第一話
4月某日。
まだあたらしい制服に身を包んで、俺、及川亮介はこれから通うことになる高校の入学式へ向かっている。
ふぁっ……。
久々に7時代に起きてまだ体が慣れないのか、さっきからあくびが止まらない。学校に近づくにつれて、同じ制服の生徒がチラホラ見え始めた。ちなみに家から高校は徒歩で行ける距離だ。
「あ〜、帰りて」
そんなことをつぶやいていると、ドンッ!っと背中に衝撃を感じ、振り向くとそこには見慣れた人物、国本裕貴、がいた。そしてなぜか不満そうに頬を膨らませている。
「おはよう、どうした」と聞くと、
「どうしたじゃないよ、なんでさきいっちゃうの!」
すっかり忘れていた……
家が隣同士で物心つく前から一緒にいた (らしい)裕貴は幼馴染である。高い鼻にぱっちりした大きな目、一本一本手入れしたかのように綺麗なショートカットの髪。ひとことで言えば可愛い。綺麗というよりは可愛い方だ。
同い年でずっと一緒にいるため、登校も当然一緒。だが別に付き合っているわけではない。
そして忘れていたのは、その一緒に行くこと。
理由はただ一つ。寝ぼけていたである。
「ねぇなんでさきいっちゃったの」
「寝ぼけてた」
「もう!起こしてあげないよ!?」
「いや…それだけは勘弁……」
情けなくも俺は毎朝裕貴に起こしてもらってる。おれの母親もそれを知ってかいつも朝は鍵を開けているらしい。
「全くしょうがないわね」
裕貴に散々どやされた朝からはもう3時間が経ち、今はファミレスで昼ごはんを食べている。もちろん目の前には裕貴。
裕貴とは奇跡的にクラスが一緒だった。
喋れる相手がクラスにいて良かった……
いや、良くない!
あれだけの容姿の裕貴の隣を歩き、話していた俺に対しての周りの男子の目線は相当痛かった。これから1年間生活を共にして行くのにひどくないか?
そのため、クラスに行ってから下校するまでは気が重かった。これからどうしよう。
「ねぇどうしたの」
「へっ?」
かなり間抜けな声が出てしまった…
やっぱり裕貴の前でそんなこと考えるべきではない。なぜなら裕貴はそういうことに鋭いからだ。いや、幼馴染の俺だけかもしれないが…
「い、いや、ニュースでやってた連続放火事件のことを…」
「ふ〜ん、ほんと〜?
まぁ、ならいいけど、悩みでもあるなら言ってね!」
そう言って満面の笑みを浮かべてくる裕貴に思わず顔が赤くなる。
(そんな言葉と笑顔は反則だろ…他の男なら確実に落ちてるな…)
「ねぇ亮、この後暇〜?」
「まぁ暇だけど」
「じゃあ行きたいとこあるから付き合ってよ!」
「しょうがないなぁ、まぁ朝おいてったこともあるからいいよ」
「やったー、ありがとー亮、大好き!」
そう言いながら裕貴はオレンジジュースを飲み干し、
「じゃあご飯代は亮ね〜 朝置いてったから〜」
といたずらっぽく笑って店を出て行った。
「ったく」
会計をしながら亮介は、
(さっきは言い訳に使ったけど、本当に気になるなぁ連続放火事件。帰ったら少し調べてみるか。)
「早く〜早く〜」
「あぁ今行く」
そう言いながら亮介は店をでた。
そのあとは結局、新しくできたケーキ専門店でデザートを食べ、裕貴のショッピングに付き合った。そしてなぜか、ゲーセンでプリクラを撮った。
理由を聞いたら
「いいの!」と流されてしまった。
まぁたまにはいいかと思う。どんな顔をして撮ればいいかわからなかったがそこは置いておこう…
そして今は帰り道。
まだ日は短いため随分暗い。他愛のない話をしながら帰っていた。