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ボクの太陽〜ミハエルリノ〜



 君が輝くから、世界の全てが霞むんだ。



 すっごい学園に入学するための受験を受けるために、ボクは来た。お母さんは予備試験って言ってた気がする。

 友だちなんていなくて、両親もいないお部屋。ボクは心細くって席に座ってからずっと俯く。

知らない子ばかりがいるし、大人の人達がボクを見ている。早く、お家に帰りたかった。

 ふと、隣の女の子がボクを見ていることに気付く。


「こんにちは!」


 太陽みたいにキラキラした長い髪をリボンで二つに結んだ女の子は、大きな青い瞳にボクを映してにっこりと笑いかけてきた。


「ジュリアです」


 そう名乗った女の子は、輝いていて眩しい。でも目が放せなくて、見つめてしまった。

 ボクも名前を言うと、また輝きを増したような笑みを向けてくれる。

 他の子達とは違う。

そこにいることが世界で一番楽しいことみたいに、座っていた。ウキウキしているみたいに足を揺らしていて、他の誰よりも楽しんでいる。

なんだか、ボクまで楽しい気分になってしまいそうだった。


 試験のあと、結果発表がされた。ボクの名前も呼ばれて、両親は喜んでボクを抱き締める。

中でも一番盛り上がったのは、ジュリアの名前が呼ばれた時だ。一番点数をとれたって注目を集めた。

 でもボクは、ジュリアの笑顔に目を奪われてた。

お兄さんらしき人に抱き上げられて、たくさんキスされていたジュリアは嬉しそうな笑みを溢している。

ほっぺを真っ赤に染めて、お兄さんに抱きついていた。

 本当に太陽みたいに輝いていて、眩しい。でも見ていたくて、ずっと見つめた。

 太陽みたいな女の子。そこにいるだけで周りを照らす。

それがジュリアだった。


 ジュリアとまた会うために、ボクは入学試験を受かろうと勉強した。彼女と仲良しになりたかったんだ。

 入学試験当日。

席は隣同士にはなれなかったけれど、ジュリアに会えた。

 前と同じ。ワクワクした様子で、そこにいた。とても眩しい笑顔でいたから、ボクも笑顔になる。

 試験を合格したら、毎日彼女に照らされるんだ。そんな未来を想像して足を揺らしながらテストをやった。

 でもその途中。

前の方の席に座るジュリアの様子が、おかしいことに気付いた。ジュリアは、ペンを置いて俯いている。

 どうしたんだろう。心配になった。でもボクはなにもしてあげられなかった。

 結果発表でボクの名前は呼ばれたけれど、ジュリアの名前は呼ばれなかった。

ジュリアは、合格しなかったんだ。


 アリアンステラ学園に入学できて、お母さんもお父さんも喜んだ。でもその日以来、ジュリアに会えないボクは嬉しくなんかなかった。

 ジュリアが試験をわざと落ちたと言うガイウスと友だちになった。ジュリアとまた会いたいって、話すからだ。

ガイウスはジュリアに勝ちたいと言い続けた。ジュリアは天才なんだって信じて疑わない。

 ジュリアはマリアンステラ学園に通いたくなかったんだって、ボクは少し経って気付いた。

 ガイウスといると楽しい。でもジュリアのいない学園は、ほの暗くて居心地悪くて嫌だった。

 だから、数年してボクは両親に転校したいとせがんだ。

ジュリアと同じアカデミーに行きたかった。ジュリアに会いたかった。ジュリアと一緒に行きたかった。

 でも……叶わなかった。

スパイダーっていう先生が、家に来て両親を説得してしまった。

ボクは天才なんだって、マリアンステラ学園にいるべきなんだって、あれこれ言った。

ボクの将来に投資として学費は学園側が持つとまで言い出したから、両親は留まることを承諾してしまう。

裕福とは言えないから、名門学園の学費を払わずに学べることに喜んだ。なによりそれほどまでボクの才能が認められていることに、両親は誇りだと涙した。

 ボクは泣きじゃくってまで転校したいなんて、両親に言えなくなった。

 スパイダー先生は、ボクの両親を糸で操り人形にした蜘蛛みたいに思えた。

 陽の光が届かない場所に、蜘蛛の糸にぐるぐると巻かれて閉じ込められてしまった気分だ。

マリアンステラ学園なんて嫌い。嫌いなのに、逃げられなくなった。

 ジュリアが恋しくて、恋しくて、堪らなかった。

記憶の中のジュリアの笑顔を思い浮かべて、ボクは耐えるしかなかった。

 喜ぶ両親のために、生まれてきた弟や妹のためにも、ボクはマリアンステラ学園に通った。

 スパイダー先生のことも嫌い。でも監視するように彼はいつもいて、ボクに色んな魔法を覚えさせた。

 ボクに使えない魔法はないんだって。だから全てを覚えるように言われた。

 魔法は好きだよ。弟も妹も魔法で遊んでやると喜んでくれるんだ。

 魔法は好き。魔法は好きだけど……スパイダー先生が喜ぶのは嫌だった。まるで獲物を捉えて喜んでいる蜘蛛みたい。不気味な笑みを浮かべるんだ。

 スパイダー先生から逃げてガイウスの元に行けば、ジュリアの話が出来た。

ジュリアの笑顔を思い出すと、安らぐんだ。


 スパイダー先生だけではなく、マリアンステラ学園の教師達は天才を育てることに拘っている。それがマリアンステラ学園の方針。凡才には見向きもしないし、簡単に見限る。

