第七話
「「「がんばれ〜」」」
「すげぇなあいつ」
「160超えてるぞ!」
「亮がんばって!」
だがそのとき俺にそんな声が届くはずがなかった。声なんか耳に入ってこない。入ってくるのは自分の荒い呼吸だけ。全神経を20m先の線に集中している。足が鉛のように重い…
今は5時間目の体育の授業で20mシャトルランと言うなの地獄の時間を過ごしている。
で、クラスで残っているのは俺1人。実は昔から体力と短距離には自信がある。
「ー166ー」
ラジオがそう告げたときにはもう足が動いてなかった。記録は165となる。
パチパチパチパチパチッ…
みんなの手の乾いた音が聞こえてくる。
165か、せめて170行きたかった…
そう後悔しているとき、
「お疲れーりょうすけー!」
「おぉー要いくつだったー?」
「俺は158だよー、一応俺バスケ部なんだけどそんな結果出されちゃ立場ないよ!」
こう言っている要だが普通に走っていたらおそらく負けていただろう。なぜなら要の靴は足に対してでかすぎる。兄貴のおさがりじゃなく、サイズのあった靴を履いてたらそのくらいいく程ひどいおおきさだ。言い訳をしないところはさすが全国レベルだ。
「まぁ賭けは俺の勝ちな!」
そう言って要の肩を叩いて立ち上がる。
賭けといってもジュースを奢るくらいで高校生らしい。
「来年は見てろよ!」
「それはやられ役のセリフだ」
そう言いながら、2人で体育講師の元に向かった。
放課後。
「今日も亮シャトルランすごかったねー」
「まぁそれぐらいしかできないからな」
「むぅ〜勝てないって知ってても悔しい〜」
こう言っている裕貴は136で、女子にしては驚異的な記録である。
勉強できてスポーツできて可愛いってほんと不公正だなぁ…
まぁいつも裕貴の努力を見てきたからそんなこと言わないけど。
「あっ、今日から亮は四元教会いくんでしょ?」
「あぁ、つっても今日は見学だけど」
「ふーん、頑張ってね! あっ、あたしも今日バイトの制服もらうんだー!帰ったらみせてあげるよー!」
「そりゃどうも」
どうやら裕貴はこの一週間のうちにケーキ屋のバイトに受かったらしい。行動が早いのは裕貴の長所であり短所である。
(まぁ俺も2日3日で四元教会の入団を決めたから似たようなものだが…
「じゃあケーキ屋さん行くからじゃね〜!」
「あぁ、また明日」
家に帰った後は荷物をおいて、すぐに四元協会に向かった。
「やぁ亮介君」
「こんにちは、高月さん」
場所はきいていたので迷わず行けた。
「えぇーー!この人が新人?わっか〜」
そう言いながら、奥のドアから女性が出てきた。身長は裕貴と同じくらいだろうか。と言うかかなり似ている。唯一違うのは髪が腰まであることくらいだろう。
「あんたいくつー?」
口調は裕貴より尖っている気がする。
「15です」
「やっぱりあたしより下だー!」
「真波うるさいぞ、部屋にいろ」
「うっさいわね、ケチ海斗」
そう言って高月さんを睨んでいる、が迫力が物足りない。
「紹介するよ、彼女は牧村真波、で彼は及川亮介君だ」
と、俺と牧村さんのことを交互に見て言った。
「よろしく、あたしは火の四元士よ」
「よろしくお願いします」
「あんたのPSIなんなのー?」
「わからないです」
「はぁっ?じゃあなんでここいんの?
使えるんじゃないの?」
「いや、なにも知らないです」
さっきまで興味津々だった牧村さんのテンションが下がっていくのが露骨に見える。
コソコソコソ…
高月さんが牧村さんに耳打ちする。
「うっそー!」
牧村さんの頭にびっくりマークが見える。何を言ったんだろう。がその答えを知ることはなく、牧村さんは部屋に戻って行った。
「じゃあさっそくだけど訓練所に案内するよ」
そう言った高月さんについていく。
早く訓練所にいってみたいと言う期待が膨らんで来た。何もなければいいが…






