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序章は汽車の中で

18世紀のイギリスを舞台にしていますが、若干、いやかなり史実を無視しています。ですので、現実の18世紀とは全く違うものであることを考慮した上で、お読みください。

 四輪馬車が、キングスクロス駅の眼前で慌ただしく停車した。私は、馭者に一ソブリンを投げ捨てるように支払うと、釣りは要らぬと言い終わるやいなや、馬車から飛び降りた。そして死にもの狂いでキングスクロス駅へ走り込んだ。

 暗澹とした霧に覆われる街、ロンドン――――

 陰湿な雲が空を覆っているわけでもないのに、この壮麗と荒廃が混じり合ったロンドンは、始終疎ましい空気に包まれていた。

 忙しく歩く人々の喧騒や、馬車の肥爪の雑音が、いつも私の気を滅入らせていた。もっとも、今日はそんな騒音が耳に入らなくなるほど、私は焦っていた。

 十月も末になるこの時期、コートを羽織る人々も、そう珍しくはなくなった。足早に闊歩するキングスクロス駅の利用者も、約半数の人がコートを着込んでいた。

 そんな私も、新調したばかりのフロックコートを羽織っていた。

 太陽の傾き始めたキングスクロス駅のホームを、私は胸元に提げた懐中時計を開きながら駆け続けた。

 午後四時。けぶったような薄日の差すホームの中で、発車ベルが鳴り響いた。

「まずい!間に合わない!」

 私は全速力で停車している列車へ疾走した。しかし、日頃の運動不足が影響してか、まだ二十四歳であるはずなのに、すぐに息が上がってしまった。人より一回りも二回りも大きい太鼓腹が、私の行く手をいっそう阻んだ。息を思い切り吸い込むと、ロンドン特有の、煙たいガスの排気臭が鼻につき、むせ返った。額の汗がハットにびっしょりと付き、気持ちが悪い。ハットに吸収されなかった汗が額を滑り、べっとりと髪に張り付いた。しっかりと撫でつけたオールバックの金髪も、汗のせいですべて落ち、本来のくせ毛が顔を出している。自慢の口髭も振り乱れ、もはや邪魔なものでしかない。首周りを飾る蝶ネクタイが、本来の目的とは正反対に私の首をどんどん絞めあげた。新調したコートを身に着けて外出してしまったことを、心底後悔した。

 しかし、私は精一杯に体を奮い立たせた。この列車に、どうしても乗らなければならないのだ。

 必死の形相で列車の傍へ辿り着くと、すぐさま列車へ飛び乗った。何とか間に合った。私は安堵のため息を吐いて、あらかじめ予約をしていた、一等客車の扉を勢いよく開けた。

「おっと…」

 そこには、窓側のボックス席に腰掛けた、妙齢の麗しい金髪の女性がいた。

 十代半ばだろうか、女性は私の顔を見て、大きな瞳を一層見開いた。金色の長い睫、その内側に柔らかく咲き誇る、エメラルドグリーンの爽やかな瞳。品良くアップスタイルにされた金髪は、モスグリーンの小さな帽子で飾られ、程よい落ち着きが感じられる。胸元にフリルの付いたドレスは、帽子と同じモスグリーンで、ほのかに甘美な香りが私の鼻孔を掠めた。

 私は、息を呑んだ。それほど、彼女が美しかったのだ。世界中の薔薇をもってしても、この美しさには叶うまい。彼女を見た瞬間、時が止まった、そんな気さえした。

 ただ、美しいだけではないのだ。美しい上に、気高き品位があった。このような女性は、世界中どこを探したっていないだろう。

 どれくらい見とれていたかは分からなかった。きっと、僅かな時間であっただろう。駅員に肩を叩かれ、私の意識はようやく現実へ戻ってきた。

「どうなさいましたか?お座りにならないので?」

 駅員が口を開いた。私は、胸ポケットから乗車券を素早く取り出し、席数を確認する。確かに、ボックス席が貸し切りになるよう、切符を四枚買っている。それなのに、なぜこの女性が座っている?

