第三話
結局の所、対人スキルが豊富でない俺に不審者を追い払うなんて事は出来なかった。
エミリと名乗る少女の口車に乗せられ、自分でも愚かだとは思ったが、俺は取り敢えず、彼女を部屋に上げる事にした。
「むほー!美味しいですねぇ~この紅茶」
花柄のデザインが施されたティーカップに口を付けて紅茶を啜り、感嘆の声を漏らすエミリ。
六畳間の狭い部屋の真ん中に置かれた丸い小さなテーブル。そこに俺とエミリは向かい合わせになるように座り、淹れたて熱々の紅茶を飲んでいた。
「こんな美味しい紅茶を何時も飲んでいるなんて……羨ましいですぅ~」
「あ、そ、そうですか……」
「和成さん、敬語なんて使わなくていいですよ。私はゲストで、あなたはホストなんです。ホスト役の方がゲストに敬語を使うのは、なんかおかしいと思いませんか?」
「そ、そうだな……うん、それもそうだな」
「むほー!むほほほー!それにしても、本当に美味しい紅茶ですねー!」
エミリのオーバーリアクションとは対照的に、俺は冷めた口調で応答した。
たかが紅茶で感動するなんて、変わったやつだ。
だが、特に今の所おかしな様子を見せる素振りはないし、警察への連絡はもう少し後でいいだろうと、俺は思った。
それに、どうして彼女が俺の居場所を知っており、そして何故俺を訪ねてきたのか。そっちの方が気になった。
「それで、俺に一体何の用だ?いや、そもそも、俺と君は初対面の筈なのに、なんで君は俺の名前を知ってるんだ?そもそも、君は一体何者だ?自分の事を『鬼』とか言ってるようだけど、その年で厨二病も大概にしたらどうだ?」
矢継ぎ早に質問を投げかける俺。だが彼女は俺の質問を無視すると、ティーカップを静かにテーブルに置き、ゆっくりとした口調でこう切り出してきた。
「厨二病、という言葉の意味はいまいち理解出来かねますが、和成さん、これだけは言わせて下さい。私は何も、日頃就職活動で忙しいあなたをからかおうとして、わざわざ『鬼ヶ島』からやってきた訳ではないのです」
ぞくりとする。
こいつ、何で俺が就職活動の真っ最中だって事を知ってるんだ?
もしかして、ストーカーか?
そんな俺の猜疑心等気にも留める事なく、真面目な調子でエミリは話を続けた。
「突然お邪魔してこんな事を言うのも非常に不躾ではございますが、是非貴方の力をお借りしたいのです」
「いや……その前にさ、俺の質問に答えてよ」
「お気持ちは十分ご察しいたします。ですが一々答えている時間も『私達』には残されていないのです。至急、貴方に伝えなければいけない事があるのです」
「……なんだよ深刻そうに。伝えなければいけない事だとぉ?」
有無を言わせないエミリの態度に、俺は怪訝な表情を浮かべた。彼女はそんな俺の目を真っ直ぐ見つめ、至って真剣な口調でこう言った。
「和成さん、このままではノドグロが蘇ってしまいます。世界が、崩壊の危機に晒されているのです」




