地底の女王
むかしむかし、あるところの一人の男のヒトがいました。
男のヒトがどこからやってきたのか、みんなはだれも知りませんでした。
それでも彼はやさしく、多くの人々に受け入れてもらっていました。
あるとき世界は、朝も、夜もやってこなくなりました。
色を失った空をみて、みんなたいそうこまりました。
朝も夜もこないということは、一日が止まったこととおなじでした。
止まった一日の中で、ヒトビトは深い悲しみにつつまれました。
男のヒトは、恩返しとばかりに朝と夜を探しに旅立ちました。
旅の途中、彼はアエロプスに出会いました。
アエロプスは男のヒトに、事情を話しました。
太陽と月が消えたから、世界は一日を失った。
それは、太陽と月をひとのみにした竜が居るからだ。
太陽と月の、邪悪なる竜が。
彼は、世界に一日を取り戻すまで、自分の身を守ってくれと頼みました。
アエロプスは、ケライノを男のヒトの旅につけました。
ケライノは真面目でした。彼と愛をかたったりしませんでしたが、仲間としてともに旅しました。
やがて二十一万九千ほどの時を刻んだとき、ようやく彼は、太陽と月の邪悪なる竜のもとにたどり着きました。
邪竜は、憎悪と怒りに満ち溢れていました。
竜の怨念をうけつつも、彼はケライノと共に戦いました。
一日が止まった世界でどれほどの時が経ったか、彼らにはわかりません。
しかしついに、長いときをかけてようやく、彼らは邪竜を退治しました。
アエロプスは、ケライノに言いました。
竜は太陽と月を飲み込んだことで、いずれ蘇るだろう。
このままでは、戦った決着に意味がない。
だからこそ、お前は大地の底でこの竜がよみがえらないよう封印しろ、と。
ケライノは嘆きました。二度と日の光をみることのない定めを受けたのですから。
悲しんだ彼女でしたが、しかしアエロプスには逆らえませんでした。
アエロプスの力で、ケライノは大地の底に幽閉されました。
あまりに深い悲しみは、彼女の心を眠りにつかせました。
眠りついた彼女ですが、それでも深い悲しみは消えません。
だからこそ、彼女は地の底で時折うなされるのです。
その嘆きや悲しみから、シャロウテイルが生まれました。
シャロウテイルは、彼女の願いを代弁するかのように天高く舞い上がりました。
それでも、彼女の心が癒えることはありませんでした。
今でも、大地の底にはケライノがいます。
そんなケライノは、今でも嘆き悲しんでいます。
時々大地が大きく揺れるのは、ひとりぼっちの彼女が苦しんでいるのが理由なのです。
(フォースメラ大陸民話「地底の女王」より)