 しかし、まあいい、と思い直した。こんな美人と出会ったのも、何かの縁だ。ひょっとしたら、彼女と私はここで出会う運命だったのかもしれない。

 私は急いでチケットを胸ポケットへしまうと、ふん、と鼻息を荒げ、窓側の奥の席に座る女性を横目に、扉のすぐ傍の席へどさりと腰を下ろした。私の勢いの反動で、列車が緩やかに縦揺れを起こした。駅員が客席の扉を閉めた。それを待っていたかのように、列車が黒煙を上げて走り出した。

 私はハットを目深に被り、脇目にちらりと、斜め前に座る女性を見やった。

 この席に座ったのは、彼女を眺めていたかったからだ。さすがに正面から見つめていては、私も彼女も気恥ずかしいだろうという、私なりの私意だった。

 彼女はずっと窓の外を眺めていた。どこか物憂げな瞳が彼女の魅力を一層引き出していた。

 見れば見るほど、美しかった。ただ、彼女の周りには、言いようない危うさが混じっていた。しかしそこが、彼女の美しさを一層引き立てるスパイスになっている。

 なんて艶めかしく涼やかなのだろう。彼女の美しさに吸い込まれてしまいそうだ。

 フリルの付いた胸元に輝く緑柱石のペンダントが、列車が揺れる度、光彩を放った。ドレスは貴族の間で流行中のアールヌーボータイプで、タイトな袖口と、これ見よがしにフリルのあしらわれた裾が目を引いた。こんなにドレスを着こなす令嬢を、私は今まで一度も見たことがなかった。私は普段から数多のパーティに顔を出すが、このような女性は、初めてだ。きっと、美しすぎるが故に、未だ社交界へ訪れていないのだ。それだけ、大切に育てられているのだろう。

 もう、このような女性には、二度と会えないかもしれない――――

 そう思うと、私は自然と口を開いていた。

「もし、貴女はどちら様のご令嬢でいらっしゃるのかな」

 すると女性は窓から視線を外し、ちらりと私を一瞥すると、何事もなかったかのようにまた外を眺めた。

 私はこの国を担う偉大な伯爵家の一人だ。そして最近では趣味の推理が高じて、イギリスの名探偵と称賛される、あのドミルトンだ。その推理力は、今人気を博しているシャーロック・ホームズとて敵うまい。

 その私が話しかけているというのに、なぜ何も答えないのだ。

 私は苛立った。けれど、ふと考え直した。

 ひょっとしたら、この令嬢は、私のことを全く知らず、厚顔無恥な酒色人(あそびにん)と、勘違いしているのかもしれない。

「いえ、レディ、誤解しないでいただきたい。私は、そこら辺の酒色人とは全く違うのですよ」

 私は両手を広げて、精一杯穏やかな笑みを浮かべた。

 すると、女性は振り向きもせずに、私へ向けて、初めての言葉を発した。

「私に、名を尋ねる前に、まずはご自分から名を名乗るべきだとは思いませんか」

 淑女の落ち着きを感じさせる、少しハスキーな声音だった。私は女性の声が聞けたことで、さらに興奮状態になった。私は肩を竦めて、無礼を詫びた。

「ああ、これは失礼、私は――――」

「今更名乗られましても、そのような礼儀の欠けた方に、私が名を名乗るとお思いで?」

 女性は眉をすっと細めて私を見つめた。その表情に、私の胸は一層高鳴った。

「ああそのことなら本当に申し訳ない――」

 女性は、私の詫びを気にも留めずに再び窓の外を眺めると、眉尻をくいと上げた。

「失礼、私の使用人が参りますので、窓を開けてもよろしいでしょうか?」

 そう話すと、女性は、私の了解も無しに、窓をがたがたと開け始めた。

 一体、彼女は何を言っているのだ?私は首を傾げ、自慢の口髭を撫でつける。

「レディ、ここは動く列車の中、停車駅までは止まることはありません。それなのに、使用人が来るなどと…」

 あるはずがない!

