第六話
やっと今日この病院から解放される…
あの事件から一週間、今日やっと俺は退院できるのだ。
特にこの三日間は辛かった。
裕貴と相部屋だったから退屈することはあまりなかったが三日前、先に裕貴が退院したのだ。裕貴が退院して隣が空きだと思うと背筋が今でもゾッ、とする。
まぁでもこの三日間も恐怖を除けばそこまで退屈することはなかった。裕貴が毎日見舞いに来てくれたからだ。学校であったことなどを話してくれる。
こんなに気が利いて優しいのに交際したことがないというのは意外だ。
この容姿とこの性格でモテないはずがない。中学では何人も裕貴に告白する人を見て来た。が、1人残らず撃沈していった。
高校でもおなじことが起こるだろう。
とりあえず裕貴には入院中もかなり助けられた。
そして今は午後7時30分、俺と裕貴の退院祝いで、両方の家族が俺の家に集まっている。
といっても結局出前の寿司を食べた後は暇になったので、俺と裕貴と姉貴でテレビゲームをしている。
「あー!ちょっとりょ〜お〜!」
「亮介強すぎない?」
この対戦型アクションゲームでは俺はこの2人に負けたことがない。いくらハンデをつけても負けたことは一度もない。
「もぉいい!他のゲームしよ!」
そう言ってゲームを切ろうとする。
負けず嫌いの裕貴のこの行動は昔から変わらない。負けず嫌いはいいけど怒るのはやめて欲しいなぁ。
小学生のときに一度、算数のテストで勝って散々自慢してたら本気でキレられた。あのときの裕貴は史上最強に怖かった。
だからいつも、裕貴が不機嫌になったらいつもなだめている。
「あぁわかった」と。
もう午後12時をまわった頃には、母親も姉貴も裕貴も疲れて寝ていた。俺はと言うと、病院で腐る程寝ていたので眠れない。
(ジュースでも買いに行くか)
財布と鍵を持って家を出る。
寿司を食べ始めたときはまだ薄暗かった外も、今は黒に染まっている。数分歩いたとき、突然目の前が真っ暗になった。
「だーれだ?」
「バカップルみたいなことはやめてくれ」
こんなことをする人物は1人しかいない。
「もぅ!つまらないなぁ亮は」
そう言って頬を膨らます。この仕草に何人の男が落ちるだろう…
「ねぇ亮どこ行くの?」
「コンビニ」
「あっ、私今日食後のスウィーツ食べてな」
「だめだ」
言わんとすることくらい分かる。買って、だろう。
「なんでわかったの!亮エスパーなの?」
四元士(?)である俺には冗談に聞こえない。
まぁ答えはノーだが。
ちなみに四元士のことは裕貴に話していない。心配をかけたくないからだ。
裕貴も気を使ってくれて聞いてこない。
「ねぇ亮きいてるのー?」
「ノーだ」
そんなことを話しながらコンビニへ向かった。
「ふ〜ふふんふ〜ん」
鼻歌を歌いながら、裕貴はエクレアをうまそうに頬張っている。こんなに喜ぶならおごった俺も嬉しい。
あの後コンビニで裕貴が駄々をこね始めたので買ってしまったのだ。まぁ結果は良かったが。
「ねぇ亮?」
「ん?」
「亮ってさ、好きな人とかいるの?」
ブフッ!
思わず飲んでたオレンジジュースが吐き出てしまった。
「はっ?どうした急に」
「べ、別にいいでしょたまには…」
こんなことを裕貴が聞くなんてめずらしい。
恋愛に興味がないと思っていた。
「え、い、いやいないよ」
そう答えると裕貴は嬉しそうな、寂しそうな複雑な顔をした。
「そっか」
(そんな顔するなよ…)
裕貴のそんな顔を見たくない。いつまでも隣で笑っていて欲しいと流れ星に願った。