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マグデリアン学園-2 ジオお兄様とデート



 マグデリアン学園に入学して、暫く経ってからナディアとアレッスと一緒にクラブ活動体験をして楽しんだ。

 ホウキ競技クラブは、魔法のホウキで飛んで演技や競技をする。ホウキという名の浮遊する木の枝で出来ている空飛ぶ魔法の道具。

形状は箒だけれど、跨がるよりスケートボードのように立って走行することが多い。ブーツのヒールを嵌める穴が二つあり、それでコントロールする。

 女子生徒のドレスにはスリットが入っていて、邪魔になる時はスカートを腰部分に留められるデザインになっている。ホウキに乗る時や、剣を持つ時など、女子生徒はズボン姿になるということ。

女性がズボンを履くことははしたないという概念はないけれど、ドレス姿こそ女性の美しさだと認識されている世界なんだ。

 十三歳になってからホウキを学ぶものだと義務付けられているから、私達は初めて乗った。左足が前になるように、横向きでホウキに立つ。

 浮遊したあと初めはグラッとして地面に落ちるかと思ったけれど、左足に体重をかければ後ろに重心が移動して免れた。

 右足で前に移動。それから蹴るようにして右足を動かずことにより、進行方向を決められる。右に行きたいならば、左に向かって右足を動かす。左に行きたいならば、右に向かって右足を動かす。

 バランス感覚が必要な魔法。浮遊すること自体に魔力は必要ない。魔力がエンジン代わり。

 私もアレッスも飲み込みが早く、顧問の教師の許可を得て先輩達と競走をした。

風を切って空を飛ぶのはとても気持ちよかった。

 戻るとナディアはバランスが取れずに、クルクルと回ってしまって悲鳴を上げていたから慌てて助けた。


 私が剣士の娘だからなのか、剣術クラブから声をかけられた。

 男性ばかりで、勇ましい部活だ。騎士を目指す生徒が入る部活なので、体験だけさせてもらって入部は断った。


 他にもたくさん部活体験をしたけれど、最後にはジオお兄様が一年生の時に立ち上げた魔法研究部を選んだ。

 苦味の強い薬の味の改良や、新しい魔術作りをする。

 ジオお兄様は新しい魔術を作り出すことに熱中していたから、立ち上げたと聞いた。

 魔術師になった今も、新しい魔術を作りをしている。そのうちジオお兄様の魔術が教科書に載るかもしれない。楽しみ。

 私も味の改良や新しい魔術に興味があったから選んだという理由があるけれど、もう一つある。

 ジオお兄様の後輩であり、私の先輩方がとても個性的で楽しい人達だからだ。一回目の体験の時に関わってとっても好きになったので、これからも一緒に部活動をしたいと思い入部をした。