 すると、空から窓を目掛け、黒い何かが迫ってきた。外は既に日が沈み、かなり暗くなっており、何が向かってきたのかはよく分からなかった。しかし、小さな黒い何かであることは把握できた。

 その黒い何かの正体は、近づくにつれすぐに判明した。蝙蝠だ。蝙蝠は幾何学模様に蛇行しながら、見事に女性が開けた窓へ着地した。

「おお!ワンダフル!素晴らしい蝙蝠ですね」

 私は歓声を上げ、拍手をした。どうやら、彼女の言っていた使用人とは、ペットの蝙蝠であるらしい。蝙蝠がペットとはずいぶん不思議な趣味をしているが、ひょっとしたら彼女のミステリアスな雰囲気は、このような所から来ているのかもしれない。

「お褒めに預かり光栄です」

「ん?」

 彼女の声とは到底似つかない、低い紳士の声がした。私は念のため彼女を見たが、彼女は口を閉ざしたまま、冷めた瞳で蝙蝠を見つめていた。

 では、先ほどの声は一体…?

 女性が、はあと倦怠感の帯びた溜め息を吐くと、開けた窓の縁に肘を掛け、頬杖をついた。

「ギルバート」

「はい」

 蝙蝠から、男の返事が聞こえた。すると、蝙蝠の周りから勢いよく風が生起し、蝙蝠をすっぽりと包み込んだ。次第に黒い羽が広がり始め、その塊は瞬く間に肥大化していった。

「ひっ」

 思わず、私は僅かに悲鳴を上げた。必死で窓から遠ざかろうとするが、客室の壁で阻まれてこれ以上後退りできない。

「おや?驚かせてしまいましたか」

 そう感興したような声音が聞こえた途端、ふいに颶風が止んだ。さっきまで蝙蝠がいたはずの位置には、代わりにシルクハットを被り、燕尾服を身に着けた男が女性の前で跪いていた。

「っだっ誰か…」

 私の体がわなわなと震えだした。それは止まることを知らずにどんどん大きくなっていった。

「初めまして、私は―――」

 男がゆっくりとした所作で私へ向き直る。しかし、私は彼の瞳と前歯を見た途端、言葉を失った。

 真紅の瞳に尖った牙―――――――――ヴァンパイア。





「セシル様、気絶してしまった様ですが、どうなさいますか?」

 男が形の良い眉を歪めて、顎に手を当てた。男の緩やかなウェーブのきいた黒髪が、顎に手を当てた動きでかすかに揺れた。年の頃は二〇歳前後で、黒髪は短く切りそろえられ、快活な印象を受けた。男はシルクハットに燕尾服といった出で立ちで、薔薇色の瞳が目を引いた。

