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冬嫌いのあなたに

作者: 星沢 遼

 寒い寒い冬がやってきた。私の嫌いな冬。朝起きるのはつらいし、寒いから外に出たくないし、雪が降れば歩くのだって大変になる。いいことなんて一つもない。コートとか邪魔だし、夏の薄着の楽さを考えるとうんざりする。

 今日は寒いから布団から出られなかった。休日だからいつまでも布団の中にいても大丈夫だ。携帯には何件か着信が来ていた。おそらく遊びの誘いだろう。私はそんなの行きたくない。休みの日にわざわざ外に出る必要なんてない。私は布団という素晴らしい世界に入り込んでいたい。そんなわけで携帯の電源をオフにした。

 さてさて、再び惰眠を貪ることにしよう。


「おい」

 耳元で声が聞こえる。目を開けると目の前には黒いなにかがいた。

「ひぃっ」

 思わず悲鳴をあげてしまう。なんなのこいつは。不審者?

「いつまで寝てるんだ。早く起きて俺様を作れ」

 黒いなにかは頼みごとをしたいみたいだった。こんな変な状況なのにしっかりと考えることはできた。

「作るって何を?」

「俺様を、だ。いいか目を覚ましたら俺様を作れ。そんなに大きくなくていい。頑張って作れよ、じゃあな」

 黒いなにかはそう言い残して消えた。


「ちょっとなんなのよ!」

 叫びながら体を起こす。目の前に黒いなにかはもういなかった。代わりに母さんが呆れたような顔をして立っていた。

「なんなのよはこっちのセリフよ。いつまで寝てるの。早く起きて手伝いなさい。外すごいことになってるのよ」

「外?」

 母さんが窓を指差したので窓に向かう。

 外は一面の銀世界だった。なんで?昨日は積もってすらなかったのに。

「え?これ一晩で積もったの?」

「そうよ。いきなりの大雪で世間はパニックになってるわよ。休日でよかったってお父さんは言ってたけど、平日なら電車とか止まって大変だったわね。見て分かったと思うけど雪かきしないといけないから手伝いなさい。ちゃんと暖かい恰好してきてね」

 母さんはそのまま部屋を出て行ってしまった。

 えー……雪かきなんてしたくないよ……。大変じゃん、寒いし。でも、手伝わないと後で怒られそうだし行くしかないか。

 服を四枚ほど重ね着して手袋もつけ外に出る。

「うう、これでも寒い。家の中で寝てたい」

「おはよう、やっと起きたのか。寒いし大変だからさっさとやって家に戻ろう」

 ぶつぶつ文句を言ってたら父さんがシャベルを渡してきた。どうやら父さんは朝から一人でやってたみたいで、家の周りの三分の一ほどはすでに雪が無くなっていた。

 やらないわけにもいかず雪かきを始める。思った以上に大変ですぐに体が痛くなってくる。ひいひい言いながらも必死にやり三十分ほどで大体の雪が片付け終わった。

「はあ、疲れた……」

 家の前に座る。父さんが残りはやると言っていたので私は家の中に戻るはずだった。でも、さっきの夢が唐突に甦る。黒いなにかがはっきりとした形を作る。

 あの黒いなにかは雪だるまだった。なんで私の部屋に雪だるまがいたのかよくわからないし、作れと言ったのもわからない。それでも、雪だるまを作らなきゃいけないという気持ちになった。

 父さんに言って、残った雪の所で雪だるまを作り始める。そんなに残ってないから大きくはできなさそうだった。それでも私の腰くらいの高さの小さな雪だるまができた。

「お、雪だるまを作ったのか。俺も子供の頃よく作ったなあ。でも、お前がそういうの作るなんて珍しいな。いつも寒い寒いって言って外に出ようともしないのに」

「なんかたまにはいいかなって。せっかく外に出たんだしさ」

「そうか。それじゃあ俺は戻るから風邪ひかないうちにお前も戻れよ」

 父さんが家の中に入っていく。

 私はというと少しの間自分の作った雪だるまを眺めていた。なんでこれを作ったのか不思議に思ったからだ。考えてもわかるわけないけど。

「やっと作ったのか。真っ先に作れよ俺様を。こんなにちっちゃい体にしやがって」

 どこからか声がした。聞き覚えのある声だった。声の元を探してるとまた声がする。

「おい、何きょろきょろしてんだ。俺様が目を覚ましたんだ。ちゃんとあいさつをしろよ」

 声の主は雪だるまだった。そういえば夢の中でも同じ声で雪だるまは話していた。

「ど、どうも」 

 不審に思いながらも声を出す。なんだこれ。

「俺様がお前のところにきたのは他でもねえ。冬が嫌いとか言うやつのとこに俺様は来るんだ。なんでかって?そりゃ俺様が活躍する冬を嫌いって言うやつは叩き直さないといけないからな」

「なにそれ、無理やり好きにさせられても迷惑だし。大体なんでそんな上からなのよ。雪だるまなんて最近あんまり見かけないし勝手に出てこないでよ」

 高圧的な態度に少しイラついていた私は一気に不満をぶつける。

「ああ?お前みたいな子供が増えたから俺様の出番が減ったんだろうが。もっと冬を好きになれよ。雪だって白くて綺麗じゃねえか」

「汚い空気を通ってきた雪なんか綺麗なもんか。私は絶対冬なんか好きにならないからね」

 私は近くにあった雪を雪だるまに投げつけた。

「お、雪合戦でもするのか?俺様は雪合戦めちゃくちゃ強いんだぜ?全弾お前の顔面にぶつけてやるよ」

 雪だるまの投げた雪はたしかに私の顔に当たった。

 顔に当てられた私は当然ムキになり投げ返す。私も雪だるまも避けようとせずお互い顔に当てて当てられを繰り返していた。

「な、なかなかやるじゃねえか……」

 雪だるまの顔は雪を相当ぶつけられて崩れていた。

「そ、そっちこそやるじゃない」

 私の顔もかなり感覚が無くなっている。しもやけになっていそうだった。

「久しぶりだぜ、こんなに俺に対抗して来たやつは。大体のやつはすぐに折れちまうんだけどな」

「冬が嫌いって言ったでしょ。あんたみたいな冬にしかいないやつに負けるなんてありえないわよ」

「しょうがねえ、今年は引き分けだ。来年また来てやるからな!」

「来なくていいわよ。めんどくさいし大変だし。雪合戦は少しだけ楽しかったけど」

 途中から楽しんでいたのは本当だ。最初は追い返すつもりだったのに投げるのも当てられるのも楽しくなっていた。

「そうかい。なら友達として来年また来るよ。あんたがちゃんと覚えてたらな」

 雪だるまはそう言ったきり話さなくなった。

 話しかけてもうんともすんとも言わず、ただそこに立ってるだけ。

「なによ、勝手に友達にしないでよ」

 雪だるまが消えて寂しい気持ちが心のどこかにあった。



「はあ、今年も雪が降ったのかあ」

 学校へ行く途中、友達にそうこぼす。

「今年も降るとは思わなかったね。いきなり寒波が来て日本中を雪化粧して行っちゃったんだから」

「寒くて嫌になるね。去年ほど嫌とは思わないけどさ」

 去年の雪だるまを思い出す。今年も雪だるまを作った。もう一度来てくれると思ったから。でも、雪だるまは話しも動きもしなかった。

「来てくれるって言ったのに……」

 目の前を白いなにかが通る。それは私の口に近づきキスをした。ひんやりとした感触が唇に伝わる。

「あ、雪……」


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