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転生少女ー2



 金髪の持ち主の父の名前は、ジュニー・ラヴィー。城の騎士を鍛える凄腕の剣士。少し強面でもおおらかで優しいお父様だ。

 燃えるような赤毛の持ち主の母は、フラワー・ラヴィー。いつも微笑んでいる優しくて麗しい人。本当に穏やかなお母様。

 生まれつき魔力が強いと子は、両親の髪色を両方合わせ持つから、私の髪色はお父様とお母様譲り。

 家族にはもう一人、八歳も歳の離れた兄がいる。名前はフランジオ。愛称はジオ。

 私と同じグラデーションの髪は、肩まで伸びていてサラサラ。それをいつも白いリボンで結んでいる。

 睫毛は長く瞳はブルーで、美しい顔立ちはいつも優しげな微笑みを浮かべていた。

 前世では小学高学年から無気力になり宿題もまともにやらなかった。親が弟達ばかりを可愛がるからぐれてしまったんだ。

 お人形遊びをするより、今のうちに勉強をすることに慣れたくてすることにした。

 この星の名は、ヴァルレオ。

 かの昔、ドラゴンと人間が争っていた歴史があるが、今では平和そのもの。

地球で描かれたおとぎ話のモンスターがほとんど存在する自然豊かなファンタジーの世界だ。

 十二歳とは思えないほど落ち着いているジオお兄様に、知りたいことをなんでも訊いてみた。彼はなんでも答えてくれた。

 この世界の歴史、常識範囲の生き物の名前や生体、魔法の薬の材料や作り方。

ジオお兄様は知っていることを、全て丁寧に教えてくれた。


「ジオおにいさま、いいにんげんってどんなにんげんだとおもいますか?」


 四歳だと上手く言葉を発することができないので、聞き取れるようにゆっくりと声を出す。


「いい人間かい?」


 流石になんでも教えてくれたジオお兄様は、少し困ったように笑って考え込んだ。


「ジオおにいさま。わたしはたいせつなものを、たいせつにできるにんげんになりたいのです」

「……大切なものってなんだい?」

「えっと……かぞく」

「家族?」

「あと、ともだち」

「家族と友だち?」

「あと、こいびと」

「恋人、か」

「あと、がっこう。じかん。あと……あと」


 微笑みながら聞いてくれるジオお兄様に、答えようと必死に考える。

 人生で大切なもの。他はなんだろう。

私がこれから生きながら、大切にすべきもの。


「んーと、んーと……」

「ジュリア」


 唸るように考え込んでいれば、ジオお兄様は私の頭をそっと撫でてきた。


「生きていくと大切なものが増えていくよ。十年後も今話していたことを覚えていたのなら、ジュリアはきっと大切なものを大切にできる、いい人間だと私は思うよ」


 微笑んでジオお兄様は両手で私の頬を包んだ。


「今のジュリアは、いい人間だ。そう思っているなんて、とてもいい子だ。ジュリアは大切にできるよ、きっとね」


 もういい人間だと、言ってくれた。私は嬉しくて笑みを溢す。


「……ジュリア。私の可愛いお姫様。私が大切にする。ジュリアが大切にしながら生きられるように、私が最善を尽くす。私が守ってあげるよ、ジュリア」


 眩しそうに目を細めて微笑んだジオお兄様は、私を大切にしてくれると言ってくれた。

 ああ、なんていいお兄様なんだろう。

 あったかい気持ちで満たされた私は、彼に抱き付く。ジオお兄様はそっと両腕で抱き締めてくれた。

 そんな兄と妹を、両親はいつも微笑ましそうに見つめていた。

 私はこの家族が大好きだ。

家族を大切にする。きっとそれだけで幸せだと思えた。

 ずっとずっと、大切にする。

 毎日のように寝る前はそう祈って、眠りに落ちた。



 素敵な兄はマグデリアンという学園で、一年生でありながらすでに秀才だともてはやされているらしい。

 マグデリアン学園は、最古の魔法の名門学校。中学と高校と大学が合わさっている巨大な学園だ。

 魔法の異世界だけあって、覚えるものはたくさんあるけれど、ジオお兄様は学園に通いながら私が覚えられるまで教えてくれた。

 そんなジオお兄様はお父様から剣術を教わっていたので、私も覚えたいとせがんだ。

学校に入学したら剣術を学ぶけれど、お父様から教わりたかった。

 剣を持つとお父様は少し厳しい。毎日家の庭で子ども用の小さな棒で、めげずに挑んだ。

二人ともわざと負けるようなことはしてくれないから、俄然(がぜん)燃えた。

 ある日。

お兄様に勢いよく向かっていき、転ぶと同時に避けたお兄様の足に棒をカツンと当てる。

 一本取れた。

舞い上がるくらい達成感を感じて喜んだ。

ジオお兄様は笑うと片膝をついて、私の手を取ってくれた。


「見事だ、ジュリア。でもね、ジュリア。形振り構わず一本取るのは、よくない。本物の剣持った時、命懸けの一本は褒められたものではないんだ。いいかい? 剣を持つ時は、自分自身の身を守る時だ。だから今のような攻撃はだめだよ?」


 最初に褒めて、ジオお兄様はダメな理由を静かに話してくれた。見ていたお父様も歩み寄り言う。


「ジュリアにはまだ早すぎるだろうが、覚えてほしい。転んで足に一撃を与えても、倒れたお前に剣を振り下ろされてしまう。だから倒れないようにしっかり立て、倒れたならばすぐに起き上がるんだ」


 お父様に脇を持たれて立たされた。

 両足でしっかり立つ。私は頭に刻みながら、何度も頷いた。


「あらあら、そんなに厳しくなさらないで。ジュリアにはまだ早いですわ」


 隅にテーブルを置いて、紅茶を飲みながら見守っていたお母様が苦笑を溢す。


「いいえ、私はちゃんとわかっていますっ!」


 ちゃんと理解できていると言い張ると、お母様とお父様は吹き出して笑った。

 バカにされているのかと、私は不安になってジオお兄様を見上げる。


「ジュリアは頭がいいです。私よりもね。その花壇はジュリアが魔法で手入れしたと話したでしょう。ジュリアは、天才なのですよ」


 私の頭を撫でながら、ジオお兄様は褒めてくれた。

 お母様の横にある薔薇の花壇は、ジオお兄様の言う通り私が魔法で手入れした。

 薬で植物を操る魔法だ。

お兄様に教えてもらいながら、自分で薬を調合してやってみた。

 魔力をそそぐ作業は面白かった。指先の感覚がなくなるようで、ちょっとむずむずする。初めは皆そうらしい。

 薔薇のアーチで周りを囲い、真ん中には咲き開いた薔薇の形にする。

遠くから見れば一輪の大きな白い薔薇が咲き誇っているようにも見えるから、私は二階から眺めるのが好き。

 素敵だとお母様は気に入ってくれていた。私も自信作だと自画自賛している。


「じゃあジュリア。マリアンステラの試験を受けてみないかしら?」


 お母様は笑顔に手を添えて提案した。

 マリアンステラ学園は、エリート名門学園。いわゆる、子どものお受験。

小学校、中学校、高校、大学が合わさった天才や貴族の子ばかりが集まる名門学園だ。


「それはいいですね。ジュリアなら、きっと受かるでしょう」


 ジオお兄様が微笑みかけてくる。私が誇らしいから、お受験を勧めた。

 ゲームみたいにチャレンジしてみるつもりで、お受験に合格してみたい。

ジオお兄様の期待にも応えたくて、私は元気よく首を縦に振った。




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