「お前が気絶させたんだろう」

 セシル、と言われた女性は真っ赤な唇をへの字に曲げ、嫌味たっぷりの眼差しで男を睨みつけた。

「私が?」

 男は、何のことかわからない様子で、泰然と首を傾げた。

 セシルは頬杖をついた手を顔から離し、自分の瞳を指さした。

「目」

 男は目をぱちぱちと瞬かせ、ああ、と納得した様子で頷いた。

「申し訳ありません。すっかり忘れておりました」

 男が謝意を述べると同時に、男の瞳は鮮やかな薔薇色から、爽涼な漆黒へと色を変えた。

「全く、忘れるなといつもあれほど言っているのに」

 セシルは男にも伝わるよう、一際過大に溜め息を吐いた。

 男は、その溜め息を気にする風でもなく、いささか粗雑な手つきで、泡を吹いて気絶した男を調べ上げ始めた。

「護身銃以外は持ち合わせていないようです」

「そうか」

「いっそのこと、殺してしまいましょうか」

 男が平然と言い放った。そう言いつつも、男の手は休まずに精査し続けている。

「その必要はない、が…ドミルトン伯爵とは…話には聞いていたが、こんなに女好きだとは思ってもみなかった。人の事をじろじろ見やがって、デブな上に気持ち悪い」

 セシルはそう吐き捨てると、フリルの付いたブラウスのリボンを外し鬱屈に嘆息した。

「まさか、二車両も離れているのに、真っ先にセシル様の元へ向かわれるとは思いもしませんでした。こちらのミスです。申し訳ありません」

 男が厳然と立膝をつき、素早く頭を下げた。

 そもそも、この車両を貸し切ったのはセシルなのだ。それが何を勘違いしたのか、二車両後を予約していたはずのドミルトン伯爵が、息せき切って飛んで入ってきたのだ。

「…やはり、殺しましょう。セシル様に対する数々の愚行、その責任を取っていただかないと」

 男は無造作に言い放つと、自分の胸ポケットから即座に銃を抜き取り、失神したドミルトン伯爵のこめかみへ突きつけた。

「ギルバート!」

 セシルはギルバートへ怒気の籠った視線を投げつけた。ギルバートはさも残念と言わんばかりの表情をしながら銃を仕舞った。

「…仕方ありません、セシル様がそうおっしゃるのなら」

 ギルバートはそう落胆すると、視線をセシルへ移したが、すぐに瞳を伸びたドミルトン伯爵へずらし、セシルへ背を向けた。男の肩が小刻みに震えていた。笑っているのだ。

「ギルバート、笑うな」

 セシルは眉間に皺を深く刻んで、ギルバートをねめつけた。

「ですがセシル様、そのドレス―――思いの外、似合っていらっしゃいますよ。いっそのことそちらのスタイルに変えなさっては―――」

「こんなもの、二度と着るものか!」

 セシルは勢いよく髪を振りほどき、飾りに添えられた小さな帽子をギルバートへ投げつけた。振りほどいた髪から長い金髪が剥がれ落ち、その色に似た、清澄な金の短髪が姿を見せる。

「ああ、やっと見つけました」

 ギルバートはセシルが投擲した帽子を右手でキャッチすると、左手でドミルトン伯爵の胸ポケットを探り、一枚のチケットを取り出した。

 本当は、列車を降りてからドミルトン伯爵へ声を掛けるつもりだった。そして、セシルが話している隙に、ギルバートがチケットを拝借する、という手はずだったのだ。だから、女好きなドミルトン伯爵の為にわざわざこんな女装までしたし、ギルバートは蝙蝠に化けたのだ。

「まあいい、これで話しかける手間も省けたしな」

 セシルはギルバートからチケットを受け取ると裏面と表面を確認した。表面には、流麗な字体で、?ハロウィンパーティ?と書かれていた。

「よし、行くぞギルバート」

「ドミルトン伯爵はどうなさいましょうか」

 セシルは横目でドミルトン伯爵を一瞥した。

「そのまま終着駅まで行っていただこう」

「かしこまりました」

 ギルバートがセシルへ頭を垂れた。

 セシルはもう一度、手渡されたチケットを概観した。

「よし、さっさと片付けるぞ」

 




 話は五日前まで遡る。

 ロンドンから遠く離れた山岳地帯。乳白色の霧がかかった森を抜けると、格調高く手入れの行き届いたマナーハウスがあらわれた。

 広々とした屋敷には、上質な絨毯が敷かれていた。広間には装飾の凝った大きな暖炉、緩やかな螺旋階段は美しく磨き上げられ、くすみ一つなかった。その螺旋階段を上がった先の、領主家の住まうベッドルーム。木洩れ日の差す書斎スペースに、セシルはいた。

 凝った装飾が施された椅子にどしりと座り、セシルはのんびり紅茶を嗜んでいた。

 ノックの音がした。

「入れ」

 セシルはカップを手にしたまま扉も見ずに言葉を発す。その声を聞き、絢爛な扉が開かれると、そこにいたのはギルバートだった。ギルバートは一通の手紙を手にしたまま、音もなく扉を閉めた。

「どうした?」

「ついさっき、ロンドンのマーティン氏から速達が届きました」

「マーティンから?」

 セシルは眉を潜めた。マーティンとは、ロンドンで活躍するフリーの新聞記者であった。そして、セシルの数少ない旧友でもある。ギルバートはセシルへ歩み寄り、上質な封筒を手渡した。セシルは手にしていたティーカップを机へ置き、封筒を受け取りながらギルバートに問いかけた。

