日常にスパイス
毎日の通勤ラッシュが辛くて
現実から逃避しようと、意識を飛ばしていたら起こった実話。oh..痛い
今日は一段と混んでいた
遠足なのか学生が群をなし
会社員と入り混じる形で中にいた
揺れる箱の中は身動きするのも難しいほど。なんとか手摺は掴んだがあまり役にたたない
むしろ伸ばした腕に繋がる背中の筋肉が伸び痛みを発していた。痛い
これは痛いが手摺を離そうにも、横には学生がいて腕を戻せそうにない。痴漢を疑われるのは嫌だし、なにより密着した状態で身体の自由がきかなかった。この状態で離したところで腕は動かず、空中で彷徨うのは目に見えている。
降りるまではあと5分といったところか。背中に続き痛みを発し始めた首筋に顔をしかめる。痛い
トラブルがなければあと数分の我慢だ、耐えろ耐えるんだ。
「.....ぃ!」
路線図を眺め意識を飛ばしていると左手の甲に痛みを感じた。横目で見やれば、隣にいた女子高生の制服と擦れているようだった。
痛い
制服の生地は硬くザラリとしていてヤスリで擦られているようだった。
学生時代に防寒着として活躍してくれた相棒が、この歳に牙をむいてくるとは思いもしなかった。(自分の制服ではないので、相棒ではないのだが....)。なんとか避けようとするが相変わらず身動きは取れない。
どうしたものかと悩んでいると、
鞄に別の重さを感じ前を見る。
ごった返していてよく見えないが、感覚的に横の女子高生が体勢を変えたことで寄りかかる体勢になっているようだ。辞書に加えて分厚い教科書を詰めた鞄に、女子とはいえ高校生の体重が左肩にのしかかる。肩が外れそうだった。普段持ち歩かない書物は今まで放って置かれた恨みを晴らすように、体重をかけてくる。
それに加えて人間の体重とは...なんとかして体勢を変えようと肩の力を抜く。鞄を下に落とし手で持つことで、少しでもスペースを作る。僅かだができた隙間を使い体勢を横から斜めにする。肩がぶつかるこの体勢なら、寄りかかられる心配はないだろう。万が一に備えて足元に鞄を持ち、女子高生の足の動きを封じる。
「......」
密着していた体勢から解放され、息を吐き出す。未だ続いている痛みや酸素が低下しているせいか息苦しい。
少しでも酸素を得ようと顔を上げたその時、
ガタン
大きな音と共に体勢が崩れる。
上げていた首が反動で捻られたて悲鳴をあげる。無意識に右手と足に力をいれたのか、体勢を戻すことに成功した。だが、手摺を持っていない者は当然のように体勢を崩した。
「......!!?」
胸板に硬い感触と衝撃がはしる。
前からの重みに足を踏ん張り堪えるが、避けたはずの左手がまた痛んだ。その痛みは先程と変わらないもので、制服であることが分かる。
....それはそうか、目の前の女子高生が仰け反るような形で寄りかかっているのだから。
軽い気持ちとは裏腹に身体は強張り
前に組んでいた腕は、後ろに避けていた。顔に髪がかかる至近距離で、息をすることすら憚られた。
「(近い近い近い近い近い!)」
頬にあたる黒髪は柔らかく、顔を背けるとさらりと元に戻っていく。ときどき香る甘い匂いに体温が上がった。鼻息を気にして呼吸を浅くするが、酸素の薄い中では逆効果で息が荒くなった気がした。変質者扱いされては堪らないが、顔を背けても待っているのは女子高生の顔である。逃げられない状態で思考がまとまらない。
『知ってるか?女性は身体から甘い匂いがするんだぜ』
頭を過ぎった先輩の下らない知識に、呼吸が止まりそうになった。いつもなら幸せ自慢しやがって...と、悪態を付いて忘れてしまうことが鮮明に思い出される。『女子からは....』この甘い匂いは使っている整髪料の匂いではなく....先程より鼻腔をくすぐる成分が濃く感じられた。自分でも分かるくらいに手は汗ばみ荷物を取り落としそうになる。立ち所が悪いのか身じろぐ女子高生、その度にふわりと髪が舞い顔をくすぐる。
