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転生少女ー3



 正式なマリアンステラ学園の入学試験の前に、その試験を受ける資格を得るための予備試験がある。

 まずは魔力についてのテストだと聞いていた。

保護者から離れて、一人で試験の教室に入っただけでクリアしたみたい。

待ち構えていた試験官は驚いた顔をしたけれど、私にはよくわからない。

 入学してから魔法を学ぶものだけれど、私はジオお兄様にせがんで教わったので、そのおかげだと思うことにして席についた。

 人生初のテスト。しかもレベルの高いテストだから、わくわくしていた。

 真新しい白い机が並ぶ教室には、他の受験生もいるけれど、どの子も緊張している様子だ。

 隣に座っていた子も、同じで緊張した様子で俯いていた。ペリドットの宝石のように綺麗な緑色の髪をした可愛らしい顔立ちの男の子。

見つめていたら、彼が気付いて私を見た。


「こんにちは! ジュリアです」

「……ミハエルリノ」


 笑顔で挨拶をしたら、静かな声で名乗ってくれる。

大きな瞳は深い緑の色。それを見開いて、私を見つめてきた。

なにも言ってこないから、きょとんと首を傾げる。

 そうこうしているうちに、筆記試験が始まった。

 それにはジオお兄様に教わったこと全部出てきたので、とっても簡単に感じた。

 誰よりも早く書き終われば、試験官達がこそこそと話している姿が目に入る。視線は私と、隣のミハエルリノに向けられていた。

 ミハエルリノは視線に居心地悪さを感じているのか、俯いたまま気にしている。


「どうしたのですか?」


 一人の試験官が私の前にしゃがんで話しかけてきた。

 試験に参加するのは、貴族の子どもがばかりだから、生徒にも丁寧な言葉を使うみたい。

 癖のついた赤茶の髪の若い男性。ミハエルリノを気にしたように一瞥しながら、私に微笑んだ。


「終わりました」

「本当ですか? ……では、見直しをしてください」


 目を丸めた彼は疑った様子で答案用紙を覗く。でもちゃんと埋めていることを確かめたら、笑みを浮かべて言った。

 言われた通り見直したら、試験の時間が終わる。

すぐに保護者が通され一緒に採点を待つことになっているから、私はジオお兄様の膝の上に乗せてもらって待った。

 その場で受験生の点数が発表される。

 私はマリアンステラ学園始まって以来の前代未聞の高得点。満点を取れた。


「素晴らしいよ、ジュリア! 流石は私のお姫様だ!」


 両親も大喜びしたけれど、一番喜んだのはジオお兄様。

 私を抱え上がるとクルリと回わりながら、頬にたくさんキスしてくれた。

 ジオお兄様はとっても誇らしげで満面の笑みだから、私も嬉しくて嬉しくてしょうがない。

 ぎゅっとジオお兄様の首に抱き付けば、そっと抱き締め返された。

 どんな優秀な家庭教師をつけた子どもでも満点など取れなかったから、私は天才だと囁かれて注目されている。けれど周りなんて気にしなかった。家族が喜んでくれていたから。


 本番の入学試験についての説明のあとに帰ろうとした時、両親に挟まれているミハエルリノと目が合う。

 彼はにっこりと微笑むと手を振ってくれた。私も手を振り返してお別れする。



 両親の期待に応えたいし、またジオお兄様のあの笑みが見たい。本番の入学試験でもう一度筆記試験で満点を取ろうとした。

私なら簡単だとジオお兄様は見送ってくれたから、自信はある。

 前の筆記試験とは内容が違うけれど、やっぱりジオお兄様に教わったことばかりで簡単だった。

 スラスラと答案に書いていってから、気付く。

私はエリート名門の試験にチャレンジしてみたいと思ったけれど、ここに通いたいなんて思っていない。

 どちらかと言えば話に聞いているジオお兄様の通うマグデリアン学園に興味がある。

 それに私はエリート学園の教師が注目するような天才ではない。

ジオお兄様のおかげで満点が取れただけなのに、天才だと認識されて周りの期待に応え続けられるだろうか?

 徐々にエリート名門の授業に追い付けなくなり、前世のように逃げ出すようになって落ちぶれコースになるのでは!?