 ガイウスは純粋に才能と成績を伸ばすことに熱中しているから、何の疑問も持たない。ジュリアはマリアンステラ学園に通うべきとも言う。

 ジュリアはきっと天才だ。あのテストで百点満点をとったのは彼女だけ。

きっとスパイダー先生も、マリアンステラ学園も、ジュリアも捕らえたがる。

 学園を飛び出してジュリアに会いに行こうと何度も思っても、ジュリアまでボクみたいな思いをしてまうかもしれないと過って行けなかった。

 何度も逃げ出して、ガイウスに教えてもらったジュリアの家に行こうとして、いつも違う場所へ逃げ込んだ。そこで蹲って、彼女の笑顔を思い浮かべた。

彼女に照らされたあの瞬間の記憶だけ、ボクの救いだ。

思い浮かべるだけで木漏れ日に照らされたみたいに心地いいから、いつも寝てしまう。

両親に心配かける前に家に帰って、翌日また大嫌いな学園に行く。

 何年もそれの繰り返しをしてきた。学園が大嫌いって気持ちと、ジュリアが恋しいって気持ちが募った。


 心が病んだボクは、黒の魔法も使えるようになった。闇の化身が多く現れるほど、心の闇がそれほど大きい。

自覚しているし、原因のスパイダー先生達も理解している。

 心の闇を糧にする黒の魔法を極めるように言われてから、ボクは限界を感じることが多くなった。

 マリアンステラ学園を壊したい。跡形もなく壊してしまいたい。

 その願望が浮かんで、行動したい衝動にかられた。

 学園が壊れてしまえば、ジュリアに会える。ジュリアに会いたい。ジュリアに会いたいんだ。ジュリアに会いたい。会いたい。ジュリアの光に照らされたい。

 ジュリアに会いたい強い衝動にかられた。

 会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。

 学園さえ壊れれば――――ジュリアに会えるのに。


 ――――そして、マリアンステラ学園は崩壊した。


 修復するまで授業を行う場所を提供すると、マグデリアン学園が提案してきた。そこはジュリアの通う学園。ジュリアに会えると、ボクは舞い上がった。

 ジュリアにやっと会える。嬉しくて嬉しくて、仕方なかった。

 大嫌いな学園もなくなって、ボクは上機嫌で街を散歩してただけで偶然ジュリアに会えた。

 名前を覚えているなんて嘘つかれたけど、思い出してくれたから許せた。嘘ばっかりつく大人なら大嫌いになるけど、ジュリアが笑ってくれるならなんでも許せるんだもん。

 これから太陽を一杯浴びれるのだと思うと幸せだった。

 翌朝もすぐに会いたくて、ボクはマグデリアン学園の玄関前で早くから待っていた。

ガイウスといるのを見付けたから、迷わず後ろから抱き付いた。

 ジュリアは花と太陽の匂いがする。丘のお花畑にいるみたい。ポカポカしているように感じた。

心から安らぎを感じて、ジュリアから離れられなかった。


 すぐに浮かれていたボクは、地獄に落とされたみたいに安らぎを奪われた。

マリアンステラ学園の建物が壊れても、スパイダー先生は変わらずそこにいる。

ボクを糸で縛り付けて放さない。

ジュリアまで捕まえようと近付いてきた。

 ジュリアだけはだめだ。

ボクみたいな思いなんて、させられない。

 でも呑み込もうとする闇から、ジュリアをどうやって守ればいいのか。わからなかった。

 蜘蛛の糸から逃げる方法もわからないボクには、ジュリアが守れない?

 目の前が真っ暗な闇に呑まれて、光を見失いかけたその時。

 陽の光がボクを照らした。

 ジュリアはボクの前に立って、きっぱりとスパイダー先生に断る。それからボクの手を引いて、スパイダー先生から引き離してくれた。

 黒いローブを身に纏っていても、太陽の色をした髪は輝いている。

ボクの手を握る手は、太陽みたいにポカポカと温かかった。


「ランチ。私の友だちと一緒でもいい?」

「え? あ、うん……」


 ジュリアはさっきの話の続きをする。振り返ると、とても優しく微笑んでくれた。


「私の友だちを紹介するね。リノ」

「……うん」


 昔に向けてくれた笑みと同じ。変わっていなかった。眩しいけれど、目を放したくない。

 でもジュリアはすぐに前を向いて、ボクを食堂へ連れていく。

 視界が霞んだ。涙が溢れてしまいそうになって、ボクはフードを深く被った。

とっても、とっても、眩しい。

あったかくて、心地いい。

 ずっと言えなかった。

ずっと誰にも言えずにいた「助けて」を、ジュリアは聞き取ってくれたみたいに感じた。

ジュリアが、蜘蛛の巣から引っ張り出してくれたように思えた。

ずっとほの暗かった場所から、救い出してくれた。ボクを照らして闇を振り払ってくれた。そう感じた。

 君が眩しくて、周りが霞んで見えないよ。

 ずっと。ずっと。会いたかった。

 ねぇ、ジュリア。大好きだよ。大好き。とっても、大好き。

 もっと笑って、もっと照らして。

ジュリアはボクの太陽だよ。




20140810


なんとか一週間毎日更新しましたが、今後は途切れ途切れに更新します!



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