに鳩たちが舞い上がり、芙蓉の花と菓子が降る。
それを見た子どもたちはさらに声をあげ喜んだ。
「ルードヴィッヒ、エリーゼ。君たちも屋台やダンス、サーカスを楽しんで来なさい」
「父上。ありがとうございます。僕はエリーゼとヨハンとともに行ってきます。護衛はウェラー卿、ヴィオラ借りますね?」
「ああ。気をつけて。ヴィオラ、子どもたちを頼むよ」
「母上。りんご飴以外に欲しいものはありますか」
「ありがとうルー。たくさんありすぎて言い切れないからエリーと同じのでいいわ。暗くなる前に帰るのよ?」
「はい。失礼します」
大人びた対応だったが走り行く姿が微笑ましい。
「皆、ご苦労だった。旅の疲れもあるだろう。各部屋でゆっくり休んでくれ。夜の式典ではまたよろしく頼むよ」
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今日1日は、王族、辺境伯、侯爵以上のものは紺や青、緑など落ち着いた色をまとわなくてはならない。
しかし、城の奥の人口森には黒いベールをかぶり、喪服を着た王妃が今年の花、芙蓉の花束を携えて大きな岩の前に立っていた。
「今年も皆、変わりなく慰霊祭を楽しんでおりますわ」
「マリー。なぜ一人で来てしまうんだい?一緒に行きたかったのに」
ハッと後ろにを見るとウォルフガングが同じように黒い礼服で立っていた。
「申し訳ありません陛下「ほらまた敬語になってる」」
「マリーはそういうとき敬語になって私と距離を置こうとする。そしてまた…1人で泣くのだろう?」
「うっ…だって…うっ…うっ」
「だから一緒に行こうって言ってるのに…ほら涙を拭いて?廟の中で皆心配しているよ」
「はぃっありがとうっございます」
ローズマリーにハンカチを渡すと持ってきた花束を霊廟に供えた。
「今年も危なげなく、王位に就いています。戦の話も今の所ない。ありがとうございます」
言い終えると遠くを見るように目を向けたあとゆっくり手をあわせた。
「陛下。ありがとうございます。今年も向日葵を供えてくださって…」
「マリー。敬語…ね?向日葵は君の父上と母上の記念の花だろう?先王陛下や私の母を気にして供えられないのは私が申し訳ないからね」
「っぅありがとうウォルフ…先王陛下にも王妃様にもよくしていただいたわ。だからこそ、この日には思い出してしまうの…あの戦を…私は、楽しんではいけないのよ」
「君が悲しむと先王陛下や母も、君の父上や母上も悲しむよ。むしろ私が怒られるよ。君は戦にならないよう、外交も国内統治も頑張っているよ」
「でもっこの日だけは…皆んなでいたあの日々を思い出してしまうの…」
「知っているよ。優しいマリー。だから私はこの廟に誓ったんだ。民を大切にすること…そしてあの戦争を決して繰り返さないと」
その言葉を聞き、ハッとウォルフの手をみると血が流れていた…
「ウォルフっ手がやめて‼︎」
「ありがとうっ。2人では無理かもしれないがカールもいる。必ず戦をしない国にしよう」
「ありがとうっウォルフっ。陛下も王妃様も大好きだった。父や母も…っ兄も義姉も大切な人だったの」
「マリー。ありがとう。私の父や母のことも好きでいてくれて。わたしも君の父上や兄上シオン殿に君に会いに行くといつも喧嘩をふっかけられて…」
「いつもお母様や義姉様に止められて…お父様もお兄様も叱られていたわ」
くすっ
「私も君の家族が好きだ。王太子でも特別扱いしない…暖かい家だった。君はお転婆だったし」
「あぁ〜それは内緒よ⁈ルーやエリーには絶対に言っちゃダメよ⁈」
「くすっそうだね。よし。今年も植えるんだろ?」
「っ…ありがとう…ウォルフ。そうよ‼︎今年は栗と梅と桃、蜜柑の木を買えたの〜」
「4本も?大丈夫?夜の式典に間に合うかなぁ」
「大丈夫よ‼︎2人なら。来年はもっとたくさんジャムや甘露煮を売って10本は買うし植えるんだから‼︎」
「じゃ来年はルーやエリーにも声をかけよう」
「ダメよ。今日くらいはルーに王太子を忘れて楽しんで欲しいの。それにせっかく2人だけの秘密なんだから‼︎2人で頑張りましょうウォルフ」
「はいはい。うれしいけど穴掘りはやだなぁ…ウェラー卿を入れるならたのしそうだけど」
「あぁ〜そんなこと言うとウェラー卿に言っちゃうわよ?」
「それは…ちょっと…」
「行きましょ〜ウォルフ。悲しむのは私に似合わない‼︎あっウォルフの所為で忘れてたじゃない‼︎」
ローズマリーは振り返って霊廟にもう一度手を合わせた。
「皆さん。私は幸せですわ。いつもっありがとうございます。私…命を授かりましたのっどうかまたお護りください」
「はぁっ⁈マリーなんで私に言わないの⁈早く帰らなきゃ医者⁈アリア⁈カールは無理か…誰に言えば」
いきなり焦りだしたウォルフガングに、くすっと笑った。
「ウォルフったらもー。もう安定期入ってるし大丈夫よ‼︎アリアやお医者様もご存知よ。だから植樹頑張りましょうね」
「うぇっ⁈じゃ私にも教えてくれてもってかそれで植樹無理でしょう⁈」
「大丈夫よ。ウォルフが穴を掘って、私が木を置いてウォルフが土寄せして、風除けして肥料は私が撒くわ」
「それは、私がほとんどやるってことじゃないか⁈」
「よろしくね?ウォルフ」
太陽がくれた微笑みは向日葵に形を変えてひっそりとたたずむ。
城の人口林では、もしも戦争になったときにと食べられる実を育てています。
戦争のためだけでなく、孤児院や救護院などにも渡すように作っています。