ナディアもアレッスも、同じく魔法研究部を選んだ。


 マグデリアン学園に入学した私の目標は、ジオお兄様のようにパーフェクトな成績の首席で卒業だ。

 ジオお兄様は城で魔術師として働き、時には一週間帰ってこない時もあり、過ごす時間は減ってしまった。けれど、休日は必ず一緒に過ごしてくれた。

 私が百点満点をとったり好成績をとる度に、欲しいものを買ってあげると買い物に付き合ってくれた。

頑張ったご褒美だ。

 マグデリアン学園三年生、前世で言えば中学三年生になった私は十五歳。ジオお兄様は二十三歳。

 いつまで経っても、気品漂う紳士さんみたいで素敵な人。

 そんなお兄様とデート気分で腕を絡ませて、雑貨店が並ぶ通りへ出掛ける。

三年の春の中間試験の結果が満点だった今回は、アクセサリーを買ってもらうことにした。

 中に入ったアクセサリーショップは、壁一面にぎっしりと商品が並べられている。気になるものを見つめていれば、その商品が目の前までふわふわと来てくれるのだ。

どれも輝かしい光を放つから目移りしてしまうけれど、すぐに欲しいものを決められた。


「ピアスかい? ……ああ、ジュリアにとても似合いそうだ。私も買うから、お揃いでつけよう?」

「ジオお兄様とお揃いならもっと嬉しい!」

「私もだよ、ジュリア」


 むぎゅうとジオお兄様の腕に抱き付く。

ジオお兄様の話をする度に、先輩方には甘えすぎだと注意されてしまう。でも大好きだから、止められない。

 ジオお兄様はいつまで経っても、私を大事にしてくれる。いつまでもいいお兄様なんだもの。私の大切な存在。

 エメラルドラゴンの涙と呼ばれるグリーンの宝石のピアスをお揃いで買ってもらい、その場でつけた。宙ぶらりんと揺れる度に光を放つ涙型の宝石。

 お店の前でちょっとの間、お兄様の耳につけられたそれをつついて遊んだ。

お兄様はただ、クスクスと笑う。

 腕を組んだまま家に帰る道を歩いて、私はジオお兄様の今の仕事について訊いてみた。


「ジオお兄様は今、マリアンステラ学園の修復の仕事をしているのでしょう? どのくらいかかるのですか?」


 エリート名門学園であるマリアンステラ学園が、何者かによって崩壊させられたと大騒ぎ。

その修復にお城の魔術師達が、駆り出されたと噂でも聞いている。


「そう簡単にはいかない。犯人は相当マリアンステラ学園に恨みがあったようで、修復は二年ほどはかかりそうだ」


 犯人も動機も不明だけれど調査中。凡人の子どもは絶対に受け入れないエリート名門学園だから、恨みを持たれていても不思議ではない。

 指を一回鳴らすだけでは修復は出来ないけれど、二年で元通りに出来るのは流石は魔法の世界だ。

 前世の世界ならあの真新しく高価なマリアンステラ学園を再び建てるとなると、五年以上はかかってしまうと思う。それくらい広いもの。

 私が通うマグデリアン学園は、マリアンステラ学園の倍は広い。

全国の子どもを受け入れるつもりで建てられたマグデリアン学園は、正直四年目でも私は迷いかねないし、まだ足を踏み入れていない廊下や教室が山ほどある。

 それくらい大きなマグデリアン学園は、一時的にマリアンステラ学園を受け入れることを決めた。

 マリアンステラ学園の生徒を受け入れても、教室はまだ余るほど学園は広いらしい。

だから明日からは、エリート名門学園の生徒達と顔を合わせる学園生活になる。

 ……問題が起きそうで、少し不安。エリート生徒はプライドが高くて見下しそうだし、こちらもそれに腹を立ててしまいそう。仲良くやっていけたらいいのだけれど……。

 私と違ってナディア達はエリートのイケメンをものに出来るチャンスだって、楽しみにしていたことを思い出して、クスリと笑う。


「友だちのナディアがね、マリアンステラのイケメンさんを射止めてやるって意気込んでいるのです」


 ナディアはパワフルだから、気に入ったエリート生徒に全力でアプローチするに違いない。

今まで、ナディアはお気に召す異性には出会わなかったみたいだから、ちょっぴり楽しみ。


「ふふ、そうなのかい。……ジュリアはどうなんだい?」

「私ですか? んー」


 首を傾げたら、ピアスが揺れた。

隣を歩くジオお兄様を見上げて答えを見付ける。


「お兄様みたいに完璧な異性がいたら、ぜひお近づきになりたいですわ」

「私のような完璧な異性、か。それは私もぜひとも会ってみたい」


 私の理想の異性は、ジオお兄様。

 ジオお兄様以上に素敵な男性いるだろうか?

優しくて温かくて、頭が良くて優秀でかっこいい。

 エリートの中にいたら、ちょっと興味を持つかもしれないけれど、やっぱり出会ってみてからじゃないとわからない。

 スッと、頬をジオお兄様の長い指が撫でてきた。

ジオお兄様は綺麗な顔を近付けて覗いてきた。

優しげな眼差しの青い瞳。昔と変わらない。


「ジュリア。もしも気になる異性と出会えたなら、真っ先に私に話してくれるね? 私がその彼を、見極めてあげるよ」

「はい。ジオお兄様に真っ先に相談しますわ」


 微笑んで言うジオお兄様に、強く頷いて笑い返す。

きっと誰よりも先にジオお兄様に相談する。一番頼りにしている存在だもの。

満足げなジオお兄様は、髪を乱さないように頭を優しく撫でてくれた。

 そんなジオお兄様の肩に白い小鳥が降り立つ。耳に囁いたあと、小鳥は粉雪を撒き散らすようにして消えた。伝書鳩の魔法だ。


「……仕事だ、城に戻らないと。すまない、今日は一日一緒に過ごすと約束したのに」

「お仕事なら仕方ありません。また今度私と一緒に過ごしてくださいね。私は一人で帰りますわ」

「しかし、君を一人で帰すわけにはいかない」

「グラもいます。大丈夫ですわ、ジオお兄様」


 家はもうすぐそこだし、グラヴィオンも太股にいる。

陽がくれてオレンジに染まる空が暗くなり始めたけれど、無事に帰れる。

心配するジオお兄様の腕を掌で叩いて急かした。

 渋っていたけれどジオお兄様は私の額にキスをすると、お城に繋がる扉を召喚して仕事へ向かった。

 私は一人、帰り道を歩く。

夕陽に照らされた石の煉瓦の上を歩くとブーツがコツンコツンと音を鳴らす。

 暗くなり始めたけれど夕暮れを見上げながら、今日も充実していた日だと満足する。

 お兄様とのデート、とても楽しかった。ピアスも買ってもらったから、毎日つけて大切にしよう。

 毎日と言えば、毎日が充実している。

アレッスと競うように挑む試験も、今のところ私の連勝中。授業もしっかり受けて、部活動はナディアや先輩方と楽しんだ。家に帰ったらお母様とお父様に話して、賑やかな夕食をともに過ごす。

日々を大切にできているし、家族も友だちも大切にできている。

退屈なんて言葉は無縁。自画自賛しまうほどいい人生だ。


「……!」


 鼻唄をしてしまいそうなほど機嫌がいい帰り道の途中。

 ぞくり、と寒気に襲われて自分の身体を抱き締めた。

赤い煉瓦の屋根の建物が並ぶ住宅区域の路地で、足を止めて振り返る。

 いつの間にか周りが暗くなったそこに、白いローブのフードを深く被った人が一人いる。

フードの下から笑みだけは見えた。またぞくり、と寒気に襲われる。


「やっぱり……」


 囁くような静かな声が、その笑った唇から紡ぎ出された。




20140807

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