 そして自分勝手な人間になって、お母様やお父様の心配をうざがり、お兄様には嫌われ、大切なものを傷付ける最悪な人間になってしまうんだ!! いやぁあっ!!

 最悪な未来が浮かんできて青ざめた。

 お兄様に大切に大切に愛でられた私が、天才ばかりのエリート名門に通い続けるのは無理。絶対に無理! 人生によろしくない選択!

 慌てて手を引っ込めて書くことを止めた。私はギュッとスカートを握って、試験が終わるのをじっとして堪えた。

両親とお兄様の期待を裏切ってしまう。それに罪悪感に襲われてしまうけれど、通いたい理由がないと話せばわかってくれるはずだ。

 満面の笑みは見れないし、私を自慢気に抱き上げてくれたジオお兄様がどんな反応をするか、少し怖い。

 予備試験とは違い保護者抜きでその場で採点され、合格者が発表された。

 途中で止めた私は合格点には届かず、合格者として名前は呼ばれなかった。

 発表が終わったあと、私はすぐに隣の部屋で待っている家族の元へ行こうとした。

 ごめんなさいって、最初謝らなくちゃ。

 そんなことを考えていたのだけれど、腕を掴まれて止められた。

 試験に参加していた男の子だ。名前は確か、ガイウス。合格者として名前を呼ばれていた。

 毛先が金色の白金髪で、目の色も金色。眉を眉間に寄せて、私を睨むように見ていた。


「ふざけんなっ!!」


 ガイウスは私に向かって怒ったから、驚いた。なんのことかわからなくて、目を丸める。


「ずるしただろ! ふざけんなっ!!」

「……っ」


 ずるした。

そう言われて、グサリと胸に刺さった気がした。真っ直ぐに見てくるガイウスは、私が悪いことをしたみたいに責めてくる。

 違うもん。違うもん。私はただ……ただっ……。


 嫌になって腕を振り払ったら、私は尻餅ついた。


「ねぇ、だいじょうぶ? ジュリア」


 後ろから静かな声をかけられた。そっと背中に手を当てて心配そうに見つめてくるのは、ミハエルリノだ。

 彼に返事が出来なかった。

胸に刺さった言葉が、毒みたいに身体に広がって動けなくなってしまう。


「おちつけよ。女の子にどなっちゃだめなんだぞっ!」


 ガイウスはまだ怒ってなにか言ってきたけれど、別の男の子が割って入る。

「殿下っ」と試験官達が顔色を変えて、ガイウスを押さえて宥めた。


「ジュリア。ケガはない?」


 色鮮やかな青い髪の男の子は、王子様みたいだ。同じく入学試験に参加していたらしい。

私を心配してくれたけれど、彼にも返事は出来なかった。

 騒ぎを聞き付けてきた保護者の中に、ジオお兄様を見付ける。やっと身体が動いて、駆け寄って抱き付いた。


「どうしたんだい? ジュリア?」


 ジオお兄様は頭を撫でながら事情を聞いてきたけれど、なにも言えなかった。

 家に帰ってから、ごめんなさいと家族に謝った。

ちゃんと「通いたくない」という意思も伝えた。


 それから気分は沈んでしまい、勉強も剣術の稽古もやらないで部屋にこもりっきりになった。

 ガイウスに怒られたことを、考えてしまう。

 ずるいことだった?

 私は試験に受からないことを選んだ。

 それはいけないことなの?

 なんであの子に怒られなくちゃいけないの?

 自分のために、選んだ。自分にいい選択をした。

 それをガイウスは悪いことみたいに怒ったから、本当は逃げる選択だったのではないかと考え込んだ。

 調子に乗っていたから、罰が下ったの? 私はずるい人間?

 順調だった明るい人生が、急に暗くなってしまったように感じて、無気力になった。

 窓辺に座り込んで、毛糸の髪のお人形を見つめる。普通の子と同じくお人形遊びに夢中になっていればよかったのかな。

 このまま、挫けてしまうのかな。

 涙すら出さないまま、窓辺で落ち込んだ。

 何日も何日も……。

赤い煉瓦の屋根の建物が並ぶ街を、ただただ見つめた。




20140804

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