なんで太郎の冒険
むかぁしむかし、あるところにおじいさんとおばあちゃんがいました。
おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯へ行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると…川上から“でんなぁでんなぁ”と大きなバナナが流れてきました。
「おやまぁ」
おばあさんはびっくり。
「立派なバナナだこと。持って帰っておじいさんとバナナケーキにでもして食べましょうか。
それともバナナミルクにしましょうか」
おばあさんはバナナを抱えると、えっちらおっちら家に帰って行きました。
帰って来たおじいさんもそのバナナの大きさにびっくり。
「大きなチョコバナナにしよう!お腹が破れるほど食べられるぞい」
と、早速そのバナナの皮をむきました。
すると、何と!
中から、かわいらしい男の子が産まれました。
「きゃあ!」
「こりゃあ驚いた」
おじいさんとおばあさんが腰をぬかしていると、その子は首を傾げて聞きました。
「何で?何で驚いたの?」
「えっ?そりゃあ…バナナから出てきたら驚くじゃろう」
「何で?」
「何でって…だってバナナからは普通人は生まれんじゃろ」
「何で?」
おじいさんとおばあさんは顔を見合わせました。
「何で二人で見つめ合ってるの?ねえ何で?」
それから、おじいさんとおばあさんはその子供を「なんで太郎」と名付け、育てることになりました。
なんで太郎は毎日「何で?」と聞きながら大きくなっていきました。
「ねえねえ、何でお空は青いの?」
「何で手の指は5本なの?」
「何でセロリは苦いの?」
なんで太郎の質問攻撃に疲れながらも、
おじいさんとおばあさんはなんで太郎を可愛く思い、大切に育てていました。
そんなある日。
都から来た人が、なんで太郎に鬼の話をしました。
「悪い鬼が、都じゅうを荒らし回っているんだよ」
「何で?何でそんなことするの?」
なんで太郎の質問に都の人は「さてねえ」と首をひねりました。
「そんなに気になるなら、直接鬼に聞いて見るといいんじゃないのかい」
成る程それもそうだと、なんで太郎は鬼の住む鬼ヶ島に行くことになりました。
さて。そうと決まるが早いか、早速なんで太郎は出かける支度を始めました。
おばあさんがきびだんごをこしらえてくれます。
「これを食べると元気が出ますからね」
「何で元気が出るの?」
「元気が出るように、心を込めたんですよ」
「何で?」
「なんで太郎に元気になって貰うためですよ」
「何で?」
「ああもう、何でもですよ!良いから行ってらっしゃい!」
こうしてなんで太郎は、鬼ヶ島に向かって出発をしました。
てくてくてくてく歩いていると、途中で犬に会いました。
「なんで太郎さんなんで太郎さん。お腰に付けたきびだんご、一つくれたら家来になって着いていくワン」
「何で?」
「何でって…きびだんごが食べたいんだワン」
「何であげたら家来になるの?」
「きびだんごを貰ったお礼だワン」
「何でお礼をするの?」
「ええい、もう何ででもいいんだワン!きびだんごを下さいワン!家来になってあげるワン!」
こうして犬が家来になり、一緒に鬼ヶ島に行くことになりました。
犬となんで太郎がてくてくてくてく歩いていると、途中で猿に会いました。
「なんで太郎さんなんで太郎さん。お腰に付けたきびだんご、一つくれたら家来になって着いていくウッキー」
「何で?」
「何でって…一緒について行きたいんだウキ!」
「何で?」
「一緒に鬼をやっつけたいんだウキ!」
「何でやっつけたいの?」
「ええい、もう何ででもいいんだウキキ!きびだんごを下さいウキ!家来になってあげるウキ!」
こうして猿も家来になり、一緒に鬼ヶ島に行くことになりました。
猿と犬となんで太郎がてくてくてくてく歩いていると、途中でキジに会いました。
「なんで太郎さんなんで太郎さん。お腰に付けたきびだんご、一つくれたら家来になって着いていくケン」
「何で?」
「何でって…家来になりたいんだケン!」
「何で?」
「なんで太郎さんの味方になりたいんだケン!」
「何で味方になりたいの?」
「ええい、もう何ででもいいんだケン!きびだんごを下さいケン!家来になってあげるケン!」
こうしてキジも家来になり、一緒に鬼ヶ島に行くことになりました。
さて、ようやく一行は鬼ヶ島に着きました。
「さあ、なんで太郎さん!鬼をやっつけるワン!」
「何で?」
「え…なんでって、やっつけに来たんじゃ無いのかウキ?」
「何で?」
「いや、だから悪いことした鬼をやっつけて、宝物を返して貰うんじゃないのかケン?」
「何で?」
なんで太郎と三匹がひそひそと話していると…。
「ぐっふっふ、良く来たなあ」
低い声がして、鬼の大将が現れました。後ろにはたくさんの手下を従えています。
「なんで太郎!儂を倒したら宝物を返してやろう。さあ、かかってくるが良い!」
大きい鬼の大きな声に、三匹は震え上がります。
しかし、なんで太郎はひるまずに聞きました。
「何で?」
「え?」
「何で鬼さんを倒したら、宝物が帰ってくるの?」
「…そりゃあ、より強い者が宝物を奪うっていうことだろう」
「何で?何で強い人が宝物を貰えるの?」
「宝物は、強い人間が持つのに相応しいからだ」
「何で?何で相応しいの?」
「何で…?ぐぬぬぬぬ?」
鬼の大将は、首を捻ってしまいました。なんで太郎は、また聞きます。
「何で都の人から宝物を奪っちゃったの?」
「ふん!世の中にある価値あるものは全部儂のものなのじゃ!」
「何で?」
「儂が強いからに決まっておろう。強い者は、世の中の全てを貰えるのじゃ!」
「何で?」
「…何でって…い、いいじゃないか。その為に儂は小さい頃から修行をして来たんじゃ」
「何で?」
「いや、だから…世の中の宝物が欲しくて…」
「何で?」
「…何で…?そうじゃ、儂はただ…おっ母さんに綺麗な宝石をプレゼントしたくて…」
ぽろり、と鬼の大将の目から涙がこぼれ落ちました。
「お母さんは、今何処にいるんだワン?」
「おっ母さんは、昔昔に死んだ。それからの儂は寂しくて寂しくて…。誰かに優しくできなかった」
「今からでも遅くないウキ!」
猿の言葉に、キジも頷きます。
「そうだケン!今からでも遅くない!一緒に宝物を返しに行こうケン!」
「…みんな…」
「そうして、お母さんのお墓に、綺麗なお花を御供えするワン!」
鬼の大将は何度も頷き、そうしてなんで太郎に手を差し出しました。
「なんで太郎殿、今日は儂の話を聞いてくれてありがとう。おかげで、昔の綺麗な心を取り戻せた。
一緒に、都のみんなに宝物を返しにいくのを手伝ってくれるかい?」
鬼の大将の言葉に、なんで太郎はまたまた聞きます。
「何で一緒になの?」
「もう!なんで太郎さんってば!」
キジがふくれっ面で言います。
「鬼さんが、なんで太郎さんと友達になりたいからに決まってるじゃないケン!」
「え?何で?」
「何でもだウキ!」
こうしてなんで太郎と三匹の家来と鬼達は、都に戻り、
盗んだ宝物を謝りながら都の人たちに返していきました。
なんで太郎は、おじいさんとおばあさんの所に戻り、
今度は、何で自分はバナナの中から産まれたんだろうという謎を解くため、新たな旅に出掛けたそうです。