第十四話
あの事件からもう三日が経った。
今は金曜日の放課後。裕貴はいつもと違い、一人で帰っている。いつも隣を歩いている亮介の見舞いに行く途中だ。
クラスはあんな事件があったにもかかわらず、割といつも通り過ごしている。裕貴以外は。あの事件の原因が四元士であるということは四元協会によって一切口外を禁じられた。と言っても知っているのは全部事情をしっている裕貴と数人の先生だけ。それでもこれだけ噂すら立たないのは
すごいと思う。
一方亮介のことは、命に別状はないと説明された。ただ爆発に巻き込まれて怪我をして入院しているだけだと。
裕貴は学校にいるときはなるべく気にしてないふりをしている。しかしバレてないといえば多分うそになる。その証拠に昨日は智香に、今朝は要くんに心配された。
ガラガラ。
「おっはよー亮介ー!」
裕貴は病室に着いたらなるべくいつも通りに振舞っている。なんとなく、そっちの方が亮介が起きてくれると思ったからだ。病院にしては少し大きい声を出せるのも、亮介が個室だからだ。
「今日ね、体育祭の練習でリレーで一位とったよ!要くんってすっごい足速いんだね!あたしバトン貰ったけどどんどん抜いちゃうから責任が重かった!でもあたしもがんばったんだよ⁉︎ 1人だけ男子抜いたし!でね……」
ここで言葉が詰まった。話そうとしても途切れ途切れになってしまう。それでもそこから5分くらいは話を続けた。
「亮介がいないからお昼要くん寂しそうにしてるよ? それにあたしも帰り1人でつまんないからさ、はやくなおしてね?」
そう言って亮介を見つめる。しかし反応があるわけではない。
スッ。
亮介の左手を握る。いや、手を合わせるの方が正しい。何故かわからないけど亮介の左手は無傷である。
ちょうど"あの"ときとは逆だなぁ……
今度はあたしが守ってあげるね。
その状態で10分くらい経過したとき、もうバイトの時間が迫っていることに気づく。本当はいきたくないが、二週間前にシフトを入れてしまったためいかなければならない。
「ほんとはもう少しいたいけどあたしバイトあるから行くね。明日も来るからさっさと起きなさいよ!要くんもくるんだからね!」
そう言い残して椅子を立つ。
「う………ん…………」
えっ?
「えっ、りょ、亮介?」
もう一度見てみるが、さっきと変わらない表情で眠っている。
でも確かに言った。
そのことが嬉しくて裕貴はいつぶりか、自然と笑みがこぼれた。
バイトを終えて家に帰ると早速母親に言って、そのあと亮介の家にいって久紀おねぇちゃんと真美さんに報告した。
「今日少し亮介が反応したの! おきてるってわけじゃないんだけどね、それでもうんって言ってくれた!」
「ほんと? 裕貴が毎日見舞いにいってくれるおかげだよー!ありがとうね!」
「ほんと、裕貴ちゃんありがとう」
「いえいえ、なんもあたしはしてないですよ!亮介が自分で反応してくれたんです!」
それからは明日要くんが来ることなどを話して帰った。
「ふぅっ」
部屋に着くと疲れがドッと押し寄せてくる。
今日は久々にテンションが上がってちょっと疲れちゃったな。でも今日はグッスリ眠れそう。
「また明日ね」
そうポツリと亮介に向かって言って、部屋の明かりを消した。明日亮介がおきてくれるという期待を持って。