第四話
(冷静に考えろ。今俺にできることを…)
しかし何も思い浮かばない。無意識のうちに、今置かれている状況に恐怖し、焦っているからだ。
「なんだお前助っ人か?」
裕貴を掴んでいる男はそう言うと、もう一度裕貴を見た。
「おい、ボーイフレンドが助けに来てんぞ、もっと喜べよ!」
普段なら突っ込んでいる亮介だが、今はそんなのんきなことを言っている場合ではない。裕貴はと言うと、怯え切っていてこいつが何を言っているのかわからない様子だ。
(考えている暇なんかねぇだろ!)
「!!」
亮介が立ち上がろうと力を込めた瞬間、今度は重かった体が地面から離れる。
自分の周りだけ水が浮いており、その水に閉じ込められた。中心に向かって渦を巻いているため出ることができない。
裕貴を掴んでいる四元士は亮介に向かって手を伸ばしている。
(くそ!なんだこれ?
息が………)
必死にもがくが、全くでれそうにない。
ついには口からも大量に水が流れ込んできた。
「ゔっ、が………」
「亮介ぇ!!」
だがその裕貴の叫びも届くことはなく、
酸素が切れ、意識が朦朧としてきた。
亮介の意識が消えかけたとき、突然水が消えた。
ヴゥ、ゲホッ……
大量に飲んだ水を吐き出して、意識が少しずつ戻ってきた。しかしまだ力は入らない。その四元士の手はもう、亮介には向いていなかった。
「このくそアマぁぁーーー!」
チカラを使っていた手を裕貴に払われたからか、その四元士は逆上し、裕貴の首を絞める。
「やめろ!!」
しかし亮介の言葉を完全に無視し、首を絞め続ける。裕貴の苦しそうな顔が見える。
やめろよ…やめてくれ…
(もうあんなことは嫌なんだよ。
裕貴を守るって約束したんだよ!)
亮介は力を振り絞って手を伸ばす。が届くはずもない。そんなことはわかっていても、守りたい一心で手を伸ばし続ける。何もできない悔しさと裕貴を失う恐怖で、自然と拳を握る。
裕貴の目から光が失われかけたとき、
突然その四元士は手を離した。その直後、男の表情が消えた。次の瞬間、男の頭から赤い物体と液体が飛び散る。そしてその場に倒れた。
亮介には何が起きたかわからず、飛んできた赤い液体を見て見る。血だった。
血が飛んできたのだ。奴を見ると、今まで頭があった部分は真っ赤な血に染まり、もはや原型をとどめていなかった。
だが今はそんなことよりも……
「裕貴!おい、裕貴!」
必死に呼びかけるが返事がない。
入らない力を振り絞って裕貴の近づき、
声をかけ続ける。
「おい!しっかりしろ裕貴!」
目を閉じたまま、亮介の言葉に反応を示さない。
「そんな……やめてくれ……」
亮介の目から水が流れてくる。雨なのか涙なのかはわからない、が頬を伝って、裕貴に落ちる。
「裕貴……頼むよ、返事してくれ……
裕貴………」
目に溜まった涙で前が見えない。
「………ぅ……りょ…う……」
……えっ?
「裕貴…?」
「りょう………す…け……あ…り…がと」
「裕貴!大丈夫か!?」
良かった……
裕貴が生きていることへの安心で、また涙が溢れる。
「だいじょうぶ…だよ」
そう言って微笑む裕貴を見て、自然と笑みがこぼれる。
「ごめん、朝はせっかく気使ってくれたのに…」
「いいよ、もう悩んだ顔は見せないでね?相談してね?」
「うん、ありがとう…」
「りょう、智香は?」
「大丈夫だよ、裕貴」
佐藤さんの声が背後からする。
「私は突き飛ばされて頭打って気絶してただけだから」
その言葉に裕貴も安心したようだ。
「大丈夫かい?
すまない、遅れてしまった」
裕貴が目を覚ましてから5分ほど経ったあと、高月さんが来てくれた。
「はい、3人とも無事です」
「ほんとに良かった」
安堵の笑みを高月さんが浮かべる。
「それと高月さん、俺、四元協会に入団したいです」