「最近は地方を飛び回って忙しかったんじゃないのか?」

「ええ、そのようですが、何やら、奇妙な事件の噂を耳にしたそうです。それで、一刻も早く連絡を、と」

「奇妙?」

 セシルが手紙を広げて読み始めた。すると、セシルの表情が一変し、深甚なものへと変わった。

「これは…」


 親愛なるセシル・ボールドウィン

 やあセシル、元気にしているかい?君は相変わらず仏頂面で僕の電報を読んでいるのだろうね。その表情が目に浮かぶよ。

 つい先日、何だかおかしな事件の話を聞いてね、これは君に伝えておいた方がいいだろうと思ったんだ。

 十月三十一日に、ロンドンから少し離れたカントリーハウスで、貴族たちのハロウィンパーティが開かれるそうだ。まあ、晩餐会のようなものだろうな。

 そのハロウィンパーティに殺人予告状が送り付けられたらしい。この地方では、今、この手の悪戯がはやっているらしいから、これも悪戯の一種で片づけられてしまったようだ。しかし今回の予告状は、送り主の名が、レイバン・スチュアートと記されていたらしい。

 レイバンがこんな馬鹿げた手紙を送るはずないから、多分、偶然だろう。けれど、何だか、胸騒ぎがしないかい?僕たちの心友、レイバンの名が記されているなんて――――

 そう思って、君に手紙を送ったわけだ。何かが起きてからでは遅いからね。

 ではこれで失礼するよ。

 セシル、君に神のご加護が在らんことを。   マーティン・オールポート


「私もマーティン氏のおっしゃる通り、悪戯である可能性が高いと思いますが」

 セシルは手紙を食い入るように見つめていたが、やがてギルバートに手紙を返し、腕を組んで深い溜め息を零した。

「まあ、これは単なる悪戯だろうな。私もレイバンがこんなことをするとは到底思えない。そもそもレイバンは今、留学中だ」

 だから、ここ一年ほどセシルはレイバンと連絡を取っていなかった。

 レイバンは、真面目で、誰よりも勤勉だった。かねてから夢であった医師の資格を取ると、自分の技術をさらに高めるために、留学することを選んだ。

 ギルバートは受け取った手紙を丁重に胸ポケットへ仕舞った。

「だが、折角の機会だ、私もハロウィンパーティへ行ってやろう。私の友の名を騙る犯人を、この手で捕まえてやる」

 セシルが再びティーカップへと手を伸ばした。ギルバートはいつも通りの悠揚な笑みを浮かべ、しなやかに頭を下げた。

「かしこまりました、すぐにお調べいたします」

 セシルは少しぬるくなった紅茶に顔をしかめたが、構わず一気に飲み切る。飲み終わると鋭い眼差しで窓を睨みつけた。窓から見える針葉樹の枝から、一羽の鴉が飛び立った。

 ハロウィンパーティの脅迫状。どこの誰だか知らないが、レイバンの名を騙るとは、絶対に見つけ出してやる。





 午後五時を半分ほど過ぎた頃。辺りは既に夜陰に満ちていた。豪華な列車が、灯りのない、真っ暗な田舎町へ停まった。その列車の、一際華美な一等客車の一車両から、青年二人が降りた。フロックコートを羽織った主人らしき人物に、燕尾服を身に着けた使用人らしき人影。それは田舎町には不釣り合いの、貴族の風体だった。

 一人は、目映い金髪の好青年。もう一人は、その青年に付き従う、美しき従者(ヴァンパイア)

「ギルバート」

「はい」

「ドミルトン伯爵の記憶はしっかりと消したか?」

「もちろん、列車に乗ってから気を失うまで、総て消しました。抜かりはありません」

 金髪の青年は目深に被った上質なシルクハットを親指でくい、と上げると、名も知れぬ田舎駅を鋭く睨んだ。

「さあ、ハロウィンパーティの始まりとしようじゃないか」





稚拙な文章ですが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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