第二話
「そこまで」
その言葉と同時にクラス全員がペンをとめる。
「あぁ〜おわった〜」
テストの最終科目である英語が終わり、生徒の気が緩む。
「まだ喋らない!」
答案用紙を数えている担任が言う。
この学校では(他の学校もそうだろうが)入学式やオリエンテーリングの後に、実力テストを実施する。
今終えたのはその実力テストだ。
ちなみに言うと、亮介の学力はこの学校でかなり低い方だ。英語を除いては。
そして裕貴はと言うと、おそらくこの学校でも10位以内に入ることができるだろう。そのくらいの差が亮介と裕貴にはある。
「どうだった〜?」
「意味わからん、要は?」
「さっぱりだね、全然わからないや」
今話している相手、宇田要もできなかったようだ。
彼は席が前後だからというありきたりな理由で仲良くなった。
「部活なに入る〜」
「仮入部してから決めるよ、要は当然バスケだろ」
「そうだねー、それでこの高校来たし」
要はかなり中学から有名な選手らしい。
全中3位のレギュラーだったそうだ。
この高校から見れば期待の新人である。
部活の話をしているうちに学活も終わり、下校となった。
「裕貴はなんの部活はいるの?」
「え〜っとね、あたしはまだ決まってないよ、やらないかも?」
「意外だな、裕貴は動かないと生きれない人間だと思ってた」
「む〜失礼ね〜
まぁ実はこないだ行ったケーキ屋さんでバイトしようと思ってて〜」
このあいだ行ったケーキ屋さんとは入学式の後に行ったところだろう。
「いいんじゃないか」
「やっぱり〜!
あそこ制服も可愛いし、亮介が勧めてくれるならそうしよ〜」
ということで俺は1人で部活の見学をすることになった…
久々に動いたから疲れた…
そんなことを考えながら亮介は下校していた。時刻は7時30分を回っている。
亮介たちの高校は部活に力を入れているため、活動は夜8時30分までできる。
一年生の仮入部のうちは7時までだ。
まだ4月なのであたりはだいぶ暗い。
(なんだあれ…)
涼介の目線の先には人影がある。しかし決定的に違うものがある。
それは大きさだ。"あれ" は4m以上ある。
亮介の気配に気づいたのか、ゆっくりとこちらに向かっている。
(やばい、逃げないと)
しかし足が思うように動かない。体が鉛のように重い。
少しずつ、確実に寄ってくる。
街頭に照らされてよく見るとその顔は醜い。
いつの間にか亮介の足は完全に止まっていた。
あと5m…4m…3m…2m…1m…
その顔がはっきりするにつれて、笑っていることが分かった。
ニタァァァッという表現が正しいだろう。
そして何か喋っている。しかし亮介は恐怖でうまく聞き取れない。
手を伸ばしてくる。あと数cm。
ピチャッ…
突然頬に水が当たる。
それとほぼ同時に、目の前にあった土の手が崩れ落ちる。
亮介があっけに取られている間に、目の前の土の巨人は消えた。
なにが起きたかわからず呆然としていると、1人の青年が屋根から飛び降りてきた。
「大丈夫かい?」
その言葉でハッと気づいた亮介は慌てて
「だっ、大丈夫です」
と答える。
「よし、じゃあ気をつけ…」
「あれはなんですか、あなたは何者ですか!」
「落ち着いて落ち着いて」となだめる。
「はい…」
「しょうがない、説明するよ。
とりあえず場所を変えようか」
そう言って亮介たちは、ファミレスに移動した。
「まず自己紹介しとくよ、僕は高月海斗、水の四元士だよ、まぁまだまだ未熟だけど」
「俺は及川亮介です、水の四元士ってなんですか?」
「まぁ当然の質問だね、四元士っていうのは、4に元素の元に博士の士って書くんだけど、簡単に言うと超能力者だね。
四元っていうのは四大元素の略で、つまり四大元素を扱えるってわけ。ただし全部使えるわけではなくて、僕なんかは水だけってこと。中には2つ使えるって人もいるよ。ボスは3つだったかな」
「ボスって、なんのボスですか?」
「僕が所属している組織、四元協会って言うんだけど、そのボスだよ。
まぁ四元協会は警察みたいなもので、ただ取り締まる対象を四元士としているだけ。
一般の警察じゃ歯が立たないからね」
「じゃあさっきのやつも…」
「頭の回転がいいね、そうだよ、彼も四元士。彼のような四元士を取り締まっているんだ。そしておそらく彼も組織に属している、四元協会とは別のね。四元士の犯罪者集団、黒い月、とか名乗ってたかな?」
「ニュースでやってる連続放火事件もそうですか?」
「そうだよ、そしてここからが本題。
なぜわざわざ君に説明したと思う?」
先ほどの優しい表情から一変して真剣な表情だ。
「えっ、いや、しつこいから?」
「実は君にもその能力があるんだ」