「....んっ」
「.......!」
小さく発された声は妙に蜜っぽく聴こえ、慌てて下を見る。
「(大丈夫、触ってない!)」
どうやら咳払いだったようだ。ほっと胸をなでおろし、鞄を持つ手に力ををいれる。腕は後ろだが緊張しているのか、悪いこともしていないのに焦ってしまう。警察が来ると別にやましいことはないのだが、焦って疑われるやつだ。痴漢の疑いをかけられる人は、きっと自分のように小心者に違いない。
同じめに遭っているであろう乗客に
妙な親近感を覚える(見たこともない)が、
今は己の身の心配である。
先程から右にいるサラリーマンの視線が鋭くなった気がしてならない。これでは本格的に駅員の元へ連れて行かれてしまう。横目で彼を見つつも誤魔化すように、電子広告へ眼を移したが内容が入ってこない。可愛らしい猫のキャラクターが、乗客マナーについて解説している。いつもなら人気のオレンジ猫に頬を緩ませもするが、そんな余裕は現在持ち合わせていない。喉が乾燥しているのか、止まらない咳払いが嫌でも気になる。人目を気にしているのか、控えめにしているせいで、なかなか治らないらしい。
「(気を使っているんでしょうけど、全くの逆効果ですからねそれ!)」
詳しいことは分からないが、声は抑えようとするほど艶かしく聴こえる。咳も例外ではないのだが....
「(マナーだってことは分かる!
分かるけども!どうしてこうエロいかな....特に女性!)」
きっと綺麗な高音が擦れて聴こえるから、そう聴こえるのだろう。
感情の高ぶりを隠すように下唇を軽く噛み、マフラーに顔を埋めてゆっくりと呼吸する。するとここで、天の助けても呼ぶべき声が聴こえた。
カチリとなる電子音とマイクの入るときの小さなノイズ。
「まもなく到着ですお出口は右側ーーーー」
きた!
耳に馴染んだアナウンス、後ろを向けば直ぐそこには駅が見えていた。
これでこの圧迫から解放される!
皆んな同じ気持ちなのだろう
身じろぎし始めた集団に同調するように、後手に回していた手を横に持っていく。
「お待たせいたしました○○お出口は右側です」
扉が開いた瞬間に新鮮な空気も押し返すような勢いで、人が排出されていく。前に前にと会社へと急ぐ彼らはまるで猪のようだ。後ろからグイグイと押されることで目の前の圧迫感から解放された。自然に肩の力が抜け鞄を持ち直そうと左手を上にーーーちゅっ
小さくなったリップ音
揺れる制服、流れる黒髪
悪戯に成功した子どもの顔
全てがスローモーションに流れていくようだった。いつの間に振り向いたのか横にいた女子高生は、よく見知った顔でーーーー
「あ、お前っ!」
「やっぽー、おじさん。元気してた?」
「元気じゃないよ!うら若い娘がなななんて事を!」
「お堅い事言わないの、頬っぺたじゃない」
「そうゆう問題じゃっ」
「ほらほら、遅れちゃうよ?」
「あ...くそ、後で覚えてろよ!」
「あとで連絡するね〜」
横に立っていたのは俺の甥っ子で、彼女は最初から俺に気づいていた。
遊ばれていたのだ、ずっと。
たぶん咳払いもわざとなのだろう、悪女め。
僅かに感触の残る頬に手を当てれば顔が赤いのが嫌でも分かった。
不覚にもときめいてしまった過去を振り払うように、俺は小走りで改札を抜けた。
駄文にお付き合い頂きありがとうございます
感謝、感謝の一言です!
良く書くんですけど、オチが迷走して終わらないので投稿してないですww
読んでる人がいるといいなー